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2014年07月16日(水)

「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著者・山田真哉氏がグラビアアイドルに教えた自計化って?

経営ハッカー編集部
「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著者・山田真哉氏がグラビアアイドルに教えた自計化って?

経営ハッカーインタビューVol.2 「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著者・山田真哉氏インタビュー

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<プロフィール> 山田真哉(やまだ しんや)。神戸市生まれ。公認会計士・税理士。「一般財団法人 芸能文化会計財団」理事長。大阪大学文学部卒業後、東進ハイスクール、中央青山監査法人/プライスウォーターハウス・クーパースを経て、独立。2011年より現職。小説『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫他)はシリーズ100万部、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)は160万部を突破するベストセラーとなる。大企業から中小企業まで数多くの企業の会計監査や最高財務責任者、税務顧問、社外取締役として務めた経験から、現在も約40社の顧問として社長の参謀役になっている。

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「経営ハッカー」では、新しい働き方にクローズアップし、プロフェッショナルが持つ付加価値について取材。第2回目は、第1回目に引き続き「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」の著者であり、公認会計士でもある山田真哉氏にインタビューします。

 

■女優さんやグラビアアイドルも「自計化」してますよ。

山田:税理士の役割って、20年くらい前までは「税法はこうなってます、そして通達はこうなってます」という「税法の翻訳者」で良かったんです。それがこの20年で税法や通達だけじゃなく、「会計ソフトの翻訳者」になってきたんですね。「弥生」はこう使いますよ、「勘定奉行」はこう使いますよっていう。そして、その前から「TKC」を始めとする会計ソフトの「自計化」運動(経理業務を会計事務所に丸投げせずに自社内で行うこと)がありますよね。それが、今度は「自計化」運動からクラウド会計ソフトの登場により「自動化」になっている。それを税理士がどう扱うかって事が次なる課題になっているんですよね。

根木:ちょうど「自計化」と言うキーワードが出てきたので、いわゆる「記帳代行」と言う、税理士さんの中ではかなりメインの業務があると思うんですが、山田さんの事務所では芸能人の方は当然自分で帳簿付けとかはやっていませんよね。

山田:いや「自計化」させてます。芸能人の奥さんとか旦那さんといった家族が「自計化」できるように教えています。

根木:なるほど、結構「自計化」推進してるんですね。山田さんの所ではなるべく「記帳代行」をやらなくていいようにしてるんですね。

山田:そうですね。できる限り、ご自身にやってもらっています。女優さんやグラビアアイドルも自分で記帳してますよ。

根木:えー! そうなんですね。凄く意外。そうなると、忙しいタレントの方がちゃんと自分で記帳してるのに、商店街の普通のお店みたいなところが自分で記帳できないって言って、税理士さんに丸投げしているのも何かちょっと変な感じがします。

山田:(笑)。「自計化」できるかどうかっていうのは、結局その人の几帳面さとかにもかかってるんですね。ずぼらな人はやっぱり難しいですね。でもクラウド会計の登場によって、おそらくずぼらな人でもできるようになるんですよ。これがクラウド型のメリットじゃないですか?

 

■だったら、クレジットカードから直接仕訳に落とした方が助かりますね。

根木:なるほど。ありがとうございます。山田さんが積極的に「自計化」を推進していく中で、障害になっているところってありますか?

山田:障害になるのは、お客様の時間ですね。忙しい方には無理なので。まあ、そもそも領収書とかレシートを取っておかない人はどうしようもないんですが。結構お願いしているにも関わらず「飲み会でレシートもらうのはずかしい」とか言い出すんです。「ちょっと待ってくださいよ」って思いますよ。「あなたが恥ずかしいからって、それで一体いくら税金を多めに払っていると思うんですか!」って。だったら、クレジットカード払いにして、クラウドで直接仕訳に落としてくれた方が助かりますよね。

根木:会計知識という面では、「《女子大生会計士の事件帳簿》世界一やさしい会計の本です」(日本実業出版社)も出版されてますし、そこは山田さんの本分だと思うんですけど、会計知識を覚えるのがやっぱり大変というか、そう言う所が障害になることはありますか?

山田:「自計化」において、そこはほぼ影響は無いですね。記帳をやってもらうにしても、会計には取引の5要素がありますよね。資産・負債・純資産・収益・費用っていう。会計が苦手な人には、収益と費用しかやってもらってないんですよ。収益と費用は、みなさんなんとなくわかるんで。そして資産・負債・純資産に関しては触れないでいいです、とお伝えしてるんです。と言っても、5要素のうち資産・負債・純資産は仕訳数で言うと全体の1割もいかないんですよ。

根木:なるほど、芸能人の方は身ひとつで仕事してますから資産ってあまり出ないんですね。

山田:そうです。あと難しいのは源泉だけですね。源泉の概念を教えるのがなかなか難しいんです。「源泉って引いて、それ預かるの? 預かるのになんでそれを税務署に払うの? なんか難しい」みたいな。

根木:預り金という概念自体が難しいんですね。

山田:ただ最近は有り難い事に、源泉とかはダイレクト納付にしてもらっているんで、基本はうちの事務所の方で支払処理ができるんです。一昔前は、源泉は紙で納付書を作ってあげて、「これをちゃんと◯月◯日に納めてくださいよ」とお願いして銀行に行ってもらったんです。最近はそれも全てネットで完結できるんで、昔よりだいぶ楽にはなりました。それこそ国税庁さんの「e-TAX」が頑張ってくれているおかげです。

 

■芸能界や出版界で仕入れた最新情報を守秘義務を守りつつ、シェアしてます。

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根木:「芸能文化会計財団」として提供している主なサービスはどういう内容なんでしょうか? 仕訳のチェックとか確定申告書や決算書の作成とか、いわゆる税理士の業務というのはもちろんだと思いますが、それ以外に。

山田:そうですね、今どこの税理士も力を入れていると思うんですが、コンサルティングですね。僕は芸能界の業務全般を一応理解しているので、例えば芸能人の方には、出演されている番組やドラマを見て私から感想を言ったり、テレビ制作会社や芸能事務所にはもっと原価率の低い仕事を取らなきゃとか、今こういう番組が人気らしいですよとか、あそこの新番組はオススメですといった、芸能界や出版界で仕入れた最新情報を守秘義務を守りつつ、シェアしてます。最近も、あるドラマのブレーンとして入って制作に携わりました。

根木:えー凄いですね!

山田:いかにコンサルティングができるか、いかにお客様の会社の売上を増やせるかってところを頑張らないと、税理士だから単に帳簿を作って確定申告したらいいという時代じゃないですよね。税理士のネットワークがあるからこそ、言える事、わかる事があるんです。社長の身近な存在なので、社長の参謀役としてどこまでアドバイスができるかなど、いかに提供できるものを増やせるかをいつも考えてます。本気で売上げ伸ばそうと思って接してないとね。

根木:そうですね。

山田:うちのお客様になったら、絶対毎年1割、2割売上げを伸ばすようにしないとダメだ、と思っています。そう言う意味でも専門に特化してやる方がいいんですよね。儲かっている会社は今こういう事をやってます、とか言えますからね。

 

■付加価値つけないと単に帳簿付けだけでは自然淘汰されてしまう。

DSC_0036 根木:一般の方って、税理士さんや会計士さんは、いわゆる確定申告や、決算書作るとかっていうイメージだと思うんですよね。でもそれ以上何やってくれるんだろうっていうのはイメージ付きにくい。でも、山田さんのお話を伺うと「他の番組ではこうだ」とか会計の領域を超えた話ができると言う、まさにその部分が付加価値なんじゃないかなって凄く伝わってきました。

山田:付加価値を上げようとするなら、例えば、飲食店経営者には儲かっている飲食店のトレンドとか、IT経営者にはこういうサービスが利幅が大きいよとか、「同業他社の儲けの仕組みを教えられるか」というのがコンサルタントの基本だと思います。それと同じ事で、より深い情報を握っているのが専門に特化した税理士なんですよ。おそらく普通のコンサルタントさんですと、公表されている情報から同業他社比較などをやるんですね。どこの戦略系コンサルタントも。だから税理士のほうは、非公表の会計データという一番深い情報を持っているので、絶対強い。

根木:そこまで踏み込んだ事によるコンサルティングには付加価値があるんですね。

山田:例えば、今日もお客様が会員制ビジネスをしたいとおっしゃったので、何人ですかと聞いたら、会員300人が目標だと。そこで「300人だったらまず会員管理で常勤スタッフが3人くらい必要で、売上規模は年間2000万円ぐらいあったほうがいいので、2000万円から逆算して年会費を考えてください」とお伝えしました。会員制ビジネスは芸能界でも多いので、こういうアドバイスができましたが、まさにこれができるかどうかだと思うんです。幅広くいろんな業界の仕事をしていたら、会員制ビジネスの経験なんてなかなか出来なかったと思います。例えばWEB系だと、経営者は「PVはいくらです」とは言うんですよ。「これで、いくらになるんです」という話まではいかないんです。PVしか言わない人に対しては、「売上はいくらで、人件費はこのくらいで」と知っていたら、「逆算すると何百万借り入れておいた方がいいよね」って話ができるんです。ここまで落とし込めるかどうか、というところですよね。

根木:そういう所まで税理士や会計士としてできている方って、山田さんの肌間隔でどのくらいいらっしゃると思いますか?

山田:やっぱりできる人はやっていますね。私から見ても凄いと思う人たちが1割ぐらいはいます。凄い人たちは既に行っていますが、うちもスタートアップの会社などには、数百万ですけど出資や貸付も始めました。まさにVC(ベンチャーキャピタル)的な面ですね。これからの会計事務所は、いざとなったらクライアントにお金を出せないとダメだと思うんです。

根木:そこまでやると、もう一心同体ですもんね。

山田:そうそう。単に帳簿を付けるだけでは自然淘汰されてゆくと思います。

 

■業界特化型にしたこのノウハウを、どこかに売れないかなって思っています。

根木:税理士・会計士にとって、これからの時代で大事なのはなんですか?

山田:専門業種における知識量とネットワークでしょうね。これからの時代は、業種特化か、地域特化しかないんですよ。大手は別ですが、そもそも情報って集めようとしても集まるものじゃないですよね。基本、情報とは集まってくるものですから。Googleで検索すれば集められる情報は誰でも集められるので、だから己が自立し独立しないと集まってこないと思うんです。その際に、己がどういう旗を立てるかが大事なんです。

根木:そうですね。

山田:私も尊敬する先輩方は沢山いて、例えばMac専門の税理士。凄い特化型だなーって感動しました。デザイナーさんとかIT系の方はMacユーザーが圧倒的に多いので、その業界では絶対叶わないなって思ってしまいました。だから業種じゃなくても、Mac専門とかもあるんですよね。あとは上海に強いとか、シンガポールに強いとかね。どんどん専門分野が細分化してきていますよね。そもそも、ネット文化って細分化していく文化です。特化しないと検索ワードで上位に引っかからないから、どうしても細分化されて行く。それも要因の一つとして各士業も細分化されてきている。だから税理士・会計士もおそらくそうなるだろうなと思います。

根木:それはたしかに仰る通りですね。地域格差がなくなるって言うのもクラウドの強みですし。往訪をしないで、クラウド上で情報のやりとりができてしまいますし、何かあればスカイプ(インターネット電話サービス)できてしまいますし、チャットワーク(コンピューターネットワーク回線を利用したリアルタイムコミュニケーション)を使ってやってらっしゃる税理士さんもポツポツ出てきてますから。

山田:「芸能文化会計財団」もそうですね。スカイプよりもiPhoneのFaceTime(アップルが開発したビデオ通話)の方がなぜかいつもつながりが良いので、大活躍しています。

根木:じゃあ実際そういう風にやってらっしゃるんですね。

山田:いや、もうそんな時代ですよ。やっぱり楽ですもん。

根木:往訪代が月次の顧問報酬に乗っかっているとか、そこは価値ではないと思うんですよね。移動時間のコストを削減できるのもクラウドの良さです。ですから先程仰っていたコンサルティングに価値を置いて、そこに価格が乗ってくれば、それが税理士の本当の価値なんじゃないかなと。そうやって最適化されてくればいいなと思っているんです。

山田:本当はね、顧問料も売上比例が良いんですけどね。まだそこまで「芸能文化会計財団」もできてないんですが、ゆくゆくは報酬も利益の何%とか、売上げの何%とかにしていきたいです。

根木:まさにコミュニケーションコストを下げて多くのクライアントを見れる環境になるので、売上げ比例に応じ、付加価値も提供できるようになる。そこにインセンティブができれば顧問報酬も正しく上げられるようになる。そうなればいいですよね。山田さんご自身はもっとテクノロジーを活用して今後どんな方向を目指して行きたいと思っていらっしゃるんですか。

山田:業界特化型にしたこのノウハウを、どこかに売れないかなって思っています。要するに情報サービス業ですよね。例えば、それこそ芸能界・出版界一本でやっているので、知識やノウハウは持っています。これを全国の他の税理士なり、起業したいと思っている意識の高い個人の方などに情報提供したい。つまり、コンメンタールやマニュアルになると相当分厚くなるので、テクノロジーを使ってこれを簡素化・効率化したいですね。いわゆる医者でいうところのセカンドオピニオン的なことをやってみたいです。税理士さんからのセカンドオピニオンも受け付けますよ。税理士はお客様に対しての立場がありますから、「何でも知ってます、何でもできます」って言わざるを得ませんが、その裏でこっそり僕に聞きにくるとかね。

根木:あーなるほど、それ面白い!

山田:そこまで行けるといいですね。

DSC_0050 END/引き続き「経営ハッカー」では様々な方にインタビュー致します。

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