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2019年04月22日(月)

採用難の飲食店に残された超流動労働市場を発掘するスポットメイト株式会社、「次世代型バイトアプリ」を活用したマーケティングの狙いとは?

経営ハッカー編集部
採用難の飲食店に残された超流動労働市場を発掘するスポットメイト株式会社、「次世代型バイトアプリ」を活用したマーケティングの狙いとは?

働き手の売り手市場化が進み、多くの業界が採用に苦戦しています。特に飲食業界は顕著で、先日の吉野家の赤字転落のニュースをはじめ、大手飲食チェーン各社の決算を見ても、人件費が利益を逼迫していることがわかります。そもそも、求人広告を出しても人が来ないという深刻な事態に陥っています。

一方で学生やフリーターといった若年層の働き手を見ていると、ライフスタイルや「働く」ことに対する価値観が多様化しており、パラレルワークなど多種多様な働き方が市民権を得るようになってきました。

このトレンドを上手くとらえ認知を広げている飲食店向けサービスがあります。決まった働き口を持つのではなく、「今、働きたい」「明日の数時間だけ働きたい」といったスポットの要望と、人手が必要な飲食店とを繋げる、次世代型バイトアプリ「スポットメイト」です。

とはいえ、最近類似のサービスが増えており苦戦は必至。どのように他社と差別化して、マーケティングしていくのでしょうか?またこのサービスの真の狙いは何なのでしょうか?代表取締役の田中佑馬氏にお話を聞きました。

飲食業界向け人材マッチングアプリを立ち上げた背景

―飲食業界の求人方法を変える可能性がある「スポットメイト」ですが起業の背景を教えてください

それを説明するには私の前職のキャリアをお話する必要があります。もともと私は三菱商事でアセットマネジメント部門に配属され金融関連の新規事業開発に携わっていたのですが、3年ほど過ごした後、その知識を活かしてベンチャーキャピタルへ転職したんです。主にB2B領域やSaaS系のアーリーステージ企業に投資をしたり、業務改善を提案してきました。

そのときのクライアントに飲食業を営む方達がいて、彼等の課題を聞くうちに、改善の余地が大きく、サポートの必要度も高いこの業界に興味を持ち始めたのです。

―どういった点に興味をもったのですか?

私はいつも、お客様には「一番困っていることは何でしょうか?」と聞いていました。その質問に対して、ご想像の通り、飲食業界で最も多い答えが「人が足りない」という直接的なニーズでした。

飲食は身近な業界でありながら、IT化に立ち遅れている業界でスタッフの負担、マンパワーで賄っている部分がいまだ大きい。そのうえ働き方改革がこれだけ叫ばれているので人材の売り手市場化がますます進み、飲食各社の利益率は押しなべて悪化しつつあります。

―確かに飲食業などのサービス業は、アルバイトやパートが主な働き手になっている業界ですね。

そうです。各店舗の正社員は店長だけで、あとは全てのスタッフがアルバイトということは珍しくありません。しかし、アルバイトは定着率が低いし、人を充足しようと思っても「キツい」「忙しい」というイメージのある飲食業の仕事にはいくら募集してもなかなか人が集まらない。

―ある飲食業者の方は「求人広告はお布施。お金をドブに捨てているようなもの。しかし他に方法がないので求人広告を出し続けるしかない」と話していました。

2020年には飲食業関連の人材は約20万人のニーズが見込まれています。対して現在でも、その有効求人倍率は8倍にも達している。そのような業界の現状を変えたい、という想いが起点にあります。

何せ採用の在り方は旧態依然のままで、仕組として上手く機能していないのです。業界全体に大きな歪があり、このままいくと遅かれ早かれ数年で多くの飲食店は立ちいかなくなるのではないかと危機感をもっています。

同様のマッチングアプリとの差別化はどのように行うのか?

―人のマッチングアプリは、スタートアップ間での一つのトレンドになっていて競合が厳しいのではないでしょうか?

その通りです。私たち自身は目指している方向性や思想がお互いに異なることを理解しているので問題はないのですが、周囲にその違いをわかっていただくことはなかなか難しいわけでして。そういった意味で、今後の投資家からの資金調達などを考えると、スポットメイトのマーケティングやPRを迅速に行っていくことの必要性はひしひしと感じています。

―そもそもスポットメイトと他サービスはどんな違いがあるのでしょうか?

私たちはスポットで働く「次世代型バイトアプリ」を謳っています。それだけなら他サービスも隙間時間や余暇の時間を有効活用してマッチングしようというスタンスで同じですが、ターゲットを飲食業界にフォーカスしているのと、一次的なマッチングではなく、採用を見越したアプリとなっている点です。私たちは飲食店の採用の在り方を変えることを目的にこのアプリを作っていますから、マッチングの先を意識した設計をしています。

―具体的にサービスを設計するにあたって意識したところは?

店舗側のメリットですね。忙しい合間をぬって、どれだけ簡単に募集が出せるか。またきちんとした人材が集まるように設計できるか。ここはUIなどをはじめかなり気を使いました。

アプリのモック

なぜなら、飲食店もアルバイトを希望する人も、気軽な気持ちでまずアプリを使ってもらい、現場に触れてもらいたいという想いがあります。

無理に働く必要も、採用をする必要もない。出会った店の人や職場が気に入れば、それから続けてもらい店の戦力になってもらう。こんなフローに変えていきたいと考えています。

おかげさまで現在では最短で3時間前でも、「今日のシフトに穴が開きそうだから、今すぐ働ける人をオファーできないか」という要望にも対応できるようになりました。これは店側だけでなく、アルバイトしたい人にもメリットがあることですね。

大学の授業が休講になったり、予定していた別の野外アルバイトが雨で流れたり、はたまた今日渋谷に遊びに行くのだけれど、ついでに近くでアルバイト募集しているところを探して、数時間だけアルバイトしてこようと、空いている時間の利用をすることができるのですから。

―キャッシュポイントはどこなのでしょうか?

当初はマッチングして、手数料を数%いただくようなモデルを考えたのですが、結果的には給与に関してスポットメイトは関与していません。というのも、あくまで私たちはマッチングアプリをサービスとして提供しているのであって、派遣会社ではないとの結論に至ったからです。

アルバイトで働いた人と、お店との関係の中で給与は支払われます。弊社はアプリに登録した会社から月々登録料をもらい月額課金で収益を得るようにしました。

―そうすると、登録件数の獲得が急務ですね。

ええ。おかげさまでこちらは順調に推移しています。現在は数百店舗近くの登録があります。

―ひとつの仕事案件に対して、どれだけ希望者がいて、どのようにマッチングさせるのでしょうか?

現在、応募者は1求人に対し、平均して3名ほどです。この中から店長が候補者の飲食店経験などをチェックして採用を決める、という形です。また一度働いた店の仕事が気に入って、そこで募集が出たら行く、という方も増えています。そうなると店としても仕事を頼み易くなる。その人のことを店長が気に入ったら改めて正式に採用して、長期で働いてくれないか、と話をすることもできる。

店舗によっては、従来の求人媒体では1~2名しか応募者が来なかったものが、1か月で30名の勤務を実現できたと喜んでくださったりしています。

私も登録している各店の店長に「どんどん声をかけて採用して下さい」と伝えています。声掛けはインターンを使うような感覚でと。店としても試用期間を経て仕事ぶりを見てから採用できるわけですし、アルバイトする側としても店の雰囲気や仕事の内容を理解してOKすることができる。

―今後改善すべき課題ついてはどういったことがありますか?

まず一つは、もっとユーザーに活用していただきたいのでその仕組み作りを進める中での課題。そしてもう一つは、店長とスタッフをもっとカジュアルに結ぶためのシステム作りも急務です。店長がスタッフともっと強く繋がるようになれば、後々の離職を減らすこともできるのです。

また、4月にはバイトスタッフが店を、店がスタッフを評価するようなシステムもスタートします。スタッフと店がお互いにフラットに評価し合い、相互に選択していけるような、そういうスタイルを作っていきたいのです。

こういった各種の機能を微調整していきながら、さらに登録店舗数を増やしていく、これによって、登録スタッフ獲得向けのプロモーションコストを捻出して、登録者の数を増やしたいと考えています。

「スポットメイト」の先にある、事業の真の狙いとは?

―前職のご経歴からすると、単にアプリだけ立ち上げの話でもないような気がしますが、どのような事業戦略をお考えでしょうか?

現状は、飲食店が1ヶ月で約20万円広告費をかけ、苦労してせっかく採用しても、来てくれた人もすぐに辞めてしまう。

そもそも問題の根っこは、飲食店の店長に重い負担を強いているところにあります。店長は日々の業務が過重労働になって、アルバイトなどスタッフのフォローができないでいる。その結果、仕事の不満を貯めたスタッフが離職してしまい、また求人を出すことになるのです。それで新人が入ってきたら、またトレーニングをしなければならないから時間を取られてしまう。

とまぁ、こういった次第で、実は人材不足の根源はこのように店長が忙しくてスタッフたちに配慮ができなくなっている現状にもあるのです。前職で、2017年の夏くらいから、この状況を打開するためにはどうすればよいかと考えていたのですが、まず思いついたのが、店長とスタッフのコミュニケーションツールの開発でした。また、店長に自分の悩みや仕事のトラブルなどをチャットで相談できるシステムの実装も必要と考えていました。

そこで、店長支援のためのプラットフォームの開発をある企業と協力して進めていたのですが、残念ながらこれが上手くいきませんでした。協力企業の感覚ではこれをプロダクトとして提供するより、個別コンサルティングの営業をして話を進めるほうが早いのでは、というものでした。

それで一旦話が流れたのですが、私はこのアイデアは非常に良いと思っていたので、だったら自分で作ってしまおうと思いVCを退職して起業を決意したというのが本当の動機です。それが2018年の始めの頃でした。

-コミュニケーションではなくマッチングアプリへとピボットしたのはなぜですか?

実際に起業して、色々な方をヒアリングしていくうちに、コミュニケーション不足は経営サイドの努力でまだ何とか克服しうる余地があるが、人材不足の方がより深刻で緊急性が高いという理由が大きいです。それでまずはこの問題を解決するためにも、短期アルバイトのマッチングアプリを作るのが先決だと考えたのです。

「スポットメイト」事業をできるだけ早く軌道に乗せ、なるべく早期に、飲食店向けにITを活用した店長支援プラットフォーム事業に取り組みたいと考えています。

―ありがとうございました。

<プロフィール>

田中佑馬(たなか ゆうま)

慶應義塾大学卒。三菱商事株式会社にて金融事業の新規事業開発を担当。2016年、Draper Nexus Venturesで主に日本国内のB2B SaaSベンチャー投資案件を担当。その後、2017年12月にスポットメイト株式会社を設立。

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