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2019年05月15日(水)

IPOを目指す経営者が内部統制体制作りで留意すべきこと~公認会計士から転身、一部上場した株式会社ストライク代表荒井邦彦氏に聞く

経営ハッカー編集部
IPOを目指す経営者が内部統制体制作りで留意すべきこと~公認会計士から転身、一部上場した株式会社ストライク代表荒井邦彦氏に聞く

IPOを考えている経営者にとって、上場の要件をクリアするための内部統制体制をどう構築するかは大きな関心事の一つだ。しかし、いろいろ情報収集を試みても、そのほとんどが上場審査を行う視点で発信されたものである。よって、経営者視点でもっと本質的に内部統制を考えることも重要だ。

そこで今回、公認会計士として監査の内実を知ったうえで、M&A仲介事業を起業し、かつマザーズ、東証一部市場と会社を上場させた経験を持つ株式会社ストライクの代表取締役 荒井邦彦氏に話を伺った。

公認会計士から起業し、一部上場するまでの道のり

-まず、ストライクがどのような事業をされているのか、簡単にご紹介下さい

現在、M&Aの業界で上場企業は4社ほどありますが、会社を売りたい企業と買いたい企業の仲介をするという点では、各社やっていることはそれほど違うわけではありません。ただ、当社の特徴は、20年前インターネットの黎明期に、日本で最初にネットでのM&Aマッチングプラットフォームを始めたということです。

なぜネットなのかと言うと、企業数が多いからに他なりません。中堅中小企業を対象にM&Aを考えたとき、例えば、売り手の年商が10億円であれば、それより大きい年商100億円くらいの会社が買うといった規模感で釣り合いが取れるといったことがあります。産業構造ピラミッドで言えば、年商数億~数百億のレイヤーでのマッチングを考えた時、売る側も買う側も相当な数に上ります。さらに、企業名は匿名にしつつも、どんな企業なのかは広く知らせる必要があるという利用者のニーズを満たしながらマッチングさせるのにはネットサービスが適していました。

それ以外に当社では、最近異業種と連携し、スタートアップ企業の価値を高めながらバイアウトの支援をするといったことにも取り組んでおり、ユニークな特徴かと思います。

-公認会計士から起業された動機はどのようなものでしょうか?

時系列から言うと会計士になってから起業したということですが、実は、起業しようという思いが先にあって、そのために会計士になったという順番です。将来的に会社を起こして何かやりたかったものの、いきなり起業することには自信がなかったということですね。今でこそ、株式会社を創るのに資本金1円でもでき、創業資金や、VCなどから資金調達も簡単になりましたが、私が30年前の学生の時には株式会社を創るのに最低1,000万円が必要で非常にハードルが高かったのです。

もともと会社の社長になりたいという夢は小学校の時から芽生えていました。小学校の卒業文集には、将来サッカー選手、野球選手になりたいといった同級生が多い中、私だけ社長になると書いていたのですね。何かをやってみたいという気持ちが強かったのだと思います。

大学生の時に目の当たりにしたのは、今まで一緒に遊んでいた同級生たちが、リクルートスーツを着た瞬間に人が変わったようにまじめになっていく姿です。しかし、自身としては、違和感を覚えました。その時小学校の文集に書いた、社長になりたかった自分を思い出したのです。

そして、起業する前に何をやろうかと考えていた時、大学の生協に行くとたまたま、会計士の専門学校の募集パンフレットがあった。そこには「会計士は企業財務のドクターで先生と呼ばれ、クライアントから頼りにされる。様々な業界、業種のビジネスをお金の流れを通じて理解できる」と書いてある。これは凄く勉強になる、起業する前にまず会計士になろうと思いましたね。

-なぜM&Aで事業を起こそうと思われたのか、またなぜこのようなモデルになったのでしょうか?

私が会計士として勤めた監査法人の中で、たまたま配属されたのが上場準備のお客様が多いセクションでした。その中で担当している会社に、年に1、2社のペースでM&Aをやりながらビジネスを拡大していく会社があったのです。知識としてのM&Aは知っていましたが、実際にデューデリジェンスを担当して会社ごと売買するところを目の当たりにすると、これは凄い、大きな仕事をするというのはこういうことなのだと思いました。もともとスケールの大きいことをやりたかったので、やるならM&Aだと決めました。

ところが、1998年に監査法人の仕事を辞めて、本格的に事業をスタートするとき、ビジネスモデルはそれほど完成されていたわけではありません。そのとき、たまたま同時期に監査法人を辞めた人がいました。彼はパソコンに詳しくパソコン通信を使ってビジネスをしていました。それは米国の商品を仕入れ、ネット通販で売るというビジネスでした。会計士時代の3、4倍稼ぐという強者でしたね。

その彼が言うには「荒井さん、M&Aはいいけど、営業やったことないでしょう?売りたい先、買いたい先をどうやって集めるの?そこは、よく考えたほうがいいよ」と。そこで、ネットビジネスが進んでいる米国の事例をいろいろ紹介してもらったところ、ちょうど、M&A案件をマッチングさせているサイトのモデルがあったのですね。「カルフォルニア州のレストラン、年商100万ドル 売却希望」といった広告が出ており、こんな規模の会社でもM&Aが成り立つんだなと衝撃を受けました。たくさんあるものとたくさんあるもののマッチングができ、営業の負荷が少ないのはこういうやり方しかないと、ビジネスモデルを決めました。

-マザーズ上場を目指された背景は?

実は、もともと上場する気はなかったのです。なぜなら、仲介事業の1人当たりの生産性も十分高かったし、一度システムを作ってしまえば追加資金が必要なビジネスでもありませんでした。地道にやっていけばいいかなと思っていたのですが、業界的な動きを見ていると、この業界からも上場企業が出始めたのです。業績からいうと、我々も上場できる水準にはあった。

ただ、いろいろメリット、デメリットを考えながら検討したのですが、資金調達をするにはもう一つ合理性が見出せない。そう思っていた時、高校の同級生と飲みに行く機会がありました。「こういうM&Aをやりたいというものがあるんじゃないのか?売った、買った、儲かったそれで終わりではないでしょ?世の中に役立つ、これが自分たちの推進したいM&Aだ、というものがあるなら、上場して信を問うというのも上場の意義ではないのか」と背中を押されました。彼はベンチャーキャピタルにいたことがあって、私以上に上場の意義がわかっていたのです。

結局2013年年末に、上場をしようと決意しました。

-準備期間はどれくらいかかったのでしょうか、マザーズからそのあとの一部上場も速かったですね

結局、2014年から準備を開始して2年半でマザーズに上場しました。

マザーズから間を置かず一部に上がる例は、当社だけでなく何社かあります。当社の場合はマザーズから一部上場への間は、1年と2日でしたね。それができたのは最初から、一部上場までを視野に入れたプロジェクトとして動いていたからなのです。

読者の皆さんからすると、何かドラマを期待しているのかもしれませんが、設計通りに割と順調に行きました。

上場のための内部統制体制をどう作るか

-そもそも上場企業経営という視座から見て内部統制体制の意味合いとは何でしょうか?

内部統制とは、非常に簡単にいうと、開示する情報に嘘がないということです。
経営者にとっては、上場には一種の魔力があります。実際上場すると周囲から多少は注目されます。しかし、上場しようと宣言した後、数字が計画通り順調に伸びればよいのですが、準備しているうちに経営環境も変わり、本来の力以上のことをやらなければならないことが出てくると組織に不正の誘惑がうまれる。
経営者自身が内部統制の責任者なので、自分が不正をしてしまえば元も子もありませんが、そういったことができないように相互牽制を仕組みとして確立する必要があります。もちろん、これは上場後も必要なものです。

-内部統制体制を作るのにもっとも重要なポイントは何でしょうか?

当たり前ですがビジネスモデルはできるだけシンプルな方が内部統制は構築しやすいです。当社の場合は、業種の特徴からアセットは、キャッシュ、売掛金、事務所の保証金、造作しかありません。また、業務プロセスもM&Aの橋渡しをして、成約報酬をいただくだけなので、在庫も生産設備もない。システム会社のような仕掛品もありません。


事業内容などによってビジネスの構造が複雑になる会社もあり、こういう会社では内部統制システムの構築に時間も費用もかかります。かといって無制限に費用をかけていては利益を圧迫してしまいます。会社の実情に合わせた体制を構築するということが重要だと言えます。


ただ、実際には上場ができない理由は、内部統制の不備よりも業績未達に起因するものの方が実際には多いと聞きます。

上場はイグジット(出口)というのは大いなる誤解だ

-経営者はもっと大局を見ないといけないということですね。

そもそも上場とは何か?をよく考える必要があります。一般的には、上場することをイグジットと言いますが、経営者にとってはスタートラインに立ったにすぎません。

上場すると好業績を上げ続け企業価値を高めていかなければなりません。

-つまり、上場を甘く考えるなと言うことですね。

上場企業は、不特定多数の人のお金を預かることができるということです。だからこそ不正を防ぐための内部統制が必要なのです。

-ありがとうございました。

<プロフィール>

荒井邦彦(あらい くにひこ)

株式会社ストライク代表取締役社長

1970年11月千葉県生まれ
1989年市川高校卒業
1993年太田昭和監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)入所
1994年一橋大学商学部卒業
1997年7月株式会社ストライク設立、代表取締役社長就任

株式会社ストライク

事業内容:M&Aの仲介、M&A市場smartの運営、企業価値の評価、企業価値向上に関するコンサルティング、財務に関するコンサルティングデューデリジェンス業務その他これらに付帯する一切の業務

設立:1997年7月
資本金:8億2,374万円(2018年8月31日現在)

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