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2019年09月26日(木)

競争が熾烈化するインナーECショップで業績を上げ続け、上場も達成。株式会社白鳩が20年間成長を止めない理由とは?

経営ハッカー編集部
競争が熾烈化するインナーECショップで業績を上げ続け、上場も達成。株式会社白鳩が20年間成長を止めない理由とは?

経済産業省の調査によると、2018年のBtoCのEC市場規模は17兆9,845億円となり、前年の16兆5,054億円に比べて8.96%増に拡大しました*。スマートフォンが幅広く普及していること、2020年に控える「5G」の始動でユーザーエクスペリエンスの向上が見込まれることなどから、さらなる市場の拡大が期待されています。その一方、デジタルテクノロジーの発達で新規参入が容易になったことで、競合他社との競争は激化。生き残りを賭けての経営者の手腕が問われています。
 
ネット上の各種チャンネルでインナーウエアを販売するビジネスを展開するのが株式会社白鳩。1997年に訪問販売・カタログ販売からEコマースに大きく舵を切り、以降右肩上がりに業績を伸ばしてきました。2014年には上場を果たし、2018年は過去最高の売上53億8400万円を達成しています。創業者で代表取締役会長の池上勝氏がECビジネスに社運を賭けたのは57才からの挑戦。第二の創業とも言える変革期の舵取りとは? 企業にとって上場とは? ECビジネス黎明期から現在までを振り返り、語っていただきました。
 
(本インタビューは、一般社団法人エコロジー・カフェの会社訪問活動の一環として行われたものです。 エコロジー・カフェ  http://ecology-cafe.or.jp/
 
*経済産業省「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」

インターネットの可能性に閃き、ネットショップ黎明期にいち早く参入

―御社は、訪問販売からスタートしたと伺っていますが、ネットショップに転換した経緯を伺わせてください。

1964年に靴下の職域販売で創業し、1974年に株式会社白鳩を設立しました。取扱い品目をインナーウエア全般に広げ、訪問販売や通信販売大手のベルメゾンネット(千趣会)様などに刺激されて、1976年にカタログ販売を開始します。カタログ販売自体は、セシール様が大きくなった影響などで赤字になり、後に撤退しましたが、この時期にオフコンを購入したことで、1995年にネットショップに移行した時もスムーズでした。
 
インターネットにつないで住所を打ち込めば伝票と郵便局の振込用紙が出てくるというシステムの採用は、京都の企業で当社が早かった方だと思います。

工場の様子

―1995年にネットショップをスタート。ECの黎明期に参入されたのは、「これは行ける!」という確信があったのでしょうか。

最初は、確信というより好奇心が勝っていました。中学・高校時代にアマチュア無線をやっていたり、パソコン通信もやっていたり、もともと通信技術に興味があったのです。最初は、自社サイトを制作して商品の画像を掲載し、FAXで注文を受けるというシステムでした。
 
1999年に楽天様と契約し、2000年3月にモールにショップを開店するとすぐに1日目に69万円売れました。「これはすごい!」と。この時の驚きと感動が原点です。楽天に出店した時にショップ名を「京都発インナーショップSHIROHATO」にし、以降他のモールでも踏襲しています。

―黎明期ならではの感動が伝わってきます。ネットショップを始めた当時の売り上げはどれくらいだったのでしょう?

楽天に出店する前は、1カ月に150万円、年間2,000万円あればいいところでした。平均顧客単価が2,000~2,500円くらいでしたね。でも、カタログ販売と比較するとはるかに上手い商売だと感じましたよ。なにせお客様のもとに訪問せずに会社にいて、じっとしていても売れるのですから。
 
1980年から藤ノ森店、1984年に京都駅八条口のアバンティ―店と実店舗の運営もしていましたが、リアルの店舗とも比べものにならない。60億円を売ろうと思ったら1億売る店が60店舗、5,000万円を売る店なら120店舗必要になり、人員管理が大変です。それがネットショップなら1か所で発信すればいい訳です。
 
そして、お客さんとは1対1です。ひとりから注文があり、それを1万回重ねれば1万点売れる。インターネットの将来性はすごい、と確信しましたね。

―1対1の積み重ねというインターネットの肝を当初から抑えていらしたことが快進撃につながったと。しかし、年々EC市場が拡大する中、新規参入ショップとの競争も熾烈になっていったと思います。

当社がワコール様の商品を扱うようになったのは2004年頃ですが、その頃、ワコール様の専門店は全国にありますが在庫で苦しんでいました。そこで私はEコマースの啓蒙活動をしたのです。私の著書『あなたもなれるインターネット億万長者 「白鳩」池上勝57歳からの挑戦 知りたいことを曖昧にしないネットショップ指南書』(2002年12月発行)を参考にネットで販売したら、専門店の商品在庫の回転率が上がりました。そんなこともあってワコール様も、Web販売を認めたという話を聞いたことがあります。 

―あえて、競争相手を作ることに繋がってしまったと。

いいえ、ネガティブな話ではないんですよ。それに企業各社がネットの重要性に気づいている時期でした。黙っていても、いずれどこかが参入していた状況なのです。結果的に競争相手が増えることで、こちらも安心していられない、と頑張ることに繋がりましたし、市場の拡大にも貢献できたと思います。手芸用品やランジェリー販売の老舗で、日本でいちばん大きな実店舗を持つオカダヤ様も私の実例を見て、ネットショップに進出されました。 

「社員がこの先ずっと幸せでいられるために」。“つぶれない会社”を目的に上場を達成

工場の様子 ランジェリーが所せましと並んでいる。

―順調に業績を伸ばし、2014年4月に東京証券取引所JASDAQ市場に上場します。経営者として上場はやはり念願だったのでしょうか。

もともと上場に関心があったわけではないのです。あるとき大手のベンチャーキャピタルから話が来て、投資をしてくれるという。こんないい話はないと思い、1週間で決めました。ただ、すぐに上場できると思ったのですが、広告を出して売り上げを伸ばすことが求められ、結果的に、上場するまでに8年かかりました。
 
東証の役員に「なぜ上場しようと思ったのか」と聞かれ、「つぶれない会社にするためです。上場しておけば、生来万が一当社の経営が思わしくなくなっても、どこかが手を差し伸べてくれやすくなるでしょう」と答えて驚かれましたが、本音でした。会社を持続的なものにすることで、働いてくれている社員の雇用を守れますし、お客様が安心して当社を選んでいただけるようにもなります。一般には、社会的信用や資金調達のメリットから上場する会社が多いのでしょう。ただ、当時の私の考えとしてはそのことよりも事業が拡大し、社員がどんどん増える中で、この先ずっと社員を幸せにするために経営者としてできることは何だろう?と考えた先の答えが上場だったのです。

―2017年に小田急電鉄株式会社と資本業務提携を締結したのも大きな転機と思います。どのような経緯で提携を決められたのでしょうか。

ファンドからいくつか企業の紹介を受け、その中には宝飾店や、衣料の製造・販売業もありましたが、小田急電鉄さんがピンと来たのです。ネットショップを始めた時と同様ですね。経営者としての“嗅覚”で決めました。

―2018年には、新たな資本業務提携契約を締結し、小田急電鉄の連結子会社となりますが、小田急グループに入るとなると、求められることも変わったと思います。

小田急グループに入ったのも、会社に万が一のことが起きた時に社員の保障になるだろう、と思ったのが一番の理由です。当然のことながら社風はまったく違う会社です。小田急さんは電鉄系ならではの分限者(ぶげんしゃ)さんとでもいいましょうか、ゆったりとした文化で、新興上がりの我々とは対照的。小田急さんの文化を押し付けることもなく、自分たちにできないことをやっていると興味をもって見てくれています。実務では、役員と中堅幹部を社員として送り込んでもらい、商品部のトップと、インスタグラムなど広告宣伝担当という会社の肝となる部分を担ってもらっています。

ネットビジネスのさらなる拡大を確信。今後は専門性がより重要に

―メーカーが自前でネットショップを開店し、薄利多売になってくるなど環境も変化しています。今後ECサイトはどうなっていくと予想されますか。

今後ますますもってリアルの店舗からネットショップへ変わっていくと確信しています。リアルの店舗でないとダメという人は1割くらい残るでしょうけれど、9割はリアルでもネットでもどちらでもいいという人になるのではないでしょうか。その人たちがネットショップの利便性を体験すると、もうリアルの店舗には戻りにくい。9割のうち5割はネットに移行すると予想しますが、体験する機会を増やし、環境をより整えていけばまだまだ増えていくと思います。
 
当社では、「ワコール」「トリンプ」などの国内ブランド、「カルバンクライン」「エンポリオアルマーニ」などの海外ブランド、そして、「bloomingFLORA」「COMUSE」「ContRante」という自社オリジナルブランド、「トリンプ共同企画」などのOEMブランドがあり、販売だけではなく、製造・販売も行っています。あと20年は大丈夫だと思います。

―今後、高齢化はますます進みます。ミドル・シニア世代向けの機能性下着やグッズに注力するなど新たな展開は考えていらっしゃるでしょうか。

当社ではまだ専門的にやっていませんが、効果を前面に出す機能性商品はネットで一番売りやすいものです。例えば、健康食品はテレビCMよりもネット広告の方が反応がよく、売れています。近年は、当社の商品でも骨盤ガードルや機能性の高いブラジャーの売れ行きが伸びています。今後は、そこに注力したり、自社オリジナル製品を考えていくかもしれません。
 
インナーウエア専門でやってきましたが、専門性が今後もっと発達していくのがネットだと思います。細分化し、間口は狭く、奥行は広く。当社もそこをより追求していくことになるでしょう。BtoCだけではなく、BtoBでアプローチしていくことも考えられると思います。

白鳩が取り扱っている製品の一例 変わり種の商品もちらほら

―最後に、常に先進性と信念を持ち続ける理由について伺わせてください。

長く会社を続ける中で、何度も危機を経験していることでしょうか。最大の危機は、創業6年目に、株式会社白鳩とは別に始めたパジャマのメーカーが失敗し、半年で閉めた(私的整理)ことです。当初メーカーの方だけをつぶそう(法的整理)と思ったのですが、そうすると白鳩もダメになると言われました。会社はつぶすよりも閉める方がしんどいのですが、当然のことなのですが、社員にも「つぶれたら退職金も出なくなる」と様々な苦情を言われて、それは辛い思いをさせました。あの時の経験があったからこそ、社員は大事にしないといけない、会社にとって社員こそ宝なのだと思うようになりました。その想いが、成長を止めずに会社が発展している原動力になっています。

―ありがとうございました。

工場内の様子 12800を超えるアイテムが置かれているとのこと
エコロジー・カフェ会員への工場案内中の様子

プロフィール
池上勝(いけがみ まさる)

1940年生まれ。1965年にストッキングの職域販売業として創業。1974年8月株式会社白鳩を設立し、代表取締役社長就任。1997年にネット通信販売を開始。現在、国内本店(⾃社サイト)、楽天市場(メンズ店・レディース店)、 Yahoo!ショッピング店、Amazon店、Qoo10店、ポンパレモール店、Wowma!店 海外本店グローバル店(⾃社サイト)、Tmallグローバル店、 Qoo10シンガポール店を展開する他、SNSサイト(FB・Twitter・LINE@・Instagram)、京都市内に実店舗のインナーショップ「SHIROHATO」を運営する。2017年11月、池上正氏の代表取締役社長就任に伴い、代表取締役会長に就任。著書に『あなたもなれるインターネット億万長者 「白鳩」池上勝57歳からの挑戦 知りたいことを曖昧にしないネットショップ指南書』(いしずえ刊)がある。

会社概要
社名  :株式会社白鳩
所在地 :京都府京都市伏見区竹田向代町21番地
資本金 :1,192百万円 (2019年2月28日現在)
事業概要:インナーウェアのインターネット販売及び直営店舗「SHIROHATO」運営

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