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2020年04月03日(金)

日本再興のラストチャンス!? DXはこの世界に何をもたらすのか ~Sun Asterisk 小林泰平氏

経営ハッカー編集部
日本再興のラストチャンス!? DXはこの世界に何をもたらすのか ~Sun Asterisk 小林泰平氏

IT企業ならずともデジタル技術はあらゆる産業で不可欠なものとなり、今やデジタル・トランスフォーメーション(DX)は待ったなしの状況となっている。DX推進への意識はこれまで以上に高まる一方で、デジタル技術を活用してどのように業務効率化やビジネスモデルの変革を進めていけばいいのか、具体的な施策を見い出せない企業も多いようだ。加えて、国内のIT人材不足はますます深刻化し、優秀なエンジニアをいかに確保するかも喫緊の課題となっている。

このような状況下において、最新テクノロジーを活用したDXソリューションで急成長している企業が、株式会社Sun Asterisk(以下、Sun*)だ。同社ではゼロベースでの設計支援からローンチ後の改善提案まで、ワンストップでDXコンサルティングを提供。ビジネスにテクノロジーを実装することを強みとしたデジタル・クリエイティブスタジオとして事業を拡大し、DXの他にも、国内外でのスタートアップ支援やIT人材育成事業を積極的に推進。現在4カ国6都市にて1,500名以上のエンジニアやクリエイターを抱えるまでに成長した“デジタルのプロ集団”だ。

Sun*は2020年年初に、初となる総額20億円の資金調達を実施。調達した資金はテクノロジー人材育成プログラムの他国展開や、スタートアップの創出・投資の強化、クリエイティブスタジオ成長基盤の強化に充て、事業拡大をより加速化させるという。同社代表取締役CEOの小林泰平氏は、近年のDXを取り巻く変化をどう見ているのか。デジタルシフト時代のIT人材育成やテクノロジーがもたらす価値創造、今後の展望などを聞いた。

 

時代が求めるのはゼロイチで事業を創出できるエンジニア

ーまず創業の背景をお聞かせください。

Sun*は2012年にベトナムからスタートした、日系企業にしてはユニークな会社です。デジタルを軸にしたビジネスが世界のトレンドになる中で、どのような事業を行うにしても、日本国内のエンジニア不足は目に見えて深刻な課題でした。ツールやシステムの開発に長けているだけでなく、これからはデジタルを活用した“事業そのもの”を創出できるクリエイティブなエンジニアが不可欠です。一方、日本国内だけでクリエイティブなエンジニアを育成するのは難しいというのも実態でした。

そこで僕たちは、ある程度の人口規模があり、理系教育にも力を入れているベトナムに着目しました。実際にベトナムは、国として理系人材に対する投資に力を入れており、非常に優秀な人材が育ってきています。創業当初、ベトナムはまだオフショアへのアウトソーシングがメインのSI市場になっており、クリエイティブに事業を作っていけるエンジニアは少ない状況でした。まずは求めるエンジニアを育てる土壌から作る必要があったのです。

そこで現地のトップ大学と提携し、メディアやエンジニアコミュニティを運用しながらエンジニアとのタッチポイントを作り、そこから発掘したエンジニアを育成する事業を続けてきました。さらに、スタートアップ支援や事業会社のサービス開発サポートをしながら、実践を通じてエンジニアに成長する機会を与え、ゼロイチで事業を創出することに特化した取り組みを行ってきたのが、当社の特長です。

ーSun*さんが行うスタートアップ支援とはどのようなものですか?

当社は、創業から300社を超えるサービス・プロダクトの開発を成功に導いてきました。支援させていただいた企業様がIPOを実現したケースも数多く、そうしたナレッジやノウハウをスタートアップのエコシステムにもっと還元したいと考えていたんです。新しい価値を生み出せるプロフェッショナル集団だからこそできるスタートアップ支援の形があるのではないか。そこで、ビジネスの創出からスケールやグロースまで総合的に支援できる組織としてスタートアップスタジオを開始しました。

ーサービス開発は日本とベトナムのどちらで行っているのでしょう?

開発プロセスとしては、まずデザインシンキングのメソッドなどを使って事業のアイディエイトを行い、リーンスタートアップのアプローチでプロトタイプ開発からPoC(概念実証)までを高速で回します。ここまでは日本の開発チームで行うことが多いですね。その後、本格的な開発スタートが始まった後のボリュームの部分はベトナムチームが行う、というイメージです。もちろん日本チームの中にはベトナムから来たエンジニアも混ざっていて、サービスのゼロイチの部分に携わる機会を増やしている状況です。また、ベトナムでも同様のモデルを進めています。

ー受託開発より事業創出という点に注力した理由をお聞かせください。

僕自身がもともとエンジニアで、完成形が分かっている業務システムなどを作るより、ユーザーと対話して改善を続けながらサービスをグロースさせていく方が面白いと感じていたんです。デジタルテクノロジーの使い方として、後者の方が可能性が広がると思うんですよ。

 

ベトナムとの産学連携から浮き彫りになる日本の立ち位置

ーベトナムで行っている人材教育は、国境を越えた新しい産学連携の形とも言えますね。

僕らが必要としている価値創造型のエンジニアを育成するには、大学などと連携して教育面からスタートしなければいけません。ハノイ工科大学、ベトナム国家大学、ダナン工科大学の3校では、当社のIT人材育成プログラムにより常に約2,000人の学生が学んでいます。

それもいわゆる寄付講座というレベルではなく、教師が約40名、学生のメンターも約10名、計50人がかりで5年間かけて学生を育てるといった、学部と同等のクオリティーを提供。卒業後は、スポンサーになっていただいた日本企業への紹介も行っています。これはもともとJICAが取り組んでいたプログラムを僕たちが継承したもので、ODAの事業を民間企業が引き継いだ成功事例の1つと言えるでしょう。現在、他の国の大学からも引き合いは多いです。

ーそこまでコストをかけて育成していることに驚きました。日本で就職したいというベトナムの学生は多いのですか?

はい。僕自身「日本で就職したいという外国の方が、まだそんなにいるのか」と驚いたほどです。やはり先人が築いてきた日本というブランドが、まだ死んでいないんですよね。東南アジア諸国や南米などの国では、日本ブランドがまだ生きている。これは日本が再興するためのラストチャンスだと思っています。このチャンスを活かせなければ、日本は本当にグローバルな人材からそっぽを向かれてしまうかもしれません。日本のIT人材不足を解消するためにも、ここはアクセルを踏み込んで多国展開していきたい考えです。

ー学生にはどのようなプログラムを教えているのでしょう?

ベーシックな日本語は5年間かけて教えています。ビジネスマナー教育や日本語能力試験対策も行いますが、最終的に目指しているのは、日本語を使って新しいサービスを生み出すためのIT活用方法を身につけた、即戦力となる人材の育成です。大学で情報工学を学んでいる学生ばかりなので、そもそもプログラミングの素地はあるんですよ。それをさらに応用させて、例えば「Ruby on Rails(Webアプリケーションフレームワークの1つ)を使ってアジャイル開発を行い、リーンスタートアップのアプローチで何かサービスを作ってみましょう」といった実践講座なども行っています。

ーベトナムと日本を比べて、学生に違いはありますか?

ベトナムの学生は国がものすごいスピードで発展しているためか「あれこれ悩まずとも将来はうまくいくだろう」といった具合に、非常にポジティブな考え方を持っている印象です。そして学ぶことに貪欲ですね。大学のカリキュラムもぎっちり詰め込んで、朝7時から夜6時くらいまでずっと勉強しているんですよ。その後さらに企業インターンに行ってプログラミングを勉強して、アルバイトまでして。とにかく手当り次第勉強しています。

僕の勝手な印象かもしれませんが、日本の若い世代は、生きがいや会社のビジョンなどをすごく気にしていると思うんですよね。それはおそらく、今の日本に国としてのビジョンがないから不安になっているのでしょう。でも東南アジア諸国のように国が成長している学生は、そんな不安とは無縁なんです。そういった国の背景の違いが表れているのだろうと思います。

ー先ほど日本が再興するためのラストチャンスとおっしゃいました。日本を良くしたいという志を持ったのはいつですか?

日本を良くしたいのはもちろんですが、それよりも「世界を良くしたい」という気持ちの方が強いです。それを強く意識した出来事は、東日本大震災です。日本中が暗くなったじゃないですか。何でもかんでも不謹慎になる閉塞感というか、今まで蓄積されていた負のオーラが日本全体を覆ったような感じでした。

当社の共同創業者たちとアジアで起業しようと話していたとき、「今の日本の状況をなんとかしたい」という僕に、共同創業者の1人が「国内に目を向けるだけでなく、もっと大きな視点で世界を良くしよう。世界を良くすればアジアが良くなり、日本も良くなる。国内にこだわらなくてもいいんじゃないか」と言ったんです。その言葉が僕の意識を世界に向けさせ、ベトナムに出ていく大きなきっかけとなりました。

ーベトナムと比較して、世界的に見た日本の立ち位置をどのようにお考えでしょうか。

スタートアップ市場は実際に盛り上がっていて、ベトナムのスタートアップの投資マーケットは、2017年が約300億円規模だったのに対し、2018年には約900億に膨らみました。その当時の日本は2000億円ぐらいの投資サイズだったので、その後のベトナムのスタートアップ市場の活況ぶりからすると、日本とかなり差が縮まってきているのではないかと感じます。

2040年には、日本とベトナムの人口が逆転すると言われています。それは単に国の成長サイクルなので、ベトナムもまたいつか人口減少に転ずるときが必ず来るのですが、それでもこれから30年から50年はアジアの時代だろうと。それは僕自身もベトナムのエネルギーを見ていて、本当に肌で実感しています。そのパワーを借りないと日本はもう厳しい、というのは明らかですね。

 

日本企業においてDXが進まない理由とは?

ーDXについて伺います。日本企業の中にはDXに苦労しているところもあり、他国と比べて推進が遅れている印象があります。なぜでしょう?

日本はアナログのサービス環境が快適すぎて、デジタルの必要性に迫られなかったのではないでしょうか。日本が先進国になっていく過程でアナログのサービスが完成されすぎてしまい、デジタルテクノロジーを取り入れることが遅れたのだろうと感じています。シンプルに言えば、構造的にITに対する投資をしなさすぎた。日本が遅れる中、アメリカと中国が急速にデジタル化を成功させ、それに伴ってビジネスもどんどん国境を越えて発展しました。そして今では、本来日本にもポテンシャルのあったデジタルの部分を海外企業に取られ、どうしたものかと困惑している。分かりきっていたことではありますけどね。

DXには2つの軸があります。1つはもちろん社内の業務をデジタル化して効率や生産性を高めていくこと。もう1つは“事業そのものをデジタル化”して新しい付加価値を創っていくことです。しかし、どちらも思うように推進できていないのが実情でしょう。その要因を統計データで見てみると、「アイデアが出ない」というのが理由の半分以上を占めています。

どういうことかと言うと、例えばちょっとパソコンに詳しいだけの情報システム部門の方が社長命令でDX担当に任命されていた、というようなケースが意外と多いんですよ。事業経験のない人にアイデアを求めても、何も出てくるはずがありません。こうした組織の構造的な問題は、今もまだ日本企業に根深く残っていると感じています。僕たちは、もしアイデアが出なければ小さなことからでも一緒に何かを考え、共感を持って課題に取り組めるパートナーでありたいと思っています。

ー旧態依然とした企業においては、DXという言葉が独り歩きしてしまっているのかもしれませんね。

実は僕自身も「DX」という言葉にあまり馴染めなくて(笑)。というのも、僕たちはそもそもテクノロジーを使ったスタートアップや事業ばかりを支援してきたので、デジタルが当たり前というか、ネイティブなんですよ。僕たちからすれば、ずっと以前からやってきたことが大企業向けのソリューションになったというだけの話で、自分たちのスタンスは変わっていません。いくらDXという言葉が注目されるようになったとしても、デジタルを活用してクリエイティブなものをどんどん生み出していきたい、そして新しい価値を創りたい、という人たちを支援していく僕たちのスタンスは、最初から全くブレていないんです。

 

「Awesome!」な価値創造のできるインフラでありたい

ーSun*さんのビジョンについてお聞かせください。

当社は「誰もが価値創造に夢中になれる世界へ」というビジョンを掲げており、それはつまり、世界平和につながると考えています。例えば、子供は1日中ずっと楽しそうに絵を描いて過ごすことがありますよね。大人のように生きる意味を難しく考えることもないし、危害を加える外敵のことを心配する必要もなく、親が紙もペンも用意してくれます。守られた環境とインフラが構築されているからこそ、子供達はずっと価値創造に夢中になって1日を過ごすことができる。朝起きるのが楽しみで仕方がない、という平和な世界ですよね。その幸せな状態を作りたいんですよ。

「こういうことをやりたい!」と思ったときに、お金やスキルがない、仲間がいない、というハードルに悩まず、とにかくSun*に行けば必要なものが全部手に入って、新しい価値創造や課題解決そのものに夢中になれる。僕らがインフラとなって、チャレンジする人を後押ししたいという思いは、最初から一貫しています。そういう意味では、仮に会社のビジネスが苦しい時期があったとしても、エンジニアにとっての価値創造につながらない仕事を断り続けてきたことは、僕らの強いこだわりの1つだと思います。

ーそうまでして価値創造にこだわるのは、世の中の課題解決のためですか?

いえ、課題解決に限ったことではありません。聞くところによると、縄文時代は本当にたくさんのモニュメントがあったそうです。そのモニュメントには、日時計のように太陽の位置で時間を測る機能を持ったものがあったり、何に使われたものか全くわからないけれど、人々が頻繁に触っていた形跡のあるものもあったり。つまり、全てのモニュメントが必ずしも課題解決のために作られていたのではなく、ただ作りたかったから作ったというものもある、と考えるのが近いと思うんですよね。僕にとっての価値創造は、それでいいと思っているんです。もちろん、作りたくて作ったものが何かの課題解決にもなったらいいですけどね。

ー人それぞれが作りたいと思ったものを作ることが本当の価値だと?

心を揺さぶられるようなもの、言い換えれば「感動」でしょうか。僕らには「Make awesome things that matter.」というスローガンがあります。「Awesome」は心が揺さぶられたときに「すげえ!」とか「ヤバい!」と思わず口をついて出てくる言葉。そういう理屈では言い表せない感動が、まさに僕たちの考える価値だと思っています。

世界を見渡せば、戦争や薬物問題や人身売買などの大きなものから、道路渋滞などの小さなものまで、様々な課題があります。今はそういった課題解決にまず取り組むべきですが、最終的には課題そのものがほとんど無くなり、人それぞれが思い描く価値を自由に創造できる世界になればいい。僕らはそんな思いを持った人たちにとっての価値創造のインフラでありたいと思っています。

ーそういう意味では、エンジニアの定義を変えようとするアクションでもあるということですね。

近年、ほとんどコードを書かずにデジタル開発ができるノーコードやローコードといった開発手法が注目を集めていますが、そういった環境に駆逐されてしまうタイプのシステムエンジニアは、今の日本に非常に多い気がしています。日本のSI業界が生み出した多重下請け構造が元凶だと思っていますが、そうは言っても、優秀なエンジニアはたくさんいます。早く旧来型の業界から抜け出して、本来の価値創造ができる世界に移って行かないと、このまま消耗されて終わるだけです。それは本当に悲しいことですよね。

価値創造型のエンジニアが持続的に事業を生み出すエコシステムを作るために、まずは人材育成のシステムを構築する必要があります。僕たちは、そういった大きなエコシステムを作ることにコミットし続け、投資も続けてきました。その積み重ねがあったからこそ、今の立ち位置があると思っています。今後は成長スピードをさらに加速させ、「世界を良くしたい」「人の暮らしを豊かにしていきたい」という情熱を持つ人のインフラとなって、誰もが価値創造に夢中になれる“世界平和”の実現を目指していきます。

ーデジタルテクノロジーが創り出す新しい価値により、世の中がより良い方向へ向かうことを期待しています。ありがとうございました。

 

【プロフィール】
小林 泰平(こばやし・たいへい)

株式会社Sun Asterisk 代表取締役CEO
ITエンジニアとしてソフトウェア開発会社に就職後、ソーシャルアプリの開発プロジェクトにて中国、ベトナムのエンジニアとのグローバル開発を経験。アジアの若い才能こそ、”Awesome!”が溢れる未来を作って行くと確信し、2012年7月よりSun*(旧Framgia )立ち上げのためベトナムに移住。2017年12月より現職。
 
【会社概要】
社名:株式会社Sun Asterisk(英語社名 Sun* Inc.)

https://sun-asterisk.com/
 
所在地:〒101-0035 東京都千代田区神田紺屋町15番地 グランファースト神田紺屋町9F
設立:2013年3月
グループ従業員数:1,500名
資本金:15億9600万円 (資本準備金含む)
事業内容:デジタル・クリエイティブスタジオ事業
関連会社:グルーヴ・ギア株式会社

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