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2020年05月22日(金)

人類の学びに終わりはない。コロナ禍でもオンラインで学びを止めない仕組みを!Schoo森健志郎氏

経営ハッカー編集部
人類の学びに終わりはない。コロナ禍でもオンラインで学びを止めない仕組みを!Schoo森健志郎氏

ますます変化が激しく不確実になっていく現代、新型コロナウィルス禍はそれを象徴する出来事と言える。そんな中、人生100年時代を迎え、子供だけでなく大人も将来の変化を見越したスキルアップの学びが必要となっている。政府も「人づくり革命基本構想」を取りまとめ社会人が学び直すための「リカレント教育」に本腰を入れ始めた。それに先駆けて、2011年からまったく独自に、いつでも、どこでも社会人が学べるオンライン教育コンテンツを整備してきたのが株式会社Schooだ。一般的に教育コンテンツが教育機関のプログラムとして成立するのには1年以上を要することが多い。そのため企画時には鮮度が高かったプログラムが受講する際にはすでに陳腐化してしまうこともある。この点Schooでは、45万人超におよぶ受講者のニーズをこまめに拾いながら、学びたいけれど、まだ提供されていない半歩先を行くコンテンツを日々充実させている。その結果、プログラミング、ファイナンスなど、5,000以上の講座を用意し、今や学びのコンテンツプラットフォーマーとして、外部の様々な機関との連携を図りつつ、社会人の学びの多様な機会を増やしている。今回、新型コロナウィルス渦中にある世界における教育の在り方にも一石を投じるSchoo代表森健志郎氏に社会人の学びに必要なコンテンツのあり方について伺った。

※本インタビューは2020年2月に実施されたものです。

 

人生100年時代のリカレント教育、大人たちが学び続ける生放送コミュニティ

ーはじめに御社のサービスの内容をお聞かせください。

株式会社Schooは、大人たちがずっと学び続ける生放送コミュニティ「Schoo」を運営しています。「世の中から卒業をなくす」ことをミッションに掲げ、誰でもどこでもオンライン授業が受けられる生放送授業を毎日無料で配信しています。また、これらの録画授業のストックや限定生放送は有料プランで視聴できます。

生放送のコンテンツとしては、すぐに使えるビジネススキル、ITスキル、経済、ニュース、思考法、文章術から、働き方、お金、健康に関することなど、幅広く提供しています。月最大100回の生放送を配信しているため、コンテンツは刻々と増えており、現在、5,000以上のコンテンツが蓄積されてきました。講師陣には、様々な業種、職種のプロフェッショナルの方々から2,500人以上を迎え、これらの品質を担保しています。現在、利用者は、個人会員が45万人、法人ユーザーは1,000社以上になりました(2020年3月末時点)。

主な有料サービスは次の3つです。まず、個人向けの有料サービス「新プレミアムサービス 」は、録画授業の見放題、会員限定の生放送も視聴できるサービスです。Web版が980円/月、iOS及びAndroidアプリ版は1,080円/月の利用料金となっています。

次に、法人向けの有料サービス「Schooビジネスプラン」では、ビジネスマナーからプログラミング、デザインといった実務スキルまでの豊富なコンテンツで学習環境を提供しています。

 また、企業ごとのオーダーメイド研修、学習動画コンテンツ企画のコンサルティングとオリジナル動画の制作までのサービスをワンストップで提供しています。

 

教育機関が届ける教育とマーケットが求める学びの隙間を埋める

ーこの学びの問題に取り組もうと思われたきっかけは?

新卒で入社したのがリクルートコミュニケーションズだったのですが、仕事を通じた学びだけでなく、研修のコンテンツや機会は非常に充実していました。そんな中、入社2年目の頃、当時、学びたい意欲に溢れていた私は、これは素晴らしいことだと大いに期待していました。ところが、‥です。実際に受講したeラーニング研修が全く面白くなく、大きな失望感に襲われました。こんな教育コンテンツで多くの人が学ばざるを得ない現実があって良いのかと危機感を抱いたのが、事業を始めようと思ったきっかけです。

その失望したコンテンツとは次のようなものでした。当時私はマネジメントに興味がありましたので、まず、マネジメントがテーマのeラーニング研修を受けることにしたわけです。ところが、画面の中央にどかっと映った年配の外部講師が、ただ一方的にひたすら話をするだけという講義でした。この時、学びたいと思ったときに出会うコンテンツ次第で、多くの人の学びの機会さえ奪われかねないのだと気づいたのです。だったら、学びたいという人の気持ちに応えられる教育コンテンツを自分で作るしかない。私はまさに、その時に起業を決意して、翌日、会社に退職願を提出したのです。もちろん仕事自体は面白かったですし、先輩方は素晴らしかった。会社への不満は一切ありませんでした。

ーそれは思い切った決断でしたね。そこから創業に至る経緯を教えてください。

2011年に当社を設立し、Web生放送による教育コンテンツ事業の立ち上げ準備を開始しました。当時は動画配信サービスと言えば、ニコニコ動画くらいしかありませんでしたので、投資家さんからは、絶対に失敗すると言われていました。

だったら、まずは自分が一番学びたい(学びたい人も多いであろう)「起業するために必要な学び」をテーマにコンテンツを作ろうと考えたのです。そこで、私自身が「この人に話を聞きたい!」と思う方に講師になっていただき、自分が知りたいこと、学びたくなる講義方法などをまとめた企画書を作成して、講師の方と具体的に講義内容を練りあげ、これなら自分が学びたいと思えるというコンテンツを作りました。

しかし、当時はまだ「スタートアップ」という言葉もなく、さらには東日本大震災発生直後という逆境の中で、どれだけのアクセスがあるか全く未知数の中でのスタートでした。

ところが、いざ蓋を開けてみたら、第1回目の生放送本番配信を開始した途端、いきなりサーバがパンクしてしまうほど、想定を遥かに超えるアクセスが殺到したのです。あわててサーバを復旧してその場はことなきを得ましたが、今思えば本当にヒヤヒヤのスタートでした。

この経験から学んだことは、まず、起業について学びたい人が相当数いるということ、そして、人が学びたいという純粋な気持ちに応えるようなコンテンツを作っていけばよいのだということでした。ここからは1点突破で、まず起業に必要なコンテンツを中心にラインナップしていったわけです。

その後は、さらに多くのユーザーにコンテンツを利用していただけるように、社会人の方にも人気のあるプログラミング、Webデザインといった実務系のコンテンツを増やし、さらには、フリーランスになる方法、資産形成など、ユーザーの関心事に合わせてコンテンツを充実させてきて現在に至っています。

ー現在、5,000本以上のコンテンツがラインナップされていますが、リリースするコンテンツはどのような視点で選定しているのですか?

45万人のユーザーの利用動向を見ながらニーズを想定して、今ユーザーが知りたいことに対して、先に行きすぎず、半歩先を見たコンテンツを提供するようにしています。様々なデータを読み解いていくことで、その先にユーザーのインサイトが見えてきますので、データだけではなく、感覚的な判断も重視して選定しています。

ーなるほど。受講者のインサイトを見極めて、ジャストフィットするコンテンツを提供されているのですね。

 これまでも社会人教育の機会は様々提供されてきましたが、多くの教育機関が提供するプログラムは、マーケットが求めるスピード感と、タイムラグがあるように思います。

 Schooの場合は、編成部門の独立性を高めていますので、現場主導によるコンテンツの意思決定ができますし、オンラインによる動画配信のため、紙媒体よりもタイムリーにコンテンツをリリースできます。また、ユーザーも5,000件ほどの過去の配信コンテンツもアーカイブとして利用できますので、いつでも、どこでも、学びたいときに学ぶことができます。

この8年間で45万人のユーザーの方々に会員登録をいただいているのは、このようにひたすらマーケットの動きにあわせてコンテンツを練り、タイムリーに提供し続けてきたことが1つの要因になっていると思います。

 

世の中から卒業をなくすために、学びの隙間を埋め、学びを深める仕組みをつくる

ー政府系機関、地方自治体、大学などの教育機関、民間企業といった多面的な連携を推進されています。それぞれどのような取り組みなのでしょうか?

「世の中から卒業をなくす」ミッションを達成するためには、学びの機会の隙間を埋める必要があります。そこで、国、省庁、自治体、大学と連携し、社会に対してあらゆる働きかけを行い、1人でも多くの方にリカレント教育、大人の学び直しの機会が提供できるようにしているのです。

政府系機関との連携例としては、中小企業庁の委託事業で(独)中小企業基盤整備機構が提供する「ビジログ」とのタイアップ番組を放送しました。シリーズ企画「なにまな? -何を学べば〇〇さんのようになれるのか」では、各界のトップランナーに自らを変えた学びについて語っていただき、中小企業の中核的人材の育成に貢献しています。

ー地方自治体や大学とはどのような取り組みを行っているのでしょうか?

2015年から、全国9都市の地方自治体や13大学と提携し、各大学が実施している公開講座をSchooにて無料開放しています。

地方の人口減少、経済や情報格差が深刻な問題となる中、地方自治体や大学と連携し、5G、IoT、AIなどのテクノロジーを駆使した次世代の大学の在り方を模索する取り組みとして、学びを軸とした「未来の地方の暮らし、未来の教育機関づくり」を推進しています。遠隔教育のプラットフォームの構築と、地方を拠点としたリアルなコミュニティの形成を図る取り組みも行っています。

提携する13大学は、早稲田大学、法政大学、関西学院大学、近畿大学、國學院大學、京都造形芸術大学、東京未来大学、八洲学園大学、京都工芸繊維大学、中央大学、熊本学園大学、東海大学、聖学院大学です。

その他には、東京大学 知の構造化センターとは、同センターが主宰する全学教育プログラム「東京大学 i.school」のコンテンツを共同でオンライン化し、Schooにて学生、社会人問わず無料開放をしています。

 

人類の学びに完成はない。人はなぜ何の為に学ぶのか?

ー今後の事業展開はどのように考えていますか?

私たちは「インターネット学習で人類を変革する」というビジョンを掲げていますので、これを実現するために、全人類がポテンシャルを最大に発揮できるようにポジティブに学び続けることができるコンテンツを提供し続けます。国内だけでなく、海外向けの事業展開についても様々な可能性を見据えています。しかし、地球規模でみると、いまだインターネットは全人類の5割程度にしか届いていないのが現実です。この壁を越えるために、私たちがやるべきことは、まだまだあります。いずれ海外事業に関するリリースもお届けできると思いますので、楽しみにしていてください(笑)。

ー今回の新型コロナウィルスの感染拡大により、多くの学びの機会が失われています。一方で、この環境変化は人類にとって新たな学びの機会ととらえることもできると思います。今後、学びのあり方が変わるもの、変わらないものがあるとすれば、それは何でしょうか?

地球規模の新型コロナウィルスの感染拡大の影響によって、世界中の多くの方の学びの機会が奪われています。この状況を乗り越え、全人類の学びを止めないために、私たちは、これまでの常識を疑い、新たなスタイルも積極的に取り入れながら、人類に変革をもたらしていきたいと考えています。

実際に企業向けには、「オンライン集合学習(β版)」の提供を開始しています。もともとは「教える時間がない」「教えられる人がいない」といった理由から、リアルの場でのOJT(オンザジョブトレーニング)の代わりに、オンライン学習を導入いただくという位置づけでした。その後、導入企業から、1人で動画を見て学ぶだけでなく、集合研修の様に受講者同士がコミュニケーションをとりながら学びを深められるようにしたいという要望をいただくようになり、チャットなどを活用して、同僚、先輩、上司、人事などにその場で質問ができるようなオンライン上のコミュニティづくりも進めてきたのです。つまり、このスタイルがコロナ対策としても非常に有効に機能しています。

現時点で、コロナ後のことを語るのは時期尚早ですが、現在進行形で起きている変革としては、オンラインが、オフラインの代替手段ではなく、オンライン学習だからできることがあるという社会的な価値として、より明確に認識されるようになったということでしょう。その結果、教育コンテンツづくりも、さらにオンラインとオフラインが融合したスタイルになっていくことになるはずです。

一方で、地球上で人類がサステナブルであることを至上命題とするならば、いかなる環境変化にも適応し続けるために、私たち1人ひとりの学びに終わりはありません。この真理は、これからも変わることはないでしょう。
また、今回の新型コロナウィルスの件で、私自身も環境変化に直面しながら多くのことを学んでいるところですが、あらためて実感しているのは、人間は寂しがりやの動物だということです。少し距離が離れると、とたんに寂しくなる。

元来、学びというのは、誰かと学びを分かち合い、そして誰かのためにその学びを活かすことで本当の学びになるものです。人が学ぶために人と人の繋がりが大切で、翻れば、そのために人は学んでいるのだとも言えます。即ち、学びには、人と繋がる学びの場、コミュニティが必要なのです。この真理も変わることはないでしょう。
これからの世界は、オンラインであれオフラインであれ、ますます学びの場としてのコミュニティが重要になってくると思います。私たちはこれからも、こうした人の繋がりを大切にコンテンツをつくり、学びという完成することのない「サグラダファミリア教会」をつくり続けていきたいと考えています。

ー私たち1人ひとりが学び続けることで人類の想像を超えた未来が創造され続けていくのだと思います。本日はありがとうございました。

 

 

<プロフィール>

森 健志郎(もり・けんしろう)
1986年大阪生まれ。2009年近畿大学経営学部卒業。2009年4月、株式会社リクルート・株式会社リクルートメディアコミュニケーションズで、SUUMOを中心とした住宅領域の広告営業・企画制作に従事。2011年10月、自身24歳時に同社を設立し代表取締役に就任。情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。

株式会社Schoo(スクー)

http://corp.schoo.jp/

設立:2011年10月3日
資本金:8億1300万円(資本準備金含む)
事業内容:大人たちがずっと学び続ける生放送コミュニティ「Schoo(スクー)」の運営
代表者:代表取締役社長CEO 森健志郎
従業員数:70名
所在地:〒150-0032 東京都渋谷区鶯谷町2-7  エクセルビル4階


主要株主
森健志郎(代表取締役)
KDDI
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ
インキュベイトファンド
ANRI
リンクアンドモチベーション 等
 
主要取引先
株式会社アイエスエフネット
株式会社アイレックス
学校法人近畿大学
株式会社クリーク・アンド・リバー社
千葉市
株式会社DACホールディングス
ディップ株式会社
株式会社博報堂アイ・スタジオ
株式会社パソナテック
株式会社マクロミル 等(五十音順)

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