「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著者・山田真哉氏に聞く芸能界に特化した訳【経営ハッカーインタビューVol.1】

経営ハッカーインタビューVol.1 「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著者・山田真哉氏インタビュー

 

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<プロフィール>
山田真哉(やまだ しんや)。神戸市生まれ。公認会計士・税理士。「一般財団法人 芸能文化会計財団」理事長。大阪大学文学部卒業後、東進ハイスクール、中央青山監査法人/プライスウォーターハウス・クーパースを経て、独立。2011年より現職。小説『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫他)はシリーズ100万部、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社)は160万部を突破するベストセラーとなる。大企業から中小企業まで数多くの企業の会計監査や最高財務責任者、税務顧問、社外取締役として務めた経験から、現在も約40社の顧問として社長の参謀役になっている。

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「経営ハッカー」では、新しい働き方にクローズアップし、プロフェッショナルが持つ付加価値について取材。 第1回目は「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」の著者であり、公認会計士でもある山田真哉氏にインタビューします。

 

■公認会計士はサッカーでいうところの審判みたいな立場なんです。

根木:山田さんが公認会計士になろうと思ったルーツってなんですか?

山田:ざっくり言いますと、当時働いていた東進ハイスクールで校長と喧嘩したんです(笑)。それで無職になったんですが、すぐに働きたくないからという理由で専門学校に行きました。そこで学校の人にどの勉強をしたらいいのかを相談したら、公認会計士という資格がオススメですと紹介されたんです。それは後に、公認会計士講座が一番料金が高いから勧められたってことがわかったんですが(笑)。

根木:(笑) 公認会計士は向いていましたか?

山田:公認会計士は中立的な立場なんです。会社側にべったりってわけでもなく、あくまで中立の立場で監査をするんです。税理士も同じで、会社側に完全にべったりってわけでもなく、税法というものがありますから、税務署と会社の間の立場なんですね。僕は中立的な立場が結構好きなんで、向いていたと思います。

根木:そうなんですね。

山田:はい、サッカーでいうところの審判みたいな立場なんですよ。

根木:あー、なるほど!

山田:二つの対立している所を裁くのが快感なんです。行司や審判って、ある種そういう美学がありますよね。勝ち負けの世界ではなく、見事に仕切るのが素晴らしい、という世界観が僕の性に合ったんです。それで既に14年間会計士をしていますね。

根木:監査法人には何年いらっしゃったんですか?

山田:監査法人には4年いました。その後独立して会計士を6年間、残りの4年間は税理士がメインです。監査法人では会計士としてコンサルティングとか、経理の手伝いとかをやってましたね。経理の手伝いとは、監査対応や決算書の作成といった裏方業務でした。

根木:では独立後も前半の会計士時代は、監査対応に入るということは比較的規模の大きな会社がクライアントだったんですね。

山田:いわゆる東証一部上場の国際優良企業でも働いていました。

根木:それで現在は?

山田:今は、芸能界をメインに税理士業務をしているので、中小規模の会社が多くなりました。芸能人は個人事業主の方が多いので、この4年間は小規模の仕事もやってます。

根木:今の「芸能文化会計財団」を立ち上げたのが2011年なんですか?

山田:そうですね。元々は「公認会計士 山田真哉事務所」という事務所だけだったんですけれど、その1年前くらいから芸能人特化型の税理士業務を始めていて、受け持つ芸能人も増えてきたので、2011年に他の税理士たちと「芸能文化会計財団」を立ち上げましたす。

 

■芸能界に特化した税理士になろうと思ったキッカケは?

山田:大都市圏は、普通の税理士業では独立が難しくなってきています。昔の顧問料は、5万円や10万円が普通でした。でも今は3万円、2万円、1万円という状況になってきていますので、ダンピング競争に付いていていくには、人件費を下げてブラック企業にするか、家賃が安い場所でやっていくしかない。でも、既存のお客様のことを考えると、ある程度の事業規模は欲しいんです。僕が倒れても他のメンバーがやれる状況にしておきたい、ということです。なので規模的には10人前後の事務所にはしたいと思うと格安ではやっていけない。そうなると、付加価値を付けるしかないんですが、それはどこだろう? と考えたんです。

根木:なるほど。

山田:これまでの税理士業界にも、税法科目それぞれに特化した事務所はあったんです。例えば相続税に強いとか、国際税務に強いとか。それが20年ほど前からは、税法で分けるだけではなく、医者に特化する、飲食店に特化するという方向になってきました。流れからすると、今後はもっともっと細分化されるだろうと思ったんです。絶対に細分化した方がその業界のことが深くわかるし、その業種業態特有の支援制度とか助成金とか、他社の成功事例も情報として入ってくる。

根木:たしかにそうですね。

山田:例えば、税務調査の時って、だいたい税務署の方が業界の知識は多いんです。幅広く調べてきますからね。だけど業界特化にしていることで、税理士の方が知識量が圧倒的に多くなるんですね。経験値が全然違うので。地方は事情が異なると思いますが、大都市圏の今後10年は、絶対に業界特化型だなと思ったんです。

根木:なるほど。

山田:じゃあ自分の得意分野はなんだろうと考えた時、芸能界・出版界は元々やっていたのでスタートしやすかったんです。

 

■「さおだけ屋はなぜ潰れないのか」のヒットでテレビ出演。人生の転機になった。

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山田:独立して『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』が出版され売れ出してから、テレビなどのメディアに出演する機会がたくさん生まれたんです。このテレビ出演をキッカケに、タレントや作家の方々のお金の相談に乗るようになりました。しばらくはお食事のおごりと引き換えに相談を受けていたのですが、ちゃんと仕事として請け負おうということになったんです。

根木:なるほど。

山田:東京だからできるビジネスモデルですよね。逆に業界特化ではなく何でもやります!となると、すごく辛いと思うんですよ。芸能・出版に特化しているメリットはというと、在庫がないんですね。原価計算もあまりいらない。

根木:ああ! そうですね。

山田:その点が楽ですね。やっぱり在庫や原価計算ってやることが多いので、手間が掛かりますよね。

根木:そうですね。まあ工業簿記と商業簿記の違いといいますか。

山田:だから製造業が有るか無いかで労力が変わってくるので、製造業をやるならクライアント全てが製造業の方がスタッフも慣れるし、やらないなら全クライアントが非製造業のほうがいい。

根木:それは、最後の決算書を作ったりとか、そういう時の負担ですかね。

山田:そうです、棚卸とかね。決算時の棚卸の負担を考えると、特化した方がやはり楽なんですよね。

 

■同業者から大反対されたから、芸能人に特化しました。

山田:当時、知り合いの税理士5人くらいに、芸能界に特化することについて相談したんですよ。そうしたら全員に反対されたんです。理由は「面倒くさい」からと。やっぱり芸能人って普通の人じゃないですよね。活動時間も含め、そもそも一般常識が通用しない方々が多いですから。

根木:(笑)。

山田:普通の社会人生活をしていないので、一般的な常識が無い方もいるんです。そのためか、芸能人とちょっとでも仕事した税理士仲間からは強く反対されました。だけど「みんなが反対するものは当たる」ってよく言うじゃないですか。それを聞いて、絶対追随する人は多くないだろうと思ったんです。それに、そういう人ばかり相手にしていたら慣れるんじゃないかと思って。そして、実際にやってみたら慣れてくるんですよ(笑)。

根木:(笑)。ブルーオーシャンということですね。

山田:そうです、ブルーオーシャンです。メールを絶対に返信しない人とか、真夜中にならないと連絡がつかない人とか、あとお客様に漫画家さんも結構いらっしゃるんですが、そういう方は締め切り前になると連絡を入れても絶対に電話に出ない。だからその人の掲載している漫画誌の発売日から締切日を逆算して、「あ、今日、脱稿してるな?」とタイミングを見計らって連絡を入れるわけです。

根木:相手の裏側とか背景を理解していらっしゃるんですね。

山田:そういうのって経験値なんですよね。普通の税理士がいきなり漫画家とかの顧問とかやっても、おそらくストレスが溜まるでしょう。特化している差というのは必ず出てくるはずです。あとメリットで言えば、レギュラー番組とか把握しておけばスケジュールが読めます。スケジュールがわかっていれば、「この日はテレビ局の控え室に訪問してヒアリングをしよう」といったことができるわけです。

根木:なるほど。普通の事業会社の経営者よりもスケジュールが読みやすいんですね。

山田:あと一般の方でも、芸能人でも、新しいことを勝手に始めてしまうことがよくあります。不動産を買ったりとか、人を雇ったりとか……。でも税理士からすれば、「手続きが必要だ」「ムダに税金を払うことになる」といった問題点が見えてくるわけです。一般事業会社だとそれを把握するために月次往査が必要なんです。何やっているかわからないのが、税理士にとっては一番怖いので。でも芸能人の場合は、テレビやブログで言ってくれるので助かります。先日も、フリーランスの方が「新しいアプリを作るので200万円を出資してもらったんですよ」と言うんですけど、税理士的には「それって贈与税の対象では…」となるわけです。そういうことは、一般の方には想像もつかないんですよね。

根木:税理士さんに言わなければいけないっていう認識自体が無いわけですね。

山田:無いですね。

根木:指摘されて初めて認識すると。

山田:知らないうちに脱税してしまうんですよね。

 

■「クラウドってすげーな」って事になりますけど。

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山田:例えば「知り合いに手伝ってもらったからアルバイト代として20万払ったんですよ」と言われると、「えっ、源泉は引いたの?」となりますよね。あと「今年利益が出たんで自分にボーナス300万円を払っちゃいました」と言われると、「えっ、損金にならないから税金的に損ですよ!」となるわけです。こういうのは、クラウド会計で入力中に、機械的にアラートでお知らせが入るとかは難しいでしょうか?例えば、毎月給与払っていて、いつもより多い額を払ったら、アラート機能で『<注意!>役員賞与ではないですか? 損金にはなりません』と教えてくれるとか(笑)。そういう機能も付いていると「クラウドすげーな」って事になりますけど。

根木:ある所まではできる範囲もあると思います。当然コミニュケーションコストみたいなところはクラウドでは難しいですし、逆にアラートを見ても何をしたらいいか素人にはわからない。

山田:そうですね。確かにわからないか…。

根木:結局行動を促すところまでをできれば良いのかもしれないですけど、何をすべきかまでを示すと、おそらく文字だらけになってしまうと思うんです。

山田:そうですね。アラートがいっぱい出てきて、使いにくくなったら本末転倒になちゃいますね(笑)
(続く/インタビュー後編は7月16日公開予定)