【法改正】中小法人の税制優遇基準「資本金1億円以下」の見直しがもたらすもの

資本金1億
2015年5月9日に、シャープが1218億円ある資本金を1億円に減資する方針を固めたとする報道がありました。この方針の背景には二つの理由があり、一つは減資による欠損填補により配当を可能とすること、もう一つは税法上の中小法人になって税制優遇を受けることです。減資により累積損失を解消することで、剰余金を配当に回すことが可能となります。また、資本金の額が1億円以下となることで法人税法上の中小法人に該当し、税制上の優遇を受けることができます。

しかし、連結売上高が3兆円近い大企業のシャープが、中小法人として税制優遇を受けることについて批判が噴出しました。このため、シャープは当初の計画を変更し、資本金を5億円として、減資による欠損填補を行うこととしました。

今回は、このニュースで話題となった中小法人に対する税制優遇措置の概要と、シャープが利用しようとした現行制度の問題点について解説します。

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1)中小法人に対する税制優遇の制度概要

まず初めに、税制優遇措置の概要について確認します。資本金が1億円以下の中小法人、より厳密には法人税法上の「中小法人等」または租税特別措置法上の「中小企業者」に適用される税制優遇措置のうち、主なものは以下の通りです。(以下、簡便化のため中小法人と記載します)

法人税
  • 800万円以下の所得に対して軽減法人税率15%を適用(大法人は23.9%)
  • 繰越欠損金の控除割合が100%(大法人は65%)
  • 欠損金の繰戻しによる還付制度
  • 800万円以下の交際費等は全額損金算入(大法人は全額損金不算入)
  • 取得価額が30万円未満の少額減価償却資産の一括経費処理
  • 投資促進税制(機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)
法人事業税
  • 法人事業税の外形標準課税の不適用

所得金額の小さな中小法人にとっては、優遇措置の適用によって税額が大幅に減額されることとなるため、資金繰り上、非常に重要な制度であると言えます。

なお、シャープにおける今回の減資については、主な目的が累積損失を解消して配当を可能とすることであったため、もともと中小法人になることによる税務メリットは付随的なものであったと考えられます。

2)税制優遇措置の導入の背景

それでは、資本金1億円以下の中小法人に対する税制優遇は、いつどのように導入されたのでしょうか。

はじまりは1955年の法人税法改正で、中小企業の負担軽減を目的として、所得のうち一定金額以下に対して軽減税率を適用する仕組みが導入されます。この段階では大企業についても、所得のうち一定金額までは軽減税率の適用を受けていました。中小法人が資本金1億円以下という形で定義され始めたのは1966年の改正で、法人税の軽減税率の適用対象が資本金1億円以下の法人に限定されました。資本金の額は、画一的、一義的に把握でき、基準として明確であるということが採用の理由だったようです。それ以降、その他の中小法人向けの税制優遇策の導入に当たっても、次第にこの「資本金1億円以下」という基準が使用されていくことになります。

また、外形標準課税については、行政サービスの受益者が広くその費用を負担するという「応益課税」の考え方を踏まえ、2004年から適用されています。外形標準課税とは、付加価値と資本金等を課税ベースとする、法人事業税の課税方式の一つです。これにより、企業は所得が赤字であっても、会社の事業規模を表す付加価値、資本金等の金額に応じて、法人事業税を負担することとなりました。適用対象法人については、中小企業の税負担への影響を配慮して導入に至るまで紆余曲折がありましたが、最終的には、「資本金1億円超」という基準が採用され、中小法人には適用されないこととなりました。

3)現行制度の問題点

そもそも中小法人に対する税制優遇措置が設けられているのは、7割が赤字と言われている零細中小企業の負担軽減が目的となっています。しかしながら、中小法人の判定基準について、資本金1億円以下という形式的な基準で一律に決定しているため、本来税制優遇を受ける必要のない、すなわち、ある程度の規模があり税金を支払う力のある企業であっても、資本金が1億円以下であれば、税制優遇措置を受けることができてしまうという状況になっています。

資本金を1億円以下にすることで税制優遇が受けられるのであれば、企業は節税のためにそのように行動することが合理的であると言えます。減資を行う場合には、株主総会の特別決議が必要となりますが、減資する金額が欠損金額以内である場合には株主総会の普通決議で足りることとされています。反対に、増資の場合についても、資本金が1億円以下に留まるように資金調達額自体を調整することも考えられます。

このように、資本金の金額には少なからず企業の意思が反映されるため、必ずしも資本金の額の大小が、会社規模の実態を反映しないという問題が生じています。

4)政府の改革の方向性

それではこの問題について、政府はどのように考えているのでしょうか。改革の方向性について、平成27年税制改正大綱から、該当する箇所を抜粋して引用します。

中小法人の実態は、大法人並みの多額の所得を得ている法人から個人事業主に近い法人まで区々であることから、そうした実態を丁寧に検証しつつ、資本金1億円以下を中小法人として一律に扱い、同一の制度を適用していることの妥当性について、検討を行う。その上で、中小法人のうち7割が赤字法人であり、一部の黒字法人に税負担が偏っている状況を踏まえつつ、中小法人課税の全般にわたり、各制度の趣旨や経緯も勘案しながら、引き続き、幅広い観点から検討を行う。

※平成27年税制改正大綱から抜粋

このように、シャープの減資のニュースとは関係なく、もともと政府はこの問題について課題認識を持っており、中小法人の範囲について引き続き見直しの検討を行うこととしています。また、政府税制調査会においても、「企業規模を見る上での資本金の意義は低下してきており、資本金基準が妥当であるか見直すべき」という指摘がなされています。

未だ検討段階ではありますが、今後は少なくとも、税制優遇の対象企業の範囲は縮小される方向で見直しが進んでいくと考えられます。また、外形標準課税についても、適用対象企業の範囲が拡大する方向で検討されると考えられます。その背景としては、最近の税制改正によって法人実効税率の段階的引下げが進められており、税率の引下げによる税収の減少分を、課税ベースの拡大により補う必要があるからです。

5)中小法人の範囲の見直しがあった場合の影響

上記のとおり、政府は中小法人の範囲について見直しを検討しています。現時点では、今後具体的にどのような基準が採用されるかは分かりませんが、想定される基準の案としては、例えば下記のものが考えられます。

  • 判定基準自体を純資産や売上高等の他の指標に変更する
  • 資本金基準を継続し、金額基準を引き下げる
  • 上記の基準に、従業員数等の別の要素を組み合わせて判定する

基準の設定に当たり検討されるべき要素としては、企業規模を適切に反映する、節税のみを目的とした行動の影響を受けない、基準として明確、毎期大きく変動しない等の要素がありますが、それと同時に、新たに中小法人に該当しなくなる法人数と税収の増加見込額のバランスを総合的に勘案して決定されることになると考えられます。

いずれにしても、中小法人の範囲が狭くなる方向で見直しがなされると考えられるため、この部分だけを捉えれば、比較的規模の大きい中小法人の税負担が増加することは避けられないと考えられます。一方で、小規模な中小法人や大法人の負担は変わらないことが想定されます。

6)まとめ

いかがでしたでしょうか。現行制度上は、資本金という画一的な基準を用いていることによって、ある程度規模の大きな企業についても中小法人向けの税制優遇が適用されてしまうという問題が生じている状況です。今後の見直しに当たっては、そもそもどのような企業に税制優遇が必要なのかといった原点に立ち返り、その趣旨に沿った税制が構築されることが望まれます。

また、我々国民としては、中小法人の判定基準の改正だけではなく、税制改正全体の方向性の中で、自社又は個人の税金負担がどのように変動していくか、確認をしていく必要があります。

愛知県新城市の公認会計士事務所です滝川
経営ハッカー寄稿実績:
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目次

  1. 法人にも確定申告って必要なの?
  2. 法人税とは
  3. 法人の確定申告の全体的な流れ
  4. まずは法人決算書と勘定科目内訳明細書
  5. 法人税の申告書類の作り方
  6. 作成した申告書を提出して納税する
  7. 最後に
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