「NPO法人を立ち上げる人には、強烈な“〇〇〇”がある」 ~NPO法人専門の税理士さんは語る~

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‘NPO’は、‘Nonprofit Organization’の略で、訳すと「民間非営利組織」です。

社会的な使命を達成することを目的にした組織のNPO法人は、比較的身近な存在になりつつありますが、どんな人がどのように運営しているかの内情を知る機会はなかなかありません。

NPO法人に特化して支援されている河村浩靖公認会計士税理士事務所の河村先生に、「NPO法人の独特な会計の仕組み、NPO法人運営者ならではの苦労、NPO法人を立ち上げる方の特徴」についてお聞きしました。

NPO法人は、ふつうの会社の会計と何が違う?

――NPO法人の会計は、一般企業と同じなのでしょうか?

はい、NPO法人の会計も一般企業と同じく複式簿記で成り立っているという点で同じです。ただ、「寄付金、会費、事業費や管理費」といった独特な勘定科目もあるので、多少の慣れは必要ですね。

――あのー……基本的なことをお訊きしますが、“NPO法人は儲かっちゃダメ”というイメージがあるのですが。

勘違いされる方が多いのですが、NPO法人は儲かっても問題ありません。そもそも、どのような組織であっても、お金がないと継続できないですからね。株式会社のような営利企業と異なるのは、NPO法人のような非営利法人は「配当ができない」ことです。儲かったら配当せずに事業に使いましょう、ということです。

――NPO法人の方は、清貧かつ質素な生活を送らねばならないってルールはない…と。

ありません(笑)。ただ、NPO法人を立ち上げる方の多くは、自分の収入を増やすためにというよりは、「組織を回す資金や人材確保に充てたい」と考える傾向にありますね。個人的には、もっと自分の給料を上げたほうがいいのに、と思ってしまいますが。

決算書は、どれほどの正確性が求められる?

NPO法人には、事業年度が終了したら3か月以内に所轄庁に決算書を提出する義務があります。東京都であれば、都が所轄ですね。

――それをしないと、どうなります?

最終的には設立を取り消されてしまうので、絶対にしなくてはいけないんです。

――「ごめん!やり忘れちゃった…」って言い訳は通用しませんか?

言い訳の場は与えてくれますが、それでもやらない場合は設立取り消しもあり得ます。

――NPO法人の方って、もともと経理や会計に長けていらっしゃるわけではないですよね?忙しい合間を縫って、完璧な決算書を作れるものでしょうか。

残念ながら、けっこういい加減なままの決算書が平気で提出されてしまうこともあります。ひどい場合は、貸借対照表がアベコベで合ってないものすら提出されてしまうことも。

――なんと……。

NPO法人の代表が法人のお金を繰り返し立て替えたりして、ぐちゃぐちゃになってしまったりすることもあります。

――でも、不完全なままだと、所轄庁から「やり直し!」って突き返されてしまうのでは?

それが、昨今はNPO法人数が増えてきたことで所轄庁の作業量も膨大になり、ミスのある決算書がそのまま受理されてしまうことがあります。そういう意味では、NPO法人の会計はカオスな世界です。「会計砂漠」と表現してもいいかもしれません。

NPO法人の運営者って、どんな苦労をされている?

――手っ取り早い解決策としては、「経理担当を雇う」とか「税理士と顧問契約を結ぶ」なんでしょうね。

ええ。それができれば問題ありません。でも、彼らの事業の性格上、も――のすごく儲かるわけではなく、なかなか費用を捻出できないというジレンマもあるんですね。

――その結果、代表が慣れない会計業務を四苦八苦せざるを得ない…んですね。

NPO法人の代表は、経理業務よりも本業にフォーカスしたいので、どうしてもバックヤード業務をおざなりにしがちです。もちろん、代表の方々は頭脳明晰で学習能力が高い方ばかりですが、その能力を事業の発展のために注力したいんですよ。 

――当然そうですよね。

彼らは、地方自治体ではカバーしきれない課題や問題を解決する役目も担っています。新しいチャレンジをしていることも多く、そうなるとなおさら本業にリソースを割きたいと感じるでしょう。 

――なるほど。きっと仕事は“いくらでもある状態”でしょうね。

NPO法人を対象にした会計セミナーをおこなうこともあるんですが、なかなかそれだけでは完全な救いにならず、その場だけで終わってしまうんです。座学の限界には、私自身もモヤモヤしています。 

――「経理や決算書作成が大事なのはわかる。でも、動かす手も人材も確保できない」という状況は、セミナーだけでは変えられないですか。

厳しいです。そういった経緯で、NPO法人に特化して、直接サポートをしています。ただ、顧問先が15社を越えたあたりで私のキャパシティがオーバーしてきまして…(苦笑)。 

――一人で15社を見るって、尋常ではない気がします…。

土日も仕事で埋まることが頻発し、このままではまずいと痛感しています。 

NPO法人を立ち上げる方って、どんな人ですか?

たいてい、強烈な『原体験』を持っています。大病を克服したとか、なにかしらの困難を乗り越えて、同じ問題を抱える人たちに手を差し伸べたいという熱意にあふれています。 

――なるほど。貧困とか、恵まれない家族環境とかも原体験としてありそうですね。

そうですね。お客様の中にこんな方がいます。学生時代にフィリピンのスモーキーマウンテンと呼ばれる貧困地区で医療支援などの活動をしていた際、とある地区のホームステイ先の子どもに将来の夢を聞いたら、「お医者さんになって、同じように困ってる人を助けてあげたい」と言われたそうです。 

――彼はなんと答えたのでしょう。

「努力すれば叶う」とは思えなかったそうです。どうしたらこの状況から医者になれるか分からなかったし、その仕組を変えることもできない自分が悔しくてたまらなかった、と。 

――それは……内心、”きっと叶わない夢だ”って思ってしまったから、ですか。

ですね。正直な気持ちを隠し通して、「きっとなれるさ!」とは言えなかったのです。そのときの気持ちが原体験となって、理不尽な世界を変えるためにNPO法人を立ち上げたそうです。 

<参考記事>

スモーキーマウンテン出身者も輝ける世界を。理不尽から救うために、後悔しない人生。

――そういった体験も、原体験になるんですね。なんとなくのイメージですが、NPO法人の代表は「社会を良くしたい!」という並々ならぬ情熱を持っている気がします。

NPO法人の立ち上げには、「設立趣旨書」という文書を提出する決まりがあります。カンタンに言うと、なぜ法人化せねばならないか、なぜNPO法人でなくてはいけないのかを訴える文書です。

――いまある社会問題を指摘して、それを解決するために法人を作り、どんな活動を行うのか……を説明する文章のことですね?

そうです。書式はとくに決まっておらず、フリーハンドで自由に書けるのですが、ここに熱い想いをぎっしり詰め込む代表は多いですよ。

税理士は怖くない

たまにですが、NPO法人の方々から、「税理士=怖い人」だと勘違いされることがあります。

――「決算書がちゃんとしてないよ!ダメじゃないですかっ」と怒られそうな気がするからじゃないですか?

税務署ではないので、責めるようなこと言いませんよ(笑)。税理士は、あくまで経営のパートナーとして、お困りの方といっしょに解決策を探っていくために存在していますから。

――それを聞いて安心しました(笑)。

NPO法人の経理業務のたいへんさは身に染みてわかっているので、ここを「人に依存しない会計システム」にできないかって思っています。

――手前みそになりますが、freee が4月20日にリリースした『NPOキット』がそのお役に立てればと思いますね。

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取材協力

河村浩靖公認会計士税理士事務所 河村浩靖様(税理士・会計士)