健康保険とは何なのか、誰のためのどんなメリットがある制度かを解説

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会社勤めの方にとって、健康保険はその他の社会保険制度と比較して一番馴染みのある制度ではないでしょうか。例えば、カゼをひいて病院で診察や治療を受けたときには健康保険の給付を受けて一部の窓口負担金で治療を受けています。

このように身近な社会保険制度ですが、意外と知られていない側面があるのも実状です。今回はそのような健康保険について深く掘り下げて解説していきます。

  1. 健康保険とはどのような制度?
  2. 健康保険の適用事業
  3. 保険者と被保険者
  4. 健康保険の給付
  5. 健康保険のポイント
  6. まとめ
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1.健康保険とはどのような制度?

 健康保険は被用者保険とも呼ばれ、企業等に勤める方が加入する公的な医療保険制度です。病気やケガなどの不足の事態に備えるための制度で、病気やケガで治療を受けるときや、それにより働くことができなくなり休業した場合、出産、死亡などの事態が発生した場合に保険給付を受けることができます。

また、健康保険は加入している本人だけではなく、その加入者に扶養されている家族も被扶養者として保険給付を受けることができます。基本的には病気にかかったときやケガをしたとき、出産、死亡といった事態が発生すると収入が不安定になることが多いので、それを補うための保障が大きな役割となっています。

2.健康保険の適用事業

 健康保険では事業所ごとに保険が適用され、強制適用事業所と任意適用事業所が存在します。常時従業員を使用する法人の事業所若しくは常時5人以上の従業員が働いている製造業や土木建築業、金融保険業などの事務所および工場などは、事業主や従業員の意思に関係なく健康保険への加入が義務づけられています。

任意適用事業所とは、強制適用事業所とならない事業所で、日本年金機構の許可を受けて健康保険と厚生年金保険の適用となる事業所を指します。保険料や保険給付は任意適用事業所でも強制適用事業所と同様です。事業所を設立した場合や新規加入者の手続きなども保険適用となる事業所単位で行います。

3.保険者と被保険者

 保険には保険料の徴収や保険給付などの運営を行う保険者と、その保険に加入して必要な保険給付を受ける被保険者が存在します。健康保険では、保険者は政府管掌の「全国健康保険協会」と「健康保険組合」の二通りが存在し、健康保険法の下に運営が行われています。

・全国健康保険組合

 全国健康保険組合は中小企業向けの医療保険制度を運営する保険者で、協会けんぽの愛称で呼ばれることもあります。企業独自で健康保険組合を設立することが困難な中小企業の役員や社員が被保険者となり加入する健康保険で、その扶養家族も特定の条件を満たしていれば被扶養者として保険給付を受けることが可能です。

政府管掌のもとで運営を行い、保険加入者とその企業が折半して支払う保険料や国庫からの補助金が財源となっています。保険料を計算するための保険料率は企業の事業所がある都道府県ごとに異なり、近年は保険料率も上昇傾向にあります。

・健康保険組合

 健康保険組合は、主に大企業などが健康保険法に基づく国の認可を受けて設立する公法人です。健康保険組合には単独の企業で設立した健康保険組合だけではなく、同業種の複数企業で協力して設立した健康保険組合も存在します。その健康保険組合を設立した企業やそのグループ企業の役員や社員が被保険者となり加入し、その扶養家族も全国健康保険組合運営の健康保険と同様に特定の条件を満たすことで保険給付を受けることが可能です。

財源は保険加入者と企業が折半して支払う保険料で、保険料率は健康保険法の定める範囲内で健康保険組合ごとに任意に定めることができます。一般的に健康保険組合は全国健康保険組合よりも財源に余裕があり、健康保険法で定められた法定給付以外に健康保険組合独自の付加給付も行っています。

 健康保険では、健康保険の適用事業所に使用されている方で、適用除外に該当する方以外は全て被保険者となります。適用除外となるケースは船員保険の被保険者である場合や国民健康保険組合の事業所に使用されている方、後期高齢者医療の被保険者となる方など、健康保険とは別の医療保険制度に加入している場合が該当します。

4.健康保険の給付

 健康保険の給付には、健康保険法で定められた法定給付と健康保険組合が独自に行う付加給付があります。ここでは法定給付の主なものについて確認してみましょう。

付加給付については、加入されている健康保険組合でそれぞれ独自の給付を行っていますので、詳細は加入されている健康保険組合で確認してみてください。

①病気やケガをしたとき

・療養の給付
 健康保険の被保険者が労働災害等の業務以外の事由で病気になった場合やケガをしたときには、健康保険証を医療機関に提示することで健康保険により治療を受けることができます。また、被扶養者の方が業務外で病気になった場合やケガをしたときでも「家族療養費」として同様に健康保険を利用した治療を受けることができます。

療養の給付の範囲は診察や処置、手術その他の治療だけではなく、薬剤や治療のための医療品も対象です。皆さんもご存知のように、療養の給付では全ての医療費が保険給付で賄われるのではなく、被保険者の一部負担金が発生します。

この一部負担金は本人や扶養者の家族など区分がなく、年齢によってその負担割合が決められています。70歳未満は3割、小学校入学前までの児童と70歳以上は2割です。ただし、70歳以上の高齢受給者の方でも標準報酬月額が28万円以上の被保険者とその被扶養者は現役並みの所得者とみなされて3割負担になります。

・傷病手当金
 傷病手当金は、病気やケガで休業している期間の生活保障を行うために給付されます。ただし、業務上や通勤途上での病気やケガによる休業は労災保険の給付対象となるために傷病手当金の給付対象となりません。

この傷病手当金は、長期間病気やケガで就業できないときに最も頼りになる社会保険制度の一つです。今回は少し詳しく内容について確認してみましょう。

A.給付要件
 傷病手当金では、業務外の病気やケガの療養のために仕事に就くことができず、休業していることが給付要件の一つとなります。ここでの療養には自宅療養も含まれますが、療養担当者である医師等の判断で仕事に就けないことを証明しなければなりません。

一般的には療養担当の医師から診断書等を発行してもらい、その診断書をもって就業できないことを証明するという流れです。被保険者の仕事の内容なども含めて総合的に就業不能の判断は行われます。

もう一つの給付要件は、療養のために4日以上続けて休んでいて、対象となる休業期間の給料をもらっていないことです。傷病手当金の給付には待期期間があり、病気やケガの療養のために休んだ日からその日を含めて連続した3日間が待期期間となり、4日目以降の就業できなかった日数に対して支給されます。

この待期期間では給料をもらっていたかどうかは関係なく、有給休暇や公休日も含まれるため、実務上は最初の待期期間3日間を有給休暇扱いとし、残りの休業日を欠勤として傷病手当金を受けられるように処理することが一般的です。この待期期間は連続した休業日の3日間となるので、間に1日でも出勤すると待期期間が成立しなくなるので注意が必要です。また、待期期間後の休業期間に給与が発生しているときでも、その給与の額が傷病手当金の金額よりも少ない場合はその差額が支給されます。

B.給付期間と金額
 傷病手当金は、支給が開始された日から最長で1年6か月給付を受けることが可能です。この1年6か月の間に同じ病気やケガが原因で休業することとなった場合でも、途中で仕事に復帰した期間があったとしてもその後の休業期間は1年6か月に達するまで給付を受けることができます。

また、法定給付では上記1年6か月が最長の期間となりますが、健康保険組合では独自の付加給付として傷病手当金の給付期間を延長しているところもあります。

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出典:全国健康保険協会ホームページ

 傷病手当金の1日あたりの給付額は以下の算式で計算されます。

「支給開始月以前の直近12か月間の標準報酬月額平均額」÷30×2/3

 標準報酬月額とは労働の対価として受ける賃金や各種手当などの全てを含んだ金額です。支給開始日以前の被保険者期間が12か月に満たない場合は、支給開始月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均額と、当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した金額(全国健康保険協会の平成27年度は28万円)を比較して低いほうの金額が標準報酬月額となります。

・高額療養費
 高額療養費とは、同一の月の1日から月末までにかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額を超える金額が後から払い戻される制度です。自己負担限度額は年齢や所得の状況に応じて定められていて、70歳未満の方と70歳以上75歳未満の方のそれぞれの所得に応じた限度額は下表の通りです。なお、下記の自己負担限度額は平成27年1月1日より見直しが行われ、見直し後の金額となっています。平成26年12月31日までの受診分については見直し前の限度額が適用されます。

70歳未満
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70歳以上75歳未満
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出典:全国健康保険協会ホームページ

 高額療養費では窓口支払額から上記の自己負担限度額を差し引いた金額が払い戻されますが、医療機関から診療報酬明細書(レセプト)の請求を受けてから処理が行われるため、通常は数か月程度の時間がかかります。また、上記の自己負担限度額は健康保険の法定給付部分です。傷病手当金等と同様に独自の付加給付を行っている健康保険組合の被保険者は自己負担限度額が更に少なくなることもあります。

・療養費
 療養費は、やむを得ない事情等で、保険医療機関で保険診療を受けることができなかった場合に、自費で支払った療養費について支給が行われる制度です。あまり発生することはありませんが、稀に被保険者が入社したばかりの時期で手続きが完了する前(被保険者証が未交付のとき)に病気やケガになるとこの制度を利用することがあります。

 海外旅行中や海外赴任中に、急な病気やケガが原因で現地の医療機関を受診した場合には「海外療養費」を申請することで、一部医療費の払い戻しを受けることもできます。

・保険外併用療養費
 健康保険では、保険が適用されない保険外診療があると保険が適用される診療も含めて全額自己負担となります。しかし、保険外診療を受ける場合でも厚生労働大臣の定める一部の療養では保険診療との併用が認められていて、保険診療の部分は療養の給付と同様に保険外併用療養費として給付が行われます。具体的には、がん治療の際の先進医療や歯科医での治療の一部がこれに該当します。

・訪問看護療養費

 自宅などで療養している被保険者が、主治医の指示に基づいて訪問看護ステーションの看護師から療養のために必要な訪問看護や介護サービスを受けたときに、その7割の金額が訪問看護療養費として給付されます。ただし、介護保険からも給付を受けることができる被保険者は原則として介護保険の給付が優先されます。

・移送費
 病気やケガで移動が困難な被保険者が医師の指示で一時的かつ緊急を要して移送された場合にはその移送費が現金給付で支給されます。

②出産したとき

・出産育児一時金
 出産育児一時金は、被保険者が正常な出産をした場合に1児につき42万円が支給される制度です。正常な出産は保健医療として扱われないためにその費用を補助する目的で現金給付が行われますが、出産費用の窓口負担は大きくなる傾向にあるため、「直接支払制度」などの窓口負担を軽減できる制度も利用できます。また、被扶養者が出産した場合でも「家族出産育児一時金」として同様の給付を受けることが可能です。

・出産手当金
 女性の被保険者が出産のために会社を休み、給与をもらえない場合の生活保障として出産手当金は支給されます。出産手当金は、出産の日(実際の出産が予定日後の場合は出産予定日)以前42日目から出産の日の翌日以後56日目までの期間で会社を休んだ期間について支給されます。支給される1日あたりの金額は傷病手当金と同様に以下の算式で求めます。

「支給開始月以前の直近12か月間の標準報酬月額平均額」÷30×2/3

③死亡したとき

・埋葬料
 埋葬料は、被保険者が死亡した場合に埋葬を行った家族に5万円が給付される制度です。被扶養者が死亡した場合も同様に5万円が被保険者に「家族埋葬料」として給付されます。死亡した被保険者に家族がいない場合は、実際に埋葬を行った方に5万円の範囲内で埋葬に要した実費が「埋葬費」として支給されます。

5.健康保険のポイント

 健康保険では知っていると退職後に医療保険の保険料を安くできる制度や、医療費が高額になる場合に窓口での支払を一定額までに抑える方法が存在しています。ここでは健康保険の任意継続と限度額適用認定証について説明していきます。

・任意継続

 企業を退職した方でも2年間は任意継続被保険者として、健康保険に加入することが可能です。健康保険の被保険者には退職後、健康保険の任意継続、国民健康保険への加入、家族の健康保険に被扶養者として加入するという3つの選択肢があります。どれを選択するかは基本的に保険料の安さで判断することになりますが、ある程度の所得がある方は健康保険を任意継続すると保険料が安くなる傾向にあります。勤務先の人事部の方などに確認し、国民健康保険と比較して任意継続の判断を行うようにしてください。

・限度額適用認定証

 医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の自己負担限度額を超えた部分が後日に払い戻される高額療養費の制度は既に解説しました。しかし、後日払い戻されるまでは一時的に被保険者負担額を立て替えて支払わなければなりませんが、入院や手術などの際は被保険者負担割合の支払いだけでも高額になるケースが多々あります。そのような場合には、「限度額適用認定証」を保険証と併せて提示することで一か月の窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることが可能です。

さらに、その後の高額療養費の申請も基本的には不要となりますので非常に便利な制度です。限度額適用認定証は事前に加入しているけんぽ協会や健康保険組合に申請すると、所得区分に応じた「限度額適用認定証」の交付を受けることができます。

70歳以上の方は「高齢受給者証」により窓口負担が軽減されますので、別途申請する必要はありません。ただし、保険医療機関でも入院や外来などの診療項目はそれぞれ分けて取り扱いますので、限度額適用認定証を利用した支払いの詳細は事前に医療機関の窓口でも確認しておくと余計な手間がかかることも少なくなります。

6.まとめ

健康保険はよく知られている身近な制度ですが、詳細までご存知の方が少ないのも実情です。特に、傷病手当金などはライフプランニングをする上でも重要な項目となり、給付額を把握しておくことで民間保険会社の医療保険の保険料を抑えることも可能になります。

しかし、そこまで理解したうえで医療保険の選択をしている方はいまだに少ないように見受けられます。これを契機に関心をもって、健康保険について理解を深めてください。

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社会保険についてもっと詳しく知るには

社会保険の手続は複雑で難しいですが、本ガイドは「そもそも社会保険とは?」という基本から、社会保険に加入すべき事業所や加入する際の手続きを、前提知識が無くても分かるように解説しました。 さらに、社会保険の 3 大イベントのうち、「定時決定」と「労働保険の年度更新」という 2 つもこのガイドで解説しています。

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目次

  1. そもそも社会保険とは
  2. 健康保険・厚生年金保険とは
  3. 健康保険・厚生年金保険の加入手続き
  4. 標準報酬月額の見直し(算定基礎届けの提出)
  5. 賞与を支給した場合の手続き
  6. 年齢に応じて発生する社会保険の手続
  7. 労災保険・雇用保険とは
  8. 労災保険・雇用保険の加入の手続き
  9. 労働保険の年度更新
  10. 年齢に応じて発生する労働保険の手続き
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