厚生年金保険とは何なのか、誰のためのどんなメリットがある制度かを解説

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給与明細では、厚生年金保険料との名目で毎月保険料が控除されています。これは、決して少ない金額ではありませんが、この保険料を誰がどのような目的で使っているかを詳しくご存知の方はどの位いらっしゃるでしょうか?昔から言われていることですが、「日本の年金制度は複雑で分かりづらい!」これは今も多くの方が持たれている公的年金に対するイメージです。今回はそのような社会保険制度である厚生年金保険をピックアップして詳しく解説していきます。

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1.厚生年金保険とはどのような制度?

 厚生年金保険をはじめとする公的年金制度は、年を重ねるごとに収入が減っていくリスクに備えることを目的の一つとしています。近年、少子高齢化が進む中では、高齢者が自立した老後の生活を送るために必要不可欠な社会保険制度です。

その他にも、病気やケガで障害が残ったときの保険給付や被保険者が亡くなった場合の遺族に対する給付などを行う役割を担っています。そのような公的年金制度の中で、厚生年金保険は主に企業に勤める会社員や公務員の方などが加入する保険です。大きな特徴の一つとして、下図の2階部分と呼ばれる厚生年金保険の報酬比例部分の給付を基礎年金に上乗せして受け取れることが挙げられます。
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出典:厚生労働省ホームページ

2.厚生年金保険の適用事業と被保険者

 厚生年金保険は、健康保険と同様に法人などの事業所単位で適用されます。原則として、法人の事業所は一人でも従業員がいる場合は強制適用事業所です。個人事業の事業所でも常時5人以上の従業員が働いている製造業や運送業、金融保険業などの事業は強制適用事業所となり、厚生年金保険に加入しなければなりません。

一方で、個人事業の従業員が5人未満の事業所や農林水産業などの一部の業種を営む事業所は強制適用事業所ではありませんが、従業員の半数以上の同意をもとに事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることで適用事業所となることが可能です。これを任意適用事業所と言います。

 厚生年金保険では、適用事業所に常時使用されている70歳未満の方は国籍などに関わらず厚生年金保険の被保険者となります。また、正社員としての雇用形態だけでなく、パートタイマー等でも労働日数や労働時間から一般社員のように常時使用関係にあると認められる場合は厚生年金保険の被保険者となります。ただし、日々雇い入れられる方や2か月以内の期間を定めて使用される方は被保険者とはなりません。

 厚生年金保険は政府が管掌し、厚生労働大臣がその管理責任を担っています。実際の運営事務は日本年金機構が運営する年金事務所で執り行っています。

3.厚生年金保険の保険料

 厚生年金保険の保険料は、事業主と被保険者で半額ずつ負担して納付します。事業主は毎月の給与や賞与から被保険者分の保険料を差し引いて、事業主負担の保険料と併せて翌月末までに年金事務所に納めます。また、納める保険料は年金事務所から毎月適用事業所に送られてくる「保険料納入告知額通知書」等で確認することができ、口座振替や金融機関の窓口で納付することが可能です。

 厚生年金保険では、被保険者が受取る給与を下表のように月額で区分した標準報酬月額を用いて年金額の計算を行います。
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出典:日本年金機構

例えば、厚生年金基金に加入していない一般の被保険者の保険料を計算してみます。上記の表より、賞与がない報酬月額が25万円の方は、報酬月額25万円以上27万円未満の等級16に該当します。その方の標準報酬月額は26万円となるので、保険料は260,000円×17.828%=46,352.80円で、被保険者の負担分はその半額の23,176.40円です。

この標準報酬月額は、基本給や役付手当などの手当を含めた現金または現物で支給されるものを含めた報酬を指しますが、毎月支給額に合わせて変動するわけではありません。基本的には、毎年4月、5月、6月に受けた報酬の総額をその期間の総月数で除した数字が報酬月額となり、それに基づいて同年9月~翌年8月までの保険料を納める「定時決定」という方法で標準報酬月額は決定します。この方法では、4月~6月が繁忙期で残業等が多い方は標準報酬月額が高くなり、保険料も高くなるデメリットもありますが、報酬比例部分の将来年金受給額が増えるというメリットもあります。

実際には、事業主が保険料を折半してくれるので、一時的な負担は多少大きくなっても得した気分になるものです。また、固定的な賃金に著しく大きな変動がある場合は「随時改定」と呼ばれる標準報酬月額の見直しが行われることもあります。

4.厚生年金保険の保険給付

 厚生年金保険では、①老齢年金、②障害年金、③遺族年金の給付を受けることができます。それでは、それぞれの保険給付について受給要件や給付内容を確認してみましょう。

①老齢年金

 厚生年金保険の適用事業所で従事している被保険者の方は、65歳以上で老齢年金を受給できる方を除いて自動的に国民年金にも加入しています。厚生年金保険の加入者は国民年金の第2号被保険者に該当し、国民年金の保険給付である「老齢基礎年金」に加えて2階部分と呼ばれる「老齢厚生年金」も上乗せして受給することが可能です。

A.老齢基礎年金
 老齢基礎年金は国民年金や厚生年金などの公的年金に加入していた保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が25年以上ある方が受給可能です。支給開始は原則として65歳からですが、60歳から65歳までの間で減額された年金で受給する繰上げ受給や、66歳から70歳までの希望する支給開始年齢から増額された年金の繰下げ受給を選択することもできます。老齢基礎年金は40年間保険料を全額納付した方で満額の780,100円(年額)受給することができますが、保険料免除期間などがあった場合にはその期間に応じて減額されます。

B.老齢厚生年金
 老齢厚生年金の受給要件は、老齢基礎年金の受給に必要な公的年金の資格期間25年を満たしていることと、厚生年金保険の被保険者であった期間が1か月以上あることです。老齢厚生年金の受給額は、平均標準報酬月額によって決まる報酬比例部分と、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある方が65歳以上になった時点で一定条件の配偶者や子などの被扶養者がいる場合に支給される加給年金額、経過的加算の合計額となり、受給者毎に異なります。

また、昭和60年の法律改正により厚生年金保険の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられました。世代間の格差を少なくするために「特別支給の老齢厚生年金」が設けられ以下に該当する方は特別支給の老齢厚生年金を受給することができます。

・男性の場合、昭和36年4月1日以前に生まれたこと。
・女性の場合、昭和41年4月1日以前に生まれたこと。
・老齢基礎年金の受給資格期間(原則として25年)があること。
・厚生年金保険等に1年以上加入していたこと。
・60歳以上であること。

 また、受給要件を満たしていれば在職中であっても老齢厚生年金の受給を受けることは可能ですが、給料と年金の合計額に応じて年金の支給が停止されることもあります。

②障害年金

 障害年金は病気やケガにより後遺障害が残り、生活や仕事の上で制限される状態になった場合に受給できます。国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金保険に加入していた場合は「障害厚生年金」が受給可能です。また、障害厚生年金の支給対象とならないような軽い障害が残ったときは「障害手当金」を受取れる制度もあります。

A.障害基礎年金
 障害基礎年金は、以下の全ての受給要件を満たす方が受給することができます。

・障害の原因となった病気やケガの初診日が国民年金加入期間、もしくは、20歳前または日本国内に住んでいて60歳以上65歳未満で公的年金制度に加入していない期間であること。
・障害の状態が障害認定日または20歳に達したときに障害等級表に定める1級から2級に該当していること。
・下記(1)または(2)の保険料納付要件をいずれか満たしていること。
 (1)初診日の属する月の前々月までの厚生年金保険の被保険者期間を含めた国民年金の保険料納付期間と保険料免除期間を合わせた期間が加入期間の3分の2以上あること。
 (2)初診日現在65歳未満で、初診日の属する月の前々月までの1年間で保険料の未納がないこと。

 障害基礎年金では、1級で975,125円、2級で780,100円の給付を受けることができます。18歳到達の年度末3月31日まで経過していない子がいる場合には、第1子、第2子はそれぞれ224,500円、第3子以降はそれぞれ74,800円の子の加算と合わせて受給できます。

B.障害厚生年金
 障害厚生年金の受給要件を満たすためには以下の全ての要件に該当しなければなりません。
・厚生年金保険の被保険者である期間に障害の原因となった病気やケガの初診日があること。
・障害の状態が障害認定日に障害等級表に定める1級から3級に該当していること。
・下記(1)または(2)の保険料納付要件をいずれか満たしていること。
 (1)初診日の属する月の前々月までの公的年金加入期間の3分の2以上の期間で保険料が納付または免除されていること。
 (2)初診日現在65歳未満で、初診日の属する月の前々月までの1年間で保険料の未納がないこと。

 障害厚生年金では、1級、2級に該当する場合は障害基礎年金も併せて受給することが可能です。受給額は平均標準報酬月額等や加入月数に応じて決まり、1級または2級に該当する場合は老齢厚生年金と同様に、対象となる配偶者がいる場合には加給年金も受け取ることができます。ちなみに、3級では障害厚生年金のみの受給となります。

C.障害手当金
  障害手当金は、障害厚生年金に該当する障害の状態よりも軽い障害が残った時に一時金として障害手当金を受け取ることができる制度です。障害手当金の受給要件は以下の通りです。
・厚生年金の被保険者である期間に障害の原因となった病気やケガの初診日があること。
・障害の状態が以下の(1)~(3)の全ての条件に当てはまること。
 (1)初診日から5年以内に治っている、または症状が固定されていること。
 (2)治った日に障害厚生年金を受け取ることができる状態よりも軽くなっていること。
 (3)障害等級表に定める障害の状態であること
・障害厚生年金と同様の保険料納付要件を満たしていること。

 障害手当金の受給額も、平均標準報酬月額等を利用して計算され、その金額が1,170,200円に満たない場合は1,170,200円が支給されます。

③遺族年金

 遺族年金は、一家の大黒柱となる働き手の方や年金受給者の方が亡くなられた場合に、その家族の方に給付される年金です。遺族年金も老齢年金や障害年金と同様に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の給付が行われ、状況によっては両方の給付を受けることも可能です。

A.遺族基礎年金
 遺族基礎年金では、以下の要件に当てはまる方が亡くなった場合に、その死亡した方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子(注)」が受給することができます。
※(注)死亡当時に0歳~18歳になった年度の3月31日を経過していない、婚姻していない子を指します。また、20歳未満の障害等級1級または2級に該当する障害状態の子も該当します。

・国民年金の被保険者期間である方
・国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で日本国内に住所地があった方。
・老齢基礎年金の受給資格があった方。
・老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていた方。

 障害基礎年金と同様に保険料の納付についても要件があり、死亡した日の属する月の前々月までの被保険者期間に国民年金の保険料納付済期間または免除期間および厚生年金保険の被保険者期間の合計が3分の2以上あることが必要です。なお、平成38年3月31日までに死亡した場合、死亡した方が65歳未満であれば死亡した日の属する月の前々月までの直近1年間に未納保険料がなければ保険料納付の要件を満たすこととなっています。

 遺族基礎年金の受給額は年額780,100円で、子の加算額を子のある配偶者が受給する場合は2人目までがそれぞれ224,500円、3人目以降がそれぞれ74,800円です。子が受給する場合には、780,100円に2人目以降の子の加算額を加えて子の人数で割った金額が、子1人あたりに支給される金額となります。

B.遺族厚生年金
 遺族厚生年金では、厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が以下のいずれかの要件に該当して亡くなると、その亡くなった方によって生計を維持されていた遺族の方が遺族厚生年金を受給することができます。

・厚生年金保険の被保険者期間である期間に死亡したとき。
・厚生年金保険の被保険者期間に初診日がある病気やケガが原因となって、初診日から5年以内に死亡したとき。
・1級または2級の障害厚生年金を受給していた方が死亡したとき。
・老齢厚生年金の受給資格を有する方、または老齢厚生年金を受給するために必要な加入期間の条件を満たしている方が死亡したとき。

 また、遺族厚生年金では、被保険者が死亡したときに死亡した方によって生計を維持されていた方のうち最も優先順位の高い方が給付を受けることとなっています。その給付を受ける遺族の優先順位により受給する遺族年金の種類が変わり、子のある妻や子のある55歳以上の夫、子が受給する場合には遺族厚生年金と遺族基礎年金が併給されるシステムです。遺族厚生年金の受給額は障害厚生年金などと同様に、平均標準報酬月額等や加入期間により受給額が決定します。

以上のように、厚生年金保険の給付を確認してみると国民年金よりも受給額が増えるケースが多くなりますが、逆に寡婦年金や死亡一時金といった国民年金の第1号被保険者だけを対象にした国民年金独自の保険給付も存在しています。

5.厚生年金保険のポイント

 今回は、厚生年金保険のポイントとして老齢基礎年金の繰上げ受給、繰下げ受給について取り上げます。

・老齢基礎年金の繰上げ受給

老齢基礎年金の繰上げ受給とは、年金の受給資格が発生する65歳よりも前に繰上げて年金の受給を開始することです。60歳から1か月単位で繰上げ受給の選択は可能となりますが、受け取る金額が65歳から1か月繰上げるごとに0,5%減額されます。

つまり、63歳ちょうどで受給開始した場合には0,5%×24か月=12%の減額支給となります。受給額が少なくなっても、65歳まで生きている保証はないから早く年金を受け取りたい、という考え方もあるかもしれませんが、長生きすることにより将来的に受け取る年金総額が少なくなるリスクを負うことにも注意が必要です。

また、遺族厚生年金が支給されるような場合には、65歳まで老齢基礎年金と遺族厚生年金の併給ができなくなり、障害基礎年金を受け取ることもできなくなるため、繰上げ受給は十分に検討のうえで決断するようにしてください。ちなみに、一度繰上げ受給を申請すると取り消すことはできません。

・老齢基礎年金の繰下げ受給

 老齢基礎年金の繰下げ受給とは、繰上げ受給とは正反対で年金の受給資格が発生する65歳よりも後に繰下げて年金の受給開始を申請することです。繰下げ受給では70歳まで受給開始年齢を繰下げることが可能で、1か月繰下げるごとに年金受給額が0,7%増額されます。

つまり、67歳から年金受給を開始すると、0,7%×24か月=16,8%の増額支給です。しかし、年金受給開始前に死亡することや、繰下げ受給開始後に一定期間年金を受け取らなければ通常の65歳からの受給よりも受け取り総額が少なくなるリスクがあるので注意が必要です。ただし、繰上げ受給のように他の年金制度との問題は発生しませんので、再雇用等である程度の収入が確保できる方にとっては、高利回りの資産運用のようなものとして検討されるのも面白いかもしれませんね。

6.まとめ

 厚生年金保険について説明してきましたがいかがでしょうか。年金制度が分かりにくい理由として、公的年金制度ごとの給付などが問題の一つであることは間違いありません。今後の維持運営がどれだけ続くか不透明な公的年金制度ではありますが、これを機に厚生年金保険についてできる限り理解を深め、ご自身の有利な将来設計の一助として役立てていただけたら幸いです。

*経営ハッカーでは書き手を募集しています。

社会保険についてもっと詳しく知るには

社会保険の手続は複雑で難しいですが、本ガイドは「そもそも社会保険とは?」という基本から、社会保険に加入すべき事業所や加入する際の手続きを、前提知識が無くても分かるように解説しました。 さらに、社会保険の 3 大イベントのうち、「定時決定」と「労働保険の年度更新」という 2 つもこのガイドで解説しています。

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目次

  1. そもそも社会保険とは
  2. 健康保険・厚生年金保険とは
  3. 健康保険・厚生年金保険の加入手続き
  4. 標準報酬月額の見直し(算定基礎届けの提出)
  5. 賞与を支給した場合の手続き
  6. 年齢に応じて発生する社会保険の手続
  7. 労災保険・雇用保険とは
  8. 労災保険・雇用保険の加入の手続き
  9. 労働保険の年度更新
  10. 年齢に応じて発生する労働保険の手続き
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