パソコンの使い過ぎで労災?!ピンとこない理由での労災申請に会社はどう対応すべきか

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長時間のパソコン仕事で腱鞘炎?「それって本当に労災なの?」と言いたくなるような相談を受けたとき、会社はどう対応すべきかを考えてみましょう。

例えば、 「仕事で一日中パソコン作業に従事していて、手や肩に痺れが生じた」 「毎日パソコンと向かい合っていたら、目が疲れて痛みを感じるようになった」 といった事例について、皆さんはこれらが労災に該当するものと思われるでしょうか?

 最近では、比較的どんな職種に携わる人であっても仕事でパソコンを使うようになり、コンピュータ入力による手指の痛みや肩こり、画面を注視し続けることによる目の疲れといった“パソコン作業特有の症状”は誰にでも起こり得るものとなりつつあります。

しかしながら、こうした症状がどのような状況下で、どの程度進んだときに労災として認められるかについて、その判断は難しいでしょう。個人的にパソコンやスマートフォンを使用していることで、症状が進んだ可能性だってあります。一方的に「労災だ」と言われても、会社側としてはなかなか腑に落ちない部分があると思います。

コンピュータ作業と労災の論争は、昔からあった

パソコンを用いた仕事による労災問題というと、感覚的にはごく最近増えてきた事例のように思えます。ですが、実は同様の争いは昔から起こっていて、すでに昭和39年時点には労働災害防止部会により、問題の発生を最小限にとどめることを目標として作業条件・環境等に関する報告がまとめられています。

参照: キーパンチャーの作業管理について

このとき、当時のキーパンチャーに多く生じた腱鞘炎や頸肩腕障害については、労災として認定されるためのルールが整備され、労働の状況や具体的な症状の程度により労災となり得ることが明らかにされたのです。

労災かどうかの判断をするのは、あくまで労働基準監督署

パソコン作業に起因する腱鞘炎等の症状については、現在では、「上肢作業に基づく疾病」として、労災認定されるための要件がまとめられています。

参考:上肢障害の労災認定

ここでは、パソコンを用いた仕事以外にも、調理業や塗装・溶接業、保育・看護・介護業等についても「上肢等に過度に負担のかかる業務」としており、こうした仕事による「高等部や頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手及び指に発生した運動器の障害」が労災認定のための障害の定義とされています。また、業務量や従事期間についても具体的に基準が定められています。

このように、労災認定の要件は文章で書くとすごく堅苦しく、分かりづらいのですが、つまりは「実際の症状と働き方を照らし合わせながら、労災かどうかを一定の基準で細かく見ていきますよ」といった趣旨に他なりません。もちろん、専門家を交えながら、日常生活や加齢によって生じる障害とは区別して検討されることになります。

ここで重要なのは、「労働者からの申出を受け、それを労災かどうか判断するのはあくまで労働基準監督署である」ということです。

会社は、「そもそも、そこまで仕事をしていないじゃないか」とか「その程度の症状は誰でも我慢している」とか「君はプライベートでもよくスマホを使っているから、それが原因なんじゃないか」等と勝手に判断することは出来ません。もちろん、「どうせ労災とは認められないだろうから」と、労災申請をさせないのは論外です。

会社は一方的に突っぱねるのではなく、労災申請に協力を

 それでは、会社は従業員から労災申請の求めを受けたら、どう対処するべきなのでしょうか?この場合、申請に対し否定的な態度をとるのは、後々のトラブルのもとになるため厳禁です。

会社としての具体的な対応としては、

○適切な情報提供を行う

「上肢障害の労災認定」のための具体的な要件と、最終的な労災認定は労働基準監督署が行うことになる旨を説明しましょう

○今後の仕事への配慮

「症状が強く、これまで通り働けない」といったケースについては、産業医等の専門家を交えて話し合いを設け、従事可能な範囲で勤務する、休職を認める等、適切な対応を検討するようにしましょう 従業員への配慮については、症状が出ている以上、労災申請をする、しないに関わらず、前向きに取り組むべきです

○労働環境の見直し

一人でも労災の可能性を訴えている人がいるということは、他にも業務に負担を感じている従業員がいる可能性があります 今一度、個々の業務分担や業務量、職場において過重労働が当たり前となっていないかを見直してみるべきです

○申請については協力する姿勢をみせる

いざ申請をする段階になれば、実際の勤務状況に関する情報提供や事業主証明等、会社として出来ることにはしっかり対応する旨を伝えましょう

労災申請を検討しているということは、従業員は「仕事のせいで辛い症状に悩まされることになった」と考えているということです。また、実際に症状が出ているということは、多少なりとも業務上の障害である可能性があるわけですから、まずは極力従業員の気持ちに寄り添った上で、会社の責任として適切な助言や支援をしていく必要があります。

極めて少ない、パソコン業務に伴う労災認定事例

ところで、実際にパソコン作業に起因する労災認定はどの程度されているものなのでしょうか?ここでは、「事務職員の腱鞘炎発症」の事例をご紹介することにいたしましょう。

【背景】 Aさんは入社後2年間、パソコンで顧客情報などを入力する 作業に従事していた。肘から指先にかけてしびれと痛みを感じ、医療機関を受診したところ「腱鞘炎」と診断された。

【判断】 発症直前の3ヵ月間、 Aさんと同じ作業を行う同僚の 1時間の平均入力件数が約80件だったのに対し、Aさんの入力件数は1時間約100件だった。Aさんの業務量は同種の労働者と比較しておおむね10%以上多かったため、過重な業務に就労していたとして労災認定された。

 しかしながら、実際のところ、上肢障害による労災認定は、建築や看護・介護といった職種に比較的多く認められている一方、パソコン作業に起因するケースが認定されることは稀であると言われています。その理由として、第一に「仕事との因果関係を証明することが困難である」ことが挙げられるからです。

とはいえ、労災認定をする、しないについては労働基準監督署の判断となります。会社は、「こういった例では労災と認められないらしい」等、申請の行方にとやかく口をはさむのではなく、あくまで協力的なスタンスを貫くのが得策であると言えます。

まとめ

 今や誰でもパソコンを使う時代ですから、「パソコンの使い過ぎで手が痛いです、これは労災です」等と言われたとしても、ピンとこなくて当然かもしれません。

しかしながら、それを労災かどうか判断するのは会社ではありません。くれぐれも余計な口出しで従業員の気持ちを逆なでしたり、傷つけたりすることのないようにしましょう。

もちろん、労災事故が出てしまうことは、会社にとってあまり良いことではありません。ですが、労災申請についてはしっかりと協力する姿勢を示すこと、加えて、社内の労働環境を見直すことで、今後の労務トラブル発生の回避につなげていくことができます。万が一、従業員から申出があった場合にも、前向きに捉え、積極的に改善に努めましょう。

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