財産が親から子等に移るだけなのに、なぜ税金がかかるのか? 相続税の代表的な2つの機能とは

フリーライターの小林義崇です。
ライターとなるまで、約13年間を東京国税局の職員として勤務し、主に”相続税”に関わる仕事をしてきました。

第1回目となる今回の記事では、相続税がどういう仕組みなのか、そもそも、なぜ課されるのか?といった点について、お伝えします。実はここ数年で、相続税の制度は大きく変わっており、私たちにとってより”身近な”税金になりつつあるのです。

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相続税とはそもそもどんな税金?

相続税とは、その名のとおり、相続が発生したときに課せられる国税です。
たとえば、ご両親がお亡くなりになる、あるいは遺言によって相続財産を受け取った場合に、遺産総額の多寡に応じて相続税がかかることになります。

ただし、相続があったからといって、必ずしも申告や納税が必要となるわけではありません。その理由は、相続税には「基礎控除額」というものがあるからです。

相続税の制度では、亡くなった人のことを「被相続人」と言いますが、課税価格(遺産総額から借金や葬式費用を引いたもの)が、この基礎控除額を上回らない限りは、原則として申告の必要はありません。

基礎控除額は、以下の算式で求められます。

↓ ↓ ↓ ↓ ↓
「基礎控除額」=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

ここでいう、「法定相続人の人数」とは、基本的には、以下の手順で数えられます。

・配偶者(夫または妻)は常に法定相続人
・子がいれば、子が法定相続人(養子は最大2名まで法定相続人に加算)
・親よりも子が亡くなっていれば、孫が法定相続人
・子がいなければ、父母が法定相続人
・子も父母もいなければ、兄弟姉妹が法定相続人

 

ですから、たとえば被相続人が亡くなったときに、配偶者と子2人が残されたとすると、法定相続人は3人になりますよね。そうすると、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)と計算し、4,800万円となります。つまり、少なくとも4,800万円以上の財産を遺していなければ、相続税はかからないということですね。

いかがでしょう。基礎控除額の計算をしてみて、「うちは絶対に相続税はかからない」と言い切れるでしょうか。都内に不動産を持っている方や、多めに退職金をもらった方だと、すぐに基礎控除額を超えてしまいそうです。

この基礎控除額を超えると、発生するのが、申告や納税の義務。申告と納税の期限は同じで、相続開始日(被相続人が亡くなった日)から10ヶ月以内です。期限までに遺産の確認をし、分割協議を終え、相続税の申告と納税を終わらせないとならないわけですから、時間的にも金銭的にも大きな負担となります。

相続税の税率は、現在、以下の表のとおり、財産の価額に応じて、10%から55%までとなっています。このように税金としては、決して軽いものではない相続税ですが、実は平成27年以降、申告や納税が必要となる人が急速に増えているのです。

<国税庁ホームページより引用>

相続税のかかる人が増えている理由とは

さきほど説明した基礎控除額ですが、実は平成26年までに相続が発生した人は、今よりもっと基礎控除額が手厚いものでした。税制改正によって以下の通り平成27年以降に相続が発生した人は、基礎控除額が減ってしまったのです。

<平成26年以前相続発生>
5,000万円+1,000万円×法定相続人の数

<平成27年以降相続発生>
3,000万円+600万円×法定相続人の数

さきほど例に挙げた、配偶者と子2人のケースを、平成26年以前に相続が発生したとして再計算すると、(5,000万円+1,000万円×2人)=7,000万円となります。

同じ家族構成でも、平成26年までに相続が発生すると7,000万円のところ、平成27年以降になると4,800万円ですから、ずいぶんと基礎控除額が下がったことがわかると思います。

事実、この税制改正の影響によって、相続税がかかる人は倍増したのです。
財務省の統計によると、平成26年に亡くなった方のうち、4.4%の方の相続財産に課税されていました。ところが、平成27年には、この割合が8.0%まで上昇したのです。

所得税や消費税と比べると、多くの方にとっては縁のない税金かもしれませんが、相続税が”自分ごと”になる可能性は、確実に増えているのです。

相続税がなくならない2つの理由

そもそも、相続税はなぜ必要なのでしょうか?
普段、私たちの収入に対しては所得税がかかっていますし、商品やサービスを購入するときには消費税がかかっています。会社であれば法人税を負担していますね。その上さらに相続税まで必要なのか……と思われるかもしれません。

そうした疑問に対して、参考となる資料があります。それが、税務大学校が発刊している「税大講本」です。この税代講本は、新人の国税職員が研修で税法について学ぶ際に使われているもので、ホームページ上に公開されています

この税大講本(相続税)に、このような記載があります。

「財産が親から子等に移るだけなのに、なぜ税金がかかるのか、これにはいろいろな考え方があるが、相続税の持つ機能として代表的なものは、次のとおりである。」

そして、相続税の機能として紹介されているのが、次の2点でした。

1 所得税の補完機能
2 富の集中抑機能

この2つの機能は、それぞれ関連し合っています。
所得税は、その時々の政策によって、特例があったりして、課税されないケースもありますから、そのまま放置しておくと、特定の家系に富が集中してしまうことになるのです。

たとえば、八百屋さんを優遇する所得税の規定があったとすると、優遇された所得税の分、八百屋さんの家系がどんどん豊かになっていくわけです。すると、格差がどんどん広がってしまう。こういった問題を、相続税でカバーして、富の集中を抑制するということですね。

ちなみに、私は過去に相続税の調査もしていましたが、職場の先輩から、「相続税は最後の砦」と言われたことがあります。これはつまり、過去にきちんと税金を納めてこなかった(調査しきれなかった)人に対して、相続税のタイミングで取り返そうということなのです。

国税局や税務署では、税務調査によって日々申告漏れを是正していますが、100%是正できるわけではありません。そうすると、相続税の調査にも自然と力が入ってくるわけです。

相続税の今後の展望は?

このように相続税が身近になってくると、今後どうなるのかが気になるところです。さらに増税となる可能性はあるのでしょうか?

実は日本の相続税は、すでに世界でもトップクラスの負担率となっています。財務省では、主要国の相続税の負担率を、以下のグラフのとおり示していますが、日本は見てのとおり、主要国(アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス)と比較して高くなっています。とりわけ20億円を超えるような課税価格(遺産の総額から債務を引いた金額)になると最高の負担率となっていますね。

さらに、シンガポールやイタリア、オーストラリアなど、相続税がない国も少なくありませんから、とりわけ日本の相続税の重さが感じられるところです。

<財務省ホームページより引用>

ところが、実は所得税などの税や、社会保険料も加えたトータルの国民負担率で比較すると、日本の負担率は決して高くないのです。

<財務省ホームページより引用>

このように、トータルの負担率が決して高くない中、日本では国の借金である国債残高がすでに1,000 兆円を超えていますから、今後さらなる税収が必要になるのは明らかです。

そういった意味では、今後、相続税がさらに増税となる可能性も十分あると考えます。
いつ身に降りかかるか読めない相続税だけに、早くから、自分に関係することとして知識をつけておくことが必要になってくるでしょう。

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81年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター
西南学院大学商学部卒。
2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。
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Twitter:小林義崇