労働基準監督官とは、どのような権力を持っている人物なのか

大手広告代理店の新卒社員が過労で自殺した事件などを契機に、働く環境の改善を求める風潮が強くなっています。

司法警察官として、違法残業などに睨みをきかせるのが「労働基準監督官」です。今回は、労働基準監督官がどういう存在で、いかなる権力を持っているのかを紹介します。

立ち入り調査を実施し、違法企業に是正や改善を促す

全国の各都道府県には、労働基準監督署が321カ所あり、さらにその上部組織として、労働局が各都道府県にあります。労働基準監督署は、毎月主体的・計画的に対象となる事業場を選定して、立ち入り調査を行います。

どのような基準で調査対象の企業を選定するかは、厚生労働省のサイトで「地方労働行政運営方針」(出典:厚生労働省『「平成29年度地方労働行政運営方針」の策定について』 )として毎年公開されており、ある程度の傾向を知ることができます。

2017年(平成29年)に関しては、“「働き方改革」の推進などを通じた労働環境の整備・生産性の向上”や“女性、若者、高齢者、障害者等の多様な働き手の参画”がテーマとしてあげられています。まさに時流にそったテーマ選定だと言えるでしょう。

また、違法残業や未払い賃金、設備・機器の安全性の不備などで、従業員から告発があった場合は、労働基準監督官が事業場に立ち入って調査をします。この立ち入り調査を実施し、違法企業に是正や改善を促すのが、労働基準監督官の仕事です。

労働基準監督官の業務の根拠

労働基準監督官の業務は、以下の法令に準拠しています。

・労働基準法第101条1項
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。

・労働基準法第102条
労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。

・労働安全衛生法第91条1項
労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業場に立ち入り、関係者に質問し、帳簿、書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品、原材料若しくは器具を収去することができる。

・労働安全衛生法第91条2項
医師である労働基準監督官は、第68条の疾病にかかつた疑いのある労働者の検診を行なうことができる。

労働基準監督官は全国に3000人超

労働基準監督官は、厚生労働省の採用試験によって選抜される専門職の国家公務員です。2016年度は全国に3,241人(平成28年度)おり、1人当たりなんと1,500ヶ所近くの事業所を受け持っています。(出典:厚生労働省「労働基準監督行政について」

基本的に、労働基準監督官の調査は事前通告なしに実施されます。労働基準法は事業場ごとに適用されるので、調査に立ち入るのは本社だけとは限りません。営業所や工場への立ち入りもあり得ます。

労働基準監督官は、上記の法令で定められている通り、裁判所の許可なしで事業場に立ち入ることができます。また、事業主に帳簿や書類の提出を求めたり、従業員や監督責任者に尋問したりできる権限を持っています。つまり、労働基準監督官が現れたら、事業主は基本的に立ち入りを拒否することはできないということです。

「臨検(りんけん)」と呼ばれる労働基準監督官の調査を拒否する、帳簿の提出を拒む、聞き取りを拒否する、虚偽の申告をするなどで調査の妨害をした場合は、罰金刑が科されます。

こうして、会社や個人事業主に対して監督指導する行政監督権限に加え、取り調べや逮捕、捜索差押えを行うことのできる特別司法警察職員としての強制捜査権もあります。悪質な労災事件があれば、検察に送検することもできます。まさに、労働環境を守る「警察官」なのです。

労働基準監督官による調査4種類

労働基準監督官による調査には、以下の4種類があります。

1.定期監督
労働基準監督署が対象となる、事業場を選定して行う定期的な調査です。労働基準法などの労働関連法令に違反していないかどうか、労働基準監督官が事業場を訪れて、さまざまな角度から調査します。

通常の勤務実態を把握するため、予告なしに立ち入り調査を行うケースがほとんどですが、中には電話やFAXで日時を通告したり、必要書類をあらかじめ用意するよう指示して実施されることもあります。

2.申告監督
企業の違反行為について、労働者から告訴や告発などがあった場合に行われる調査です。労働者の申告であることを明かさずに定期監督のように振る舞いながら調査するケースと、労働者からの申告であることを明かして調査するケースがあります。

従業員や退職者による残業代未払いや違法解雇等についての告発をもとにした調査が多く、その告発内容だけでなく、業務を行う上で法令全般を遵守しているかどうかを含めて、全般的に調査されます。

3.災害時監督
大規模な労働災害が発生した場合に、原因究明や再発防止のために実施されます。設備や機器に安全上の懸念があった場合、その場で労働基準監督官から使用中止の行政処分が下ることもあります。

4.再監督
1~3の調査が実施された事業場に対し、指摘事項がきちんと是正されているかを確認するための再検査です。

違反行為があった場合、企業は指摘点を是正・改善し、決められた期日までに是正(改善)報告書を提出しなければなりません。しかし、期日が守られない場合には、再監督が実施されます。

労働基準監督官の調査には協力的な姿勢を

大手広告代理店の社員が過労自殺した事件が大きく報道されたことで、労働者の権利意識も変わってきています。また、インターネットの普及によって、労働者側が簡単に法令や情報を調べることができるようになったことも、それを後押ししています。

労働基準監督官は、違法行為を見抜くプロです。前述の通り、特別司法警察職員としての強制捜査権もありますので、単なる行政監督だとたかをくくらずに、立ち入り調査があった場合は素直に指示に従うのが賢明です。

労働基準監督官による立ち入り検査を受けることは、企業にとって決して気分のよいことではありません。しかし、昨今の少子高齢化で働き手が少なくなる中、「ブラック企業」という評判がたってしまうと、人材採用にも響きます。

また、調査を受けても雇用主に改善意向が見られないようでは、現場の士気も下がります。今後の事業継続のためにも、立ち入り検査での指摘事項を前向きにとらえ、改善の姿勢を示すようにしましょう。