自宅の売却益を、3,000万円まで無税にする特例

フリーライター(元東京国税局職員)の小林義崇です。

前回の記事では、土地や建物といった不動産(以下「土地建物等」)を売却する際にかかる所得税についての原則的な計算方法を解説しました。

3つの要素で決まる、土地や建物を売却したときの所得税

土地建物等は、売却前の使用状況等によっては、「特例」と呼ばれる特別な計算方法を使うことができます。とくに、居住用に使っていた家屋や土地については、複数の特例があります。

今回は、そうした特例のなかから、代表的なものをご紹介します。

3,000万円までの利益であれば、確定申告すれば所得税はゼロ

不動産を売却したとき、所得税の計算の基礎となるのが、「譲渡所得」です。前回の記事で解説したとおり、譲渡所得は(譲渡収入−取得費−譲渡費用)という算式で求められます。

ここで、譲渡所得がプラスになった場合に、所得税がかかることになりますが、売却した土地建物等が、「居住用」であれば、譲渡所得から3,000万円までを差し引くことができます。この特例を、「3,000万円の特別控除」と言います(租税特別措置法第35条)。この特例は、譲渡所得に関するものとしてはもっともオーソドックスなものであり、十年以上変わらない制度となっています。

国税庁ホームページより抜粋>

ここで、3,000万円を超える譲渡所得がある場合は、超えた金額を「課税譲渡所得金額」といい、15%または30%の税率で所得税を課せられることになりますが、居住用で、しかも家屋の所有期間が10年を超える場合は、以下のとおり、軽減税率が適用されます。

国税庁ホームページより抜粋>

3,000万円の特別控除を適用する条件

譲渡所得の特例はさまざまですが、いずれも細かな条件が定められています。3,000万円の特別控除の場合、以下の条件があり、すべてを満たす必要があります。ひとつずつ解説していきましょう。

  1. 自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。
  2. ⇒居住用の特例のため、土地だけを売却した場合は、適用されません。
  3. 以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年目を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
  4. ⇒通常は賃貸に出していたり、Airbnbで人に貸していたりすると居住用とはならないのですが、この条件の期間内に売ることができれば、売却する直前が空き家だったり、人に貸していても問題ありません。
  5. 住んでいた家屋又は住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の2つの要件全てに当てはまること。
  6. ①その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。
    ②家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。
    ⇒自宅が売れる確約がない段階で、建物を取り壊してしまうと、特例の条件を満たせなくなるリスクが高くなってしまいます。
  7. 売った年の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていないこと。
  8. ⇒たとえ居住用の土地建物等であっても、特例を使えなくなりますので、転居の多い人は注意しましょう。
  9. マイホームの買換えやマイホームの交換の特例若しくは、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
  10. ⇒今回の記事では解説しませんが、自宅を売却したときの特例はほかにも存在します。これらを重複して適用することはできません。
  11. 売った家屋や敷地について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと。
  12. ⇒国から買収されたときなど、特別控除を適用できるケースは複数存在しますが、複数の特別控除を重複して差し引くことはできません。
  13. 災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売ること。
  14. ⇒東日本大震災の場合は、災害のあった日から7年を経過する年の12月31日までに売却すれば適用されます
  15. 売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと。
  16. ⇒特別な関係には、このほかに生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれます。確定申告をする際には、取引の内容も記載することになっていますが、相場に比べて極端に売却価額が低かったり、売主と買主の名字が同じだったりすると、怪しまれる可能性が高いです。

以上の8点の条件のほかに、「家屋」そのものにも条件あります。売却する家屋が、以下の3つのいずれかに当てはまる場合、3,000万円の特別控除を適用することはできません。

  1. この特例を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋
  2. 居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
  3. 別荘などのように主として趣味、娯楽又は保養のために所有する家屋

この3つの条件は、いずれも、ほかに自宅として使っている建物がある場合に、問題になるものです。

複数の建物を所有する人が、3,000万円の特別控除を使うと、税務調査によって、「本当に居住用として使用していたのか」について確認を求められる可能性もあります。

そのときは、生活状況や、所有するほかの不動産の用途などを説明し、特例の条件を満たしていること証明する必要があるでしょう。

3,000万円の特別控除を使うための手続き

ここからは、3,000万円の特別控除を適用するための手続きについて説明します。

さきほど説明した条件をすべて満たした場合、特例を適用するためには確定申告を行います。その際に作成しなければならないのが、「譲渡所得の内訳書」という書面です。この書面に、特例を適用する旨を記載し、確定申告書と合わせて提出します。

国税庁ホームページより抜粋>

以前は、さらに、居住していた事実を示すため、住民票(除票)を提出する必要がありましたが、現在は税務署でマイナンバーを通じて住民登録を確認できるため、提出不要となりました。

ただし、売却する建物の所在地に、住民登録がない場合は注意が必要です。この場合、住民登録上は、「居住していなかった」ことになっているため、売却した建物に住んでいたことを示す書類(戸籍の附表など)を提出しなくてはなりません。 最後にお伝えしておきたいのが、特例を使うデメリットです。一見、3,000万円の特別控除にはメリットばかりのように思えますが、住宅借入金等特別控除(いわゆる「ローン控除」)が使えなくなるという大きなデメリットがあります。

自宅を買い換えて、新たにローンを組むような人は、3,000万円の特別控除を使うか、ローン控除を使うかを選択することになります。譲渡所得の金額や、ローンの金額によって、どちらの制度が有利になるかは変わってきますので、確定申告をする前に、よく検討しておく必要があるでしょう。

今回は、譲渡所得がプラスになった場合の特例について解説しましたが、居住用の土地建物等の場合、マイナスの場合でも使える特例があります。次回の記事でご紹介します。

1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター 西南学院大学商学部卒。 2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。
twitter:小林義崇

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