事業承継をする相手がいないときに検討したい「M&A」の実施手順

フリーライター(元東京国税局職員)の小林義崇です。

事業承継のパターンは、親から子や従業員に事業を引き継ぐものだけではありません。たとえば後継者が見つからないといった場合には、M&Aにより第三者に会社を売却することで事業を存続させるのも一つの手です。今回の記事では、M&Aの一般的な流れなどについて解説します。

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中小企業庁ホームページより引用>


どんなときに「M&A」を選択するか

「後継者が見つからないけれど、事業は存続させたい」
「高齢になり事業を続けられないから、事業を手放して資金を得たい」

といった場合、M&Aによって目的を達成することができるかもしれません。

M&Aには、以下のとおり「株式を第三者に譲渡する」「事業全体を譲渡する」「特定の事業を譲渡する」という方法があります。経営者の目的に応じて、これらの方法からどういった形でM&Aを進めていくのかを選択することになります。

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中小企業庁ホームページより引用>


たとえば、「会社自体は子どもに残しながら、事業の一部を上手に運営してくれそうな企業に売却する」など、柔軟に選択できますので、「M&A=会社を完全に手放す」と考える必要はありません

M&Aにおいて考えておかなければならないのが、「売却先企業との経営統合をいかに円滑にするか」ということです。M&Aの後にも事業を存続させるためには、売り手企業と買い手企業の事業等の相性を理解しなくてはなりません。そのため、売却先の決定には慎重を期す必要があります。

また、自分の相続人に対しても、あらかじめ説明しておきたいところです。会社の経営を続けていれば会社の株式を相続するところ、M&Aで会社を売却すると、株式が現金化されますので、そのことにより相続財産の内容が変わってきます。

株式と現金では相続税の金額も変わってくるため、相続税への影響も考えた上でM&Aを進めていく方がいいでしょう。

M&Aの実施手順

それでは、実際のM&Aの手順を見ていきましょう。最初に必要となるのが、仲介者やアドバイザー選びです。専門的な知識を必要とするM&Aですから、自社だけで実現することは難しく、民間の専門業者や金融機関等のサポートを受ける必要があるでしょう。

こうした専門家に依頼する際には、情報漏えいのないよう秘密保持契約を結びます。情報が漏洩すると、M&Aの交渉がスムーズに進まないだけでなく、既存の取引先からの信頼を落とすことにもなりかねないからです。

ちなみに、私が過去に事業承継の専門家から聞いた話では、「社内の人には絶対にバレないようにすべき」とのことでした。社員にとって、会社が売却されるのはやはり一大事なので、あっという間に情報が広まってしまうようです。そうすると退職者が増えるなどし、スムーズにM&Aが進まなくなってしまいます。

仲介先を決めた後に行うのは、会社の事業評価の算定です。M&Aにより会社を売却するためには、自社の価値がいくらなのかを正しく把握する必要があります。このときの目安になるのが以下の要素です。

  1. 資産・負債の状況
  2. 収益やキャッシュフローの状況
  3. 市場相場の状況

事業評価の方法は様々ですが、たとえば、以下の図ように、時価純資産にのれん代(年間利益に一定年数分を乗じたもの)を加味した評価方法があります。

このとき、資産や負債については決算書の数字をそのまま使うのではなく、「将来発生し得る損失(土地の含み損、退職金の支払い予定など)」も加味し、実態に合った数値を使う必要があります

「のれん代」についても、これは「帳簿価格には反映されない無形価値」を指すものですから、歴史あるブランド企業などは、のれん代が高く計上され、M&Aの取引金額も高くなっていくのです。

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中小企業庁ホームページより引用>

ただし、いくら精緻に事業評価したとしても、そのとおりの金額で売却できるわけではありません。モノの売買と同じように、売却先のニーズや市況などによって価格は変動するため、事業評価で算出された数値は、あくまでも目安と考えてください。

そうして売買価格の折り合いがついたところで、「基本合意書」を締結します。こちらは最終的な契約ではなく仮契約のようなものと理解していただくといいでしょう。そのため、最終契約に近い基本合意書もあれば、単にその時点における双方の合意事項をまとめただけのものもあります。

基本合意書の締結後、最終契約を交わすまでの間に行われるのが「デューデリジェンス」です。デューデリジェンスとは、売り手企業の調査を、買い手企業が行うことであり、売り手企業の財務や事業などの資料をチェックします。ここで問題がなければ、最終契約に移りM&Aが完了します。

このときに、売り手側の経営者の立場を明確にしておくことも必要でしょう。M&Aの後に完全に経営から退くのか、あるいは新会社に顧問等として残り、経営をサポートしていくかといった点もあらかじめ決めておきたいところです。


国が運営するM&A支援機関 「事業引継ぎ支援センター」

最後に、M&Aに関する国の支援機関を紹介します。全国47都道府県に設置されている「事業引継ぎ支援センター」です。このセンターでは、事業承継に関する相談対応だけでなく、M&Aの実行支援も行ってもらえます。

実際の相談対応にあたるのは、中小企業のM&A仲介業務の実務経験を積んだ専門家であり、経験に基づいたアドバイスが期待できます。しかも相談自体は無料ですので、気軽に利用できるでしょう。

なお、同センターのホームページで紹介されている相談事例は以下のとおり、事業承継の各段階において対応しています。

【相談事例】

  • 相手先候補はいるが、どのようにして話を進めていけばいいのか分からない。
  • 社内に後継候補者がおらず困っている。候補先を紹介してほしい。
  • 将来に備えて事業承継に関する理解を深めておきたい。

このほかにも民間の金融機関等、M&Aを支援するサービスは数多く存在しますので、自社のニーズに合ったところを探してみるといいでしょう。いずれにしてもM&Aを実現するには、ある程度の時間が必要ですから、M&Aを視野に入れている場合は早めに相談されることをおすすめします。

1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター 西南学院大学商学部卒。 2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。
twitter:小林義崇