2019年07月29日(月)3ブックマーク

現役引退後まもなく監督になった高橋由伸さんだからこそ語れる、リーダーシップの取り方とその苦悩とは

経営ハッカー編集部
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freeeのイベント「asobiba」に登壇した、巨人軍元監督・高橋由伸氏の紹介スライド。

6月27日、freeeはユーザー向けの初めてのイベント「asobiba」を寺田倉庫B&C Hallで開催しました。「新時代のスモールビジネスは、軽やかでかっこいい。」をテーマとした新しい形のビジネスイベントです。

本稿では、各界を牽引するイノベーター達をお招きしてのトークセッションの様子を紹介していきます。一人目は読売巨人軍前監督で球団特別顧問の高橋由伸氏のトークセッションです!

目次

     

    かつて、巨人軍で松井秀喜選手と並ぶスター選手として一世を風靡した高橋由伸さん。高橋さんは現役引退後、監督として伝統ある巨人軍の看板を背負って立つことになりましたが、引退後すぐに監督に就任したことで、苦労も絶えなかったといいます。

    監督時代、かつて共に戦ったメンバーに対してどうリーダーシップを発揮していったのか、freeeの佐々木大輔CEOが高橋さんに話をお聞きしました。

     

    アグレッシブで怖いもの知らずだった選手時代

    freeeはユーザー向けの初めてのイベント「asobiba」が開催された寺田倉庫B&C Hallの様子。

    ──高橋さんといえば天才と称される高い打撃率が印象的ですが、同時に守備でも数々のファインプレーを魅せていらっしゃいました。しかし、かなり危険でアグレッシブなプレーもあったので、原監督からはダイビングキャッチ禁止令が出ていたそうですね。

     

    松井秀喜選手らとともに巨人軍で活躍し、その後監督に就任した高橋由伸氏が登壇。

    高橋由伸(以下「高橋」):選手時代はとにかく目の前のことに全力を尽くそうと、日頃からさまざまな練習や努力を重ねてきました。我々にとって一番の舞台である「試合」で実力を全て発揮したいという思いがあったからです。

    ただ、プロ野球という1年間戦う場で、ケガを理由に戦列を離れることは選手として最もいけないことであり、チームに一番迷惑をかけてしまうことです。なので、監督から禁止令が出たのは、「けがをしないように」と伝えたいとの意図があったからではないでしょうか。

    ──守備では、フェンスをよじ登ったりダイビングしたりされていましたよね。高橋さんご自身はプレーされている最中は危険を感じていらっしゃらなかったのでしょうか。

    高橋:「ケガをするかもしれない」とは思っていなかったのですが、恐怖心は正直に言えば多少ありました。でも、チームの勝利のためにはやるしかないとも思っていました。

    そして一方では、僕がケガしたお陰なのか分かりませんが、東京ドームや他の球場の人工芝が良質なものに変わる、内野のフェンスが少し柔らかい素材を使用したものになるとかそういう動きがあったようですね。それが多少なりとも今の現役選手たちのケガを減らすことに繋がっているなら、私のケガも少しは野球界にお役に立てているのかもしれません。

    ──多くのケガを乗り越えながら、スター選手として伝統ある巨人軍を勝利に導いてこられた高橋さんですが、巨人軍というブランドを背負っているゆえの苦悩はありましたか?

    高橋:伝統を背負うということに対するプレッシャーは、実はそれほど選手は感じていないのかもしれません。プロ野球選手も個人事業主ですから、チームのことよりいかに自分が成績を上げて選手生命を永らえていくかのほうが重要です。なので、選手時代はそちらに対するプレッシャーの方が正直大きかったかなと思います。

    ──巨人軍には毎年FAでたくさんの選手が移籍されているので、高橋さんも環境が変わって戸惑われることがあったと思いますが、いかがでしょうか。

    イベント「asobiba」で対談する元巨人軍監督とfreee株式会社の佐々木大輔CEO。

    高橋:そういうことが当たり前の環境の中で育ってきたので、特に違和感や戸惑いはなかったですね。魅力のある選手や力のある選手をたくさん取ってきて、たくさんの人に見ていただくのは、球団として当たり前のことなんです。ファンの方からも、魅力ある選手をたくさん見られること、勝利することは求められていますし。

    ──後輩の方や他球団から移籍されていらした選手に対し、巨人軍の生え抜きの選手としてリーダーシップをどう発揮されたのですか?

    高橋:後輩や他球団の選手がチームに来られてすぐに「チームの伝統が云々」という話をしても、重圧を感じさせてしまうだけなので、プロ野球選手としての原点に立ち返り、とにかく「うちは結果を出すだけ」だとは言っていました。そうすることで、周りの選手もやりやすくなってくるという効果もありますし。

    freee初となるユーザー向けイベント「asobiba」に登壇したfreee株式会社の佐々木大輔CEO。

    佐々木:会社組織の中でも、新卒の社員や中途入社の社員にリーダーシップをいかに発揮するかは非常に重要です。freeeでも、社長の自分から見て、プロジェクトに周りの社員を自然に引き寄せられるような人材は魅力的だなと思います。

    高橋:ただ、野球界は年功序列の風潮が根強いので、まだまだ大先輩がたくさんいらっしゃる中で、私がリーダーシップを発揮するのは自分の年齢や立場では難しい部分もありました。だからこそ、「自分自身が結果と態度で示すしかない」と逆に覚悟を決められましたね。

     

    現役引退とともに巨人軍の監督に就任。いかに采配を振るうかに悩む日々

     

    ──選手として活躍されていた高橋さんですが、2015年に現役引退を発表されましたよね。このタイミングで現役引退されることに葛藤はありませんでしたか?

    高橋:引退に対する葛藤はあまりありませんでしたね。というのも、長く選手を続けていて、「どこかで身を引かなくてはいけない」という思いが自分の中にあって、身の引き際は常に探していたからです。

    そこに「監督をやらないか」とのオファーをいただいたので、そこが選手としての引き際ではないかと思いました。ただ、監督の仕事を引き継ぎ、それを果たしていくには、何をどうしていけばいいんだろうという戸惑いはありました。

    佐々木:僕は親御さんなどから事業を受け継がれたfreeeのユーザーさんからお話を聴く機会が多いのですが、よく伺うのが「最初は、何を変えていいのか、何を変えてはいけないのかがわからず戸惑う」というお話です。伝統と革新の間で悩みながらも、「やるしかない」と覚悟を決めたときにすべてが変わり始めるそうなんですね。ここでは、高橋さんにもそういったお話をお聞かせいただければと思います。

    ──原監督、長嶋監督などそうそうたる面々が巨人の監督を務められている中で、いろいろプレッシャーもあったのではないですか?

    freeeユーザー向けイベント「asobiba」で対談する元巨人軍監督の高橋由伸氏とfreee株式会社の佐々木大輔CEO。

    高橋:もちろんありました。しかし、時代に合わせてチームの何かを変える必要があったからこそ、世代交代の意味合いを込めて僕に監督のオファーが来たのではないかと考えました。なので、自分の思うようにチームを変えていけたらいいなと希望をもって、監督生活をスタートさせました。

    佐々木:監督に就任して、まず取り組まれたことは何ですか?

    高橋:僕が監督になったタイミングは、選手一人ひとりの力をもうワンランクもツーランクもつけさせないといけない時期でした。なので、選手の力を確実につけさせるような練習の指導を行いました。個々の選手にとって、自分の成績は非常に大事です。その個人の成績を尊重して、うまく起用するのが僕の仕事ですよね。なので、選手たちには「とにかく自分のパフォーマンスを100%出せるようにがんばってほしい」という話を最初にしました。

    佐々木:先程、選手は個人事業主だとおっしゃっていたのが非常に印象的だったのですが、そういった選手たちをまとめるためにどんな工夫をされていたのでしょうか?

    高橋:選手は当然「勝ちたい」とは当然思っているものの、自分が試合に出なければ勝っても自分事として捉えられないときもあります。プロ野球では勝つことはもちろん大事です。しかし、毎日たくさん来てくれるお客さんの中には、年に1回しか来られない方や、一生に1回しか来られない方がいらっしゃるかもしれないですよね。だからこそ、「試合に出ても出なくても、常に同じ気持ち・同じ姿勢でいなければならないのだ」と選手には言い続けました。

    佐々木:現役を引退されてすぐ監督になられるのはなかなか珍しいケースかと思いますが、それが良かったと思われることや、逆に苦労されたことは何でしょうか?

    freee主催のイベント「asobiba」で、巨人軍監督就任時の体験を語る高橋由伸氏。

    高橋:選手たちは今まで一緒に戦ってきたメンバーで気心が知れているので、彼らをもうひと踏ん張りさせたいときにはモチベーションを上げやすかったですね。一方、苦労したのは選手間で世代交代をしなければならなかったことです。

    試合に出場できるのは9名、1軍ベンチにいられるのは25名なので、世代交代をさせるには、かつて一緒に戦っていたメンバーを徐々にベンチから外していかなければなりませんでした。もうまさに苦渋の決断の連続でしたね。

    佐々木:最初は苦悩しながらも、「思い切ってやるしかない」と気持ちを切り替えられたターニングポイントはいつだったのでしょうか?

    高橋:「強引にでも変えていかなければ、チームとして強くなれないのではないか」とやっと思えるようになったのは、監督になって3年目くらいです。選手生活を終えてすぐ監督になったこともあり、選手やスタッフとも心理的距離が近かったので、最初はなかなかドライにはなりきれませんでした。

    「みんなにはできる限り嫌な思いをさせたくない」という思いがあったのも事実。巨人軍を勝てるチームに変えていくために割り切って「自分の思う通りにやってやる!」と思えるようになるまでにはどうしても時間がかかってしまった。

    佐々木:組織を運営していると、高橋さんと同じように苦渋の選択を迫られることがあるので、そのお気持ちは僕もとてもよくわかります。みんな傷つかずに済むのが一番いいんですが、なかなかそうもいかないですからね。監督時代、リーダーシップを発揮するにあたって意識されていたことはありますか?

    高橋:僕は言葉で人を引っ張っていくタイプではありませんでしたが、リーダーシップを発揮するためには、選手にどういった言葉をかけるかがとても大切だと感じています。ただ、僕と選手との間にコーチやスタッフもたくさんいるので、僕が前面に出てあれこれ言うより、コーチに任せることも大事だと思っています。そのあたりのバランスが難しいですね。

    ──巨人軍の監督として「これだけは変えてはいけない」と感じていたことはありますか?

    freee主催のイベント「asobiba」で、巨人軍監督として「常に勝つことにこだわった」と語る高橋由伸氏。

    高橋:「常に勝つこと」ですね。それが我々に与えられた使命なので、勝たなければならない気持ちが強いのが巨人軍の一番の伝統であり、変えてはいけないことだと思っています。

    でも、勝つためにはどうしても変えていかなければならないことや、選手に我慢してもらわなければいけないことが数多くあります。そういった中で、僕が監督としてリーダーシップをもって、覚悟を持って采配を振るっていかなければならないと感じていました。
     

    過去に受け入れられなかったことも受け入れられる自分になっていく

     

    佐々木:今は監督も辞任され、野球界の外に出て見聞を広めていらっしゃると伺っていますが、一方で今後機会があれば再び監督をしてみたいとも伺っています。またいずれ監督を引き受けるとすれば、どういったことを変えていきたいですか?

    高橋:選手だった時も監督だった時も、自分なりに一生懸命に野球に向き合ってきたつもりですが、どこかプライドが邪魔をして他人から言われたことや、フィードバックをなかなか素直に受け入れられないことがありました。

    でも、当時は受け入れられなかったことも、立場の異なる今であれば受け入れられるのではないか、そうすれば自分が良い方向に変わっていけるのではないかと期待しています。なので、まずは監督だった3年間を振り返り、どのようなフィードバックを受けていたかを思い出すことから始めています。

    佐々木:僕も当社の製品に対するフィードバックをいただくのはとても嬉しいんですが、自分へのフィードバックを受けるのはあまり得意ではありませんでした。しかし、当社ではお互いへのフィードバックを大事にしていて、僕も経営陣に「佐々木大輔について思うことを何でもいいから紙に書いてきて」とお願いしています。

    最初はあまり良い気持ちではなかったのですが、やっていくうちにだんだん慣れてきて、経営者として一皮むけたかなと思っています。高橋さんは、フィードバックを受けたことを思い出しているうちに、新しく何か見えてきたものはありますか?

    高橋:選手時代も監督時代も、野球界という狭い世界でのフィードバックしかいただいたことがありませんでした。

    でも、監督を辞めて野球界の外に出ることで、今までお話したことのなかった方や、球団の会社以外の方にもたくさん出会うことができています。そこでお話していただけることが非常に勉強になっているので、それが今一番自分を変えられるものではないかと思っています。

    佐々木:素晴らしいですね。今後の展望として、何か挑戦してみたいことはありますか?

    高橋:ずっと野球界に生きてきて急に外の世界に出たので、今は右も左もわからない状態です。とにかく、思うがままあちこち出歩いてさまざまな世界を見てみようとは思っていますが、これから何が待ち受けているのか、自分でも予想もつきません。

    これから何をしたいかもまだ見つかっていませんが、今日このような場で、たくさんの方々を前に自分の言葉でお話をさせていただいたことは本当に勉強になりました。貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

    佐々木:こちらこそ、ある意味日本一重い伝統を背負うこと、伝統を引き継ぐ覚悟を高橋さんから直に伺うことができ、僕自身も勇気をいただきました。ありがとうございました。

    freee開催のイベント「asobiba」で笑顔を見せる元巨人軍監督・高橋由伸氏とfreee株式会社の佐々木大輔CEO。

    asobiba2019 続いてのプログラムでは歌舞伎俳優中村獅童さんと一橋大学イノベーション研究センター 名誉教授 法政大学大学院教授 米倉誠一郎先生とfreeeの佐々木大輔CEOによる鼎談が開催されました。引き続き経営ハッカーにて、後日こちらの様子もお届けします!次回もお楽しみに!


     

    <プロフィール> 高橋由伸(たかはし よしのぶ)

    千葉県出身。神奈川・桐蔭学園高では2度甲子園出場。慶大に進学し、1年春から4年秋までのリーグ戦全試合フルイニングでプレー。三冠王獲得、通算23本塁打の東京六大学新記録を樹立するなど数々の記録を打ち立てる。97年ドラフト1位で巨人軍に入団。新人年から開幕スタメンを勝ち取り、巨人では長嶋茂雄以来となる新人打率3割をマーク。以降は球界を代表する選手としてチームを牽引。04年にはアテネ五輪にも出場し、オリンピアンとして銅メダル獲得。15年現役引退と同時に、読売巨人軍第18代監督に就任。今年からは野球解説者として新たなスタートを切る。

     

     

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