事業承継問題を放置すると、22兆円の損失になる?!

少子高齢化が進む中、中小企業を中心に後継者問題に悩む経営者が増えています。そんな中、2017年に経済産業省・中小企業庁が発表した試算は衝撃を与えました。

事業承継問題をこのまま放置すると、2025年頃までの約10年間で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性があるというのです。事業承継問題を放置すると、どんな恐ろしいことが起こるのでしょうか。

(出典:中小企業庁「日本経済・地域経済を支える中小企業の円滑な事業承継に向けた集中支援」 )

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 後継者へのバトンタッチは5年~10年かかる

中小企業庁の「経営者のための事業承継マニュアル」によると、会社の規模や業種にもよるものの、中小企業の経営者の引退年齢は平均すると67歳~70歳です。一方、「中小企業白書」 によると、後継者探しを始めてから了承を得るまでの期間として、3年以上かかったという企業が37%。中には、10年超かかったという企業もあります。

もし70歳で引退したいとすると、60歳ごろには後継者を見つけておく必要があります。なぜなら、事業承継をスムーズに行うには、数年~10年の長期スパンで後継者教育をしなければならないからです。事業承継マニュアルによると、後継者の育成に必要な期間について、「約5年」「5年~ 10年」と回答した経営者は全体の半数以上に上っています。

(出典:中小企業庁「事業承継マニュアル」

 事業成長の可能性があるにも関わらず、廃業する企業が4割

しかし、日本政策金融公庫総合研究所が全国約4000社の中小企業の経営者に対してインターネット調査を行ったところ、60歳以上の経営者の50%が「廃業を予定している」と回答しました。理由として最も多かった回答は、「当初から自分の代でやめようと思っていた」(38.2%)というものですが、「子どもに継ぐ意思がない」(12.8%)、「子どもがいない」(9.2%)、「適当な後継者が見つからない」(6.6%)と、後継者問題を理由に挙げた回答が3割に及びます。

廃業予定の企業が全て、事業の展望や企業としての伸び代に限界を感じて、廃業を決めたとは言えません。その証拠として、同様のインターネット調査では、4割を超える企業が「今後10年間の事業の将来性について、事業の維持、成長が可能」と回答しています。事業としては継続できる可能性があるにも関わらず、廃業せざるを得ないのは、後継者問題がそれほど深刻であるということでしょう。これでは、事業承継問題が雇用とGDPに大きな損失を与えることは明白です。

(出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」

事業承継に向け、できるだけ早く行動を

事業承継・後継者問題が深刻化する背景には、「事業承継の進め方や実情を知らないため,問題を先送りにしがち」という問題があります。

帝国データバンクの調査では、60歳代の経営者であっても、「事業承継の準備ができている」のは4割ほど。70代でようやく49.5%、80代でも47.7%に過ぎません。これでは、いつまで経っても後継者が定まらず、経営者は引退できないことになってしまいます。

後継者は、事業承継の大切さと引き継ぎには数年~10年もの時間がかかることを認識し、できるだけ早く行動を起こす必要があるでしょう。

事業を承継するときに残すべきもの

では、事業承継にあたって、まずやるべきことは何でしょうか。

中小企業の事業承継で多いのは、実子や親族などにあとを託す「親族内承継」です。親子代々守ってきたのれんを次世代に伝え、家業を守っていくスタイルは、王道とも言えます。

この場合、次代に引き継ぐのは自社株式・事業用資産、債権や債務などの「資産」や、従業員、経営権といった「人(経営)」だけでなく、創業の精神や社風、経営理念、取引先との人脈や技術・技能といった「知的財産」も含まれます。

資産だけ引き継ぐのであれば、法務や税務の専門家の手を借りつつ法に則って手続きをすれば良いでしょうが、精神的な部分まで引き継ぐとなると、それを可能にするのは先代の経営者のみとなります。後継者の教育は、経営者としての集大成、最後の大仕事と言えるでしょう。

「事業価値を高める経営レポート」を作成しよう

創業の精神や経営理念を伝えていく場合、事業価値を高めるためのレポートの作成をおすすめします。なぜなら、経営に対する想い、価値観、信条を明文化することで、後継者のみならず従業員にもブレることなく思いを伝えられるからです。

「事業価値を高める経営レポート」に盛り込むべき項目は、以下から構成されます。

  • 企業概要(コアとなる事業や技術、会社の資産など)
  • 内部環境(業務の流れ)
  • 内部環境(自社の強み・弱み)
  • 外部環境(競合や事業環境、マーケットの潜在性など)
  • 今後のビジョン(現在の事業領域を維持するか、多角化を進めるかなど)
  • 価値創造のストーリー(どのように付加価値を生み、収益を拡大するか)

こうしたレポートの作成は、後継者にも参加を促すことをおすすめします。自らコミットすべき目標を立てることで、後継者にも経営者としての自覚が生まれるからです。

事業承継計画で具体的なアクションプランを決めよう

会社の成長に向け、さらに具体的な行動計画などを盛り込んだものが事業承継計画です。今後10年程度を想定し、自社の中長期的な経営方針、方向性、目標などを「いつ」「何を」「誰に」「どのように」して実行するのかを計画していきます。

まず、経営者が現在に至るまでの過去を振り返り、創業時の思いや信条、価値観などを整理します。そこから後継者とともに、今後の目標や守るべきビジョン、目標達成に向けた具体的なアクションなどを盛り込んでいきます。こうした詳細な事業承継計画を作成しておくことで、取引先や従業員、金融機関等にも危機感を与えることなく、新たな経営者のもとでも安定した経営を引き継ぐことができます。

M&Aによる承継は「事業の見える化」がますます重要に

最近では、跡を継ぐべき実子や親族がいない、もしくは継がせたくない(継ぎたくない)といった理由から、中小企業でも事業譲渡や会社売却を選ぶケースが増えています。こうしたM&A(企業の合併や買収)での事業承継を「第三者承継」と呼びます。
M&Aで事業承継する場合、第三者を介しての引受先探しになるため、こうした会社の資産の棚卸や競争力の分析はさらに重要性を増します。

もし、プランの作成に行き詰まるようであれば、身近な専門家や商工会議所、事業引き継ぎセンターなどの支援を受けることをお勧めします。

事業承継は早めの行動を

ここまで、事業承継の重要性や第一歩として取り組むべきことについてお伝えしました。事業承継問題は、先送りにすればするほど深刻さを増します。取り返しのつかない事態になる前に、できるだけ早めの行動をお勧めします。