「事業承継はカッコ悪い」って思ってない? ~ 【その3】事業承継の魅力は、住宅のリノベーション ~

前回は復活の過程を見てきましたが、最終回は平安伸銅工業株式会社を支える組織や管理体制の今後、そして中小企業や事業承継ならではの魅力を伺います。

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平安伸銅工業社内での打合せの様子

従業員が40名を超え、組織作りや業績管理でも新たな挑戦へ

——御社のモノづくりはどう変化していくのでしょうか?

モノづくりに関しては、自分の同世代が感じる違和感を敏感にかぎ取って、「自分が欲しくなるもの」を作るという視点は、向こう5~10年であればまだ良いかなと思っています。ただ、それだけをやっていると、私が歳を取ってしまうとダメなので、今から私がいなくてもアイデアが出てくる開発組織を作っていこうと思っています。そのためにアイデア出しのワークショップやフレームワークを勉強したりしています。将来に向けた投資ですね。だって、怖いですもん。私がいなくなって何もアイデアが出なくなったらという危機感はとても強いです

——モノづくりを支える組織の未来についても伺いたいのですが、竹内さんの入社当時は16名だった従業員が40名を超える規模まで拡大したと伺いました。組織に対する想いなど変化はありますか?

最近意識するようになったのは、ビジョンの浸透です。数年前から必要だと感じ始めてはいました。チームビルディングのためにビジョンコアバリューをかかげて、社員と共有して組織運営していこうと考えたんですけど、結局浸透せずに絵に描いた餅になっていました。

で、今ホームページにも載せているコアバリューが全然活用されていなかったんですね。でも、この一年で新商品が出てメディアにも沢山取り上げていただけるようになって、業務がめちゃめちゃ忙しくなってきて、社員が40名を超えてくると部署間の連携がめっちゃギクシャクするようになって。組織全体の風通しがとても大事なステージに入ってきたなと感じています。

今までは10~20名の会社だと私が直接見ることができるし、みんな顔見知りで何かあれば随時話し合うことで業務連携は取れていたんですね。ビジョン、コアバリューが無くても、ある程度皆で価値観を共有しながら仕事が回っていました。

でも、40名を超えるとお互いのことをあまり知らない人が増えてきて、業務連携で課題が発生していたとしても、私や主人がリアルタイムで拾い上げることができない。自分の業務が忙しいので話を聞いてあげられないという状況になってきたんです。ビジョン、コアバリューの目線合わせをして、ちゃんと業務連携をする権限を現場に委譲しつつ、現場間でずれないように調整していかなければまずいと感じました。それで、この春からビジョン、コアバリューをもう一度皆が納得する形で紡いでいって、現場に浸透させるという活動を始めました。

例えば、コアバリューの浸透プロジェクトの場合、まず年齢、社歴、雇用形態など様々なスタッフを自薦・他薦で選抜。経営陣は入らずプロジェクトをサポートしている外部メンバー主導で、スタッフ一人ひとりからそれぞれの価値観を洗い出すプログラムをしました。そして、出てきたスタッフの価値観を既存のコアバリューに重ね合わせることで、コアバリューを再度整理しました。経営陣からの落とし込みではない新しいコアバリューは、社内発表の場をもって、これらの言葉にまとまった経緯も含めて公表する予定です。そして今後同じ価値観を内観するプログラムをスタッフ全員に受けてもらい、新たな重なりからコアバリューを更にブラッシュアップする予定です。

【 コアバリューの変化。「つくる」というキーワード 】

■ビフォー
  1. 半歩先を行く
  2. 喜ばすことを喜びとする
  3. 全力でやり遂げる
  4. メリハリを付けて働く
  5. 信頼と敬意を持つ
  6. 好きにこだわる
  7. 感謝の心を持つ
■アフター
HEIANのコアバリュー 「6つのつくる」
  • 自分の暮らしは自分でつくる
  • 長く愛されるものをつくる
  • 自然体でいられる場をつくる
  • 仕事だけでなく自分の時間をつくる
  • お互いを気遣える仲間をつくる
  • お互いが才能を爆発させあう組織をつくる
 


——組織の増加に加え、今まで以上に受注が増えて売上も22億円まで拡大されたということで、業績管理の変化はありますか?

業績管理については、会計ソフトで作成された会計データを会計事務所と共有しており、リアルタイムで業績を把握できるようにしています。一方、営業数字はもっと細かくリアルタイムで見ていきたいです。過去の長い付き合いもあり、お客様ごとで取引条件も複雑になっているので、現状は市販ソフトを使ってもカスタマイズが容易ではないのです。商品別や取引先別、地域別の売上をリアルタイムで把握できていないのは凄く課題に感じています。

バックオフィス全般の管理は、約3年前に入社してくれた70歳の管理部長に任せています。管理部長が入社してくれたタイミングは、私が経理を見ているのではいよいよダメだなという状況でした。送金や月次決算の締めのチェックを誰か経理のプロに任せたいと思っていたんです。

その中で、人材紹介会社の紹介で、もともと伊藤忠商事の管理部門にいて、その後関連会社に出向されて常務取締役まで務めていた方がいると。中小企業と大企業双方の管理の仕方を分かっている人がいて、「自分の知識を最後どこかの会社で生かしたい」と思っている方が入社してくれました。私は本当に人に恵まれているなと思います。

——皆さんとてもお忙しくなってきている中で、労働生産性を高める取組みがあれば教えてください

色々やっていて、ChatWorkでグループごとの進捗管理をやったり、Skypeでビデオ会議をしたり。Googleのスプレッドシートなども使って、皆でファイルを共有して同時に編集したりもしています。そういう環境もあるので、在宅スタッフも上手く活用していて、例えばパッケージ写真のレタッチや画像の修正といった業務は、クラウドソーシングサービスで外注したりもします。その方々に随時必要な時に仕事を割り振って、ChatWorkやSkypeを活用してオペレーションを回すこともしています。

スプレッドシートの共同編集は、営業のベテランの方は最初抵抗がありましたけど、社内の平均年齢も40歳くらいまで下がっていて、後から入ってくる方ほどITツールに抵抗がないので段々違和感はなくなっていますね。はじめはskypeの動画機能を全然使っていなくて、しつこく顔見せろと言い続けた結果、みんな動画をオンしてくれるようになりました(笑)。ビデオ会議というより電話の感覚が抜けなくて。実際に電話機の形をしたマイクを使ったり。手を離せないやん(笑)みたいなこともありました。

——余談ですが、生産性を高める上で、こんなサービスやこんな人がいれば、よりスムーズに事業を進められたと思うことはありますか?

最近特に思うのが、高度人材をプロジェクト単位でアサインできるサービスがあれば良いよねと思います。実際、個人ベースのつながりでは今のビジネスでも活用しているんですが、例えば採用に関わる人事や、広報・経営企画・営業企画・物流企画など結構頭脳プレーが必要になる分野、例えばCFOもそうですが、ガチンコで採用しようと思うととても難しいんです。給与も上がるし。

あと、弊社の規模で毎日仕事があるかと言えば、普通に記帳業務をさせちゃいそうということになりかねないので、なかなか採用しづらいんです。でも、やはりそういう人材がいるかによって、戦略の精度は全然変わってきます。

という意味で、計画や企画を立てられる人たちをプロジェクト単位でアサインできる、その人材は例えば大手のメーカーで働いている。だけど大手ではなかなか若手に決裁権は与えられないじゃないですか?なので、そういった知識は持っているけど、自ら意思決定をして計画を推進する経験をできない立場の方々が副業で来てくれる、そんな紹介サービスがあっても良いのではと思います。

最近、経営に関して個別に勉強したい内容をグロービス大学院の単科制度で受けているのですが、めっちゃ頭良い人がめっちゃいるじゃないですか(笑)。「なんやこの人達」と思って。ビジネスのフレームワークを既によく知っているし、すごいなと思って。だけど、あの人材にフルで払えるだけの給料は無いし。そういう人たちがプロジェクト単位で助けてもらえれば、お互いにwin-winだとは思います。

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”つっぱり棒”と相撲の”つっぱり”をかけた平安伸銅工業ポーズで社員撮影

事業承継の魅力とは?

——最後に、今後竹内さんのような「ベンチャー型事業承継」は増えると思いますが、大事にすべき価値観や事業承継の魅力教えてください。

価値観は2つあって、「事業承継が格好悪い」と思って避けるのであれば、それは違います。事業承継で素晴らしい経営者になっている人は大勢いるし、例えばユニクロの柳井さんや星野リゾートの星野さんもそう。ファミリービジネスからスケール化しているケースはあります。なので、そこは冷静に事業の可能性を見極めれば良いだけです。

もう1つは継がない勇気もあって、事業の可能性が無いなら会社を畳んで、全く新しい会社を興せば良いと思います。家業をやられている方独特のビジネスのセンスはあると思うんです。家業を継がずに起業された素晴らしい経営者の方もいらっしゃるので、どちらもアリだと思います。

事業承継の魅力は、住宅のリノベーションに似ていると思います。事業承継は既に存在する事業に手を加えて良くすること。引き継いだ信頼や商品力、人材をいかに活かして、時代に合ったビジネスにアレンジするか。ゼロからでは絶対に作れない、唯一無二のビジネスモデルが構築できると思います。


<インタビューを終えて>
実感した平安伸銅工業復活のカギは、竹内社長の「徹底したユーザー目線」と「人とのつながりを大事にする」という姿勢だと感じました。そして、そこに至るまでは、「何とかしたい」という竹内社長の強い想いと圧倒的な行動力に支えられているんだなと同時に感じました。今後の竹内社長と平安伸銅工業株式会社の快進撃に、皆さんご注目ください。

(再掲)平安伸銅工業における「ベンチャー型事業承継」の軌跡
2010年1月 竹内社長入社
2014年6月 お片付けのノウハウを集めたウェブメディア「cataso」(カタソ)を発表
2015年1月 女性起業家ビジネスプラン発表会「LED関西」ファイナリスト
2015年10月 大阪府ベンチャー企業成長応援プロジェクト「Booming!」選抜
2016年8月 女性や家族が楽しめる安全で手軽なDIY商品の「LABRICO」(ラブリコ」)を発表(2016年度グッドデザイン賞を受賞)
2017年4月 便利グッズだった突っ張り棒を、暮らしを豊かにする「一本の線」として再定義した「DRAW A LINE」(ドローアライン」)を発表(2017年度グッドデザイン賞を受賞)

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グッドデザイン賞の授賞式。左は常務取締役であるご主人の一紘さん