事業承継がこじれる原因「遺留分」の問題を解決する方法

フリーライター(元東京国税局職員)の小林義崇です。

経営者が事業を後継者に引き継ぐとき、考えておかなければならないのが「遺留分(いりゅうぶん)」の問題です。とくに財産のほとんどが自社の株式という場合は要注意。ただし、生前から遺留分の問題にあらかじめ対策する方法もあります。そこで今回は、遺留分の仕組みや事業承継にあたっての対処法を解説します。

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中小企業庁ホームページより引用>

遺留分の計算方法を理解しておく

まずは遺留分の仕組みについて簡単に説明します。遺留分とは、相続人それぞれに対して留保される相続財産の割合、言い換えると「相続の最低保障」です。このため、たとえば「財産はすべて長男に相続させる」との遺言があったとしても、遺留分については、分配を請求することができます。

ただし、遺留分の対象となるのは、相続財産のすべてではありません。相続財産全体に占める遺留分の割合が民法で定められており、相続人の構成によって以下のように計算されます。

  1. 相続人が子供のみ 1/2
  2. 相続人が配偶者と子供 1/2
  3. 相続人が配偶者と直系尊属(父母) 1/2
  4. 相続人が直系尊属(父母)のみ 1/3
    ※ 相続人が兄弟姉妹の場合は、遺留分はない。

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中小企業庁ホームページより引用>

たとえば、故人の遺産が9,000万円あったとして、相続人が子供のみであれば、相続財産全体に占める遺留分の総額は、9,000万円×1/2=4,500万円ということです。この金額を、各相続人が分け合うことになります。

相続人ごとの遺留分を求めるには、さきほど計算した遺留分の総額に、各相続人の「法定相続分」を掛けて計算します。法定相続分も、相続人の構成により様々なパターンがありますが、たとえば配偶者と子が残された場合は、配偶者が1/2、子は全員で1/2です。

この場合、子の人数が3人というケースなら、各自の法定相続分は、1/2÷3人=1/6ということになります。それでは具体的な事例で確認してみましょう。

【事例】
相続人:妻と子2人
遺留分計算の基礎となる財産:1億円

まず、相続人は配偶者と子というケースですので、遺留分割合は1/2となり、遺留分の総額は、1億円×1/2=5,000万円と求められます。次に相続人それぞれの遺留分を計算しましょう。法定相続分は妻が1/2、子2人はそれぞれ1/4ですから、各人の遺留分は以下のとおりです。

妻:5,000万円×1/2=2,500万円
子A:5,000万円×1/4=1,250万円
子B:5,000万円×1/4=1,250万円

 

事業承継に遺留分が絡む問題とは

それでは、なぜ遺留分が事業承継と関係してくるのでしょうか。それは、このようなケースをイメージすると理解できるかもしれません。

会社を経営していた父親が死亡し、「会社の株式はすべて長男に相続させ、残りの財産は次男に相続させる」という遺言が残されていたとします。このとき、もしも相続財産のほとんどが会社の株式だとしたら、どうなるでしょうか。

このまま遺言どおりに遺産分割がなされると、相続財産の大半を長男が相続するということになってしまう。そうすると次男としては遺留分を侵害されたことになります。

ここで次男が長男に遺留分を請求した場合、長男は相続した株式を売却せざるを得なくなり、その結果会社の経営を手放すということにもなりかねないのです。

 

「事業承継円滑化法」を利用して、遺留分の問題を未然回避

このように、会社の経営を後継者に引き継ぐ際には、遺留分のことを考えておかなくてはなりません。このときに検討したいのが、「経営承継円滑法」による事業承継の支援措置です。この措置を利用すると、先程説明した遺留分について特別な扱いを受けることができます。

そのひとつが、「固定合意」です。後継者とその他の推定相続人全員との間で、「後継者が引き継ぐ自社株式の評価額」をあらかじめ固定しておけるというルールです。固定合意を利用すると、どのような問題が避けられるかを説明しましょう。

たとえば、遺留分の問題を考慮して、経営者の生前に遺産の分割内容を決めておいたとします。ところが、実際に経営者が死亡する時点で株式の財産価値(評価額)が変動すると、予定しておいた遺産分割を実行しても、遺留分の問題が発生する可能性があるのです。

つまり、1億円の株式のつもりで遺産分割を決めておいたのに、経営者が死亡したときに2億円の財産価値になっていたのであれば、また遺留分の計算をやり直さなくてはなりません。こうした場合、固定合意さえできていれば、遺留分の算定は、あらかじめ合意していた1億円として計算できますので、問題を避けられるというわけです。

さらに、経営承継円滑化法では。「除外合意」という方法を利用することもできます。こちらは、後継者とその他の推定相続人全員で、「後継者に贈与された自社株式等を、遺留分の算定の基礎となる相続財産から除外すること」に合意するものです。

除外合意が成立すれば、遺留分を計算するときに引き継いだ株式はまったく考慮されません。ただし、除外合意をすると、後継者以外の相続人にとっては不利な面が大きいことから、固定合意に比べて合意を得るのが難しいかもしれません。

なお、固定合意も除外合意も、先代経営者の生前に合意をしておく必要があるため、この点も覚えておきましょう。

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中小企業庁ホームページより引用>

 

会社の「経営権」と「財産価値」を種類株式で分ける

最後に、「種類株式」を利用して、遺留分の問題を避ける方法をご紹介します。株式には通常、「会社を経営する権利」と「財産的な価値」が両方ついていますが、種類株式を発行することで、会社の個別的なニーズに合わせてアレンジすることが可能です。

種類株式には複数のタイプがありますが、そのひとつである「議決権制限種類株式」が遺留分の問題に関連します。議決権制限種類株式は、株式の議決権を制限したものです。さきほど説明した「会社を経営する権利」と「財産的な価値」のうち、前者を制限した株式ということになります。

そのため、後継者には議決権のある普通株式を、その他の相続人には無議決権株式を相続させることで、経営権は後継者に渡しつつ、財産的な価値は相続人間で分配するということも可能です。こうすることで、相続人のそれぞれに財産的な価値を分散することができるため、遺留分の問題を避けることができるのです。

なお、遺留分の問題とは関連せずとも、事業承継にあたって有効な種類株式は以下のように様々ですので、必要に応じて検討してみるといいでしょう。

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中小企業庁ホームページより引用>

 

1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター 西南学院大学商学部卒。 2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。
twitter:小林義崇