後継者問題の本質はコミュニケーション不足!?当事者に聞く事業承継の課題と解決策

事業承継問題は、中小企業や小規模事業者を中心に大きな課題となっています。一方で、中小企業庁の小規模事業者持続化補助金をはじめ、事業承継を後押しする政府の動きも活発化しています。果たして、事業承継の課題の本質は何なのでしょうか。そして、後継者問題を解決するためには、何が必要になるのでしょうか。

今回は、自身も温泉旅館の事業承継を経験し、経済産業省中小企業支援ネットワークアドバイザーとして活躍している立石裕明氏と、ベンチャー型事業承継の普及を進める株式会社千年治商店の代表・山野千枝氏にお話を伺いました。

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【 プロフィール紹介 】

立石裕明 氏
  • 一般社団法人 小規模企業経営支援協会 理事長
  • 経済産業省 中小企業施策審議会 専門委員
  • 経済産業省中小企業支援ネットワークアドバイザー
  • 株式会社アテーナソリューション 代表取締役
温泉旅館の3代目として生まれ、1989年に法人を設立し、事業承継・第二創業。
兵庫県商工会青年部連合会長を経て、事業継承・再生に関連する様々なアドバイザー業を行う。
山野千枝 氏
  • 株式会社千年治商店 代表取締役
  • 経済産業省 近畿経済産業局「Next Innovation」事務局 プロジェクトリーダー
  • 大阪イノベーションハブ チーフプロデューサー
  • 関西大学 非常勤講師
  • 一般社団法人 ベンチャー型事業承継 代表理事
  • 大阪市立大学 学長特別顧問
2000年より大阪市経済戦略局の中小企業支援拠点「大阪産業創造館 」の創業メンバーとして活動。広報プロモーションの責任者、事業部長のほか、ビジネス情報紙「Bplatz」の編集長を2017年まで歴任。企業経営者の取材に多数携わる。
2016年には、社史制作、ブランディング立案を手掛ける株式会社千年治商店を設立。最近では、アトツギに特化したベンチャー支援団体「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を設立。若手後継者の事業開発をサポートする活動を展開中。

 親子のコミュニケーションがないままに、後継者不在問題が発生している

――現状における事業承継の課題は何だと思いますか?

山野氏:今の事業承継政策で違和感があるのは、時代が大きく変化しているにも関わらず、昔からステレオタイプ的に描かれてきた事業承継からイメージが変わっていない。また、継がせる側の親側の目線の話ばかりで、継ぐ側の若い世代がどう思っているのかという観点が抜け落ちていると感じます。

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※山野氏

立石氏:私も同じ疑問を感じていますね。事業承継セミナーといえば相続税の話が大半ですが、相続税が関係する会社は1割未満です。なぜなんだろうと考えたところ、事業承継は中小企業庁税務課が担当しているから、税からの発想になってしまうのだと気づきました。

6年前から中小企業庁と連携して様々な取り組みを行っているのですが、担当者もその点には気づいていませんでした。そこからは、若手官僚を集めて事業承継や、小規模企業支援施策に関する議論をする勉強会を開いたり、省庁の会議で積極的に提言したりしています。特に今年の、中小企業政策審議会の小規模企業基本政策小委員会では、中心テーマの一つになっています。

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※立石氏

山野氏:確かに、事業承継に関する政策や支援策では、後継者が決まった会社に向けての税金対策か、後継者がいない会社に向けての事業譲渡、売却という議論ばかり。M&Aの対象になりづらい小規模事業者は置き去りです。後継者不在問題の本質は、後継者がいないのではなく、決まってないだけ。継ぐかどうか、子どもに確認をしていない親がとても多い。

つまり、多くの経営者は候補はいるが後継者は未定という状況のままになっているということなのです。後継者不在問題を解決するためには、20代から30代の子ども世代への訴求が重要になるので、経済産業省に出向き、若い世代に刺さる政策をすべきだと訴えたこともあります。それまでは事業承継への興味関心は税問題やM&Aにばかり向けられていましたが、2016年ころから、後継者不在という事態がなぜ起こっているのか、という課題の本質にも目を向けられ始めてきたと思います。

――後継者不在問題はなぜ起こっているのでしょうか。

立石氏:一番の問題は、後継者となり得る子どもがいるにも関わらず、継承元である親世代の社長が子どもとコミュニケーションをとっていない点にあります。親が経営する従業員数が20人以下の小規模事業者の事業承継では、子どもの「継ぐ覚悟」が重要になります。事業はもちろんですが、それは借金を継ぐことも意味します。私自身、親の借金にハンコを押したのが事業承継の始まりでしたから。

しかし、今の若手後継者の8割は決算書を見ておらず、家業の売上を知る方も半分程度しかいません。借金の額も把握していない人が多いです。それは、親が子どもに事業承継について何も話をしていないからです。子どもが家業について把握していなければ、後継者候補にはなりません。目の前に跡継ぎがいるのに、コミュニケーションを怠ることで後継不在問題に発展してしまうのです。

山野氏:私は大学で、親が商売を営んでいる学生を対象に、家業の経営資源で新規事業を開発する授業を主宰しているのですが、地方から関西に出てきている学生がすごく多いんですね。実家にいたのは高校までで、親と家業をどうするかについて話す機会はありません。そして、最近の親世代は、「同じ苦労させたくない」という方も多く、子どもに遠慮して「継いでほしい」と言えない傾向があります。

子どもは家業のことを気になりつつも、親子ならではのデリケートな関係のまま、子どもが都会で就職する。そして、親子のコミュニケーションが全くないままに、「なんとなく」継がないことになってしまう。これが地方の後継者不在問題の本質なんです。そのため、若い世代が、社会に出る前に家業の可能性を知るきっかけを作るだけで、全く状況は変わってくるはずです。

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第三者の協力も得ながら、早めに家業について話し合うことが重要

――後継者不在問題を解決するためには何が必要ですか?

立石氏:やはり、親子でしっかりコミュニケーションをとり話し合うことです。そのためにも、まずは親に感謝しなければなりません。親がここまで商売して、地域社会に貢献してきたこと。そして、子どもをここまで育ててきたこと。そのことに感謝しましょう。親には商売に関する知恵と工夫があります。例えば母親の愛想が良く顧客の心をつかむのが上手い、父親が従業員の個性を熟知しているなど。そういった小さな知恵と工夫が、会社を支えてきたのです。跡継ぎとなる子どもは、感謝の気持ちを持ち家業について「敬聴」してみましょう。

跡継ぎの子ども世代を支援するためにも、中小企業庁は2013年に小規模事業者持続化補助金をスタートさせました。簡易な経営計画書を提出すれば、販路開拓などの取り組みなどに使える補助金が支給されるという制度です。この制度を活用して、親子での一歩を踏み出してみてはどうでしょうか。

山野氏:経営者の家庭に育った子どもは、経営者として大きなポテンシャルを持っています。幼いころから親の苦労を見ており、会社経営にはいい時も悪い時もあるということをすでに理解しているのはすごいことなのです。そのポテンシャルを発揮してもらうためにも親子のコミュニケーションの機会を様々な場面で用意してあげることが重要になると思います。

例えば、私が教える大学の授業では家業をテーマにした宿題を出しているのですが、それをきっかけに親子でコミュニケーションをとるようになります。そうすると、一番変化するのが実は親なのです。「創業の歴史と経営理念について教えて」と子どもから連絡がくると、「もしかしてあいつ、うちの商売に興味があるのか?」「継ぐかもしれないんだったらいい会社にしておかなければ」とスイッチが入る。経営のバトンを渡す後継者がいると思いながら経営するのと、いない状態では、企業の成長の仕方も大きく変わってきます。

一方で、事業承継では親が足かせになるケースも散見されます。継ぐことが決まり、子どもが新しいことをやろうとすると親が立ちはだかることが多いのです。親は、アトツギが暴走しないように見守りながら、彼らの挑戦を後方支援するのが本質的な駅伝型経営だと思いますね。

立石氏:そこで大事な役割を果たすのが、商工会、商工会議所の経営指導員の第三者ですよね。第三者には親も子どももお互いのことを褒めるのですが、本人同士は直接話さないので伝わりません。なので、第三者が間に入ってお互いの想いを伝えることで、コミュニケーションがうまくいくようになります。

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山野氏:あとは、「事業承継について、どのように話を切り出せばいいのか分からない」という相談をよくもらいます。いきなり面と向かって話しをするのも気まずい、うまく話せず喧嘩してしまうかもしれないなどと悩む方が多いんですね。そういった場合は、親子で車に乗ってドライブに行こうとアドバイスします。ドライブ中は冷静になりますし、目的地までのリミットタイムが決まっています。そして、お互い目を合わせず横並びになるので話しやすいんですよ。

立石氏:私の場合は、親と話し合っても喧嘩になってしまい、関係がこじれたまま親が亡くなって悔しいという連絡も多くもらいます。親が生きているうちに感謝して、コミュニケーションをとることが大事と何度も伝えているにも関わらず……親が死んでしまったら、決算書も売買契約も銀行も、何もかも分からない状態になってしまいます。そして、不利な条件の契約書に何も分からずハンコを押し、資金繰りで苦しくなるというケースは何度も見てきました。後の苦労を考えても、早めに親子でコミュニケーションをとるべきなんです。

継ぐ者だけではなく、バトンを渡した人の居場所をいかに作れるか

――親と子の話し合い以外にも、事業承継を進めやすくするコツはあるのでしょうか?

山野氏:事業承継が進まない理由の一つに、親世代の退き際の悪さもあります。引退した後の居場所がないことを不安に思うのか、後継者に経営権を譲らない。今の経営者層は、長らく第一線で活躍してきた、まさに叩き上げの経営者といっても過言ではないでしょう。だからこそ、経営者ではなくなった自分の在り方がイメージできないのです。

立石氏:それは間違いなくあるでしょうね。私も20代で経営者となったわけですが、今からサラリーマンになれと言われても難しいです。だからこそ、どうやって継がせるかを考えるのはもちろんですが、継がせた後に自分がどうするかということまで、両輪で話し合っていかなければいけないでしょう。

山野氏:そういう意味では、アトツギが家業のフィールドで、自分で考え出した新規事業で挑戦するのが早ければ早いほどいい。若いうちは失敗も容認してもらいやすいし、その中で小さな成功体験も積み重ねていけば、経営者としての自覚もスキルも育っていくものです。結果的に、いま問題になっている、企業の世代交代の高年齢化も多少は解消されていくと思います。

立石氏:実際、事業承継を早くやればやるほど、その後の売上が伸びるという統計(※)もあります。どうせなら子どもが40歳になるまでに行った方が良いでしょう。今なら、元社長向けの起業支援サービスというのもあるかもしれませんね。
(※)参照:「中小企業白書 2013」(p.130:「事業承継時の現経営者年齢別の事業承継後の業績推移」)

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親が築いた土台を使いながら、新しい可能性を探っていく

――事業承継を進める中で、子ども世代が気を付けるべきポイントはありますか?

山野氏:家業を継ぐということは、必ずしも親と同じ事業をすることではありません。先代たちが長い時間をかけて培ってくれた経営資源をベースに、自分が持つノウハウや得意分野を家業に持ち込んで、親にできなかった領域のビジネスを自分がやってみよう、と考えればよいのです。そうすれば逆に、家業に対する敬意も改めて生まれるものです。

立石氏:どんな時でも、親への感謝を忘れないことも重要ですね。今の自分があるのは、まず間違いなく親の努力があってこそですから、そこは土台として持っておかなければいけません。その上で、親とうまくやっていくためには、計画書などをしっかり作って見せてあげるのが良いと思います。相手も経営者ですから、仕事に対するプライドがあります。なんとなくこんなことがやりたいと伝えるだけでは、決して首を縦には振らないでしょう。そんな時、事業計画書がきっちりとあって、ともすればそれを国や自治体の経営支援施策に申請したりできていれば、より説得もしやすくなるはずです。

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今ある知識やノウハウを最大限に活かせば、事業の可能性は広がる

――山野様は事業承継をより普及させるため、「アトツギソン」というイベントも開催されているそうですね。

山野氏:はい。アトツギソンとは、「跡継ぎ」と「マラソン」を組み合わせた造語で、親が事業を営む34歳未満の若者を対象に、家業の経営資源を活用した新たなビジネスを三日間で生み出し競い合うイベントです。みんな最初は恐る恐るいらっしゃいますが、同世代で、アトツギという同じバックグラウンドを持っている立場として、すぐに打ち解けられていますね。そして集まった皆さんをグループ分けし、10年、20年後の本業となるようなビジネスを考えてもらいます。

私たちスタッフは、この三日間、彼らのことをベンチャーの卵として対応するんですが、それだけで、皆さん一気にスイッチが入って、次々に新しいビジネスアイデアを考え始めます。を前回行った時は、町工場の跡継ぎ3名のグループが最優秀賞を獲得し、今では事業化にも発展しています。

立石氏:例えば鉄工所の跡継ぎが一番詳しく知っているのは、やっぱり鉄工所に関することなんですよ。だからこそ、鉄工所に関連する何か、を事業として考えることをスタート地点にした方が、うまくいく確率も高くなるのです。自分の領域をベースに、例えば同業他社はどんなことをしているのか、何をして成功しているのか、という形で視野を広げていけば、今後の家業に必要な要素も自然と見えてくるかもしれません。それこそ最初は、「TTP」(徹底的にパクる)、で良いんですよ。

――対談を終えて

事業承継が抱える課題を常に客観視しながら解決を支援するお二人の対談から、「親子のコミュニケーション」がいかに重要であるのかを聞き取ることができました。これから制度の整備や第三者による支援が進み、今よりも「継がせる側」「継ぐ側」の負担が軽減させることが期待されます。しかし、当事者同士である親子のコミュニケーションの中にこそ根本的な解決の糸口が見いだせるのではないでしょうか。

継ぐ子供へのリスペクト、そして事業を守り抜いてきた親への感謝をお互いが少しずつでも言葉にすることの大切さを学びました。