まだまだ敬遠されがち……「会社売却(M&A)」による事業承継の実際のところ

近年、少子化の影響により、後継者が見つからないという中小企業が増加しています。事業承継がスムーズにいかないため経営者が引退することができず、経営者の高齢化も進んでいる状況です。

親族や社員・役員などから後継者が決まらない場合、M&Aを利用しての第三者承継に踏み切る企業も増えていますが、まだ敬遠している人も少なくありません。そこで今回は、会社売却による事業承継のメリット、デメリット、リスクなどを見ていきましょう。

f:id:ats_satomi-iwamoto:20180824174821j:plain

M&Aはマネーゲーム?難しくて分からない?

M&Aというと、「マネーゲーム」というイメージを持つ方も多いかもしれません。たしかに、90年代のバブル崩壊後、割安となった日本企業をめがけて買収を仕掛ける「ハゲタカファンド」が取りざたされたこともありました。しかし近年では、きちんとした交渉の場を設けて、双方の合意のもと円滑な事業承継を実現した例も増えています。

また、家業として長年事業を続けてきた経営者の中には、「家業を売却するなんて、先代に申し訳がたたない」「周囲に知られたら恥ずかしい」と考える方もいるようです。中には、長年勤めてくれた従業員の処遇に悩む方もいるでしょう。しかし、後継者が見つからないままでは、いずれにせよ自分の代で家業をたたむという選択肢を選ばざるを得なくなるのです。稼業をたたむくらいであれば、事業意欲のある第三者の手にゆだねて新たな成長ステージの扉を開くほうが、会社や従業員のためにもなるのではないでしょうか。


中小企業のM&Aは「株式譲渡」が多い

M&Aとは、合併(Merger)と買収(Acquisition)の頭文字をとったもので、簡単に言うと会社を売り買いするという意味です。広義のM&Aは、「資本業務提携」、「合併」、「買収」、「会社分割」に分類されます。M&Aの手法はさまざまありますが、中小企業を対象とする場合に多いのは、対価と引き換えに株主が保有株式を他社へ譲渡する「株式譲渡」による会社売却です。

ただ、企業の財務状況や買い手企業との交渉によって相応しいスキームは異なるため、専門家と相談し、自社にふさわしい方法を選択することをおすすめします。

(参照:日本M&Aセンター「M&Aとは/M&A成功のために」


「M&A」と「廃業」、メリットが多いのは断然M&A

会社を売却した場合、廃業を選択した場合と比べてこれだけのメリットがあります。

後継者問題の解決

従来の日本社会では、「実子が家業を継ぐもの」という考えが根強く残っていました。そのため、実子がいない場合は、親族から養子を取るか、従業員の中から優秀な者を養子や婿にして家業を継がせるというケースも多かったのです。

しかし、最近は少子化で子どもの数が少なくなっていることに加え、職業選択の自由を尊重する風潮もあり、親族が継ぐという圧力はなくなりつつあります。また、市場が縮小する中、後継者にいらぬ苦労をさせたくないという方も多いかもしれません。こうしたジレンマが、事業承継を難しくさせています。M&Aによる事業承継を選べば、優良企業に自社の将来を託すことで、後継者問題を根本的に解決できるのです。

会社に新たな成長ステージを描ける

M&Aで会社を買収したいという買い手企業の多くは、事業拡大意欲があり、財務的な基盤も強い企業です。こうした優良企業を戦略的に利用して、自社の未来を託してみてはいかがでしょうか。廃業するよりも従業員の雇用を守ることができ、取引先との関係も維持できます。

自社にはない技術力や資本を持つ企業からの支援を得ることで、会社の新たな未来が描けるかもしれません。また、会社売却ではなく、一部の事業だけを売却する「事業売却」を選択し、不採算事業や非コア部門を売却することで、事業の選択と集中を進めるという選択肢も考えられます。

廃業コストがかからない

会社を廃業するには、意外とコストがかかるものです。廃業にかかる手続きを依頼する専門家への報酬や、店舗や事務所の原状回復費。設備の廃棄費用にさまざまな税金など。廃業にかかる費用と、事業譲渡によって得られる売却代金からM&Aの仲介手数料を差し引いた金額を比べてプラスになるようであれば、M&Aを選択すべきといえるでしょう。

創業者利益

中小企業が廃業する際に最も大きな問題となるのが「借入金の個人保証」です。中小企業の多くは、増資や出資ではなく金融機関からの融資に頼っています。こうした場合、経営者が個人保証しているケースが多く見られます。廃業しても借り入れ金の返済に追われるため、経営者自身の生活のみならず、後継者にも多大な負担をかける可能性があるのです。

その点、会社売却によって債務も含めて譲渡をすれば、こうした問題から解放されることができます。また、会社を売却して現金化することで、創業者は利益を得られるのです。その利益を手にして安楽に引退しても良いでしょうし、売却代金で新たな事業を興しても良いでしょう。

このように、会社を売却することで、経営者は後継者問題の解決と、自らの第二の人生の両方を手にすることができるのです。

M&Aによるデメリットやリスク

一方、M&Aにはデメリットやリスクも考えられます。

会社が売却できない、想定していた価格で売れない

M&Aでは「将来的に価値が見込める企業」かどうかが重視されます。そのため、現在は業績好調な優良企業であっても、将来の頭打ちが予想できる場合は思うような価格で売れないこともあり得ます。

加えて、M&Aは売り手・買い手ともにタイミングが重要なので、売り時を逃してしまうと売却できない、思った価格で売れないということになりかねません。

社内の混乱や従業員・取引先の反発

「会社をM&Aで売却する」という噂が広まれば、従業員や取引先、融資を受けている金融機関が不安を感じるのは間違いありません。そのため、事前に情報がもれないように細心の注意を払いながら交渉を進めなければなりません。

また、せっかくM&Aが成功しても、買収後に従業員同士が反目しあうと多くの場合、買収された側の企業の従業員が離職してしまいます。従業員のモチベーションや雇用を損なうことがないよう、従業員の雇用や労働条件については相手方とよく話し合うようにしましょう。

M&Aに悩んだら専門家に相談を

M&Aの実務には、税務や法務など、さまざまな専門知識が必要とされます。M&Aが「専門的で分からない」と感じている方は、専門の仲介業者やアドバイザリーに相談することをおすすめします。

最近では、国も中小企業のM&Aによる事業承継を後押ししており、各地の中小企業支援センターなどでもM&Aに関する相談を受け付けています。後継者問題でお悩みの場合は、廃業を選ぶ前にこうした専門機関に相談してみてはいかがでしょうか。

(参照:中小企業庁「事業引継ハンドブック」