税負担ゼロで事業承継できる。平成30年度からますます使いやすくなった事業承継税制を解説

フリーライター(元東京国税局職員)の小林義崇です。

後継者に経営を引き継ぐために株式を渡すとき、考えなくてはならない相続税や贈与税の問題。場合によっては大きな負担となる可能性がありますが、「事業承継税制」の仕組みを利用することで、税負担の猶予を受けながら事業承継をすることが可能です。

今回は、従来からの事業承継税制の仕組みとともに、平成30年度に新たにスタートした特例措置について解説します。

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国税庁ホームページより引用>


事業承継税制を使うと、どのような効果があるのか

前回の記事では、経営している会社を後継者に引き継ぐために株式を移転すると、贈与税や相続税が発生することを説明しました。とくに、会社が多くの資産を持っていたり、業績が好調な場合には、思いもよらぬ税負担が生じる可能性があります。

そうすると、納税資金を準備するために引き継いだ株式を売却するような事態に陥り、会社経営を続けられなくなる可能性もあります。こうした問題を避けるために利用できるのが、「納税猶予・免除」の制度(以下「事業承継税制」)です。

事業承継税制を使うと、経営を継続する限りは、引き継いだ株式に本来課せられる贈与税や相続税が猶予されるため、「税金の問題で事業を引き継げない」という問題を避けることができます。

それでは、ここからは事業承継税制の仕組みについて解説しましょう。事業承継税制は、従来からの方法(以下「一般措置」)に加え、新たに2018年1月から期間限定の特例(以下「特例措置」)がスタートしました。一般制度と特例制度は、どちらかを選択して利用できますので、まずは一般措置について解説します。

まず、一般措置を利用したときの効果として、自社株式を承継した際の贈与税、相続税が以下のとおり猶予されます。

  • 総株式数の最大3分の2までの株式にかかる贈与税100%
  • 総株式数の最大3分の2までの株式にかかる相続税80%

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中小企業庁ホームページより引用>


つまり、後継者が引き継いだ株式が全株式数の3分の2以内であれば、生前贈与されたときには贈与税の100%を、相続で引き継いだ場合は相続税の80%が猶予されるということです。

ただし、ここで負担しなかった税額は、あくまでも「猶予」されているものですから、要件に合致しなくなれば、いったんは猶予された税額に加え、利子税を加算した金額が課税されることになります。そのため、要件をきちんと理解しておきましょう。

それでは具体的に一般措置の要件を見ていきましょう。代表的なものは以下のとおりです。ここでは先代経営者をA、後継者をBとして要件を整理しました。

【一般措置の要件】

  1. Aが、会社の代表者であった
  2. AからBに株式を相続した場合、Aの相続開始の直前において、BがAの会社の役員であった
  3. AからBに株式を贈与した場合、贈与の3年前から引き続きBがAの会社の役員であった
  4. 会社が中小対象企業である(上場会社などは不可)
  5. 従業員の雇用を5年間平均で8割を維持している

これらの要件のうち、4と5は相続や贈与が終わった後も継続してクリアしなくてはならない要件です。そのため、一般措置を利用した場合は、以下の図のように都道府県や税務署に定期的に書面を提出しなくてはならず、この書面の提出が遅れた場合も、猶予された税金や利子税が課されてしまいます。

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中小企業庁ホームページより引用>

一方、猶予されていた税金が免除されるというケースもあります。上記の図のとおり、最低5年は事業を継続する必要がありますが、その後に以下のケースに該当した場合、猶予されていた税額は免除され、納税義務が消滅します。

  1. 次の後継者に贈与した場合
  2. 会社が倒産した場合
  3. 後継者が死亡した場合

つまり、経営を引き継いだ人が、さらに次の後継者に贈与や相続で株式を渡した場合や、会社そのものが倒産した場合には税額が免除されるということです。ただ、ここで株式を渡された人には、新たに贈与税や相続税がかかってきます(新たに事業承継税制を利用することもできる)。


「特例制度」スタートで使いやすくなった事業承継税制

平成30年からスタートした特例制度も、基本的な仕組みは一般制度と同様であり、引き継いだ株式にかかる税負担を猶予してもらえるというものです。ただし、一般措置と特例措置には、以下の図のとおりの違いがあります。

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国税庁ホームページより引用>

これらの相違点のうち、とくに影響が大きいと思われるのが、「対象株数の要件が撤廃された」ことでしょう。一般措置では、全株式の3分の2までの株式にのみ対応していましたが、残る3分の1も引き継いだ場合には、猶予してもらうことができません。一方、特例措置では全株式について猶予されます。

しかも、納税猶予割合も、相続税の場合は一般措置だと80%であったところ、特例措置では100%になりましたので、特例措置を使えば、贈与税と相続税のいずれも税負担ゼロで後継者に引き継ぐことができるようになりました。

また、一般措置では、「先代経営者から1人の後継者」という1対1の関係で適用されていましたが、「複数の株主から最大3人の後継者」への承継が可能になったため、会社ごとの実情に応じて対応できます。

さらに、一般措置では従業員の雇用を維持する要件があり、このハードルの高さから一般措置を利用できないケースも多かったのですが、特例措置ではこの雇用維持要件を残しつつも、クリアできなかった場合は、理由報告するなどすれば救済されるようになりました。

このように、特例措置を利用することによって増えるメリットは大きく、本記事で紹介していない細かな変更点もいくつかありますが、事業承継を予定している人によってはより円滑に経営を引き継ぐことができるようなったのは間違いありません。

ただし、特例措置を利用するためには以下の手続きをとる必要があります。これを満たさない場合、一般措置を選択せざるを得ないため、注意しましょう。

  1. 2018年4月1日から2023年3月31日までに「特例承継計画」を提出する
  2. 2018年1月1日から2027年12月31日までに贈与・相続をする

ちなみに、「特例承継計画」とは、会社の後継者や、事業承継までの経営見通し等を記載したもので、認定経営革新等支援機関(税理士や商工会など)の所見を記載したものです。これを期間内に作成し都道府県知事に提出しなくてはなりません。

また、一般措置と同様に、猶予を受けている期間中は税務署に届出を定期的に提出する必要があるなど、複雑な手続きがあります。したがって、一般措置と特例措置を問わず、事業承継税制を利用する際は税理士など専門家に依頼した方が安心でしょう。

 

1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター 西南学院大学商学部卒。 2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。
twitter:小林義崇