日本社会の縮図?!経営者も高齢化が進んでいる

総務省の統計によると、2017年10月1日時点での日本の人口は7年連続のマイナス。65歳以上の高齢者はなんと、総人口の27.7%を占める3,515万2,000人まで達しています。少子高齢化が進む日本の縮図とも言えるのが、中小企業の経営者の年齢です。中小企業庁によると、中小企業の経営者の引退年齢は、平均すると67歳~70歳。会社の規模や業種にもよるものの、高齢化が進んでいると言えるでしょう。

(出典:総務省統計局「人口推計(平成29年10月1日現在)」

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後継者難を理由に廃業する企業は3割

経営者の高齢化とともに問題視されているのが、「後継者難が深刻化している」という点です。日本政策金融公庫の調査では、中小企業経営者の2人に1人が自分の代で廃業を予定しています。同調査では、経営者の廃業予定年齢は平均 71.1 歳となっています。

廃業理由は、「当初から自分の代かぎりでやめようと考えていた」が38.2%で最多、次いで「事業に将来性がない」が27.9%と続きます。さらに、「子どもに継ぐ意思がない」「子どもがいない」「適当な後継者が見つからない」という、後継者難を理由とする回答を合わせると、3割に達します。

廃業予定企業の多くは個人企業で従業員が少なく、金融機関からの借り入れがない、業績や将来の見通しが暗いなど、容易に廃業を決断できる傾向にあります。一方で、4割を超える企業は「今後10年間の事業の将来性について、事業の維持、成長が可能」と回答しています。

つまり、事業としては将来性がまだ見込めるのに、後継者難など他の理由で廃業を選ばざるを得ない企業がこれだけいるということです。これは、日本全体の損失だと言えるでしょう。

(出典:日本政策金融公庫「中小企業の事業承継に関するインターネット調査

世界に名だたるあの中小企業も後継者難で廃業に

オンリーワンかつ世の中に必要とされる技術を持ちながら、後継者難のために廃業を選ばざるを得ない企業として、「痛くない注射針」を開発して世界を驚かせた岡野工業(東京都墨田区)があります。穴の直径が90ミクロン、外径が200ミクロンという蚊の針と同サイズまで金属管を細くすることができる岡野工業の技術は、まさに日本のものづくりの粋と言えるでしょう。

その岡野工業も、社長の岡野雅行氏が2月に85歳を迎え、あと2年で会社を閉じるつもりだといいます。岡野氏には娘が2人おり、腕のよい職人だった娘婿を後継者に育てようとしたものの、技術と経営では得意とする分野が異なり、結局会社を去ることになったそうです。「日本のものづくりの将来が見えない」という理由から、孫やその他の親族を継がせるつもりもないといいます。ただし、岡野工業のコアである注射針の製造技術は、共同で特許を取得した医療機器メーカーに移す予定だそうです。

(出典:黒字廃業増加の深刻さ・・あの「岡野工業も」

後継者を決めるまでに10年かかる企業も

岡野工業と似たような状況は、他の中小企業でも多数見られます。中小企業の経営者の引退年齢は平均で67歳~70歳といわれますが、帝国データバンクの調査では、経営者が70~80歳代になっても、事業承継の準備が出来ている企業は、全体の半数ほどしかありません。これでは、経営者に万が一のことがあった場合、会社が立ち行かなくなることも容易に考えられます。

なぜ事業承継が進まないのかという理由はいくつか考えられますが、中でも多いのが「経営者(後継者)が問題の深刻さを把握していない」という点です。「まだまだ自分は元気だから大丈夫」という意識でいる経営者も多いかもしれませんが、事業承継は数年~10年の長期スパンで取り組むべき課題です。もし70歳で引退するなら、60歳時点で後継者が決まっていないとなりません。

ところが、「中小企業白書」 によると、後継者探しを始めてから了承を得るまでに3年以上かかったという企業が約3割に上り、中には後継者を決めるだけで10年かかった企業も存在します。職業選択の自由を尊重する時代になり、実子がいても必ずしも家業を継がなくてはならないという圧力が軽減されていることから、後継者探しが難航していると考えられるのです。

後継者が決定してから数年がかりで経営者としての教育を行うとなると、10年はゆうに超えてしまいます。これらを踏まえれば、いかに早め早めの行動が大切であるかを認識できるのではないでしょうか。

(出典:中小企業庁「事業承継・廃業―次世代へのバトンタッチ―」(帝国データバンク調査結果)

「資金難」が事業承継の妨げに

また、後継者問題が起きる理由として「資金難」を挙げる企業もあります。中小企業であっても、業績が好調な優良企業は、事業承継時の株価の評価額が予想以上に跳ね上がることがあります。そうなると、保有株式の買い取りや、相続税、贈与税などの負担が後継者にのしかかることになります。

一方で、廃業を選ぶとしてもそれなりの資金が必要です。廃業にかかる手続きを行うための専門家への報酬に加え、税金の支払い、店舗や営業所の原状回復費用、機材や設備の廃棄費用などが必要になります。また、中小企業の場合、経営者が会社の債務を個人保証していることも多いため、廃業しても金融機関への返済に追われる可能性もあるでしょう。会社を廃業しても、経営者は自らの生活を維持していかなくてはならないので、資金は重要な問題なのです。

M&Aによる第三者承継で新たな成長ステージを

最近では、後継者難に悩む中小企業の間で、会社売却や事業譲渡といったいわゆるM&Aによる事業承継も増えています。実子や親戚による「親族間承継」に対し、こうした方法を「第三者承継」といいます。先のインターネット調査では、「事業を継続させるためなら売却してもよい」は26.9%に上ります。

第三者承継を選んだ場合、資金力や技術力、経営ビジョンのある企業に会社や事業の未来を託すことで、自社努力だけでは叶えられなかった新たな成長ステージを開くことができる可能性があります。また、従業員の雇用や取引先との人脈も維持することができます。さらに、債務を含めて先方に譲渡することで、経営者も資金の心配をすることなく、第二の人生を始めることができるのです。

優秀な中小企業の廃業は社会の損失

ここまで、日本社会全体の少子高齢化が進む中で、経営者にも高齢化問題や後継者難が広がっているという点について見てきました。技術力があり、事業の展開が望めるのに、廃業を選ばなくてはならないというのは社会の損失です。日本のものづくりの灯を絶やさないためにも、事業承継問題に真剣に取り組む必要があるのです。