「スタートアップは受託をやるべきか?」──経営幹部たちが考える、永遠の経営課題との向き合い方

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ITの世界に身を置く方なら、「本業が疎かになるから、受託は請けないほうがいい」「受託をやったからこそ得られるものがあった」という議論を目にしたことはあると思います。

今回、この単純には結論が出せないテーマでの鼎談が実現したのは、株式会社SmartHR CFO 玉木 諒さん、OLTA株式会社 CSO(Chief Strategy Officer) 武田 修一さん、freee 株式会社 執行役員 武地 健太の三名。
全員が京都大学を卒業し、CxOとして資金調達を牽引するなど経歴にも共通点が多く、大企業とスタートアップ、銀行と VC それぞれの事情に理解を持っています。

受託は手段であり、新興企業が受託をやるかで悩むという状況は、つまり資金を欲しているということ。その “資金のつくり方” について様々な角度からフラットに掘り下げていくことで、受託が適している企業とそうではない企業の違いに迫りました。

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左から、OLTA株式会社 CSO 武田 修一さん、株式会社SmartHR CFO 玉木 諒さん、freee 株式会社 執行役員 武地 健太

ーまずは皆さんのご経歴を伺って、どんな視点で資金繰りを考えられるのかを整理したいと思うのですが。

SmartHR 玉木:
私は京都大学の文学部を卒業した後は、公認会計士としてあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)に就職しました。監査法人のあと、一番長く勤めたのはベンチャーキャピタルです。当時はシード期を中心に、多いときには 120 社ぐらいのスタートアップを支援するチームに所属していました。

その後、2017年10月に SmartHR に CFO として入社し、今はスタートアップ側で経営管理の責任者をしております。

freee 武地:
私は京大の総合人間学部を卒業しました。私も最初は公認会計士として監査法人に就職して、コンサルタントに。freee に入社してからは CFO として2016年の資金調達を担い、去年は会計事務所向けの事業全体を推進し、今年からは金融事業を統括しています。

「freee カード」という事業用クレジットカードの知名度があがってきましたが、他にも freee と連携した銀行ローンや OLTA さんと連携したファクタリングなどスモールビジネスの資金繰りを改善するサービスを提供しています。

OLTA 武田:
私は京大の経済学部を卒業しています。新卒でソニー株式会社に入社し、ゲーム事業であるPlayStationビジネスの経営戦略担当等を経て、2017 年に OLTA というfintechスタートアップに CSO として参画しています。

OLTA はクラウドファクタリングといって、「入金待ちの売上、つまり請求書を売却することで資金を確保する」というオンライン完結型のファイナンスサービスを提供しています。特に日々の運転資金の資金繰りで悩まれている新興企業の経営者の方にご利用いただいています。

freee武地:
三人とも今まで多くの新興企業や金融機関とお付き合いをしてきたので、それぞれの事情は把握していますよね。加えて玉木さんは VC、武田さんは大企業の立場が分かるので心強いです。

今回は受託に限らずあらゆる資金調達手段を整理しながら、スタートアップの資金繰りについて掘り下げていければと思います。

 

“助成金と創業融資のあと" の資金調達が難しい

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ーまずは監査法人と VC の経験がある玉木さんに、新興企業にとっての資金繰りの選択肢をお伺いさせてください。

SmartHR 玉木:
世の中で一般的に言われている"ベンチャー企業” には創業から数年の若い会社すべてが当てはまりますが、"スタートアップ企業" と、それ以外の企業で分かれると思います。

スタートアップ企業を "短期的・飛躍的に、世の中に新しい価値をつくることを目指している企業” と定義すると、メインはエクイティ(株式発行による資金調達)です。外部に株式を発行して資金を入れる形ですね。

OLTA 武田:
スタートアップの中でも、経営スタンスで二つに分かれるかもしれませんね。

早期の事業売却やスモールイグジットを狙う事業であれば、資金調達は自己資金と創業融資だけで黒字化・事業売却まで走り抜けられるかもしれません。一方で、年単位の時間をかけて大きな目標を狙うとなると、ある程度の期間は赤字が続くことを覚悟しないといけないので、エクイティ調達しかなくなるんですよね。

freee 武地:
短期間で飛躍的に成長しようとするとエクイティがメインになるのはよくわかります。freee もプロダクトの成長を実績として、チャネルを拡大するタイミングで何度か資金調達を行ないました。

一方でスタートアップに限らず、つまり "中小企業"・"ベンチャー企業” という大きなくくりでいえば、エクイティよりはデット(借入などの負債による資金調達)が圧倒的に多く、補助金や助成金を活用される方もいらっしゃいます。デットでも特に日本政策金融公庫は圧倒的に利用されていて、経営者なら誰しもが通る道という印象です。

SmartHR 玉木:
キャッシュフローの観点だと補助金や助成金がもらえるのは後からになるので、申請しておいて運転資金はローンで借りるという形になります。

今は国の方針もあって日本政策金融公庫を使いやすい時期なので、スタートアップ企業も創業融資をよく受けています。シード期だと、株式投資を受けることができても 1 年間の運転資金にも満たないこともままありますし。

 

創業直後の主な資金調達方法f:id:ats_satomi-iwamoto:20181127162451p:plain

 

freee 武地:
ただ、助成金を申請して、創業融資でローンを組んだ "次" のフェーズで困る企業が多い印象です。数名規模の企業にヒアリングをしていても、「公庫以外からお金を借りる方法がわからない」という声をよく聞きます。

SmartHR 玉木:
スタートアップでも、銀行とどうお付き合いして良いかわからず、最初は苦労する会社が多い印象ですね。

freee 武地:
しかも、銀行に関する都市伝説があるじゃないですか。「銀行を頼っても断られちゃうよ」「しかも、一度断られたらもう二度と借りられないらしいよ」っていう噂が耳に入ってくるから気軽に相談に行けない…という声もあります。

OLTA 武田:
弊社のお客様からも同様のお声を伺いますね。

一方で、銀行がスタートアップに融資しづらいのも無理はないと思うんです。銀行内のルールとして、融資するかという判断基準は実績重視なので、たとえ銀行の担当者が社長や事業の将来性に共感しても、実績の乏しいスタートアップ企業に融資することは難しいですから。

SmartHR 玉木:
日本政策金融公庫の方々は「ベンチャー・スタートアップという新しいものを理解しよう」という姿勢を強くお持ちのようで、セミナーを開いたりと尽力されている印象があります。ただ、一般的な金融機関全般にまでその流れが来るには時間がかかるかもしれません。

OLTA 武田:
そもそもIT 企業だと、ビジネスモデルが理解されづらいですからね。銀行の融資基準だと、足下が赤字なだけで融資はかなりハードルが高くなると思います。

たとえば以前、自社での売上中心の事業から、他社から仲介手数料収入を得る事業にシフトした会社の話を聞いたことがあります。

事業リスクは下がり粗利の総額は増え、健全な成長が見えてきた頃に銀行に相談をすると、“年商が減ったので”銀行からの評価が下がってしまった…という。

freee 武地:
相談に行く銀行や担当者との相性もありそうですよね。ご縁に恵まれればいいんでしょうけど…。

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「会社の資産になる受託」と「本筋からズレてしまう受託」

ー資金が必要な時には、受託事業で資金を調達する企業も少なくはないですよね。みなさんはスタートアップが受託事業をやることについて率直にどうお考えですか?

freee 武地:
SmartHR さんは受託事業をされていたことがあるんですよね?

SmartHR 玉木:
創業時は受託事業を並行でやっていたそうです。ですが当時、「このままだとズルズルいくからダメだ」と、自社プロダクトに舵を切った経緯があります。

freee 武地:
経営的には「受託をやめる」という決断は大変だと思いますが、何かきっかけがあったのですか?

SmartHR 玉木:
受託事業をやっていると、納期だとかクレーム対応だとかに追われて、どうしても意識が受託ばかりに向いてしまうんですよね。

freee 武地:
たとえば「受託が 2 : プロダクトが 8」という風に、割合を決めていてもダメなのでしょうか?

SmartHR 玉木:
SmartHR は創業者が二人いるのですが、例えば受託は何割やる、と決めていたそうです。ただ、受託を 3 割以下に抑えようと決めていても、気持ちは 3 割以上を持っていかれていたと

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freee 武地:
その気持ち、わかります…。

SmartHR 玉木:
SmartHR では、受託事業をやめたことで "本筋ではない道に逸れない” という文化が根付いているように感じます。お客さまの状況を伺って「契約していただけそうだな」と感じても、あくまでプロダクトの導入で予算をいただこうと。

freee 武地:
私も個人的に同じような状況を経験したことがあるので、気持ちは分かるかもしれません。本能的に「そっちに行くとまずいんじゃないか」と思いますよね。

OLTA 武田:
ただ、絶対に受託がダメというわけではなくて、受託事業が会社の強みや信頼に繋がる場合もありますよね。

私の前職のゲーム業界は、受託案件も織り交ぜながら自社プロダクトを成功に導くのがうまいのです。

中小のゲーム制作会社が大手からの受託案件で頭角を現し、会社のブランドが知られることで、自社ソフトの大成功にまで繋げた有名な会社もあります。

受託案件を売上の安定化だけでなく、従業員のスキル向上、ポートフォリオの充実、さらには外部からの評価アップにまで繋げたわけです。

ですので、重要なのは何のために受託開発をするかですよね。

freee 武地:
確かに私の友人の会社でも、受託事業で売上が安定しているから資金調達ができた、というケースはあります。

本業に生きたり、その後の調達につながったりする受託ならアリなのかもしれませんね。いずれにせよ、受託の位置づけを相当明確にしておくか、ブレない強い心が必要そうですが(笑)。

 

2回目以降の主な資金調達方法f:id:ats_satomi-iwamoto:20181127162820p:plain


資金が苦しいときの選択肢は「借りるか、受託か」だけではない

ーでは、受託事業をせず、自社事業に集中していて資金が足りなくなりそうな場合、資金調達はどう動けば良いのでしょうか?

SmartHR 玉木:
前提として、銀行も VC も、単なる “延命” のためにお金は出せません。プロダクトが伸びているなら、支援してくれる人はどこかで見つかると思います。

軌道に乗る前に資金が危なくなった場合は、やっぱり受託事業で資金を稼ぐか、社内の業務を整理してお金の流れを最適化するかという選択肢になります。

freee 武地:
創業期のうちに、資金が苦しくなった際には、デットやエクイティでの調達以外の手段があることも知ってもらいたいですよね

たとえば「入金の予定はあるけど、今使える現金が少ない」という程度の状況なら、支払いをクレジットカードで後払いにする、ファクタリングや交渉で入金を早めるといった手法は利用できると思います。

SmartHR 玉木:
私はファクタリングというと大企業の施策というイメージがあったのですが、スタートアップでも使われるようになっているのですか?

OLTA 武田:
そうですね。融資よりも心理的なハードルが低いと考える方もいます。

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たとえ少額でも、やっぱり “借金” となると長い期間「どうやって返済しようか…」と意識してしまうじゃないですか。ファクタリングは売掛金をお金に換えて完了なので、若い頃からヤフオクやメルカリで手軽にものを売っている世代にとっては、手離れの良い一つの選択肢として使えるのかもしれません。

OLTA だと手数料は 2~9 %に抑えていますから、まさにクレジットカード払いで 3〜4 %の手数料をかけて支払いを後ろ倒しにするのと同じような感覚で、売上を前倒しできるツールとしてご利用いただいています。

 

資金繰り改善のテクニック

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積極的に受託をやりたいのでなければ、あらゆる選択肢をフラットに考えよう

freeee 武地:
ちなみに玉木さんは、VC 時代に支援先のスタートアップから受託をやるべきか相談を受けることはありましたか?

SmartHR 玉木:
経営は安定するわけですし、「受託は請けないほうがいいですよ」とは言いづらいですけど、気をつけていたことが一つあります。

経営者も人間なので、ある程度の収入が入るようになって安定すると満足してしまいがちです。特に創業期にお金で苦労したことがある人ほど。そうなると一種の “中毒症状” といいますか、経営が本筋からずれていくということが過去VCをやっていたときにはありました。

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一同:
あ〜〜(苦笑)。

SmartHR 玉木:
ですので、当時は常に「今回得られるお金で何をしますか?」「どういう経営戦略ですか?」と確認するようにしていました。

freee 武地:
それ、大事ですね!

OLTA 武田:
仰るとおりで、結局は何を目的に経営するか、が重要ですね。受託によって金銭面以外にも得られるものがあって「受けたい」「受ける意味がある」なら悪くはないと思います。一時的な収入の安定化のためにやりたくない案件を請けるのは、かえって経営上のリスクかもしれませんね。

SmartHR 玉木:
資金繰りを最適化しながらエクイティ中心で走るのか、受託をやることで会社を成長させるのか。受託はあくまで外部からの資金調達のためなのか、本業に生かすためなのか。

それぞれの特性を理解して考えることで、スタートアップの経営全体の改善に繋がると思います。

freee 武地:
人って弱いから、流されないため、“中毒症状” から抜け出すためには伴走者も必要かなと思います(笑)。

でも、そのフラットな目線は大切ですね。本日は良い話が聞けました。ありがとうございます!

 

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執筆:Hiroaki Takahashi
富山県高岡市出身。地方国立大学の工学部から音楽業界を経て、複数の IT 系事業会社にてマーケティングとクリエイティブの境界を消しながら "PR Editor (ディレクター)" として働く。「21 世紀における Public Relation とは、オープンソースの情報の塊である」という思想のもと、Web サイト・メディア、LP・SNS 広告、動画、プレゼン資料などの企画・制作業務を通して企業ブランドを編集する。
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