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2019年11月21日(木)

銀行を味方につける経営のために行うべきポイント ~銀行交渉ガイド~

経営ハッカー編集部
銀行を味方につける経営のために行うべきポイント ~銀行交渉ガイド~

銀行交渉。ひとことで言っても、金額・金利・借入期間・借入形式など、その要素はたくさんあります。また、それ以外にも企業の明日の資金繰りや資金調達を円滑に進めるために経営者が考えなければならないことは多岐に渡ります。

金融機関が明かしてくれない資金調達のためのロジックをよく理解し、同時に自社の決算書の内容を熟知することで、最善の銀行交渉を実現する考え方を紹介します。

 

1. 勝てる企業の"銀行交渉"はココが違う!交渉術の「良し・悪し」とは

 

クラウドファンディングや仮想通貨をはじめとして、金融業界はここ数年だけでもテクノロジーの力でガラリと変革しています。これまで人の手を介し、時には「貨幣」という物質を介して進められてきた金融行為ですが、購入・売却、さらには資金調達に至るまで、令和の新時代では電子世界で展開できるようになりました。

しかし、数ある金融行為のなかでも唯一「銀行からの資金調達」のみは、今も昔も銀行員が会社に来訪し、社長や経理部長と膝を突き合わせて面談を行い、実行されるスタイルがおおむね変わってません。

傘が平安時代から傘のままであるように、こうした「銀行交渉」も金融機関が変革を起こすその日まで変わらないのかもしれません。そういうわけで、企業にとって最も重要な資金調達の現場には、今も昔も人間味あふれる世界が広がっているのです。

デジタルには0と1で紡がれる明確な法則があり、それを掴んで仕組みを支配する側に回れば意図しない結果は導かれません。しかし、銀行交渉は企業の最重要マターの1つでありながら、多くの企業経営者のなかで未だブラックボックス──つまり「どのように交渉するのが正解か」が明らかになっていないと言えるのではないでしょうか。

取引銀行とWIN-WINの関係を中長期視点で築き、企業の資金調達を最適化するにあたってのポイントとは何か。財務コンサルティングを行う者目線で、実際の中小企業の現場に向き合った事例から紹介していきます。


 

2. 銀行交渉における最重要目的とは

 

ひと口に"銀行交渉"と言っても、その目的は多岐に渡ります。思い浮かべやすいのは「適切な金利で借りるため」「希望通りの金額で融資をしてもらうため」といった類の交渉ですが、企業にとって重要な目線は、まず一にも二にも「自社の資金繰りに合った期間設定と借入形式を取るため」という点に尽きると考えます。

国内は今や誰もが知るマイナス金利時代──空前のカネ余り状態です。金融機関の数も多すぎると言われ、近隣の銀行同士で相見積もりを取って0.1%水準をしのぎあう不毛な金利交渉をすることもできますが、実際に得る利益は雀の涙ほどしかありません。

それよりもまず、

  • 自社が年間で生む収益(≒キャッシュフロー)より年間の元金返済額が多くならないか?
  • 返済が進んだ頃に、また借り直しが必要になる借り方になっていないか?
  • 経営に必要な資金と、設備を買う資金は色分けして借りることができているか?

といった、なによりも資金繰りを優先した交渉テーブルを自社発信で作ることが、実は今後の経営をストレスなく進めることができる最短ルートです。

「えっ、資金繰りが優先? 資金繰りをうまく回せるよう銀行員に融資を依頼しているのに、あえて交渉の場でもう1度資金繰りを意識するのか」と感じた読者も多いかもしれませんが、ここが落とし穴です。

たしかに銀行員は融資のプロであり、間接金融という手法を使ってあらゆる資金ニーズに応える手法を持っていますが、それは1件1件の融資について適切かを確認しているのみであり「全体感(決算書・借入のバランス)」まで把握しコントロールできるのは自社だけと考えましょう。

また、銀行も営利企業であり収益をあげることが至上命題なため、時には企業の資金繰り以上に銀行が得る収益が最大化されるような融資提案をしてくることがあります

 

 

3. 勝てる社長が行う「良い」銀行交渉

 

では、企業が目指すべき銀行交渉のゴールが分かったところで、交渉を有利に進めている企業の社長が交渉を進める上で気をつけていることはなにかを紹介しましょう。

ずばり、勝てる社長は圧倒的に「財務表現力」の高さが際立っているのです。「財務表現力」と1単語にしてしまうと、一見なにか特別なプレゼン能力を持っているかのように感じてしまいますが、決してそうではありません。

言い換えれば、勝てる社長は銀行員と会話するときに自社の現状や業績をなんとなく語るのではなく、常に決算書・試算表・資金繰り表といった自社の数字ベースの情報を頭に集約しており、それを適切な順番と使い方で発信する力を持っているとも言うことができます。

たとえば、銀行員は決算書の過去3期分程度をもとに取引先企業の財務状況を格付(ランク決め)し、その格付を最も強い判断根拠として融資実行の可否を検討しています。

決算書をしっかりと理解しないまま銀行と対面し、融資の話をするということは、せっかく先方が使っている武器の強みや弱点が書かれた説明書が目の前に落ちているのに、見過ごして丸腰で戦おうとしているに等しいと言えます。

勝てる企業の社長であれば、決算書は貸借対照表から損益計算書、さらに分解してキャッシュフローなどの銀行が特に注視する指標を把握した上で、弱点と思われるポイントには明確な理由を付与した状態で決算書を提出するはずです。

銀行も、自分が最も重要だと考えている判断軸(決算書)を、より具体的に解説されれば「これ以上にありがたいことはない」と、丁寧に耳を傾けてくれること間違いありません。

さらに、決算説明が資金繰り表や上場企業のIRのような資料の形式で企業から丁寧に提出されたとしたら……。こうした動きが最終的には銀行からの融資条件をますます向上させる要因となってくるのです。

また、財務表現力は社内モチベーション向上においても副次的に良い効果をもたらします。これまで決算書の中身を理解しておらず「誰の、どんな行動が、会社のなにに貢献しているのか」が理解できなかった状態から、社長がポイントを絞って財務の重要指標と業務の関連性を伝えることで、社員の目指すべき方向性が明確化され、よりやる気をもって業務に励める環境が生まれるはずです。

結果ますます財務状況は向上し、銀行から高いレベルで評価を受けることもできるでしょう。

 

4. これだけはNG! やってはいけない銀行交渉

 

一方で、多くの企業の現場では一見スムーズに金融機関との交渉を進めているように見えて、実は金融機関にいざという時助けてもらえなくなるような「危ない交渉」をしている企業もたくさん存在しているのが現実です。今度は反対に「これだけはやってはいいけない」という銀行交渉に関してお伝えします。
 


例)A銀行は50百万円の融資に対して、金利1.0%、期間5年であれば融資するという提案書を出してきている。ほかの銀行であればさらに条件が良くなるかもしれないと、社長はこのAの提案書をB銀行、C銀行、D銀行に見せて「これ以下なら借ります」と交渉した。そして、B、C、D銀行の提案書をもって、E銀行へ…。



仮に低金利で融資を受けていたとしても、ちりも積もれば山となって相応の金利コストが発生するため、企業としてはできる限り安く融資を受けたいという気持ちがあるはずです。また、一般的に企業が1つの大きな買い物をする際には、必ず同業他社に相見積もりを取って、よりメリットのあるほうを購入するという方法を取ると思います。

しかし、銀行においては、たとえ複数行に融資を同時に依頼することがあったとしても、決して上記例のような露骨な「金利の叩き合い」だけは避けるのが望ましいでしょう。

というのも、既に過去国内にあった「メインバンク制(自社が最も重点的に使う金融機関が明確に決まっていた時代)」は既に廃止となって久しい現在でも、銀行は「他行とのバランス」を極めて重要視しています

比較的すぐに取引銀行を変更したり、金利だけで寝返ってしまう金融取引がアンバランスな企業に対しては、どの銀行も「メインバンクとしての役割」を果たそうとしてくれなくなってしまうでしょう。
 

自社が好況な時は新規の銀行も含めて、調子よく訪問・提案が続くかもしれないので、それでも良いのかもしれません。しかし、いざ業績が悪くなった時にはどうでしょうか。

過去、他行への肩代りをくらっていきなり融資取引を解消されたり、「他行の提案書があるから」と何度も金利を下げさせられた銀行団が、厳しい時だけ助けてくれと門扉を叩いて「はいそうですか」と手を差し伸べる可能性は、極めて低いと考えた方が良いでしょう。

借入の返済ができなくなりそうな場合、業績不振の企業が「リスケジュール(返済猶予の設定)」の話で取引銀行をすべて呼び、説明を行うバンクミーティングを開催します。

その場でなにより銀行団の調整役として力を発揮するのは、長く取引しながら情報を適切に発信し、互いにWIN-WINの関係で動いてきたメインバンクです。

もちろん企業が業績不振になって最も損害を被るリスクが高いのもメインバンクなのですが、だからこそ業績再建に真剣になるという関係性を作ることが可能です。取引末位の金融機関は「最悪、残った融資だけ返してもらえれば"トンズラ"できるな」と受けた扱い相応の対応しかしてくれません。

上場企業のように直接市場から資金調達を行う手段を持たない非上場企業であれば、なおのこと金融機関からの調達窓口が多いことは、そのまま企業経営の安定に繋がります。必要以上に媚びへつらうことなく、一方でないがしろにしない適切な距離感を取りたいところです。

 

5. まとめ:相手を知り、己を知ることの重要性

 

今回は銀行交渉というテーマに関して、特に「自社を知ること(=自社の決算書や試算表の内容をきちんと理解し、適切な言葉で発信すること)」の大切さと「銀行を知ること(=銀行が実は取引のバランスを重要視しており、適切な距離感で取引を行うべきこと)」についてお伝えしました。

ビジネス書でもよく引用される孫子の言葉にも「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉があるように、銀行交渉においても自社を知り銀行を知れば、今までまったくのブラックボックスだった世界が晴れやかに見えてくるようになるでしょう。

まずは自社に眠っている過去3年の決算書のページをめくってみることから、はじめてみてはいかがでしょうか。


文:船井総合研究所 金融・M&A支援部 片山孝章

 

 

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