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2016年08月10日(水)

改正電子帳簿保存法で、企業の書類保存プロセスはどう変わるのか?(後編)

経営ハッカー編集部
改正電子帳簿保存法で、企業の書類保存プロセスはどう変わるのか?(後編)

佐久間先生

改正された電子帳簿保存法について、freeeの認定アドバイザーであり、『平成28年度改正対応こうなる! 国税スキャナ・スマホ撮影保存』を出版された「佐久間税務会計事務所」の佐久間 裕幸先生に、2016年1月1日から「改正電子帳簿保存法」について詳しいお話を伺いました。

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今回は後編をお届けします。

”スマホ撮影保存”は零細企業のほうが使いやすい制度

零細企業の場合には、経理担当者が不在の場合もあります。社長自身が通帳のコピーとか、小口現金の出納帳、おこづかい帳みたいなものをまとめて税理士に渡して入力してもらってますって会社も多いです。彼らがfreeeを使えばどんどん経理できてしまいます。

最後の「きちんとスキャナができてますか、スマホで撮影ができてますか」のチェックを税理士がやれば、社内にそのチェック役の人をちゃんと置く必要はないという特例が設けられています。社員がどんどんスマホで撮影して送って、顧問税理士がfreeeの共有のアドレスを持っていれば、税理士のところでチェックできます。

――送っちゃえばいいだけですね。

もちろん、税理士が会社まで行って会社で見てもいいんですよ。

――従業員が一人の会社でも、個人でもできるということですね。

そうです。だからこそスマホ撮影保存は零細企業のほうが使いやすい制度だと思いますよ。小さい会社で一人何役もやらなきゃいけない社長さんが、もうちょっと本業を頑張れるっていうことにはなります。一番高い時給を取る社長が、本来なすべき仕事に集中できます。

――この制度が10年後に当たり前に浸透したと仮定して、なくなってしまう仕事も出てくるでしょうか?

参考記事 10年後になくなる仕事、残る仕事 あなたの仕事は?

いろいろ出てきた資料から入力をしてやっているけど、合っているかどうかわからないから上司がチェックする、あるいは顧問税理士がチェックをするっていうような、その最初の入力をする労働集約的な経理仕事はなくなるかも、ですね。

――ただのパンチャー仕事は淘汰される可能性はあるのかも。

今までは、一生懸命に預金通帳から入力していましたけど、ネットバンキングをしていればfreeeに読み込むと、ある程度の仕訳案までつくってくれるじゃないですか。私もやってみましたけど、日経新聞の購読料、通帳に「ニッケイシンブン四千何百円」って書いてあったら、ちゃんと新聞図書費っていう仕訳案つくってきますよね、freeeって。

ただ、実際には郵便物を受け取るとか、請求書を発送するとか、電話を受けるとか、いろんな雑務ってどの会社にも必ずあります。経理専業ってたぶん小さい会社にはいなくて、そういう業務全般をするわけです。それから、旅費精算の遅い営業マンに、「○○さん早く出してくださいよ」って小言を言う役目もあったりします(笑)。完全になくなるということはないと思いますけど、逆を言うと経理業務以外の業務に集中できますね。

スマホではなく、ガラケー撮影でもOK

――ちなみに、スマホ撮影保存のために必要な機材にはどんなものがありますか?

最低限まずスマホがあること。それから、freeeなり、あるいは他のクラウドソフトなり、スマホ撮影保存に対応するクラウド会計ソフト会社と契約して、最低限それが操作できるパソコンを持ってること。

あと要件を満たす上で、規程とかもなきゃいけないんですけど、たぶんその規程のひな型はクラウド会計ソフト会社さんが御社の名前をこことここに入れさえすれば完成しますよって形で提供しなきゃいけないと思うんですね。もちろん、顧問税理士が提供する手もありますけど、ユーザさん全てが顧問税理士と契約してるわけじゃないので、そこはクラウド会計の会社が提供するんだと思います。要するに、申請書一式セットみたいなのを用意しておいてあげる。

<参考リンク> 領収書・請求書は、紙で保存から電子保存へ

freeeでは電子帳簿保存法に対応のスキャナ保存を簡単に行なうことができます。書類管理に加え、関連する会計処理も一緒に効率化できます。

――ただ、申請書の記入の代行までやってしまうと、税理士法との兼ね合いがありますが……。

記入フォーマットの提供はOKなんじゃないですかね。ユーザさんがユーザ登録情報から自動で読み込ませて、住所、社名、代表取締役の名前を入れ、あと自分でその画面の中に何年何月分からスマホ撮影保存に移行したみたいな記入事項を書いていく画面を用意するところまではたぶん大丈夫ですよね。作成してるのは本人ですから。代わりにつくってあげちゃうとまずいでしょうが。

だから、システム的な簡単に申請できるユーザインターフェースを用意しておけば、ユーザ側はそこにつながるパソコンと撮影するスマホとかデジカメがあればいいと。デジカメも最近はWi-Fiでつながりますから、領収書をカメラで撮って、会社へ戻ったらWi-Fi接続でパソコンにデータ移して。それをそのままfreeeのサーバーへという流れでいけるはずです。

――カメラの種類は問わないですか? ガラケーでもOK?

A4サイズの書面を撮影するなら388万画素以上という要件がありますが、そこはクリアしていればガラケーでも大丈夫だと思います。

どの業界がいち早く電子帳簿保存法を活用し始めるか?

――写真のクオリティさえカバーすればおそらく世の中にあるあらゆるカメラが使えると…。ちなみに業界、業種、もしくは会社規模、どこが先に普及すると予想しますか?

現実的には、コンサルティング業とかシステム開発業、ソフトハウスですかね。スマホとかで画像データにして、そういうデータの取り扱いに抵抗感がない会社が先になると思います。

――動きが早いというか、柔軟なんですかね。

あと、「3日以内にタイムスタンプ付けるんだから、撮影したら3日内に送ってね」とか、最低限のルールをきちっと示したら社員が従ってくれないと困るわけで、会社の通達を読まないような社員がごろごろいる会社だとなかなか進まないでしょう(笑)。

でもきちんとした企業は一人一人が付加価値の高い営業をしてるはずですし、靴底減らして稼ぐって時代ではありません。彼らの旅費精算のための時間が60分かかっていたものを15分に縮められたら、残り45分で売上につながる仕事ができます。旅費精算のために帰社する必要がなくなる等の無駄が消えれば直行直帰ができるとか、いろんな形で従業員の生活のクオリティを上げたり、会社の生産性を上げたりということができるんじゃないかなと。

――よい制度ではありますが、そんなルールがあることすらまだ一般には知られていないような。

電子保存法は税理士もしっかり啓蒙していかないと。『平成28年度改正対応こうなる! 国税スキャナ・スマホ撮影保存』を書いたときも、最後の章を「税理士はどう対応したらよいのか」という税理士の方々向けの内容にしました。情報を知っていただくことで、顧問先にそのメリットを伝えることができると思います。

極端なこと言うと、スマホで撮った画像をfreeeに送って、freeeで仕訳案にして、それでよければそのままOK押せば仕訳になりますという処理をしていて、電子帳簿保存法の申請をしないで、旅費の精算書そのまま紙でとっててもたぶん効果あるんじゃないかなって気はします。

税理士業界がもっとコンサルティング能力を高めようという話は、税理士向けの雑誌とか新聞の中でさんざん書かれてはいますけれども、実際には帳簿を付けるプロセスに追われてしまうことが多いです。

――それが現実なんでしょうね。

クラウド会計と税理士が共に発展できる世界に

クラウド会計ソフトに一部を肩代わりしてもらう形で、税理士に時間ができてくると、社長への相談やコンサルティングに時間を費やせるわけです。しかも今までは、会社まで行かないと帳簿が見れないとか、あるいは税理士事務所のほうが1カ月後に入力し終わらないと社長は見れない状況から、クラウドを両者で共有しているからいつでも確認できます。

「これとこれとこれの仕訳間違ってたから直しておきました。確認してください」みたいなやり取りでちゃんとした帳簿になってくわけです。で、「1カ月分がたまったから打ち合わせしましょうか」という形で、社長が来てもいいし、税理士が行ってもいいし、なんならスカイプで会議やってもいいんです。本当に大事な仕事である顧問先の社長とのコミュニケーションが十分にできる環境が整ってきたと思っています。

――そういう意味では税理士さんにとってウェルカムな下地ができつつある。

できたかなと思います。

――クラウド会計って不安はあるよねというお話がありましたが、佐久間先生ご自身の事務所でクラウド会計ソフトを取り扱うにあたり、リスクに関してはどのようにお考えですか?

メリットはアップデートが常に行われて最新が使えること。不具合があってもすぐ修正される安心感があります。あと、パッケージソフトよりも修正のリリースが早いので、そういう点ではいいですね。

ただ、そういう修正をする提供企業側の力があるかどうかは大事なので、きちんと事業として成功していないと。最後はその企業の信頼性や安定性が求められるかと思います。

パッケージの会計ソフトの場合でも、5年間その会社のソフトで帳簿付けてきたけど、6年目にその会社が破綻したとします。「もう新しいバージョンは出ませんし、消費税が10%になっても誰も面倒見れません」ってなったら、他社のソフトに移るでしょうけど、過去3年比較の試算表とか出せないですよね。なぜなら過去のデータが入っていないから。

――クラウドの破綻はもっと怖くて、過去の分のデータが消える…かもしれない。

パッケージソフトであればとりあえず動くし、過去データも一応見ることはできる。新しいソフト使いはじめたから連携は取れないけれど、2年前のあの取引ってなんだっけってなればとりあえず確認はできるわけですよね。でも、クラウドだとそもそもサーバーからなくなるかもしれないという、そういう怖さをぬぐえない人はまだいらっしゃいます。

――それがブレーキになって、「いや、まだかな」となる?

利便性が高ければ大きなブレーキにはならないかも。freeeさんもしっかりした金額の資金調達をしているのですから、「○○ベンチャーキャピタル他何社へのファイナンスを実施して、何億円、あるいは十何億円調達しました」といったニュースリリースはしっかり出すべきかもしれません。

――なるほど…。最後に『平成28年度改正対応こうなる! 国税スキャナ・スマホ撮影保存』を出版された想いをおきかせいただけますか?

ようやくユーザとして使えるスキャナ保存、スマホ撮影保存制度になったと思うので、それをあとはいかにわれわれ民間側が使うかという意味で、それを伝えるための1冊にしたかったんです。

いろんな関連業界の人にこういった情報が伝われば、会計業界、あるいは税理士業界ともに変わってけるかなと思います。特にクラウドとこの制度の相性がいいっていう意味では、そこのところは訴えてかないと。クラウド会計と税理士が共に発展していけるといいですね。

――貴重なお話、ありがとうございました!

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取材協力 「佐久間税務会計事務所」佐久間 裕幸様

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