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2017年03月24日(金)

「女性の就労支援と雇用創出をしたい」一人で株式会社の設立へ

経営ハッカー編集部
「女性の就労支援と雇用創出をしたい」一人で株式会社の設立へ

※Will Galleryにて(株式会社Will Lab 代表取締役 小安 美和 様)

株式会社リクルートジョブズの執行役員として活躍されていた小安さん。会社員として働きつつ、自分のやりたいことを実現するためにどのように独立し、法人を設立したのか。その想い、決断にいたる覚悟、実際に苦労したことについてお話を伺いました。

教育支援や女性の就労支援をしたかったが、ビジネスモデル構築に難儀

きっかけはシンガポールに住んでいたときに、途上国の貧困を目の当たりにしたことですね。教育支援や女性の就労支援をしたいと思ったんですが、当時はスキルもなく、何をしていいのかもわからなかったんです。結局、NPOが主催するツアーに参加して、文房具を買って持っていく…くらいしかできませんでした。そのとき、もっとサステイナブルに仕組みとしてお金を回していけるようなビジネスモデルを作りたいと思いました。

とはいえ、それまで事業をイチからつくる経験がなかったので、2年くらいビジネスを学んだら卒業するつもりで2005年にリクルートに入社しました。結果、11年間も在職することになりましたが(笑)。


起業マインドの作り方その1 "一人合宿"で自分の未来を描く

ベースとなる考え方は「一人合宿」で形にしました。自分で考案した一人ブレストのようなものです。始めたきっかけはリクルートでの研修です。その研修で「リクルートの30年後を描きなさい」という課題が出たのですが、自分の30年後も見えてないのに会社の30年後なんて描けないぞ、と。そこで、まずは自分の30年後を描いてみようと、1泊2日でホテルに缶詰めになってひたすら考えまくりました。

最初に自分の原点となるような体験、やりたいと思うことを書き出してみたんです。私は「だれもが自分の生まれ持った能力や、ありたい姿(Will)を軸に、働き、生きられる社会になったらいいな」ということを書き出しました。

では、自分は具体的に、どんなアプローチで、どう貢献できるのか。そこを考えると、今の自分自身ができること、やるべきことが整理されます。中長期的には、ずっと気になっていた途上国の女性や貧困層に貢献したい。ゆくゆくは世界の女性の雇用創出に取り組みたいというビジョンも見えてきた。ここまで来たら、それらをプロットして30年くらいのマイルストーンを引いていく感じですね。


起業マインドの作り方その2 絵を描いて自分と向き合う

他に影響を受けたものに、(株)ホワイトシップが提供する「EGAKUプログラム」があります。人には誰でも創造性、クリエイティビティがあるけれど、普段の生活ではみんなそれを出さずに既存の枠組みの中に生きている。絵を描きながら自分の中に眠っている創造性が引き出されていく…そんなプログラムです。

実は、リクルートの分社化の際、新会社のビジョンを創るというミッションがあって、そのときにもこのワークショップを活用させていただきました。最初は一人ひとりの声を取りまとめて創ろうと思っていたのですが、言葉にしてしまうとバラバラになってしまって…。そんなときに、絵を描くというアプローチで組織変革をしている面白いワークショップがあると聞き、これを取り入れてみました。まず当時の執行役員やマネジャー全員に絵を描いてもらい、そこから個々の創造性や考え方を引き出して、言語化し、半年かけて新しい会社の目指したい社会を言語化していきました。

個人向けのEGAKUプログラムでは、「自分はどう生きていきたいか、何を大切にしているか」といったテーマが与えられます。描きながら、私はこの後どう生きていきたいか、何を成し遂げたいか、そういうことを考えて40分間自分と向き合います。ちょっと珍しいやり方かもしれませんが、描きながら自分と向き合い、人生通して実現したいビジョンをことばにしていきました。


会社の仕事は面白かったし、やり甲斐もありました。でも、自分自身のWillを実現するために半期の面談のたびに上司には自分のWillを伝えるようにしていました。その時点では起業の覚悟を決めているというより、いずれ起業するくらいの感じでしたが。

もちろん起業するつもりではいたし、そこに向けて動いてはいたけれど、在職中は独立後の準備はほとんどしていません。リクルート在籍中は会社の業務だけに全力投球でしたから。具体的なビジネス構築は、走りきって、一回まっさらになった状態から始めようと思っていました。在職中に準備をして、関連事業を立ち上げる方も中にはいらっしゃいますが、新しいビジネスの準備は退職後に始めようと決めていました。


5年くらいかけて事業領域を絞り込み

もともとは、途上国の女性がつくるハンディクラフトを売るくらいのことしか考えていなかったんです。ただ、それだけでは本質的な支援にならないし、継続的なビジネスにもなりません。今は、単に輸入して売るという小売モデルではなく、ハンディクラフトを売ることを通じて、間にいるアジア・アフリカの(主に)女性起業家の事業成長支援、コンサルティングをセットで行おうとしています。

日本市場においてマーケティングとブランディングをしながら販売をサポートしつつ、先方の事業戦略のコンサルティングもするということです。自分がリクルートで経営企画業務に携わってきたことで、自身の貢献できるスキルは小売販売そのものではなく、事業戦略や事業成長の磨き込みだ、というように考え方が変わっていきました。

加えて、途上国の支援をしようと思っていたけれど、11年リクルートにいた間に時代が変わり、「日本自体が途上国なんじゃないか?」ということに気づいたこともあり、国内の女性の就労支援もテーマとすることにしました。子どもの貧困率が社会課題となっていますが、それは、母親の就労率の低さにも課題があるのではないかと考えました。

※従業員有志を集め、被災地スタディツアーを3年間実施、被災地女性の就労スタディツアーも。

グローバル視点から、国内の就労分野における男女格差を課題として、リクルート在籍時からすでに育児中の女性の就労支援プロジェクトを行っていましたが、地方は手付かずになっていました。地方には求人メディアがなかったり、多様な人を採用するために必要な職場環境・条件整備のやり方をアドバイスする人がいません。

いまも旧来の方法で求人広告を作り続けていますし、工夫といっても、求人の緊急度が増すにつれて「急募」の文字サイズを大きくする…くらいしかできていません。こうした分野では、私がリクルートで培ったノウハウも活かせますので、国内においては特に地方の女性就労の課題に取り組もうと決めました。

カンボジアでリサーチ…ビジネスモデル検証…高速でPDCAを回した1年間

先に述べたとおり、私がやりたいことは国内であれ、国外であれビジネスモデルをゼロからつくることです。マーケットは存在せず、ニーズも顕在化していません。ですから、1年間実験をしてから法人化しようと考えました。実際の事業構築は辞めてからですね。

NPOでもなく、行政でもなく、ビジネスとして地方や途上国の女性就労支援をしている方は、ほとんどいません。この分野での新しいビジネスモデルを創るため、最初の半年をリサーチ期間と位置づけ、ルワンダ、カンボジア、タイなど様々な国に行き現地の様子を見たり、国内の地方マーケットを見に行きました。いくつも小さなPDCAを回して、実験的にビジネスモデルの検証を行ったりしました。

※カンボジアでリサーチしていたころ。ハンディクラフトによる女性の雇用創出にチャレンジする現地起業家と

一人になって気付いた、テクノロジーのありがたさ

思えば、会社勤めはとても恵まれた環境でした。スケジュール管理は秘書が、売上管理などは、担当部署やってくれます。サラリーマン時代は事務作業はほとんどやっていません。満足にコピーもとれないくらい(笑)。しかし、会社を辞めてからは、それらを自分一人でやらねばなりません。パソコンが壊れたときにサポートを頼む部署もありませんから、今までやってない作業や手続きを自分で経験することになります。

ハンディクラフトの販売を始めた頃は、販売している商品をひとつひとつ地道にエクセルに入力し、販売管理をしたりしていました。でも、POSレジを使えば、すべて自動でできてしまいます。事務処理が苦手な人間でも、テクノロジーがあれば生きていけるんだなということがわかりました。会社を辞めたことで、「テクノロジーって本当に素晴らしい」と気付きましたね。

しばらくは一人で運営していこうとしているので、freeeでマイナンバーの管理とかもできるのは素晴らしいですよね。個人情報を持つのはリスクですし。でもテクノロジーのおかげで、一人でやっていける自信がつきました。

どんな基準で税理士や司法書士を選べばいいかわからない苦労

3月8日に設立をしたくて外部の方にお願いしていたのですが、本当にその日に間に合うかドキドキしました。なぜ3月8日にこだわるかというと、その日が国際女性デーであるのと同時に、私の名前が「美和」なので3と8(ミワ)…という。ただのゲン担ぎなのですが、どうしてもその日に設立したかったんですよ。

後から知ったことですが、「会社設立freee」というサービスがあったんですよね。ちょっと使ってみたんですが、そのときは専門家サポートというのがあることに気付かなくて…。

私たち依頼者側にとって悩ましいのは、税理士や司法書士の探し方でして、どんな基準で選べばよいのか、どの情報を信用すればよいのかが全然わからない。私が起業したいと言っても、「税制的には個人事業主のままが有利ですよ」とおっしゃられると、素人なので従ってしまうことも。最初は「専門家が言うのだから…」と真に受けて、個人事業主のままでいいのかなと思ってしまっていた時期もありました。

AWSEN(アジア女性社会起業家ネットワーク)会議に参加

※釜石市の地方創生アドバイザーとして、主婦就労支援プロジェクトを実施

個人事業主が得と言われると、「あなたは起業するには値しない人物、社長の器ではない」と言われているのではないかと勝手に受け取って落ち込んだりもしました。一般的に女性は男性に比べて自己肯定力が弱いと言われていて、私は強い方だと思いますが(笑)、そんな私でさえめげそうになったこともありましたね。

でも、女性起業家として尊敬する方に、「リクルート辞めて、個人事業主になりたかったわけじゃないでしょ?」とおっしゃっていただき、「そうだった!」と目が覚めました。別に節税をしたくて独立したわけじゃないんだ、大きいビジョンを実現したくて起業したんだ、と気付けたんです。そして、ようやく本当の意味で腹をくくることができました。

専門家との関わり方で注意すべきこと

相談相手は大事です。とくに女性は男性よりも自信がない方が多いので、「専門家」のちょっとした一言が強い制約になることがあると思います。私も税理士さんの言葉を額面通りに受け取っていたら、ずっと個人事業主のままだったかもしれません。起業へのチャレンジを支援してくださる税理士さんを見つけるのは大変ですけど、とても重要なことだと思います。

本来、税理士さんは自分の志を後押ししてくれる、良きアドバイザーであるはず。その方がいてくださるだけで安心感があります。たとえば、パソコンが壊れた場合、自分でも直せるかもしれないけれど、仕組みはわかっていなかったりします。表面的に修復できても、それがなぜ起きたのか、今後どのような影響があるのかまではわからない。専門家として、会計分野で本質的な説明や助言をくださる方だとうれしいです。

あとは、壁打ち相手としても大切な存在ですね。今の税理士さんからは、「法人化したら毎月一回定例会をやりましょう」と言われていて、そんなことが実はちょっとうれしいです。サラリーマンのときは定例ばかりで死にそうでしたが、今は一人ですから、定期的に人に会えること自体が楽しいですね(笑)。

一方で、「専門家だからと頼りっぱなしでOK」と考えるのは違うと思っています。自分で勉強することって大事ですよね。前職ではいろいろな専門家の方とお仕事をしましたが、最終的に意思決定をするのはこちらです。「何も知らない」ではダメなので、たとえば法的なイシューがあるときは関連事例を自主的に読み漁ったりもしました。任せきりでなく、自分もある程度の知識を持った上で、プロの方とお付き合いすることが大事だと思います。


法人化して感じる変化とこれからについて

法人にするメリットは「信用」が大きいです。大きな案件を請け負わせていただく場合には組織が必要。もちろん実績も、です。…あと、正直、見得はありました(笑)。

法人化したことにより、売上目標を立て、それに向けてどうしたら達成できるかを考えるようになります。だから当然、来る仕事を受けるだけよりも新しい発想が浮かびますし、発想自体が個人事業主時代とは異なってきましたね。法人化を決めてからは、どうしたら新しいビジネスを生み出せるか、事業を大きくできるかといったことを考えるようになりました。

設立直後なので雇用できる段階ではありませんが、事業モデルが構築できたら人を増やしたいです。コンサルティングやワークショップは一人でできても、国境を超えたビジネス等はパートナーがいないと取り組めないことも多いですから。

今はアジア女性起業家のネットワークをお持ちの方とコラボしたり、社外の方とバーチャルなチームを組んで仕事をしています。その中で、いろいろな人が「一緒にこんなことをしたい」と言って下さるので、軸は変わらずどんどん肉付けされているのを強く感じます。すでにいくつか、これまで想定していなかったビジネスが派生して生まれてきそうな気配もあって、これからが本当に楽しみです。

大学卒業後、日本経済新聞社入社。2005年株式会社リクルート入社。エイビーロード.net編集長、上海駐在などを経て、2013年株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長 兼 経営企画部長。2015年、株式会社リクルートホールディングス「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」プロジェクト推進事務局長。2016年3月同社退社。同年9月に個人事業Will Lab設立、2017年3月8日に法人化。国内の女性の就労・キャリア形成支援事業を展開するとともに、アジア・アフリカの女性雇用創出のためのハンディクラフトショップWill Galleryを白金台で運営。
会社名:株式会社Will Lab

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