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2017年07月18日(火)

会社を辞めるのではなく、会社員を続けながらやろうと思った理由

経営ハッカー編集部
会社を辞めるのではなく、会社員を続けながらやろうと思った理由

こんにちは、井田と申します。社会人6年目の27歳です。

私は現在、新卒で入社した大手人材系企業で営業職として働きながら、同時平行で、ネクタイを始めとするビジネスファッションアイテムが月額で借り放題のサービス「KASHI KARI」を運営する株式会社カシカリの経営をしています。いわゆる「パラレルワーカー」です。

出身は神奈川の川崎ですが、社会人1年目から3年間を福岡で過ごし、どこかのタイミングで移住しようと思うくらい福岡を愛しています。ちなみに、現在経営している株式会社カシカリは、「事業譲渡」という珍しい起業の形で去年2016年11月からスタートしています。

今回は、「会社員を続けながらも起業を決心した理由」をお伝えしたいと思います。

「起業しよう」と初めて思ったのは高校時代

神奈川の川崎市内に住み、中学までは公立、高校は受験して私立の大学付属の高校に進学しました。希望を持って進学した高校ですが、ある日突然、鬱病とパニック障害を患いました。病気になってからは、電車に乗ることや教室で授業を受けることができない状態が続き、不登校になりました。病気に苦しむ中でも、当時音楽系のバンドを組んでいた友人からのサポートに救われ、徐々に病状もよくなり、学校にも通えるようになりました。

1~2年生の間は不登校で、病状がようやく回復に向かってきた高校3年の夏。将来のことも考える余裕が出てきたのですが、「こんな病気にかかって、本当に将来ちゃんとした社会人になれるのか」と不安になりながらも、「ちゃんとした社会人」になるために、当時唯一頑張れる思えたことが「勉強」でした。

エスカレーターで進学受験できる学部で最も偏差値の高い学部に行くことを目標に、猛烈に勉強しました。その結果、学年でもトップ20以内に入る成績を成し遂げたのですが、希望学部には進学できませんでした。理由は1年次〜2年次の出席日数の不足による成績不足です。自分で蒔いた種とはいえ、非常に落胆しました。

ただ、幸いにもこのプロセスの中で自分には「努力することができる」、「考えることが好き」という強みを見つけることができ、この強みを活かせる領域を無意識に探していました。そんなある日、ブックオフの100円コーナーで「儲けのカラクリ」というビジネス書を見たときに、閃きました。

「これだ!僕が生きる世界はビジネスの世界だ!」

この日から、起業をすることが目標となり、学生時代もビジネスプランコンテストなどに出場するなどを繰り返しました。

メンズビジネスファッション領域にした理由:価値観を変えた福岡の生活

学生時代から起業はしたかったものの、特にやりたい領域はありませんでした。様々な業界を見ることができるという観点から、大手人材会社に新卒で入社しました。「5年で起業して退職する」と採用面接で豪語したことが昨日のようです。

社会人生活はまさかの「福岡支社」からのスタート。福岡での生活は仕事、プライベート共に非常に充実しており、仕事を通じて成長することしか考えていなかった僕の価値観を大きく変えました。

福岡には、東京にはないものがたくさんありました。自然、混雑のない町や道路、美味しいご飯、豊富な温泉、コンパクトで利便性の高い街、そして友人…仕事ももちろん楽しかったですが、プライベートもとても楽しく過ごすことができました。仕事以外でも生きる楽しみが得られるという気づきは、真面目一本鎗だった僕にとって大発見でした。

最も価値観を変えた出来事は、初めて福岡で買った「オーダースーツ」でした。自分の思い描くイメージ通りのスーツを手にし、初めて袖を通した日は会社に行くのが楽しみで、いつもよりも「今日も仕事頑張ろう」と思えたと同時に、ファッションには「人を元気づける不思議なパワー」があると感じました。

その時から私は、ビジネスファッションの不思議なパワーに魅了され、ビジネスファッションを通じて新たな感動を生み出したいと考えるようになりました。

※まさかネクタイが仕事になるとは…

起業までの道のり

起業の準備としてのMBA

社会人3年目の秋、「5年で起業して退職する」という宣言をしてから、ちょうど折り返し地点に差しかかっていました。その当時、起業はしたいと思うものの、なかなか筋の良いビジネスプランが思い浮かばず、悶々とした日々を送っていました。

このままでは起業する準備が具体的に進まないと思っていた中、MBAを取得されていた当時上司だった方からアドバイスをもらいました。

「具体的なアイデアがないのであれば、まずはMBAに行って、どんなビジネスをやるにしても活用できるビジネスの能力を高めてみれば?」

そのアドバイスを受け止め、「まずはどんなビジネスをやるにしても、使うビジネスのスキル」を身につけるべく、MBAに進むことを決めました。ビジネススクールに入学するための準備を急ピッチで進め、ちょうど社会人4年目になった4月からグロービス経営大学院に入学。経営の基礎的な知識を学び始めました。

僕の人生を変えた出会い

ビジネススクールで、「ベンチャー戦略」というベンチャービジネスのプランを考えるクラスがあり、「ネットで全てが完結するオーダースーツEC」のビジネスプランを構想しました。様々なカスタマーヒアリングやベンチャーの社長さんなど、アドバイスをもらいに人に会い続ける中で、現在経営するカシカリの親会社であるタナクロ社の田中社長に出会いました。

出会った当時は、僕が考えたビジネスプランに関してアドバイスを受けていましたが、ある日、田中社長から、「KASHI KARIをやってみない?」と提案いただいたことから、全てが始まりました。

正直、非常に迷いました。それは、僕自身がやりたいと思っていたビジネスとはシナジーは生まれますが、自分が当時思い描いていたビジネスとは異なるビジネスプランだったからです。一週間悩みに悩んだ挙句、「こんなチャンスは二度とない。断ったら後悔する」と思い、KASHI KARIをやらせていただくことになりました。

※自宅に機材を用意し、撮影しています

本気になったコーチング

今だから言えるのですが、KASHI KARIの経営を承諾したときは、ものすごく悩みました。自分で考えたビジネスではないため、気持ちが入りにくく、納得感もありませんでした。悶々とした気持ちでは事業を前に進めることができないこともわかっていたので、藁にもすがる想いで自分が尊敬するコーチの方にコーチングをしていただきました。

コーチングでは、「自分が置かれている状況で何に悩んでいるのか」、「最終的に何を成し遂げたいのか」を丁寧に整理いただきました。恥ずかしながら、当時は「現職」+「起業」+「MBA」という状況の中で、ただ単に立ち止まって自分の考えを整理する時間を十分に取れていないだけだったのかもしれません。自分の内なる想いの言語化と今置かれている状況の客観視ができる機会を強制的に作ることができ、コーチングはキャパの低かった僕にぴったりでした。

コーチングを受けた結果、当初考えていた「ビジネスファッションで新たな感動を生み出す」というゴールが一緒であることを再認識し、「KASHI KARIをやることは、ゴールに向かう山の登り方が異なるだけだ」と考えられるようになりました。手段が違うだけであると捉えられるようになってからは、当事者意識を強く持てるようになり、一気に事業にのめり込みました。そして今、パラレルワークをしながら、事業を成長させることに奮闘しています。

なぜ、パラレルワーカーという形態を選んだのか?

「会社を辞めて起業する」という選択肢もありましたが、僕はパラレルワーカーという道を選びました。

それはなぜか? かっこ悪い理由ですが、「自信がなかった」のです。

僕になかった「自信」その1:金銭的な事情

事業譲渡で譲り受けたKASHI KARIの事業は、当時まだ始まったばかりのヒヨコ事業で、小さな売上規模でした。人を雇うよりも、投資に回して拡大していくフェーズにあったので、自分の役員報酬もゼロにして、利益は投資に回すことにしました。

役員報酬がゼロということは、貯金がなければ食べていけません。僕は経営大学院に通うためのお金を、奨学金を借りずに全て自分の貯金からまかなっていたので、貯金残高はほとんどありませんでした。生活していくためには、安定的にお金を稼ぐ必要があるので、サラリーマンを続けることにしました。

僕になかった「自信」その2:未熟な経営スキル

僕のキャリアは人材紹介の営業をしたり、人材に関わる新規事業の営業をしたりと人材業界の経験しかありませんでした。しかし、起業した事業領域は「アパレル」。得意領域ではありませんでしたし、経営も初心者です。つまり、「自分が好きだけど、得意ではないことをゼロからやる」という成功確率が低い選択肢を選んだのです。

専門と異なる分野であるぶん、成功確率が高まるまで時間を要すると思いました。本来であれば、会社を辞めてできるだけ早く業界に慣れるべきかもしれませんが、食べていけるだけの経済的余裕もなかったので、自分の経営スキルの未熟さからも、パラレルワーカーを選びました。

僕になかった「自信」その3:人材業界の仕事への心残り

どうしてもやりたかったことが現職でありました。それは、人材紹介業界のサービス水準を上げることです。そのためには、人材紹介業界初の教育機関を作ることが必要でした。その礎を作らないで今の会社を去ることはどうしても納得できなかったため、この仕事をやりきったと思えたタイミングで今の職場を離れたいと思いました。

僕の根本にあるのは、「働く人を元気にしたい」という気持ちです。それは転職や就職のタイミングに携わることや、一緒に働く仲間への影響、そしてスーツを着る全てのビジネスパーソンに「衣」という観点から力になること、全てで実現できると思っています。今の仕事に残りながらやることは「転職のタイミングでいいエージェントに出会うこと」。それを実現するために、これまでなかった人材紹介の教育機関を作る。これをやりきらないと、後々の人生で後悔すると感じ、会社員を続けることにしました。

※会社員と経営者の二足の草鞋はまあまあ忙しいです(笑)

パラレルワーカーを実際にやってみてどうだったか?

パラレルワークで得たこと

パラレルワーカーをやって得たものは、「精神的な安定」です。サラリーマンの給与で生活できますし、何かあったときのための貯金も増やせます。今のところ、明日の飯を食うお金がない不安には駆られていないので、メンタルの弱い僕にとっては精神衛生上良い状態を維持できています。

実際に起業して会社を経営することで、経営大学院では得られない「経営のリアル」を身をもって学べていることは代え難い価値でしょう。経営大学院では、非常に学びはあったのですが、MBAでのディスカッションは所詮机上の空論に過ぎません。実際に経営しているからこそ、執行の難しさがわかる。その難しさをどう乗り越えていくのかまでは、MBAでは考えないことがほとんどだと思います。

何よりも得たことは充実感です。死に物狂いで考え、行動し、熱中できることを見つけられているので強い生きがいを感じますし、毎日を充実感持って過ごせていることに幸せを感じます。

パラレルワークで失ったこと

パラレルワーカーをやって失ったことは、プライベートの時間です。僕は毎日約15時間働いています。プライベートの時間がなくても苦にならない性格の人間なのですが、友人・知人には迷惑かけており、心苦しく思っています。

プライベートの時間がなくなることは、パラレルワーカーの宿命かもしれません。自由な時間がなくなることをストレスに感じる人にとっては、パラレルワークは正直お勧めできません。

※わりと地味な作業もあります

パラレルワークというスタイルを、起業を考えている人に勧めるか?

結論、とくに僕のような独身の方にはぜひお勧めしたいです。ただ、現在サラリーマンをしている会社からパラレルワークを認められない可能性もあります。そこで諦める必要はありません。法人(起業)にする前に、起業のためにできることは多くあるからです。ゼロか100かで考えていると前に進めません。前に進めないことが最大のリスクだと思います。

できることは小さなことでも起業に向けて準備できる絶対にあるはずです。行動しなければ、今の状況を変えられません。行動すれば、今まで見えていなかった世界が少しずつ見えてくるはずです。その行動はサラリーマンを続けながらでも別によいのです。

大手人材会社の新規事業開発部門で働きながら、パラレルで月額ネクタイ借り放題サービス「KASHI KARI」を運営する株式会社カシカリを経営。福岡生まれ大阪・神奈川の川崎育ち。MBA(経営学修士)。今後到来する「パラレルワークが当たり前になる時代」に先んじて、新しい働き方を実践中。また、「デュアルライフ(二拠点居住)」へのチャレンジなども検討しており、新たな時代の働き方のロールモデルを目指す。 ※当連載の内容は個人によるもので、所属する会社を代表するものではありません。

人事労務freee

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