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2019年06月11日(火)

主幹事証券とは?主幹事証券の選び方と引受審査対応について詳しく解説

経営ハッカー編集部
主幹事証券とは?主幹事証券の選び方と引受審査対応について詳しく解説

新規上場を考える企業が、よく耳にするのが上場には監査法人の監査とともに主幹事証券会社による「引受審査」が必要だということです。今回、その主幹事証券会社とはいったいどのような役割を果たし、どのような審査をするのかをわかりやすくまとめてみました。

主幹事証券とは

企業の株式を新たに証券取引所に上場させることをIPO(Initial Public Offering)と言いますが、IPOに際して当該株式の発行会社を支援するのが「幹事証券会社」です。幹事証券会社は、申請会社の上場適格性を審査し、上場可能な要件を備えるべくアドバイスするとともに、上場する先の証券取引所に当該会社を推薦します。そして上場審査をクリアしたのち、上場後には、発行会社の株式を投資家に販売する役割を担います。さらにその後も、マザーズなどの新興市場から、東証一部、二部といった本則市場への上場支援も行っていきます。このとき、幹事証券会社が複数ある場合に、中心的な役割を果たすのが「主幹事証券会社」なのです。
 
幹事証券会社について、日本最大の証券取引所である東証を運営する日本取引所グループによると、以下のような説明がされています。

「上場に際しての証券会社の役割は数多くありますが、上場申請準備段階では資本政策や社内体制整備のアドバイス、上場に当たっての手続きのサポートや公募・売出し等を引き受けるための会社内容の審査(引受審査)などを行います。また、上場のための公募・売出し等を引き受ける際には、一連の事務手続きを日程に従って実行していく役割を担います。
 
なお、上場に関して申請会社を支援する業務を行う証券会社のことを「幹事証券会社」といい、幹事証券会社の中でも中心となって申請会社の上場を支援する証券会社を『主幹事証券会社(事務幹事証券会社)」といい、主幹事証券会社には申請会社の上場にあたり、取引所に対して「推薦書」を提出いただきます。」

また、幹事証券会社として以下の候補会社が挙げられています。
 
藍澤證券株式会社、いちよし証券株式会社、エイチ・エス証券株式会社、エース証券株式会社、SMBC日興証券株式会社、株式会社SBI証券、岡三証券株式会社、ゴールドマン・サックス証券株式会社、JPモルガン証券株式会社、大和証券株式会社、東海東京証券株式会社、東洋証券株式会社、野村證券株式会社、マネックス証券株式会社、みずほ証券株式会社、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社、メリルリンチ日本証券株式会社、UBS証券株式会社

こういった証券会社は金融商品取引法において、30億円以上の資本金が必要であると規定されています(金融商品取引法施行令第15条の7)。したがって、幹事証券となれる会社は限られています。

主幹事証券会社と発行会社間で締結する必要がある契約の内容

先述のように、発行企業が取引所に株式を上場するためには主幹事証券会社の支援が不可欠となり、そのため主幹事証券会社との契約が必要となります。契約において依頼する主な業務は下記の通りです。

上場準備のためのアドバイザリー業務

引受審査に耐えうる体制作りを支援してもらいます。内容は、資本政策への助言や、株式の価格形成に影響するビジネスモデルや事業計画へのアドバイス、上場に必要な申請書類の作成指導、上場後も含めたファイナンス戦略の立案、コーポレートガバナンス体制の確立への助言。

引受審査業務

発行者から収集した資料及び情報その他必要に応じて収集した資料及び情報を基に、引受けを行う主幹事証券会社が果たすべき責任を全うするために必要な引受審査を行い、有価証券の引受けの可否の判断(通称「引受判断」という。)の基となる審査意見を形成する業務。

引受業務

引受けを行うことを目的として発行者に対して募集又は売出しの提案を行い、当該引受けの条件の検討及び有価証券の元引受契約の締結に係る実務を遂行する業務。

元引受契約とは証券会社が株式の発行者または所有者から、投資家に取得させることを目的に有価証券を取得する場合と、その有価証券を取得する投資家がいない際、残った有価証券を取得する場合があります。
 
(なお、証券取引所による上場審査は、上場適格性について主幹事証券会社が充分に確認していることを前提としています。日本の証券取引所に上場申請するために証券会社の推薦が必須となっているのはこのためです。)

主幹事証券の選び方

主幹事証券会社は実際には、野村證券、大和証券、みずほ証券、SMBC日興証券、SBI証券の5社で大半を占めており、こういった実績のある証券会社をまず検討する必要があります。しかしながら、引受審査にも相応の事務処理に対応する余力が必要であり、申請企業が多い現状において、対応体制にも限界があることから主幹事を引き受けてもらえないという可能性もあります。
 
そこで、自社の業態を勘案し、同様の業態において実績のある上記以外の証券会社を選ぶと言った視点も重要となります。また、上場の当面の目的がマーケティングコストの捻出や、システム開発のための資金調達を狙った上場であるならば、札幌、名古屋、福岡といった市場に強い証券会社をあたってみるという選択もあります。
 
こういった、主幹事の選定においては、すでに上場している先輩経営者や、先行してショートレビューを受けている監査法人、あるいは上場サポート会社などから実体に即したアドバイスをもらうと良いと思われます。

主幹事証券との契約の準備

引受審査のためには、まずは財務諸表が正確に作れる必要があり、そのため監査法人との監査契約が先だちます。そこで、監査法人のショートレビューを受けたのち、連結会計による連結財務諸表が作成できる状態にしておく必要があります。

参考:連結会計とは?連結会計の意味とルールを詳しく解説

主幹事証券の審査と証券取引所の審査

証券取引所に上場申請する前に、取引所の上場審査基準に適合しているかどうかを主幹事証券があらかじめ引受審査し、これを通過すると上場申請をすることができます。引受審査を通過しながら、上場審査で承認されないケースは少ないため、発行会社にとっては引受審査をいかに通過するかが重要です。
 
それでは、二つの審査を詳しく見ていきましょう。引受審査は、証券市場に流通するに値する株式かどうかを、主幹事証券が株式引受の観点から判断する審査です。具体的には、下記について審査されます。

  • 上場の適格性
  • 企業経営の健全性および独立性
  • 事業の存続性
  • コーポレートガバナンスおよび内部管理体制の状況
  • 情報開示への対応力など

一方の「上場審査」は、申請会社が社会の公器となる適格性を有しているかどうかを判断するために、証券取引所によって実施されます。具体的には、証券取引所が定める「有価証券上場規程」等への適合状況が確認されます。
 
なお、上場審査の基準には「形式要件」と「実質審査基準」があります。「形式要件」は、株主数や時価総額、利益の額など、上場申請をする場合に求められる要件で、申請会社が提出する資料によって確認されます。
 
一方の「実質審査基準」は、上場会社になるための適格性を審査するための実質的な基準で、形式要件を満たした上で、この実質審査基準を満たす必要があります。実質審査基準は、形式要件のように金額や数値などの明確な尺度があるわけではなく、申請会社が安定的・継続的に収益性を維持し、適切な管理体制を構築し、将来を見越した経営が適切に行われているかなどを、質的な側面から審査する基準です。書類審査だけではなく、ヒアリングや実地調査などで確認が行われます。

主幹事証券会社の引受審査の項目

主幹事証券の審査方法は、業界団体である日本証券業協会がルールを決めています。それが、「有価証券の引受け等に関する規則」、および「有価証券の引受け等に関する規則に関する細則」です。
 
これを見ると主幹事証券会社が何を審査するのかが分かります。上場を目指す企業は、これらの記載事項を参考にしたうえで、取り組む優先順位を決め、準備体制を整える必要があります。

(新規公開における引受審査項目の細目)
第 9 条 規則第16条第2項に規定する株券、優先出資証券及び外国株信託受益証券の新規公開において行う募集又は売出しに際して引受けを行う場合における引受審査項目の細目は、それぞれ各号に掲げるとおりとする。
 
1 公開適格性
イ 事業の適法性及び社会性
ロ 会社の経営理念及び経営者の法令遵守やリスク管理等に対する意識
ハ 反社会的勢力への該当性、反社会的勢力との関係の有無及び反社会的勢力との関係排除への仕組みとその運用状況
ニ 上場するに当たっての市場の利用目的の健全性
 
2 企業経営の健全性及び独立性
イ 関連当事者(企業内容等の開示に関する内閣府令第1条第31号ハにて規定する人的関係会社を含む。)との取引の必要性、取引条件の妥当性
ロ 親会社等(法人の親会社及び法人が他の法人の関連会社である場合における当該他の法人をいう。以下同じ。)からの独立性
ハ 関係会社への出資構成及び当該出資先の管理状況
 
3 事業継続体制
イ 企業活動における法令遵守の状況及びコンプライアンス体制の整備状況
ロ 事業推進に必要な知的財産権の保護の状況、他社の権利侵害の状況
ハ 事業継続に当たって重要な契約の締結状況、権利の確保の状況
 
4 コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の状況
イ 会社の機関設計の妥当性(会社規模、事業リスク等に照らした機関設計の妥当性をいう。)
ロ 代表取締役、取締役及び取締役会の責任遂行(指名委員会等設置会社の場合には、代表執行役及び執行役等の責任遂行をいう。)の状況
ハ 監査役及び監査役会の責任遂行並びに内部監査機能(指名委員会等設置会社の場合には、取締役会、指名委員会、報酬委員会及び監査委員会の責任遂行並びに内部監査機能をいい、監査等委員会設置会社の場合には、監査等委員会の責任遂行及び内部監査機能をいう。)の状況
ニ 内部管理体制(売上債権管理、予算管理、労務管理及びシステム管理等についての組織及び社内規則の体制をいう。)の運用状況及び牽制機能
 
5 財政状態及び経営成績
イ 財政状態の健全性及び資金繰り状況
ロ 財政状態及び経営成績の変動理由分析
 
6 業績の見通し
イ 利益計画の策定根拠の妥当性
ロ 利益計画の進捗状況                         
ハ 企業の成長性及び安定性
ニ 剰余金の配当に関する考え方
 
7 調達する資金の使途(売出しの場合は当該売出しの目的をいう。以下この号において同じ。)
イ 調達する資金の使途の妥当性(事業計画との整合等を踏まえた妥当性をいう。)
ロ 調達する資金の使途の適切な開示
 
8 企業内容等の適正な開示
イ 法定開示制度及び適時開示制度への適応力
ロ 事業等のリスク等、企業情報等の開示内容の適正性、開示範囲の十分性及び開示表現の妥当性

上記の中でも、特に上記5、6の予算と実績の乖離がどれだけ少ないか、8に含まれる連結会計による四半期開示体制がどれだけ作れるかが大きなポイントになります。

証券取引所の上場審査項目

続いて、引受審査の先にある、上場審査の項目は下記のようになっており、幹事証券の引受審査をクリアすることがいかに重要であるかがわかります。

(上場審査)
第214条
 マザーズへの新規上場申請が行われた株券等の上場審査は、新規上場申請者及びその企業グループに関する次の各号に掲げる事項について行うものとする。
 
(1)企業内容、リスク情報等の開示の適切性
 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること。
(2)企業経営の健全性
 事業を公正かつ忠実に遂行していること。
(3)企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
 コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること。
(4)事業計画の合理性
 相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること。
(5)その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項
2 前項の上場審査は、第211条各項の規定に基づき新規上場申請者が提出する書類及び質問等に基づき行うものとする。
3 第1項の上場審査(外国株券等に係る上場審査を除く。)は、施行規則で定める期間以内に完了することを目途に行うものとする。
4 第1項の上場審査に関して必要な事項は、上場審査等に関するガイドラインをもって定める。
5 新規上場申請者が第212条第6号c(前条第1項第1号及び第2項第2号の規定による場合を含む。)に適合しないおそれがあると認められる場合には、第1項の上場審査を延期するものとする。 

引用:有価証券上場規程(東京証券取引所) 

まとめ

証券会社としても主幹事を引き受けるからには確実に上場をさせたいと考えているため、上記基準を満たす可能性が薄いと思った先は契約を結んでくれないかもしれません。そこで、主幹事証券会社の業務を知り、審査のポイントを予め知っておけば、効率的に事前準備を行うことができます。事前準備をしっかり行い、発行会社がお願いしたい証券会社と契約を締結できるようにすることが、良い上場に繋がっていく第一歩となるでしょう。

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