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2022年08月05日(金)

バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方

経営ハッカー編集部
バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方
バックオフィスにはルーティンワークが多く、人事評価基準を作ることが難しいといわれている。なかでも経理担当者は、正確に記録することばかりが求められ、「ミスをしなければよい」といった減点方式の画一的な評価をされがちだ。そういった評価制度では、新しいことに挑戦する意欲がわきにくくなってしまう。 「経理担当者がウキウキするようなミッションを作るべきです」 そう話すのは、人事のプロとして約20年、400社以上の評価制度作りをサポートしてきたフォー・ノーツ株式会社の西尾太さん。従来の枠を超えた「攻めの経理人材」を自社の経理部門から生み出すためには、どのような制度を作ればいいのか。目標設定や評価基準など、経理担当者のやる気を引き出す制度の構築方法について西尾さんに聞いた。

「徹底する」「能力を引き上げる」はNGワード? 経理の目標設定

―経理部門の目標や評価に関して、経営者からはどのような相談が寄せられていますか?

「目標が設定しづらい」「成果が見えにくい」といった相談は多いですね。

評価の対象となるのは、「行動」と「成果」です。経理であれば、簿記や会計士の資格など「能力」に対する評価もありますが、近年は減ってきています。なぜなら、能力は表に現れにくいからです。

成果に対する評価を下すためには、まず目標を作る必要があります。なおかつ、目標がどれだけ達成されたかという基準を設定しなければ、正しい評価ができません。

―経理担当者に対して、どのような目標を設定するべきなのでしょうか?

「経理は管理部門だから目標を数値化しづらい」とよく聞きますが、そんなことはありません。たとえば、「残業時間を45時間から30時間以内にする」という目標であれば、数字で明確に示せます。

ミスが多いのであれば、減らすことが目標になります。ただ、「ミスを0にする」という目標には注意が必要です。なぜなら、ミス0をA評価にすると、1つミスをしただけでB評価になってしまうからです。ミス0を達成したらS、3つ以内ならAといった達成基準を明確にしましょう。それまでミスが多かったのなら、減ったこと自体も価値として評価するべきです。

ほかにも、

・経理規程を改定し、今期内に役員会の承認を得る

・freeeを3月末までに導入し、社員の業務効率を○○%高める

・システム導入によって経常利益を○○%アップさせる

といった目標を設定し、どんな状態になれば達成したと言えるのかを考えてください。「そこまで達成すればS評価でいいんじゃないか?」と議論をし、目標と達成基準が明確になれば、評価に悩むこともありません。

―なるほど。ほかに、目標を設定する際の注意点があれば教えてください。

目標管理や目標設定にはNGワードがあります。よくあるのが、「徹底する」「能力を引き上げる」といった、あいまいな表現です。どうなったら徹底したといえるのか、能力が向上したことになるのか。そこを明確にしておかないと、「頑張ったのに評価されなかった」など不満の声があがるかもしれません。

また、目標は上から押し付けず、担当者自身に考えさせてください。示唆はしても大丈夫ですが、命令はダメです。


▲目標管理・目標設定のNGワード一覧(資料提供:フォー・ノーツ株式会社)

評価基準は「コミュニケーションツール」

―「成果」に対する評価については理解できました。では、経理担当者の「行動」に対する評価は、どのように考えればよいのでしょうか?

日々の行動を評価するには、個々の役職や等級に応じた行動規範を作り、それがどれだけ達成されたかという基準を設定する必要があります。

ビジネスパーソンの成長モデルを3段階に分けて考えてみましょう。「決められたとおりにやる」「無駄なく合理的に」「明るく元気に素直に」というのがいちばん下のメンバー層です。真ん中はミドルマネジャーで、無駄なく仕事を進めるための仕組みづくり、つまりマネジメント能力が求められます。

上級管理職層になると、組織としてのビジョンを示す必要があります。また、ビジョンに向かってどういう道筋で行くのか、将来を予見しながら中長期的な戦略を立てる役割を担います。このように、階層ごとに求められるものは変わるでしょう。


▲ビジネスパーソンの成長モデル(資料提供:フォー・ノーツ株式会社)

人事制度を策定する際は、さらに細かく1~6等級に分けて、求めるものを定義します。

1等級……新人クラス

2等級……自己完遂クラス

3等級……プロジェクトマネージャークラス

4等級……課長(ミドルマネジャー)クラス

5等級……部長クラス

6等級……本部長クラス(CFO、経営陣) 

また、等級ごとにコンピテンシーを明確にして、評価基準を作成する必要があります。コンピテンシーとは、「高い成績や成果を残す社員の行動特性」の意味。下図は3等級(プロジェクトマネージャークラス)のコンピテンシーなので、参考にしてください。

▲3等級/プロジェクトマネージャークラスのコンピテンシーの例(資料提供:フォー・ノーツ株式会社)

―それぞれの項目ごとにA、B、Cといった評価をするのでしょうか?

そうですね。当社ではSS、S、A、B、Cの5段階評価をお勧めしています。真ん中はB、Cにするのではなく、A評価にしましょう。A評価だとうれしい気分になりますが、BやC評価が並ぶとあまりいい気がしないですよね。

きちんとできていればA(ありがとう)、S(すごい)、SS(スペシャルすごい)。すごいというのは、「周囲に良い影響を与えている」という意味です。ただできているだけではなく、他の社員に良い影響を与えているか。そこをきちんと評価してあげてください。

▲5段階評価の例

―評価基準の見直しは、経営者にとってどのようなメリットがありますか?

どうすればキャリアアップできるのか把握できれば、社員は成長しようと思うはずです。褒められたり給料が上がったりすれば、モチベーションも上がるでしょう。

また、キャリアステップと評価基準を明確にすれば、離職防止にもつながります。どうすれば自分が成長できるのかが分かり、辞める必要がなくなるからです。「うちの会社にいると、世の中で通用する人材になれるよ」というメッセージを打ち出せば、社員の定着率が高まるでしょう。

―評価基準を運用する際の注意点があれば教えてください。 

担当者へ評価結果を説明するタイミングだけでなく、普段から評価基準を話題に出してコミュニケーションをとりましょう。評価基準について1年間なにも話していないのに、4月になって「さあ評価しよう」と言っても、日々の行動が変わらなければ意味がありません。評価基準は、日常的なマネジメントに活用するためのコミュニケーションツールなのです。

オペレーターから「経営戦略に切り込んでいく経理」へシフトすべき

―数字を元に戦略を策定するような「攻めの経理人材」を育てるためには、どうすればよいのでしょうか?

従来の経理は、数字を正確に把握することに重きが置かれていました。しかし、攻めの経理人材を社内で育てたいなら、各部門の数字を集計するだけではダメでしょう。「経費を使いすぎている」「予算との乖離がある」「これは投資だから使っていい」など、予算策定や経営計画を含めた戦略的な考え方ができるように教育する必要があります。

―正確な数字を出すだけでは不十分ということですね。

もう一つ大事なのは、誰に対してどんな価値を提供するのか、経理のミッションを明らかにすることです。「経理なのでお客さんはいません」という話をよく聞きますが、そんなことはありません。

経理が価値を提供する相手は、経営者、株主、社員などが挙げられるでしょう。社員が今までより楽に経費精算できるようになれば、価値が上がりますよね。今まで5営業日かかっていた月次決算を4営業日で作成する、これも経営者に対する価値です。

「システムを導入して、経理にかける人数を3人から2人にする」といったミッションを明確にすれば、攻める姿勢につながるでしょう。

―システムの導入については、「業務が効率化されるのはいいけど、自分の仕事がなくなるのでは?」と不安に思う経理担当者もいるかもしれません。

確かに、集計業務などオペレーションだけを続けるなら、そう思うでしょう。ただ、経理のオペレーションはアウトソーシングされる可能性があるし、システム導入による機械化も進んでいます。

新たなシステムを導入して業務を効率化すれば、空いた時間を予算策定や経営計画に充てることも可能です。攻めの経理人材を目指すのであれば、単なるオペレーターとしての業務だけでなく、より価値の高い仕事へシフトしていかなければなりません。

―経理担当者をやる気にさせるための方法はありますか?

ウキウキするミッションを作ってください。「数字の管理」「ミスを減らす」だと、ウキウキしないでしょう? たとえば「数値を迅速に提供して、経営からの信頼を高める」とか、「社員が喜ぶ経理システムを導入する」とか。経理部門が会社全体にどんな価値を提供できるかよく考えて、仕事意欲を高めるようなミッションを作ることが大切です。

―最後に改めて、経理担当者の評価基準や目標設定について、提言をいただけますか? 

目指すべきは、「社員および経営者が頼りにできる経理」です。社員が経理に求めることは、経費精算をやりやすくするといった効率性でしょう。また、現場から上がってくる提案に対し、否定だけでなく「こうすれば稟議が通るかもしれない」などのアドバイスができると、価値が上がりますよね。管理職は、そういった行動ができる経理人材を育成しなければなりません。

一方、経営者が求めるのは財務の視点です。資金調達や借り換え、キャッシュフローなど、攻めるポイントはいくらでもあるでしょう。オペレーションや仕訳業務だけでなく、経営企画や経営戦略に切り込んでいく経理部門を構築するべく努力してください。

どうすれば提供する価値を大きくできるか。生産性を高めるにはどうすればいいのか。管理職および経営者は、経理担当者を巻き込みながら、時間をかけて目標や評価基準を設定してほしいですね。

(執筆:村中貴士 撮影:井上依子 編集:水上歩美/ノオト)

<プロフィール>

西尾太

人事コンサルタント/「人事の学校」「人事プロデューサークラブ」主宰

フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長

いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリエイターエージェンシー業務を行なうクリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。2008年、フォー・ノーツ株式会社設立。これまで9,000人超の採用、昇格面接、管理職研修、階層別研修を行なう。著書に『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『人事担当者が知っておきたい、10の基礎知識。8つの心構え。』(労務行政研究所)、『超ジョブ型人事革命』(日経BP)などがある。

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