経営ハッカー | 「経営 × テクノロジー」の最先端を切り拓くメディア
2023年02月28日(火)

衆議院議員・小林史明氏×freee佐々木大輔CEO 企業のデジタル化実現のために国が描く未来とは?

経営ハッカー編集部
衆議院議員・小林史明氏×freee佐々木大輔CEO 企業のデジタル化実現のために国が描く未来とは?
2023年1月25日に東京国際フォーラムで開催された「バックオフィスの日2023」。会場では、規模や業種の異なるさまざまな企業の経営者・バックオフィス担当者による豪華なトークセッションが続いた。 締めを飾るスペシャルトークセッション「デジタル化のちょっと先の未来について話してみようか」では、前デジタル副大臣で現在は自民党デジタル社会推進本部の事務局長を務める衆議院議員の小林史明氏と、freee株式会社の佐々木大輔CEOが登壇。 デジタル副大臣時代に行政のデジタル化を推進してきた小林議員は、国や企業のデジタル化の未来をどのように考えているのか。トークセッションの模様をレポートする。

国によるデジタル化推進の姿勢をバックオフィス改革の足がかりに

佐々木大輔CEO(以下、佐々木):バックオフィスを担当している皆さんがデジタル化を考える上で「政府はデジタル化を本気で進めていくのか」はとても重要なテーマです。政府はどのようにデジタル化を推進していくのか、考えをお聞かせください。

小林史明議員(以下、小林):国はデジタル化に本気です。本日は皆さんに持ち帰っていただきたい話があります。

例えば、社内で「バックオフィスを変えよう」と提案しても、「やっぱり今のままで」「何でやるの?」という抵抗もあると思うんですね。その際は、ぜひ「もう国がデジタル化を推進すると言ってます」と、我々を理由に使ってください。

「そうは言っても、デジタル化のために社内の規程を変えるのは大変だよね」と、さらなる抵抗があるかもしれません。そこで、2年前に国が廃止した押印の話を例に出してください。国の手続きで押印する必要はほとんどなくなりましたし、「民間同士の取引でも押印がなくても法的効力がある」と、法務省からメッセージが出ています。国の本気の姿勢を見て、ルールを変えることはできるんだと感じてもらえればうれしいです。

佐々木:最近では、マイナンバーカードの発行枚数がどんどん伸びていますね。

小林:8000万枚を超えて、もう免許証よりもマイナンバーカードのほうが多い状況です。

佐々木:ただし、マイナンバーカードを使った電子申告に不満もあって。パスワードの入力が非常に多いですよね。「ここにあの情報、あそこに別の情報を入れて……」とやっているうちに「覚えていない」「どのパスワードだっけ」となってしまったのですが、今後改善されますか。

小林:はい。ユーザーエクスペリエンス(UX)がものすごく悪いと言われていて。デジタル庁ができる前に作ったものなので、整理しなければいけないと考えています。なぜUXが悪くなるかと言うと、技術的には簡単にできますが、行政手続きにおける本人確認手法のルールで「パスワードを求めなければならない」と決められているなど、制度面でがんじがらめになっているからですね。

だから、デジタル庁ができた後は、システムを作る前に、要件定義の元となる制度から変更することにこだわっています。制度を変更して初めて、システムを簡素化できるわけです。だからこそ、制度改革をどんどん実行していきたいと思っています。


法改正だけでは改革は進まない 慣習や社内制度が大きな障壁に


佐々木:押印廃止を決めてから、実際に対応するまで早かったですね。

小林:提案してから2カ月でしたね。変化を感じていただくことが大事なので、バックオフィスの皆さんの手間がかかっていてインパクトの大きいところから、どんどん改善していきました。

押印については、freeeさんなどバックオフィスの皆さんの声を聞いている方々から提案をもらっていたのと、バックオフィスを担当されている現場の方をSlackでつないで、話を聞いていました。どんな手続きに押印が必要なのかを全て書き出してもらって、そのまま当時の安倍総理に持って行って。押印廃止によるインパクトが大きいことがわかったので、短期間での改革を実現しました。

佐々木:freeeの社内ルールでは、契約時に物理的な押印をする場合、私の決裁が必要です。逆に電子契約であれば、決裁金額に応じて部門長などの権限で決裁できる制度にしたんですね。そうすると、どうしても先方の社内規定上必要とされている一部の大企業を除き、紙の契約がほとんどなくなりました。自分たちが「こうやりたい」と考えることが通るように、制度から変化させることが大事だと感じています。

小林:すごく良い事例ですね。私たち政治・行政の悩みは、法律を変えても、民間の商慣習や企業内の規程が変わらなければ、改革が浸透していかないことです。それをどう変えていくかが大きなテーマですね。他にも、そういった事例はありますか?

佐々木:最近は、スマホで全てを完結できることが皆さんに喜ばれるな、と。私たちのようなインターネット業界の会社であれば、社員全員がパソコンを持っているのは当たり前ですが、スモールビジネスではパソコンや社用のメールアドレスを持っていないほうが多いかもしれません。

でも、スマホはほとんどの方が持っていて、LINEは大体使える。それならば、スマホやLINEを使って、従業員の皆さんに「これを入力してもらうだけでOKです」と言えば、受け入れられやすいです。

小林:たしかに、普段使い慣れているものを利用して小さな成功体験を積んでもらい、変えていくことが重要ですよね。政府としてこれからやりたいことは、さまざまなSaaSで、ボタンを押していけば行政手続きが終わっている状態にすることです。

補助金の申請や年末調整のデータは、バックオフィスが管理しています。そのデータをシームレスに引き渡してそのまま活用することで、政府が新しいシステムを作らなくても、皆さんがいつも使っているシステムから簡単に手続きできるようになる。そうしたことが実現できればいいなと考えています。


企業のデジタル化の鍵を握る「アナログ7項目」


小林:企業のデジタル化を加速するために「さらにもう1歩」と考えているのは、「アナログ7項目」の見直しです。

2年前に押印の廃止を行ったとき、「押印」という言葉が48本の法律に書いてありました。法律に書いてあると、紙に印刷してハンコを押さなければいけない。だからこそ、制度改革が必要でした。そして、「同じようなものがあるのではないか」と思って全部見直したんです。

そこで見つかったのが、「目視」「実地監査」「定期検査・点検」「常駐・専任」「対面講習」「書面掲示」「往訪閲覧・縦覧」の「アナログ7項目」です。例えば、往訪閲覧・縦覧規制があることで、役所の窓口に行かないと情報を見せてもらえないことがあります。日本にある約4万のルールのなかに、これらのアナログ7項目が約1万条項で見つかりました。これらが皆さんを縛っているので、2年間のうちに99%撤廃することを昨年決めました。

これによって、目視ではなくてセンサーを使うなど、新しいソリューションの導入が可能になります。こうしたことを実現したいと思っているので、ぜひ皆さんも今のうちに準備していただきたいです。

佐々木:アナログ7項目の撤廃は、本当に実現できますか?

小林:「役所が抵抗するんじゃないか」とよく言われます。何か新しいことを始めようとすると、誰かに抵抗感を持たれることもあるんですね。でも「あなたにとっても楽になるし、あなたが見ている仕事の分野も伸びますよ」と説得をしてきました。

例えば、国土交通省は建設業界を見ています。建設業界は人手不足で、解決の糸口はテクノロジーにしかない。でも、ルールを変えるのは役所にとってすごく大変なので「2年間のうちに洗い出してくれたら、デジタル庁が法改正の手続きをまとめてやります。」と提案しました。

そうしたところ、各省庁が情報を出してくれて、今では自発的に「これも残っていました」と言ってくれます。アナログ7項目を2年以内に全廃することは合意できています。法律だけでなく、ガイドラインや政省令など法律になっていないものまで、2年以内に改正だけでなく施行するところまでいきますから、景色が変わるはずです。

佐々木:なるほど。世の中には、営業活動など、対面でやるからこそ理解が深まることもあります。一方で、事務的な手続きはわざわざアナログで行かなくてもいい。事務的な手続きのためだけの対面規制は完全になくなる社会になってほしいですね。本当に世の中の雰囲気は変わってきそうです。


「意外とルールは変えられる」より良い世の中を作るために声を上げてほしい

小林:私自身、会社員から政治家になったのは、会社員時代に古い規制で嫌な思いをして、ルールを変える側に回りたいと思ったからなんです。いざ政治家になってみると、意外とルールを変えられるという成功体験をしました。

ただ、そうは言っても自分に見えている景色は狭いわけで、もっと皆さんが見ている景色のなかで気づいたおかしなことについて、どんどん声を上げてほしいです。freeeさんに声を届けるのでもいいかもしれません。

押印の廃止ができて、これからアナログ7項目の全廃をやりますから、ぜひ皆さんにも「ルールは変えられる」と思ってもらいたいです。

佐々木:実はTwitterでは「#freeeに願いを」というハッシュタグがあります。freee製品に対して機能改善の要望が多いんですが、たまに世の中の制度に対して「freeeさんから声を上げてもらえませんか」と投稿されることもあります。

例えば、会計事務所の税理士の方は、リモートワークができません。それは税理士法の規制によって、事務所の拠点で仕事をしなければいけないという常駐規制のためです。私たちがそうした多くの会計事務所の声を代表して、規制を変えていけるよう議論させていただいています。

小林:ぜひ今度は「#小林に願いを」でツイートしてもらいたいですね。それを私が拾っていきたいと思います。

佐々木:「敷居が高いな」と思ってしまうかもしれません。でも、本当に小林さんにでも、freeeにでもどちらでもいいので、皆さんから声を上げてもらえれば、より良い世の中を作っていけるのではないかと思っています。

小林:3年前、全国1億2000万人のワクチン接種データを日々見られる仕組みを作ったときのこと。このデータによって、政策の意思決定が大きく変わるわけですね。リアルタイムにデータが見られることは、意思決定を左右するような大きな力があると、新型コロナウイルスのワクチン接種の担当補佐官をやっていて実感しました。

バックオフィスは、良いデータをたくさん持っています。そのデータをうまく使えるようになることが、皆さんの会社を成長させる源泉になるんです。

今ある環境のなかでベストを尽くすこともとても大事ですが、やはり環境が悪い場合もあります。その環境をみんなで変えにいくことはすごく大事だと思うんですね。なので繰り返しますが、ぜひ皆さんに、声を上げていただきたいです。

佐々木:データをリアルタイムに見られることが日本の政策を変えたのですね。壮大な話を聞けて良かったです。最後までご清聴いただき、ありがとうございました。

小林:ありがとうございました。


トークセッション後、小林議員からメッセージをいただきました。

「今年はアナログ7項目の撤廃に向けて規制改革をどんどん進めていきます。これらはあらゆる事業の生産性に関わることであり、特に、バックオフィスのみなさんの仕事に大きく関わっています。データやデジタルツールの活用をしやすくして、皆さんの仕事が楽になるよう、一緒に取り組んで行きましょう。何より、ルールは変えられますので、皆さん自身の周りで変えられることにも取り組んでみてください。」

まさに改革が進められる最中で開催された「バックオフィスの日2023」を締めくくる小林議員と佐々木CEOによる活発な議論。政治・行政と民間企業の共通点や接続点、ルールを変えるための要点、そして未来のアクションに向けたヒントが詰まった対談となった。

(取材・執筆:遠藤光太 編集:ノオト)



小林史明
衆議院議員、自由民主党副幹事長。「テクノロジーの社会実装で、多様でフェアな社会を実現する」を政治信条とし、規制改革に注力。2021年には新型コロナウイルスのワクチン接種を担当する河野規制改革担当大臣を補佐。ワクチンの接種状況を記録する「ワクチン接種記録システム」の開発・運用をリード。政治家になる前は、株式会社NTTドコモに勤務。

佐々木大輔
一橋大学卒業。卒業後は博報堂にて、マーケティング戦略の立案に従事。その後、未公開株式投資ファームCLSAキャピタルパートナーズでの投資アナリストを経て、株式会社ALBERTの執行役員に就任。2008年にはGoogleに参画し、中小企業向けのマーケティングの統括を担当する。2012年、freee株式会社を創業。

    関連する事例記事

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年10月24日経営ハッカー編集部

      仕事が・ビジネスが、はかどる。最新鋭スキャナー「ScanSnap iX1600」の持てる強みとインパクト

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月30日経営ハッカー編集部

      ギークス佐久間大輔取締役、佐々木一成SDGsアンバサダーに聞く~フリーランスと共に築くESG経営とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月28日経営ハッカー編集部

      サイバー・バズ髙村彰典社長に聞く~コミュニケーションが変える世界、SNSの可能性とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月05日経営ハッカー編集部

      バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月01日経営ハッカー編集部

      グラントマト 南條浩社長に聞く~農業生産者、消費者、協力企業間のアグリビジネス循環型モデルとは?

    関連記事一覧