「中間業者が姿を消す」と言われる時代に、卸で90年やってきた会社が見つけたサバイバル術
ITや物流システムの発達によって流通経路が短縮化され、メーカーとエンドユーザーが直接繋がることが可能になった今日、中間マージンを取る卸売業者はその役目を果たし終えたと言われています。事実、様々な業種で両者間の調整機能を担ってきた企業が姿を消し、あるいは売り手と買い手の直接マッチングの取引形態をとるサービスが生まれています。
この状況は問屋と呼ばれ、日本に根差した商習慣として今日も※約38万社あると言われる卸売業者にとっては危機そのもののハズ。それでも、多くの企業がこのままではマズいとわかっていながら、自社の立ち位置や業態を簡単に変えることはできないで模索しています。
この点を考えるのに面白い会社が池袋にあります。窓を扱う卸売業を営み91年、マテックス株式会社。年商135億、社員250名を要する同社は、日本板硝子やLIXIL、YKKといったメーカーと街の硝子、サッシの販売店や工務店との間に立ち、窓ガラスやサッシなどの仕入・販売に特化している卸売業者です。
実は同社、今日得ている評価が極めて高い企業なのです。大手メーカーであるLIXILからは「付加価値のある商品の提案で業界を変えていける存在」とまで言われ、サッシメーカーのYKK APからも「先進的かつ柔軟な考えのビジネスパートナー」、他メーカーからも「メインビジネスパートナー」など軒並みアツいラブコールを受け続けています。
ただ、これだけだと、どうせメーカー寄りのポジショニングに立つ中堅卸売業者なのだろうという方もいるでしょうが、同社は顧客である販売店・工務店からの評価も総じて高いのです。
神奈川県相模原市にある販売店からは「(マテックスは)時に道を作ってくれ、風よけとなってくれるほど頼もしい存在」とまで慕われ、池袋にある販売店さんからは「業界を変革していく存在」と期待されています。
はたして、同社が見つけたサバイバル術とはいかなるものなのでしょうか。3代目社長・松本浩志さんに話を聞くと、そこには数々の経営のヒントが見て取れました。
※382,354社・2014年(出典:平成28年度『中小卸小売業の現状』一般財団法人商工総合研究所)
卸の未来を悩み抜いた先で下した結論とは?
―日本ならではの伝統業態「卸売業者」の方たちにヒントになるようなお話を聞きたくて、今日は伺いました。
多くの業界で中間業者が役目を終えていくのではと言われています。実際にメーカーが問屋機能を担うようになったり従来の業界の生態系が様変わりしてしまったところが嫌でも目につくと思います。いずれは自分たちの業界もという危機感は小さくなかったと思うのですが。
そういった意味では窓業界というのは特殊なんでしょうね。既にメーカーが問屋機能を持ち、場合によっては販売店機能を持っているところもあります。というのも高度経済成長期までは奇麗なピラミッド型だったのですが、90年代に再編があり、企業の統廃合が盛んに行われました。ですから、既に業界の構造自体は複雑にして長い時が経っているのです。
―でしたら尚更自分たちの存在意義について危機感をお持ちになりますよね?
そうですね。我々としても今も日々自社の未来の在り方を真剣に考え続けています。ただ、考えれば考えるほど辿り着く答えは一つなのです。
―その答えとは?
卸というとどうしても「商品を右から左に流して中間マージンを取るだけ」の存在を想像してしまいますよね。確かにそういう側面もあります。でも、本当にそれだけなのか。卸の必要性とは何なのか、もし卸がいなくなるとこの業界はどういったことが起こるのか。
それらを突き詰めて考えると、我々がいなくなる事により結局エンドユーザーの方にご不便を強いてしまうことが窓業界においてはわかります。
それをきちんと説明するには、まず窓業界について説明をする必要があります。
まず、ガラスやサッシを作るメーカーさんがいます。そして、その作ったガラスやサッシを窓として卸す我々卸売専門商社がいます。そこから今度は窓を販売する販売店さんがいます。そして、販売店さんから窓を購入してエンドユーザーのご自宅に取り付ける工務店さんがいます。
こういった構造になっていて、我々はこれを生態系(エコシステム)と呼んでいますが、向き合えば向き合う程、マテックスの存在意義がはっきりと見えてきます。
―どういうことですか?
卸の強みとは「メーカー間の垣根を越えた業界全体の情報を持つこと」と、「顧客に対するきめ細やかな対応が可能」なことなのです。
我々のような問屋は、あらゆる商品を扱っているため、さまざまなメーカーさんから情報を得て、それを提供することができます。なので、メーカーさんから見えていないような部分が我々に見えていることもあります。
また、消費者動向や社会情勢、法律なども毎年変わっていく中で、それらの知識をアップデートして、お客様に説明してご理解いただけるようにもしています。様々なメーカーさんの商品を扱える立ち位置にいるからこそ得ることができる情報が顧客である販売店・工務店さんにとっても意味のあるものとして提供できるのです。
―なるほど。ただ、もう一つのきめ細やかな対応については、これは中間業者でなくてもメーカーでもできそうに思えますが。
仮に大手メーカーさんでそういったサポート機能まで持つとなると、当然にそれを担うべき雇用が発生し、その分人件費が増加する事になるでしょう。そして企業は利益をあげなければなりませんから、その人件費がきっと商品の価格に上乗せされてくるのではないのでしょうか。我々の場合は様々な商品を扱っていますから、一つの商品の価格にそこまで人件費がのることはありません。結果としてエンドユーザーの方に届く価格は安く抑えることに繋がります。メーカーさん自身もその部分は我々に担ってもらうという観点で考えられておられるのです。
―様々なメーカーの商品に広く薄く利益が乗るイメージをもてばよいでしょうか。
そうですね。何より、エンドユーザーのお客様が窓を必要とするときは、緊急性を孕んでいる場合も多いのです。考えてもみてください。厳寒の冬に窓が割れてしまったとしたら? できる限り速やかに工事をする必要があります。そういったきめ細やかな対応までメーカーさんがこなすことは現実的ではありません。
一方、街の販売店・工務店さんは地域の住民の方のそうした声をいつでも拾う距離感で仕事を営んでいらっしゃいます。そして我々も、そういった方の要望に応えるべく、現場で寸法を取り、一つひとつの要望にあわせてカスタマイズ・オン・デマンドで対応し、商品を納めることができるのです。
さらに販売店・工務店さんで言えば、エンドユーザーの方の要望に応えるために17時以降は残業代がのってしまうといった働き方ではない個人事業主の方も多い。働き方改革が叫ばれている昨今ですから、どこまでこういったセーフティーネットを維持していけるのかはわかりませんが、少なくとも今は現実として、この生態系であるからこそ、今の価格感で日本全国に窓を行き渡らせることができていると言えます。
中間業者の活路をどこに見出すか
―そうやって、自分たちの存在意義や必要性を再認識したうえで、「卸に徹する」とあえて公言するようになったのですか?
そうです。ただ、卸売の使命に徹するためには、もう一つ先へ考えを進めないとなりません。
顧客である販売店・工務店さんが何を求めているのか。どんなことを期待しているのか。この業界にいる一人ひとりのプレーヤー全員が、仕事として食べていくことができなければ業界に未来はありません。それを考えた先に答えがありました。
―それは何でしょうか?
企業であれば必然の悩みかもしれませんが、販売店・工務店さんの悩みの多くは、どうすれば新しい顧客を獲得できるか、つまり営業や売り方の悩みです。我々がその悩みや課題に答えることや支援する必要があるのではないか。むしろ卸としての役目はそこにあるのではないかと考えています。
ですから、一緒になって新しい顧客開拓の切り口を提案したりもしています。単なる売り切りの商売ではないんです。現場の方々にモノの納品だけでなく、提案力や提案メニューという形で貢献できるだけのサポートをしていかないと卸の本来の姿と言えません。そこが「卸に徹する」我々の存在意義だと思っています。
実際の業務として、そういったお客様の支援を専門とする部署「営業推進部」を設けていることがマテックス社の特徴と仰っていただくことがあります。
―具体的に営業推進部は、どういったことをしているのですか?
基本は販売店さんの営業サポート全般ですが、例えば、補助金を活用して窓のリフォームをすることを販売店・工務店さんが活用できるようサポートしたり、あるいは窓本体だけではなくその周辺までを窓辺(まどべ)と定義して「窓辺のプチリノベーション」を謳い、インテリアや空間デザインまで提案する「madolinoプロジェクト」などを行っています。
他にも、環境や健康に配慮したエコな窓を普及させるための「エコ窓普及促進会」という環境省登録の団体を通じて行う活動など違う形でのアプローチも含め、様々な取り組みを行っております。
―それらサポートを顧客に対してビジネスにする企業は多いですが、なぜマテックスさんはしないのですか?
お客様へのサポート自体でマネタイズすることには関心がありません。なぜならば、お客様に力をつけていただき、お客様の収益に貢献していく、そのプロセスでマテックスが多いに関わっていれば、長期的に見てマテックスに注文がいただけるでしょうし、何かと頼っていただけると考えています。
そしてここで何よりも一番大切なのは、この業界にいる一人ひとりの人間がより広範の意味で人間性を磨き、きちんと社会に貢献していくことだと思います。
業界に携わる人の人間性を高めるオピニオンリーダーとして
―人間性ですか?
そうです。これは職業人としての責任です。2005年頃から、販売店さん同士のつながり作りや、私のように事業承継を控えた後継者への情報提供やスキル向上という名目で勉強会を始ました。
その一環として、東日本大震災や熊本地震の災害時には復興支援に業界として取り組んだりもしました。
―マテックスやメーカー、販売店や工務店の方が皆で震災復興のボランティアに携わったのですか?
自然災害って、今日本各地で起きていて、少なからず自分の人生に影響を及ぼすものだと思うんです。実際に被災地に足を運んで、被災者の方々に対して一人の職業人としてどう向き合うのか、何ができるのかを考えることは、人として重要なことです。
だから、販売店の方や工務店の方を誘って行ったわけです。そもそも事業とは自分の成長なくしてうまくいかないものです。災害現場で直接見聞きしたり感じたりしたことは、その後の人生に活きてくると思います。事業運営や企業経営にも、長い目で見て必ずプラスになると信じています。
実際にある販売店の方からは、自分の成長に繋がる貴重な経験を共にできたことを深く感謝いただき、より深いビジネスパートナーとなれているところもあります。
私は仕事とはそういった幾重にも重なる共感の広がりを通して尚一層関係性が強まり発展していくものだと信じています。
―お話を整理すると、やはり活路を見出せていない業者の方は、自分たちの存在意義を徹底的に洗いなおすことから始めなければなりませんね。そのうえで自社のことだけを考えるのではなく、業界の発展そのものを考えて行動する。そこにマテックスさんは活路を見たのですね。
言葉に出してしまうと、当たり前のこととして捉えられかねないのですが、なぜ自分たちが必要とされるのか、顧客は何を求めているのか、どの方向を向くことで活路を見出せるのか、ここは全力で突き詰めるべきと思います。
我々は「卸に徹する」の理念をさらに深化し、日本の家づくりを根底から問い質そうとしています。今日本にある住宅の多くは大手のハウスメーカーによって大量生産されているためか、残念ながら気密性や断熱性のレベルが非常に低く、そのために特に窓からのエネルギーロスが激しいのです。開口部を中心とした、所謂窓周りの問屋として、そこを変えていきたいと思っています。
―変えるためにも、共感し合える仲間が必要なのですね?
そうです。変えるためには、地域密着で優良な家づくりのできる工務店や、それをバックアップするガラス販売店さんやサッシ販売店さんを増やさないといけない。家は建てておしまいではありません。住み手からすれば、建てて住み始めてからが本当のスタートなんです。
年月が経つにつれて不具合が出てくるので、そういうときに頼れて、なおかつ顔の見える関係のプレーヤーが地元にいることがとても重要だと思います。
最終的には、地域にお住まいの方、販売店、工務店の皆さんと共に地域のエコシステムを作っていくのが、卸の究極の使命だと思っています。そういった地域の方々のために、毎年マテックスフェアという窓回りの技術の展示会を秋口に開催しているので、ぜひご家族で足をお運びください。
―マテックスさんが問屋さんという立ち位置に徹しながら、関わる全てのステークホルダーの発展を考え、さながらオピニオンリーダーとしての役回りを担うようになったのは、自社の生き残りを真摯に考えたうえでのポジショニングと言ってしまうと少し乱暴な物言いですが、それでもその世間との向き合い方や姿勢に多くの企業の生き残りのヒントがあるように思いました。ありがとうございました。
【プロフィール】
松本 浩志(まつもと ひろし)
マテックス株式会社代表取締役社長。コロラド州立大学Fort Lewisを卒業後、サンダーバード国際経営大学院にてMBAを取得。その後東芝に入社し、DVD事業部門での海外・国内営業に従事。2002年にマテックス株式会社に社長室次長として入社。2009年に先代社長の松本巌氏より事業を承継する形で代表取締役社長に就任。以後、現職。