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2019年04月19日(金)

創業3か月で3.4億円を調達、爆速で成長するビットキーのマーケティング戦略を江尻祐樹CEOに聞く

経営ハッカー編集部
創業3か月で3.4億円を調達、爆速で成長するビットキーのマーケティング戦略を江尻祐樹CEOに聞く

スタートアップや新規事業に取り組んでいる経営者にとってマーケティング戦略は最大の関心事の一つだ。今回は、急成長する注目のスタートアップ企業を参考に、「世の中にまだないプロダクトのマーケティング」をどのように実行すればよいのか?というテーマについて探求してみたい。

株式会社ビットキーはブロックチェーンから着想を得て開発した、暗号・P2P・分散技術を活用した全く新しいデジタルID認証/キーのテクノロジーとそれを利用するデバイスを独自開発し、単なるスマートロック屋ではなく、社会のID/権利認証プラットフォームとなることを目指している。そして、GAFAのように独占するのではなく、デジタルIDや権利の移動という公共性の高い情報を社会の共有資産として活用する分散型モデルで既存のプラットフォーマーとは違う新たなあり方を提案する。同社は2018年の5月に法人登記、8月1日に創業した。そして何と、10月末には3.4億の資金調達に成功した。創業当時12名の社員が、今は30名となり、2019年4月には4~50名になるという。急成長を可能にするマーケティング戦略をCEO江尻氏に聞いた。

バーチャルとリアルのあらゆる接合点で役立つ次世代「鍵」が生み出すビジネスチャンスに着目

-まず、御社のビジネスモデルを理解したいと思うのですが、どんな事業なのでしょうか?

我々は次世代のデジタル上の「IDと鍵」を再定義するものを、社名にもなっている「bitkey」(ビットキー)と呼んでいます。ネットワーク上の認証とそれに基づく実行鍵の動的生成、物理的なデバイスに設置可能なデジタルホール(鍵穴)を一体的に運用することで、利用用途が非常に広いものとなっています。これらのキーテクノロジーを柱の事業であるスマートロックをはじめ、他のハードウェアや既存産業のサービスフローに活用いただくのが実際の事業となります。

我々のキーテクロジーを具現化するID認証と分散テクノロジー、サービスを提供するアプリケーションシステム、そしてハードウエアを一連のサービスフローとして組み込むことによって、バーチャル、リアルを包含する認証と実行権限問題を解決するというところが他に例を見ない特長となっています。

-非常に汎用的なサービスになるということはわかるのですが、どのようなケースで利用されるのでしょうか?

わかりやすい例ですと、ある年の冬にNew Yorkに出張していた当社のメンバーが、Airbnbで宿泊場所を確保していたのですが、運悪く大雪に見舞われてしまいました。そのため電車が遅れ、鍵を持っている貸主が到着できないという事態になったのです。いつ到着するかもわからない貸主を大雪の中で凍えながら待っているのは、二度としたくない体験であることに違いありません。このとき、ネットワーク上で認証されて、電子鍵が受領できれば、何も問題は起こらないわけです。

完全にデジタル上のトランザクションで完了するサービスであれば物事は非常に効率的なのですが、最近はデジタルとリアルがひとつながりになっているサービスが実際には世の中に増えてきています。デジタルの世界から、外に出てしまうと一気に不確定性が増大し、効率的な対応ができなくなります。我々のソリューションは、デジタルを通じてリアルで時空間一致を必要としているが繋がっている状況で、関係者をマッチングし、本人確認や、利用権限付与が必要なあらゆるケースで活用できるのです。

-もう少し具体的にイメージするために、この技術が利用されるのは他にはどんな局面があるのでしょうか?

先のAirbnbのような民泊はさることながら、もっと部屋数の多いホテル、不動産屋さんが内見時にお客様に鍵を渡すといったときも有効です。そして、自動車や自転車など、本人確認が必要なライドシェアの業態にも確実に効果を発揮しますね。つまり入口バーチャル、出口リアルといったサービスのすべてに関わってきます。

その他には宅配クライシスの問題がありますよね。ユーザーが宅配便を受け取れる日は平日夜、土日に集中します。しかし、平日に日時限定で、認証されたドライバーがドアを開けて玄関に荷物を置いてくれれば、土日に受け取りを待っている必要もありません。不在時配送、宅内配送の実現です。一方、ドライバーにとっては残業を減らせたりすることにもなります。

同様に、家事代行もそうです。土日にキャストさんへの需要が集中しますが、キャストとして働きたい人は平日に働きたい人が多く、この需給ミスマッチが改善します。我々はこれらを「扉エコノミー」と呼んでいて、その潜在ユーザーは、国内全世帯である5,300万世帯のうち、一人暮らしまたは共働きである3,000万世帯のほとんどが対象となります。

さらに、行政手続きもそうですよね。デジタル上で安全に認証され、実行鍵が受けられればコンビニでプリントアウトして、住民票の受け取りが可能となります。また、閲覧権限の付与と言う点では、医療機関での電子カルテの共同利用などが実現できます。権限が付与された人だけが限定的に見ることができることによって、患者さんの来院履歴やカルテ履歴の共有ができ、利便性の向上や診療の生産性向上に寄与できます。

このようにリアルとバーチャルを包含した権限をコントールできる鍵にフォーカスすることによって、ものすごいビジネスチャンスが生まれました。

-そもそも、このビジネスモデルが生まれた経緯は?

それは、弊社の創業者の1人である寳槻(ほうつき)との雑談から生まれました。2017年秋に、前職時代にニューヨークに出張したとき時、日本企業のアメリカ支社での仕事を終え、寳槻とマンハッタンにある中華街の火鍋屋で遅めの食事をとっていたとき時です。

私は、その時その時の新しい技術の話が好きで、彼とブロックチェーンの話をしていたのですね。寳槻はエンジニアではありませんが、着想が非常にユニークです。ブロックチェーンって仮想通貨で使うだけだと面白くないよね、何に使えるんだろう?耐改ざん性や検証性にはいろいろ可能性があるんじゃないか・・・などと、ブロックチェーンの特性を議論するうち、思わず深夜まで時間が及びました。そのとき、「鍵という使い方は広がりがあってすごくいいね」と言う話になり、その後3日間この話題は続き、鍵に応用するというアイディアを固めました。これだ!という事業のコアになる部分を見つけて、その後そこを掘り下げていったのです。

一方、それと、並行して「ブロックチェーン/分散システム研究会」を立ち上げていました。エンジニア中心にメンバーを集め、ブロックチェーンやその他の分散テクノロジーで何ができるかなどを、技術的な視点から議論、検証していました。これは前職とは関係なく、サイドプロジェクトとして夜間や、土日にやっていたものです。集まったエンジニアと最新動向について議論を戦わせながら、技術視点で使えるものつかえないものを実際にコーディングもして、手触り感をもって確認していました。その時、現状のブロックチェーンでは汎用性をもって展開できない課題が見えてきたのです。

これらの検討をもとに、結果的にブロックチェーン技術をほとんど使わずして、独自の分散型の認証ネットワーク基盤モデルを構想することができました。

圧倒的に利用価格を下げ、ユーザーとともに活用方法を考えるマーケティング

-マネタイズのポイントはどこにありますか?

事例でご説明したようにリアルとバーチャル、ソフトとハードが連結したサービスで、本人認証と権利の範囲の確定、取引の権限および実行鍵の付与と、その鍵穴の照合技術が必要なサービスが世の中には多様にあります。

そういったビジネスに関わる様々な事業体の皆さんとできるだけ繋がり、ビジネスフローに組み込んでいただくことによって利用機会が増えていきます。これが中長期でのマネタイズポイントです。
また、初期的には自社直接事業として、スマートロックのサブスクリプションでの提供とそれを利用した「扉エコノミー」サービスを実現することです。BtoB向けではデバイスの導入費、および関連システムの提供などもマネタイズ方法になります。

-そうすると、いかにデバイスを普及させるかが重要になりますね。

その通りです。BtoBはまだ公表できませんが、当初はBtoCの領域で認証ネットワークに接続する物理的なスマートロックを製造し、ここにデバイスの初期購入費と月額課金をかけていきます。スタート時はデバイスの初期費用を無料にし、大量に配るということを実行します。

そして、月額課金ですが、利用しやすくするためにBtoCの場合は月300円程度を想定しています。強固な生産パートナーと値段を下げ圧倒的に普及させるという需要の多さによって、デバイスの製造原価を劇的に押さえることができるのです。

では、同様の成功事例はあるのかというと、Yahoo!BBのマーケティング戦略を思い出してください。当時その時、Yahoo!BBは一気に高速インターネットを一気に普及させるため赤いジャンパーを着た落下傘部隊が街頭で無料モデムを配りまくりました。もともと高速回線用のモデムは買うと4万円くらい、プロバイダ料が月額5,000円はしましたが、モデムをタダで配って、月額2,980円にするという価格破壊を行ったのです。なぜこれができたかというと、孫さんがEMSメーカー鴻海に対し、モデムを100万個作るからハードの価格を数分の一に抑えてくれと交渉し、コストダウンを実現しました。

もちろん、これと同じことはやりませんが、我々も想定外の安い価格を設定することで、一気に普及させたいと思っています。

-今回、資金調達に成功しているのに、さらにクラウドファンディングを実行されているねらいは何でしょうか?

クラウドファンデングでは、ユーザーの皆さんの声を聞きながら、日常生活におけるユースケース開発に役立てようと考えています。我々が「扉エコノミー」と言っている、便利で安全な社会づくりをユーザーの皆様と一緒に行いたいのです。あまりにも様々なものとの接続性が高いため、子供やペットの見守りなどの実利用用途の可能性、また、顔認証、指紋認証といった技術がどのような生活シーンで必要なのか?アイデアをいただきそれを実現するコミュニティづくりです。こういったコミュニティは支持者を増やすための大きな力になります。

BtoCの次には、BtoB戦略も今後オープンにしていくので、多くの皆様と協業しGAFAに伍する日本初の分散ネットワーク社会を実現していきたいと考えています。

よくわかりました。ありがとうございました。

【プロフィール】

江尻祐樹

Co-Founder / 代表取締役 CEO
1985年生まれ。大学時代は建築/デザインを専攻、DJやアーティストとしても活動。2008年リンクアンドモチベーショングループに入社。入社2ヶ月目に初受注を達成、その後様々なコンサルタント業務に従事。

2009年末にワークスアプリケーションズへ中途入社。コンサルタント配属後1年で部門MVPを獲得。2014年、4000名の中から社長賞を受賞。数百名程度のコンサルタント・サービス組織の統括も経験。

2017年末、旧知のエンジニア中心にメンバーを集め、ブロックチェーン/分散システム研究会を発足。2018年8月、そのメンバーを中心に、ブロックチェーン/P2P・分散技術を活用した、全く新しいデジタルID認証/キー基盤を開発し、事業化する株式会社ビットキーを創業。CEOとして新たなスタートを切る。創業者内の担当領域は経営、技術開発、PM(事業推進)。

会社概要

社名  :株式会社ビットキー
所在地 :東京都中央区京橋3-1-1東京スクエアガーデン14F
代表者 :代表取締役CEO 江尻祐樹
     代表取締役COO 福澤匡規
     代表取締役CCO 寳槻昌則
創業  :2018年8月1日
資本金 :3億4,055万円(2018年12月26日現在 資本準備金を含む)
事業概要:次世代ID/Keyビットキーの企画・開発・運用
     ビットキーを利用したスマートロックの開発・製造・販売・運用
     ビットキーを利用したサービスプラットフォームの企画・開発・運用

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