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2019年05月15日(水)

フィンテックに寄らない銀行代理業へ参入する!? H.I.S.グループで手掛ける金融業態戦略を聞く

経営ハッカー編集部
フィンテックに寄らない銀行代理業へ参入する!? H.I.S.グループで手掛ける金融業態戦略を聞く

H.I.S.は言わずと知れた大手総合旅行会社だが、旅行事業のほかにも、ホテル事業や、テーマパーク事業、エネルギー事業、損害保険事業など、業態の多角化を図っている。その一端で金融分野を担っているのが、H.I.S. Impact Finance株式会社だ。

しかし、昨今の銀行業界にあっては、マイナス金利政策や資金需要の減少、利鞘の低下の影響で軒並み収益を落としている。金融庁の統計によると、主要行(メガバンク等)における連結業務純益は、平成28年3月期に4兆2,715億円になって以降、毎年減少し、直近の平成30年3月期決算では3兆5,067億円まで落ち込んでいる(※1)。地域銀行においても、同一期間に1兆5,905億円から1兆2,178億円への減少(※2)となっている。

そんな中、決済代行業や売掛保証業に加え、銀行代理業にまで進出しようとしているのが同社なのだ。なぜあえて、斜陽化しているように見える領域に、フィンテックにも頼らず参入するのだろうか?CEOの東小薗氏にお話を伺った。

決済代行と売掛保証で始めた金融サービス

―御社は決済代行業をされているということなんですが、始められた経緯を教えてください。

弊社が行っている決済代行業は、まずクライアントから請求データをいただいて、我々が代わりに請求先に売上代金を請求して、クライアントに請求金額から手数料を差し引いて代金をお支払いするという形をとっています。

僕は以前H.I.S.で法人営業をしていたのですが、当時H.I.S.では売掛取引が原則禁止されていて、クライアントには原則として代金を前払いしてもらっていました。しかし、多い時は月200回にも渡る出張の代金を、予約の都度支払ってもらうのは現実的じゃなかったんです。

なので、2008年頃からH.I.S.とクライアントの間にカード会社を挟むようになったのです。ところが、この手数料がばかにならなくて。それに、僕たちが必死で獲得してきたお客様が中小零細企業だと、カード会社に落とされることも度々ありました。

手数料の負担が大きい上に、新規獲得の弊害にもなっているということで、カード会社より手数料が安くて、大半のお客様が審査基準をパスできるようなシステムを作ろうと思って一念発起しました。そのような経緯でできたのが当社なんです。

―でもクライアント側から見ると、そもそも決済代行業を利用すると、せっかくの売上から手数料分を取られてしまうことになりますよね。手数料を支払ってまで決済代行業を利用するメリットってどこにあるんですか?

確かに、取引先と自社の間に我々のような決済代行業者が入ることで、中間マージンが発生します。しかし、我々は損害保険会社と共同で事業を行っているので、我々が間に入ることによって相手方から確実に請求した金額とほぼ同額を支払ってもらうことができるんです。そのため、未回収リスクがゼロになります。

取引相手が、日頃から支払期日にきちんと代金を支払ってくれるような会社ばかりであれば、それに越したことはありません。しかし、たまに期日になっても代金を支払ってもらえないこともありますよね。そのようなときに、多少なりともリソースをそこに割いて再度取引先に請求するのは手間だし、何よりも精神的なストレスになるじゃないですか。

―確かに、入金がないからと言って取引先に催促するとイヤな顔をされそうですし、関係がギクシャクしてしまう心配もありますよね。

そうなんです。そういうときに、決済代行業を利用すれば、自分たちの代わりに代金を請求してもらえるので、人間関係に波風を立てる心配もありません。また、未回収リスクもなくなるので、安心して本業に取り組める。特に、立場が弱くなりやすい中小零細企業にとって、その点は大きなメリットだと思います。その一環として、弊社では売掛保証も行っているんですよ。

―売掛保証とはどんなサービスですか?

企業が商品を販売し、売掛金が発生したら我々が保険のような形で売掛金を保証するというものです。実は、もともとの会社の始まりはこの売掛保証の事業からスタートしたんですよ。しかし、H.I.S.から請求書作成、郵送等、入金管理等の間接経費がかかるから請求書作成も請求管理も全部やってほしいと頼まれて、決済代行事業もするようになったんです。ところが、今ではこちらのニーズの方が大きくなってしまった。

―実際に御社のサービスを利用されているクライアントからの反応はどうですか?

「請求管理の手間がなくなった」、「間接経費が減った」、「未回収リスクの心配がなくなって安心して本業に専念できる」、「新規開拓が増えた」と好評です。

あと、キャッシュフローが安定したという声もいただきますね。たとえば大手企業と中小零細企業が取引するときって、支払いサイトが長いこともあるんですよ。利益は大きいけど、売上金が入ってくるまでに1か月~3か月もかかる。そうすると、仕事はあるのに資金繰りが苦しくなって仕事が受けたくても受けられない…という状態になる。これってすごくもったいないじゃないですか。

弊社では、本来売掛金が入金されるまで1か月~3ヶ月かかるところを1週間~1か月でお支払いできたりするんです。金額や商材によっては、最短1営業日でお支払いすることもあります。売掛金を保証してもらえるから相手がたとえ倒産したとしても泣き寝入りする必要はないし、なおかつ長期間待つことなくお金が入ってくるので、キャッシュフローがすごく安定するんです。

―それって、中小企業の経営効率を上げるのに非常に有効ですよね。

はい。大手企業と中小零細企業の取引って、どうしても中小零細企業って立場上不利になりやすいじゃないですか。そもそも契約書を締結する段階から「委託者側が検収しないと代金が請求できない」とか、いろいろ不都合な条件を飲まされたりします。売掛金を保証することで、そう言った条件に関係なくお客様は売掛金を短期で回収できるので、今まで売掛金回収にかかっていたリソースを新規顧客の獲得などに向けることができるようになるんです。

銀行代理業に進出

―今後は決済代行事業と売掛保証事業をますます拡大していこうと?

それもあるんですが、今後は事業の柱として銀行代理業に取り組みます。我々は銀行代理業の免許を既に取得しています。今取得している免許では口座開設の媒介しかできないのですが、今後はより広い免許を取得して、ネットバンキングのような銀行サービスのデジタルインターフェース業務まで自社で取り組みたいと思っています。
実際には所属銀行のサービスを利用することになりますが、我々がバンキングサービスを提供しているのに近い状態を作ることができます。一方で、実際には既存の銀行システムを利用するので我々は設備投資をあまり必要としないのがメリットです。まずは円の普通預金から始めて、既存のお客様に個人や法人の口座を作って頂こうかなと考えています。その場合、預入や引出、振込などにかかる手数料はすべて無料にしていこうと考えています。

―手数料が無料⁉それは非常にありがたいですね。でもなぜ無料にできるんでしょうか?

先程お話したように、決済代行事業と売掛保証事業を行っているので、そちらで収益は確保できるんです。他社さんで同じように銀行代理業をされているところでは手数料を設定しているところもあるんですが、我々は銀行代理業のほうでマネタイズする必要がないので、フリーミアムでもやっていけるんですよ。

―でも、そもそも旅行に関する事業をメインにされているH.I.S.で、なぜ銀行代理業をやろうと思ったんですか?旅行業と銀行代理業って、一見何の関係もなさそうに見えるのですが。

それはですね、旧財閥系のグループって、みんな主の事業を持ちながら事業を多角化していて何百という企業を傘下に入れているじゃないですか。その中に、必ず銀行がはいっていますよね。

つまり、金融は企業グループの潤滑油のようなもので、銀行がグループの資金需要にタイミングよく資金提供できることによって、参加企業の成長が加速化されるわけなのです。これからの時代にH.I.S.グループがもっと大きくなっていくためには、本格的な銀行業が将来的に必要不可欠になる、そのためのノウハウが必要と思ったんです。

そんなことを考えていたタイミングで、社長の澤田が次世代のリーダーを育成するための「澤田経営道場」を開講するというので、私も応募して2016年の春から受講し始めました。

―澤田社長にそういう想いを伝える機会はあったんですか?

はい。道場では丸2年間お世話になったのですが、2017年11月にハウステンボスにある道場生が寝泊まりする寄宿舎で卒業面談があり、そこで澤田社長にプレゼンしたんです。「自社では掛け売りをすることが商習慣上難しいけれど、中小零細企業を審査で落としてしまう問題のほかに、これからの時代H.I.S.が伸びていくためには金融業や銀行業が絶対必要になるから、自分にその役割を担わせてほしい」と言いました。すると、あっさり「いいよ」と。

―澤田社長も今後のことを見据えてOKを出してくださったんですね。これから御社ではどのような事業展開を考えているのですか?

今後は、既存の決済代行事業・売掛保証事業と銀行代理業のシナジーによって、新しい金融サービスを生み出していこうと考えています。金融業も銀行代理業も、お金に関する事業なのだから、顧客の立場に立てば別々にやる意味ってないじゃないですか。だからそこをまるっと弊社でできるようになればいいなと考えています。

―今、ゼロ金利政策などの影響で大手銀行で新卒採用を減らすなど、銀行業界は厳しい状況に置かれています。それでもあえて切り込んでいく理由は何でしょうか。

おっしゃる通り、このところ銀行業界は年々厳しくなっている状況です。しかし、この成熟しきっていてもう今後はシュリンクするしかないと見えるようなマーケットでも、まだイノベーションを起こすことはできると我々は考えています。

成熟した市場でイノベーションを起こす方法って、2つあるんですよ。ひとつは、IoTやAIを活用したフィンテックといった、わかりやすくてトレンドを意識したものをやること。もうひとつは、既存のマーケットをディスラプト(破壊)して新しいものを生み出すこと。弊社がやろうとしているのは後者なんです。

つまり、クライアントに対して金融ワンストップサービスを提供し、決済代行でも、売掛保証でも銀行代理業でも、どこからでも入れるよう窓口を広げることで、新規顧客との接点も非常に作りやすくなるんです。

―銀行業界における既存のマーケットや常識を打ち破っていこうと?

既存の銀行ってけっこうシステムがレガシーで高コスト体質なところがあるのですが、我々は後発企業として、最新のテクノロジーを活用して最適なコストで運用しようと考えています。

また、金融庁は銀行法において、銀行業務の範囲を細かく定めていますが、低収益に悩む銀行を助けるため、銀行にソフトウェア販売や人材派遣業への参入を認めて収益機会を提供しています。それと同時に、利用者への利便性を高めるために、銀行業への異業種の参入のハードルも下げてきているのです。こういった、法制のトレンドも見極めつつ、多様化する金融ニーズに対応できる金融サービスを強化していきたいと考えているのです。

そして企業間金融・銀行代理業を同時に展開するコングロマリットとして、より一層中小企業のみなさまに貢献できるようなビジネスをしていくつもりです。H.I.S.グループの中でも頭ひとつ分もふたつ分も抜きん出た存在になりたいですね。

-ありがとうございました。

※1:金融庁「主要行等の平成 30 年3月期決算の概要」
<https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180601-1/01.pdf>
※2:同 「地域銀行の平成 30 年3月期決算の概要」
<https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180601-2/01.pdf>

<プロフィール>

東小薗光輝(ひがしこその みつてる)

CEO  プライマリー・プライベートバンカー 

2011年 H.I.S.入社 
2016年 澤田経営道場2期生となる
2018年 H.I.S.Impact Finance設立

H.I.S. Impact Finance株式会社

〒160-0023  東京都新宿区西新宿6-2-18 SKビル9F 
代表TEL:03-6872-1171
許可番号:関東財務局長 (銀代)第353号

2017年 11月  法人登記 
2018年  3月 資本金増資
     4月 株式会社エイチ・アイ・エス 法人団体グループの決済開始
     5月 グループ企業 売掛保証開始 
     7月 1億円を資金調達実施 
      11月 4億円を資金調達実施 
2019年  1月 銀行代理業予備審査終了 
2019年  2月 銀行代理業本申請
2019年 3月 銀行代理業許認可取得(銀代)第353号

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