経営ハッカー | 「経営 × テクノロジー」の最先端を切り拓くメディア
2019年05月09日(木)

保険営業の頂点を極めるも、自らの生命の危機に直面。見えてきた保険の共同体組織とは?~R&C株式会社代表取締役足立哲真氏に聞く

経営ハッカー編集部
保険営業の頂点を極めるも、自らの生命の危機に直面。見えてきた保険の共同体組織とは?~R&C株式会社代表取締役足立哲真氏に聞く

足立哲真氏は業界の中では知らない人はいない伝説のトップセールスマンである。そう聞くと、足立氏が代表を務めるR&Cは保険の優績セールスマンからなる個人事業主の集合体なのか、と思わずイメージを浮かべてしまう。ところが同社は「Be Collective, Be Professional」という業界の中では異質な企業理念を掲げている。そもそも、個人の業績至上主義の保険代理店業界で「Collective(共同体、組織)」に行きついたのはなぜなのか?生か死かの狭間で見えた保険サービスの真の姿とは何か?

まず、足立氏はどのように凄いのか?それは、高業績の金融サービスのプロのみが入会を許される国際的組織MDRT(Million Dollar Round Table)の最上位認定TOT(Top of the Table)に世界最年少、25歳で入会したことによる。このMDRTとは通称「百万ドル円卓会議」と訳されることが多く、保険のセールスマンに支払われる年間手数料、すなわち年収が※約1,200万円を超えた者のみが入会を許される称号となっている。

ちなみに、その上位クラスCOT(Court of the Table)となると年間手数料5,000万円前後、足立氏が認定を得ているTOTにいたっては実に1億円前後の手数料達成が入会の基準となっているそうだ。MDRT入会者でさえ日本で100万人以上と言われる保険セールスマンのうちわずか3千数百名程度、TOTに至っては百名前後しかいないと言われているのだ。そんな足立氏は学生時代から際立った存在だった。

※MDRTへの入会基準は毎年変動している。

学生時代から営業の才能を発揮

―社会人になって間もなくトップセールスマンの道を歩み始めた足立さんですが、一体どんな学生時代を過ごされてきたのでしょうか?

大学3年から保険の経営コンサル会社でインターンをして、法人向けに保険を提案していました。インターンとはいえ、決して甘いものではありません。1日に何百件という営業電話をし、月の労働時間は350時間くらいだったでしょうか。スーツを着込んでお客様先を訪問することもありました。

―学生時代からかなり本格的に保険営業を経験されていたんですね。そもそも、なぜコンサルのインターンを選んだのですか?

父親が飲食店の経営者だったので、経営者の手伝いをしたいという想いが漠然とありました。それに、いずれ自分で何かを成し遂げたい、会社を立ち上げたい、という想いも。そのために経営の勉強をしようと考え、コンサル会社を選びました。

多額の収入を得て感じた違和感、そして独立へ

―学生時代に保険業界へ飛び込んだ後、どうなったのかを教えてください。

大学卒業後はインターン先へ就職し、引き続き保険業界で働きました。それから3年程経った頃に、転職と独立を同時に経験することになります。フルコミッション(以下フルコミ)の大手保険代理店への転職と、ウェブ制作会社の立ち上げを並行して行ったんです。

2つの名刺を持ち、保険を売りながらウェブ制作会社の営業もして、結構楽しかったです。そのウェブ制作会社とは今でも関わりがありまして、弊社のウェブサイトも手がけてもらっています。

―転職先の代理店がフルコミということは、お給料は相当上がったのでは?

そうですね。売れた分のインセンティブが入ってきますから。転職前の年収が一般的な新卒社会人と変わらない250万円くらいだとしたら、それが一気に数十倍の金額になりました。

ー保険営業で申し分のない収入を得て、ウェブ制作会社の仕事も楽しくやっていた。そんな充実した日々を送る中で、そこからさらに独立されたようですが、それはなぜですか?

フルコミで働いている人って、自由だし、自信が漲っていて、一見魅力的なんです。お金がある分いいものを身に着けていますし、遊び方も派手な人が多い。初めは自分もそれをかっこいいと思っていたのですが、よく付き合ってみると、一方で心の中が満たされていない人が多いなと感じるようになったんです。

例えば20代〜30代の人の中ではよくお金関連の話題が挙がるのですが、40代以降になると組織のマネージメントや社会問題、志の話というように、お金の話ではなくなってきます。フルコミの世界で働いてみた結果、お金で得られる充実感には限界があるんじゃないかと考えるようになりました。

そこで、ウェブ制作会社も辞め、自分の業績第一ではなくお客様の立場にたって営業する小さな保険代理店を独自に開業しました。

交通事故に遭遇して保険サービスの本質に気づく

ーお金だけでは幸せにはなれないと感じたのですね。独立に踏み切ったのは、それが1番の理由ですか?

もう1つ大きなきっかけがあります。当時、僕は営業をするときはいつもロードバイクに乗っていたんです。その方が効率的だし、健康的だと思っていたので。

そんなある日、いつものようにお客様先にロードバイクで向かっていたときのこと。突然、道路に停車中のタクシーの後部座席のドアが、目の前でガンっと開いたんです。瞬間、僕は宙を舞ってコンクリートに勢いよく突っ込んでいきました。(笑)いやあ〜、痛いで済むものではなかったですね。

幸い一命は取り留めましたが、当然その日のアポはキャンセルになりました。お客様に電話で連絡をしながら、ふと思ったんです。「自分が死んだら、お客様との約束はどうなるんだろう?」と。

僕が死んでも、もちろんお客様の保険の契約は保険会社に残ります。けれど、お客様は大切な想いを持ってその保険にご加入されている。その想いを引き継げるのって、自分しかいないんですよ。「たとえ僕が死んでも想いまで引き継げる状態にしておかないと、お客様との約束を守っていることにならないな」と思ったんです。

―R&C株式会社の企業理念では「Collective(共同体、組織)」という言葉を使われているのは、永続的にお客様との約束を守るためということでしょうか。

そうです。人は必ずいつか死にます。死ぬことを前提に考えると、保険を守るためには個人であってはいけないはずなんです。この事故がきっかけで、個人ではなく組織が必要だと本気で考えるようになりました。

突如発覚した多額の負債

―ここまで大きな失敗もなく順調に転職、独立と進まれてきていらっしゃいますが、その後も順調だったのですか?

実は、独立後に大きな困難がありました。ちょうど代理店の創業のタイミングで、R&C株式会社の経営者と出会いました。「これからの保険業界には、個人ではなく組織が必要だ」という想いが一緒だったこともあり、意気投合しまして。すぐに一緒にやっていこうという話になったんです。そこから、業績は右肩上がりに伸び、約1年半の間に、10人だった社員数は50人規模にまで増えました。

ところが、順調に思えた矢先、当時の会社の規模からは想像もつかない億を超える負債があることが発覚したんです。それは前社長時代の借金や累積損失等によるものでした。そこで、当時の幹部メンバーや株主との対話を重ね、最終的に僕が社長を引き継ぐ決断をし全てを引き受けることにしました。2014年4月のことです。長女が生まれた月だったので、よく覚えています。

ー多額の負債がある状況で会社を引き受けることに、迷いはなかったのでしょうか?

もちろん、悩みに悩んだ末の決断です。周りの経営者10人に相談したら、10人に止められましたよ。「何が何でもやめろ」、「何でお前が引き受ける必要があるんだ」とか、「その会社を続けるなら縁を切る」とまで言って止めてくださった方もいた程です。

―そこまで言われてもなお、負債を抱えてR&C株式会社の代表取締役を引き受けたのなぜでしょうか?

1番は責任感です。お客様に対しても社員に対しても、逃げちゃいけないと強く感じたんです。その背景にあったのが、高校生のときに読みふけったナポレオン・ヒルの成功哲学と老子の思想でした。

ナポレオン・ヒルは「失敗や逆境の中には、全てそれ相応かそれ以上の、大きな利益の種子が含まれている。そして、人間として成長するということは一生続く過程だが、それは正直な人間になろうという決意と自分自身に対する責任の自覚から始まる」と指摘しています。一方、老子は人の生き方について「上善如水」と言うように、水は最終的にもっとも低いところに集まっていくものだが、そういった誰もやらないことを謙虚に全て引き受けていくことが最終的に良い結果をもたらすという意味のことを説いています。

また、確かに大変な状況ではありましたが、今の会社でコアになってくれているメンバーたちにすごく可能性を感じていたということもあります。一方で、古参のメンバーの中には、全社員をわざわざccにして「あなたには経営者としての資格はない」などと辛らつな言葉を吐きかけるメンバーもいましたが。

しかし、僕が新しく採用してきたメンバーは、いわゆる保険業界に多い一匹狼ではない人たちです。共に組織としての会社の価値を上げていこうと考えてくれる人と一緒に仕事をしたいというのが、僕の願いだったからです。彼らならきっと期待に応えてくれるという方に賭けていたのです。

R&Cを引き継いで、ちょうど5年が経ちます。光が見えてきたのは、引き継いでから3年程経った頃です。最初の3年間はお金も人もぐちゃぐちゃな状態でしたので、ひたすら試練だと思って走り抜けました。何のためにやっているのだろうと、何度も問いかけ、お客様との約束を守るために我々は在り続けないといけないんだと、残ったメンバーと共に考えました。

新しく採用したメンバーも当初は固定費の負担が賄えず、むしろ赤字を増やす存在でしたが、もともと理念に賛同してくれて入ってきた面々です。次第に、力をつけ成果をあげるようになってくれました。結果として、苦しみを乗り越えた組織は、とても強い組織になりました。そういった意味では、あの経験はあってよかったと今では思います。

“守りたいものを守る”代理店を目指して

―大きな困難を乗り越えて確信した御社の使命とは?

クライアントの守りたいものを一緒に守る、ということです。やっぱり皆さん、守りたいものがあるからこそ保険に入るんですよね。例えば家族、会社、尊厳……そういったお客様が守りたいものを、保険を通じて守っていきたいという想いが強くあります。そしてそれは、永続的な組織でなければ決して守れません。

ーR&C株式会社として、これから先どんなビジョンを描いていますか。

僕たちはビジョンとして“Co Beyond, Co Promise「共に」超える。日本で一番お客様を“守る”保険代理店になる。”と掲げています。一人でも多くの方の未来を守るため、日本で一番お客様が多い保険代理店を目指しているんです。

なぜお客様の数にこだわるのか。それは、「ありがとう」と言ってくださるお客様をいかに多く抱えるかが、保険代理店の価値を決めると考えているからです。

―最後に、保険という仕事に対する想いを聞かせてください。

人が本当に心の底から「ありがとう」と言う職業って、何だと思いますか?僕はドクターと保険だと思います。ドクターは人の命を救いますよね。保険は大切な方が亡くなったときや働けなくなったときに、経済的なリスクを背負ってくれます。つまり、保険は人の未来や大切な人を救うことができるんです。僕はそんな保険という職業を、誇りに思っています。


大きな困難を乗り越え、理想的な共同体づくりに辿り着いた足立氏の言葉には力が漲っている。

【プロフィール】


足立 哲真 (あだち てつま)

R&C株式会社 代表取締役

1985年、京都府生まれ。金融サービスのプロフェッショナルとして世界中から認識されている国際的な独立組織MDRT(Million Dollar Round Table)の最上位メンバーであるTOT(Top of Table)に2010年度より世界最年少で6年連続して入会。今後、大きな可能性があるが閉鎖的な保険業界を変革し、世界から必要とされる保険を中心とした総合金融代理店を築き上げるため奮闘中。


R&C株式会社

本社所在地 東京都港区芝浦3-16-4 山田ビル4F
設立 2006年5月24日
代表者名 代表取締役 足立哲真
資本金4,800万円
事業内容 サステイナブルソリューション事業(生命保険の募集に関する業務、損害保険代理店業)

    関連する事例記事

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2023年02月28日経営ハッカー編集部

      衆議院議員・小林史明氏×freee佐々木大輔CEO 企業のデジタル化実現のために国が描く未来とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年10月24日経営ハッカー編集部

      仕事が・ビジネスが、はかどる。最新鋭スキャナー「ScanSnap iX1600」の持てる強みとインパクト

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月30日経営ハッカー編集部

      ギークス佐久間大輔取締役、佐々木一成SDGsアンバサダーに聞く~フリーランスと共に築くESG経営とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月28日経営ハッカー編集部

      サイバー・バズ髙村彰典社長に聞く~コミュニケーションが変える世界、SNSの可能性とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月05日経営ハッカー編集部

      バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方

    関連記事一覧