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2019年05月08日(水)

電通がスタートアップを顧客対象に!「電通グロースデザインユニット」本格始動により、広告代理店とベンチャービジネスの未来はどう変わるのか?

経営ハッカー編集部
電通がスタートアップを顧客対象に!「電通グロースデザインユニット」本格始動により、広告代理店とベンチャービジネスの未来はどう変わるのか?

ここ数年、スタートアップを取り巻く動きは、ますます活況です。ジャパンベンチャーリサーチ発表の「Japan Startup Finance Report」によると、2018年における国内スタートアップの資金調達額は3,800億円を突破。5年連続で最高額を更新し、設立1年未満のスタートアップ企業の調達額も大型化しています。

一方で、「ヒト・モノ・カネ・時間・情報」を上手に活用して成長を続けるためのノウハウを始めから持っている企業は、そう多くないのも実情です。一刻も早く事業を軌道に乗せたい反面、まだ潤沢なリソースや経験を持たない起業家にとって、大手広告代理店のサポートは喉から手が出るほどに欲しいはず。

そのような状況の下、電通がスタートアップやベンチャーをも顧客とすべく、これまで個別案件ごとに対応してきたスタートアップ企業向け事業成長支援サービスを体系化。事業成長支援の専門家からなる社内チーム「電通グロースデザインユニット」(以下、DGDU)を立ち上げ、投資から事業運営、エグゼキューションまで、一気通貫でトータルサポートするサービスをリリースしたことが話題を呼んでいます。

このチームによって、広告代理店とスタートアップとの関係はどう変わっていくのでしょう?スタートアップも広告戦略に長けた電通の知見を活用できるようになった、その仕組みとは?ユニットリーダーの伊藤契太氏を中心に、DGDUメンバーにお話を聞きました。

電通が従来型の広告販売から事業投資へと舵を切った?

―スタートアップ向けの「360度事業支援サービス」として注目されていますが、DGDU立ち上げの背景を教えてください。

伊藤:ベンチャーキャピタル(CV)による投資額が拡大して、大手企業によるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も数多く設立されている近年、様々なスタートアップ企業が活躍の場を広げています。そういった流れの中で、従来の広告代理業のように、成熟しきった企業とマーケティングコミュニケーションの領域で関係性を持つやり方ではなく、将来性のある新規事業やスタートアップに早い段階でコンタクトしていく必要性を感じていました。

これだけ数多くのスタートアップが登場して、上場を目指す企業も多い中で、そもそも従来型の広告販売だけでパートナーの企業価値がどれだけ上がるのか疑問でした。もっと事業そのものにコミットして、グロースハック改善やメディアをプラットフォーム化するためにBtoCなどの周辺ビジネス、最大効率を上げるためのコンテンツはどうあるべきかなどを一緒に考えていったほうが、結果的には企業価値が上がるのではないか、と考えたんです。

―クライアントを育てる、という考え方ですか?

伊藤:クライアントというより、「いかに事業を成長させるか」を一緒に考えていく成長パートナーとしての関係です。例えば、成長を急いでいるときに人材が足りない、CFOがいない、どのように組織を維持するのかわからないなど、スタートアップ企業が抱える課題はたくさんありますが、それらを包括的にサポートして事業を成長させていくイメージですね。そこがこのチームを「成長の伴走者(グロースデザインパートナー)」と称している理由です。

―スタートアップ特有の課題を解決するためにも、これまで蓄積されてきた電通のノウハウが役立つということなのですね。

伊藤:そうです。クリエイティブコンセプト設計やビジネスモデルの戦略立案、メディアマーケティング、グロースハックといった従来からある電通のアセットは、そのまま使えると思っています。DGDUでは他にも、社内スタートアップ支援系チームと連携したり、ハンズオン型CVCと連携したりするなど、社内にある複数のプロジェクトと協業することで、多様な企業課題に対応できるサービスを提供していきます。

Strategy・Communication・Infrastructureという3つの観点でサービスラインを構築。企業の課題やニーズに合わせてソリューションを組み合わせ、事業成長支援を行う。電通ニュースリリース(2019年1月7日)より

―プロジェクトベースでチームを作って取り組むという動きは、電通では以前から頻繁に行われているのですか?

春田:もともと現場主義の会社で、社員が自律的に課題を見つけ解決していくという社風なんです。ですのでこういったチーム編成は、比較的これまでも良くあったパターンだと思います。ただ、それが正式なチームとしてリリースを出して、サービスラインを定義したという事でステージをひとつ前に進めた、という事ができると思います。スタートアップ企業向けサービスの領域では幾つかプロジェクトが存在しますが、本チームもその中の重要な役割を担うチームとして期待されています。

―今後、こういった新しいタイプの価値提供をしていかなければならないという共通認識が社内に出てきたと?

春田:2018年に発表した社の中期方針には、事業ドメインの拡張や、事業開発・事業投資への挑戦といった方針が含まれています。今までマーケティングコミュニケーションを対象にしていたバリューの発揮先のドメインを顧客の事業全体に拡張して、投資も含めた事業開発につなげるという点で、DGDUはその中にあって非常に先鋭的でチャレンジングな活動と思っています。

「人」を先行投資してグロース分をレベニューシェアする

―DGDUにはどういったメンバーが集まっているのですか?

伊藤:メンバーの得意分野はバランスよく分散しています。マーケティングに強いスタッフだったり、その中でもデジタルマーケティングに特化したスタッフだったり、ブランドストラテジストだったり。グロースハックが得意なスタッフもいれば、営業からクリエイティブまで、本当に多種多様ですね。スタートアップが抱えている個々の課題に合わせて、案件ごとに最適なメンバーを配置しています。

―メンバーのみなさんは、それぞれ所属されている部署が違いますね。

春田:DGDUのメンバーは、各自本籍を置いている部のミッションがありつつ、ここにはオンラインサロンのような働き方で集まっています。みんな好奇心旺盛な人間ばかりですから、新規事業やスタートアップといった新しいチャレンジにはもってこいのメンバーだと思っています。

―本日は筧さんと川端さん、2人のメンバーにもお集まりいただきました。筧さんの担当は?

筧:専門はマーケティング戦略とコミュニケーション戦略で、それに紐づく制作ディレクションや広報PR、デジタルマーケティングの分野も得意としています。所属部署では比較的大きな規模のスタートアップ企業を担当させていただくことも増えているため、その知見やノウハウを活かしてDGDUで活動できる機会は多いと思います。メンバーを見ると、専門領域は持ちつつつも俯瞰して見ることができるスタッフが多いイメージです。

―川端さんはどういう経緯でチームに入ったのですか?

川端:僕は、電通とスタートアップとは割と愛称が良いと思っていたので、社内でこのチームとは別にスタートアップ向けビジネスの展開を支援するチームに所属していました。その中で、DGDUはスタートアップへのサービス経験豊富な人が多く集まり、かつスタートアップ的にどんどん進めてみるカルチャーがあるので、このチームにはとても可能性を感じたことが非常に大きいです。また、チームリーダーの伊藤はよく「DGDUをベースに電通の新しいビジネスを広げていきたい」という話をしていて。それは僕自身も思っていたところなので、すぐに意気投合しました。

伊藤:事業をゼロから立ち上げてIPOさせたというような経験者がチーム内にいたり、ネットワークとして活用できたりするのは今後もっと強みになると思いますし、そういった人材が会社の内外問わず循環していく流れをこのチームで作り出せたら面白いなと思っています。

―実際には、どんなことをしているのか教えてください。

伊藤:メディア事業の場合でお話すると、ただ単にいろいろな事業をやりましょうというだけでなく、スタートアップへの投資家対応まで視野に入れています。例えば、ユニットエコノミクスを用いて、1ユーザーあたりの貢献価値(VPU:Value Per User)を事業単位で因数分解し、定点観測していきます。投資家に対しては、企業価値が上がっているのか下がっているのかといった定点的な説明ができますし、現場の営業部長やエンジニアに対しては「今月はここがスタックしているから来月から上げていこう」というようなピンポイントでの改善提案も可能です。

これを共通認識で管理していくことによって、お互い効率的なコンサルテーションをしながら事業を改善していきます。僕はベースがメディアの人間なので、メディア事業から入っていますが、このフレーム自体は他業種にも転用できると思っています。

―かなり深部まで入り込んだハンズオンだなという印象を受けます。

伊藤:そうですね。ここまでやっていくと、リアルな数字を全部見せていただくことになります。だからこそ、私たちはあくまでも「アシスタントCXO」という形で事業支援することを前提にしています。DGDUは、基本的には人を投資して、場合によってはCVC連携して投資も行っていくんですが、それに加えてエグゼキューションまで見てゴール設計のできるところが、このチームならではの強みだと考えています。

―企業それぞれの成長フェーズに応じて、柔軟な支援サービスを提供できるというわけですね。電通グループ会社間での連携も進めているのでしょうか。

伊藤:もっと多様な課題に対応できるよう、電通グループのCCI・セプテーニ・Voyageとタスクフォース組成に向けて動いています。彼らはクライアントに直接向かい合っていますし、デジタル広告の販売、コンサルティング、プラットフォーム開発など、それぞれ強みを持って様々な動きをしています。

それらを有機的に連携させ、全体最適化した支援サービスを提供することが狙いです。また、マネタイズや売上戦略といった部分も含めて事業レイヤーでコミットすることで、従来型の商流にはない多角的な収益ポイントが作り出せます。

―グループ内のソリューションを総合的に活用できる土台作りも、DGDUのミッションのひとつだと?

伊藤:今後、デジタルの広告代理業はどんどんシュリンクしていくのではないかと思っています。その流れの中において、会社の壁を越えた新しいビジネススタイルを確立して活性化を図ることで、DGDUの実行力をさらに強化していきたいと考えています。

―人を先行投資して相当の工数をかけるとなると、パートナー企業の見極めが今まで以上に重要になりそうですね。

伊藤:事業によっても違いますが、サービス価値や成長率がどれくらいあるのかといったところを視野に入れて精査しています。その事業にもともと成長の素養があるかどうか、という目線で見ることが従来よりは強いかも知れないですね。事業計画書や各種データ、現在の成長ステージを精査するのはもちろん、事業や成長に対する熱意も重視しています。

―シード期の早い段階でサポートすることもあるのですか?

伊藤:事業計画書も何もない完全なシード期だと難しいかもしれません。お互いにシナジーを生まなければいけないと思っているので、あまりにもフェーズが早すぎる場合は、経営戦略の基盤がしっかり固まってからだったり、必要な人をアサインして、例えば広報担当者を配置するなどしてから、またご相談させていただくという場合もあります。

ですが、基本的にはリソースやノウハウが足りていない段階でも、成長する余地や意欲があるならば先行投資していきたい考えです。共創して事業を成長させ、グロースした分をレベニューシェアする「win-winのパートナー関係」でありたいと思っています。

スタートアップは電通をどう活用すべきか?

―どのような業種からの問い合わせが多いのでしょう?

伊藤:メディアを中心に、SaaS、MaaS、医療メーカーなど50社以上のスタートアップ企業から問い合わせをいただいています。他にナショナルクライアントの新規事業からの問い合わせも増えています。

―問い合わせはどういった経由で来るのですか?

筧:2019年1月のリリースと同時に、それをメンバーみんながFacebookでシェアしたんですよ。メンバーそれぞれネットワークを持っているので、当初はそこから個別に問い合わせが来ることが多かったですね。DGDUで発行しているアドレスにメールをいただくケースも増えています。今のところ電通に担当者がいなくても、直接問い合わせいただける体制になっています。

―これまで「電通が自分たちと仕事するなんてあり得ない」と思っていたスタートアップは多いかもしれません。問い合わせを受けてみて、実際の感触は?

春田:「電通が新しいことを何か始めたぞ、今までにない感じだぞ」という事を感じて頂いているからかと思いますが、お問い合わせには非常に高い熱量を感じます。また電通の規模感やネットワークにかなり期待されているんだな、という印象を受けます。「成長ステージを上げていくために、電通でも何でも利用していこう」というような熱意や意欲をすごく感じますね。

―具体的な事例を教えてください。

筧:海外旅行専門メディア『旅MUSE』を運営するバリーズ株式会社さんが、資金調達をして事業拡大を進めるタイミングで声をかけていただきました。その時点でもうすでにユーザー間の強固なコミュニティが確立されていましたが、それを維持したままどうブランドを大きくしていくか、どう売上を拡大していくかといった課題がありました。ディスカッションさせていただき、実現したい目標がいろいろと出てきた中で、「まずここからやりましょう」という部分が明確になって。

―「ここ」というのは?

筧:あらためてビジョンやブランド体験を見直すところからです。経営者の事業に対する思いが熱く、だからこそ大きく成長してきているんですが、そこからさらに事業拡大していく段階で、組織やコミュニティも含め、ブランドをより強固にするところから一回最初にやりましょう、と。メンバーの知見を活かして成功や失敗のパターンを具体的に話し合うなどして、見えてきた課題を今まさに解決している最中です。今後、大きな価値を作りだすことが見込める重要な成長パートナーのひとつですね。

バリーズ株式会社が運営する大人の女性のための海外旅行専門WEBマガジン『旅MUSE』

―今後、スタートアップ企業はどのように電通を活用できますか?

筧:昔の広告プロモーションは「みんなに知ってもらいたい、興味を惹きたい」という分かりやすい課題がありました。ところが今は、課題をとらえるのが一番難しい時代になっていると感じています。特にスタートアップ企業が新しいビジネスモデルを展開するときには、解決すべき課題がすぐに変わってしまうことも多いんですね。ですので、プレゼンテーションという形ではなく「このアイデアって可能性ありますか?」というくらいのカジュアルなご相談から始めて、ディスカッションで固めていく形がよいので、早い段階でパートナーシップを築ければと思います。

川端:新しい会社がどんどん成長していき、日本の経済にもっと新陳代謝を起こしていけたらいいなと思っています。いまだに「電通はなかなか話を聞いてくれないし、高いよね」という話を耳にすることがありますが、そういった既存の固定概念やイメージは一切忘れて気軽に話しかけていただければと(笑)。スキームも含めて、柔軟な形でいろいろと対応することが可能です。

伊藤:まだスタートしたばかりの企業が多いので、今ある経済原理だけで事業計画を描きれない部分があると思いますし、それを評価する視点も様々です。その中で事業を進めていくには、変革期の先を見越してバリューチェーンを再構築したときに、「自分たちは今、このように社会に貢献できるサービスをやろうとしているんだ」という強い意志が大事になると思うんですよね。

その意志を貫くための手段はいろいろありますが、すべてを自分たちでやろうとするとなかなか難しいものです。アイデアは良くてもマーケティングが足りない、ファイナンスが分からない、どうやって人材育成していいか分からない、などの課題解決を電通がお手伝いして、パートナー企業と共に新たな価値を生み出していきたいと考えています。

【プロフィール】
伊藤 契太(いとう けいた)


2008年電通入社。関西テレビ局に配属。その後は、主に家電・製薬・キャリア・エンタメ業を中心にデジタルを起点としたキャンペーンプロモーションの企画立案を担当。2016年より統合ソリューション局にてカスタマージャーニーの設計やクライアントのKPIに応じたオンオフ統合メディアプランニングの設計・立案に従事。現在はスタートアップメディアを中心にプラットフォーマーに向けた事業開発などを行う360°事業支援チーム「電通グロースデザインユニット」を立ち上げ、リーダーとして多くのスタートアップ企業の事業支援に携わる。

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