経営ハッカー | 「経営 × テクノロジー」の最先端を切り拓くメディア
2019年05月16日(木)

商売の極意とは何か?まちづくりの異端児 不動産会社リブラン鈴木氏が語る、その50年の成功哲学実践法

経営ハッカー編集部
商売の極意とは何か?まちづくりの異端児 不動産会社リブラン鈴木氏が語る、その50年の成功哲学実践法

昨今のSDGsやESGムーブメントもあって、環境にやさしい住宅づくりや地域貢献を売りにするデベロッパーが増えてきた。しかし、具体的な取り組み内容を見ていくと、旧来の表面的なCSR活動の延長線上にあるものや単なるスローガンであることが多い。

そんな中、株式会社リブランの経営は異彩を放っている。なぜならば、同社の取り組みは、地域の発展を第一に考え、マンションという商品自体を社会問題を解決をする道具に変えてしまったからだ。この度、50年以上住環境の整備を行い、まちづくりの異端児と呼ばれる存在となった創業者、取締役相談役の鈴木 靜雄さんにその背景を伺った。

一番住みたくない街「板橋」を変えながら体感した社会問題に対する意識

―創業当初から、ずっと東京都板橋区で活動されているんですよね。

もともとは板橋にある不動産会社でアルバイトをしていたこともあり、会社も板橋で立ち上げました。社屋を構えた板橋区常盤台は、当時首都圏で「1番住みたくない沿線」とされていた東武東上線にあったんです。「ドブ板橋」なんて言われていましたし、折があればこの沿線から逃げ出したいと考える人が多かったですね。

―そのような場所で起業するにあたり、意識したことはありますか?

散々な言われ方をしていた自分たちの街にプライドを持てないなかで商売をしても、上手くはいかないだろうと思ったんです。だから、社員やこの地域に住んでいる子供たち、自分の街が誇りに思えるよう、自分たちが率先して街を変えようと決意しました。

例えば、東武東上線沿線のママさんバレーチームに呼びかけて、沿線のコミュニティをテーマにした「グリーンカップ争奪ママさんバレーボール大会」を開催しました。30年ほど、毎年行っていましたね。

また、ダサい東武東上線の名称変更(愛称募集)をして、子供たちを審査員に任命し、森林都市線に決定しました。沿線の不動産業者に、広告は森林都市線(小さく東武東上線)と表記を呼びかける活動を展開しました。

それから、沿線に住む子どもたちから創作童話を募集して、滝田ゆうさんや峠兵太さんといった先生方に審査してもらい、優秀作品を「こころの小箱」という本にして発行しました。いずれも沿線のイメージアップや、将来を担う子どもたちへの応援をメインとして行ったものです。

しかし、それだけでは不十分であると全社員に、「会社ではなく地域に出勤せよ」と号令をかけました。地域の人々と関わりながら社会問題を身体で感じ、怒りや憤りを覚え、その問題を解決するために会社を利用して、且つ自分の人生を充実させるように指導しました。

これは一見すると、「それでは会社のことが後回しにされ、売上が立たないではないか」と思われるかもしれません。ただ、当社のビジネスを考えると、地域の方々と近しい距離で共に立ち、共に歩むという姿勢を内外に示すことで、お互いの信頼関係が醸成されていき、それが巡り巡って仕事に繋がるということが多いのです。

会社に入る情報は情報ではない。地域の人々と共に活動していくなかで感じた情報が情報であり、その問題を解決していくことこそが、本来の企業の在り方だと考えています。

私は、社会問題の半分ほどは住環境が原因だと思っているんです。150年前ナイチンゲールも「看護覚書」のなかで病気の半分は、住環境に起因していると述べています。会社を設立した頃は、子どもが生まれたら家を貸さないという時代でした。人それぞれのライフスタイルや価値観、さらには基本的人権すら無視するような住環境が提供されていたんです。

しかし、本来住環境の役割とは、人の体と心を育てること。だから実際に地域で感じた社会問題を解決するために、住環境を整備してきました。

―具体的な社会問題と、それを解決するために実施したプロジェクトを教えていただけますか?

例えば30年ほど前は、マンションが子どもに良くない影響を及ぼすことが問題となっていました。一戸建ての住宅と違い、マンション全体及び内装は人工的であり子どもの成長に悪影響を及ぼしていたんです。

そこで、「キッズプレース」という子育て世代向けのマンションを作りました。子どもが遊べる共用スペースを設けたり、親同士のコミュニティ形成を支援したりすることで、子どもの体と心を育む環境(居場所)づくりを進めたのです。

「キッズプレース」以外にもヒットしたプロジェクトはたくさんありますが、ヒットしたものをシリーズ化して儲けようとは全くしていませんでした。ヒットしたからずっと続けるのではなく、地域社会に蔓延するあらゆる社会問題を体で感じ、その都度解決するためのプロジェクトを行うことが重要だからです。

大きくするから会社は潰れる、売ろうとするから商品は売れない

―リブランは50年以上もの歴史を誇りますが、会社を大きく成長させるためには何が必要だとお考えですか?

そもそも、会社は大きくするから潰れるんです。もちろん立派な会社はたくさんありますが、毎年多くのベンチャー企業が生まれて、残るのはほんの一握りです。ほとんどの会社が、数年以内に消えてしまう。成長を求めて経営するから会社は破綻するし、営業するから商品は売れないんです。商品を売ろうという気持ちが先立つと、本質を見失ってしまいます。会社は自然体を維持して、お客様の方から寄ってくるようにしないといけません。

―それでは、どのように事業を組み立てていくのでしょうか?

これをやれば儲かるからと事業を組み立てるのではなくて、順番をひっくり返します。まずは社会貢献して自分の体で憤りや矛盾を発見し、問題を解決するために会社のヒト・モノ・カネを使う。これが、本来会社が行うべき事業の組み立て方です。

―順番をひっくり返す事業の組み立て方をした、実際の事例を教えていただけますか?

35年ほど前に日本で住宅が売れなくなってきたので、売れてから住宅を建てるという傾向が生まれました。売ってから建てることの弊害として、一人ひとりの購入者によってニーズが異なるので、コンセプトが一貫していないまちが出来上がってしまいます。これが、商品を売りたい気持ちが先に出て失敗している例ですね。

当時はアトピー性皮膚炎やシックハウス症候群が問題になった時代だったので、リブランは人工的な建材ではなく自然素材を使ったマンションを作るというコンセプトを明確にし、住宅を建てていました。体に良いとされている青森ヒバを家族が過ごすメインフロアに使うことで、健康被害を解決する住環境整備を行ったのです。

―お客様に、床を雑巾がけさせながらマンションを売るとか聞いていますが。

リブランの広告。傷つきやすいマンションという通常ではありえないキャッチコピーに、同社の商品がわかる方に選んでいただければいいという明確な思想が込められているようだ。

そうです、他社との最大の違いは「お客様が来ても売るな」という方針を取ったことです。自然の木を住宅に使うと、どうしても壁が崩れたり割れたりします。だから木の特性をお客様によく勉強してもらい、実際にぬか雑巾で床を拭くメンテナンスを体験してもらって、耐えられた方だけに売ろうと決めました。青森ヒバの森にお客様をお連れして、実物を見せることもありましたね。

そうこうしているうちにお客様は増えていきましたが、きちんと家のことを勉強してもらうまでは売りませんでした。次第に勉強を重ねたお客様が増え、売っても良いだろうと判断したときにはもう希望者に売れてしまっていて、新しく営業する必要がないんです。

このように、気付いたら売れている状態にすることが基本ですね。

―そのようなやり方で、経営が危機的状況に陥ったことはありませんか?

数年ごとにオイルショックやリーマンショックといった危機がありましたが、そこまで大きなダメージはなかったです。どん底に入った時って、多くの会社が逃げるんですよね。新しく隙間産業を始めたり、場所を変えて事業を行ったりしてしまう。

しかし、大変なときこそ現在の事業について掘り下げる思考を持つことが重要です。自分がやっている住宅産業とはそもそも何なのか、住居と人間を極めて掘り下げていく。危機に立ち向かうためには、掘り下げが必要なんです。

―それでは、リブランにとって最大の危機だったといえるのはどこでしょうか?

調子が良いときですね。30歳(47年前に100億円の売り上げ)のとき会社の調子が良くて業績もうなぎ上りだったんですが、あまりに上手くビジネスがいくものだから、かえって不安を覚えるようになりました。こういった成功がいつまで続くのだろうかという不安感、危機感から、随分と精神的なストレスを抱えるようにもなりました。あげくスランプで鬱のようになってしまったんです。

―その危機をどう乗り越えましたか?

経営理念というバラスト(船のバランスを取るための重し)がしっかりしていたから転覆しそうになったときに復元できた、というのはあります。理念を深く掘り下げていたからこそ、やるべきことが見えて乗り越えられましたね。

あとは多くの会社が潰れる原因として挙げられる、本業以外に手を出す、銀座に行く、外車に乗る、株に手を出すなどをしませんでした。私はいまだに自腹で銀座に行ったことがありませんし、博打や株、本業以外の仕事はやりません。

調子が良いときにハッと気付き、ブレーキを踏む勇気を持てるかどうかが会社の存続を左右します。調子が良いときって、なかなかブレーキを踏めないんですよね。だから、良くない方向に進んでしまう。

私は平成バブルのとき、社員に「仕事をするな。お客様に売るな」と伝えました。世間が盛り上がっているときに仕事をやらないと言ったので、「うちの社長は経営能力がない」と社員に陰口を叩かれましたけどね。当時はみんなが派手に海外へ行ったり株をやったりしていて、熱狂の渦というか半狂乱の状態でした。こんな状態が長続きする訳がない。そう遠くないうちにとんでもない引き潮が来ることは自明でしたから、バブル真っ盛りの段階で新しくマンションを作ることは止めて、既存の在庫を大きく値引いてでも売り切ることに徹したんです。

そうした防御をできる限り固めたうえで、どれくらい耐えられるかが重要だと判断したのです。だからバブルが弾けたときも、多くの同業が潰れていきましたが、当社はそこまで大きな痛手はありませんでしたね。

感性を取り戻すことが重要

―鈴木さんは長年地域社会の問題を解決するために活動されていますが、最近特に懸念している問題はありますか?

それは「感性がない」ことですね。

昔はご近所付き合いを始めとする周囲との結び付きが強かったものですが、今は全然ありません。そういった環境で育つと、感性の弱い人間になってしまいます。感受性が豊かでない人が政治家や経済人、消費者になっているから、感性のない社会が作られてしまっているんです。

「花を愛でられない男には、経営者の資格はない」と聞いたことがありますが、まさにそうですね。花一輪に心を動かせないような微弱な感性の経営者には、会社の将来を背負って立つ資格はありません。経営者が感性を育むと同時に、感性なき社会を作り変える必要があります。

花を愛でられることが男としての素養とアツく説く鈴木氏。壁際にはその言葉を裏付けるように大輪を咲かせたお花が!

―感性なき社会を作り変えるために、何をすれば良いとお考えですか?

感性のない政治や経済によって、人間を抹殺するような社会や都市環境ができてしまっている上に、人口が減ってマーケットは収縮し、また新しい社会問題が噴出してくる。先へ先へと進んでいても、新しい社会問題が起きるばかりで日本や世界が一向に良くなりません。今の社会を再生させるためには、先へ進むのではなく、一つの時代が終わったといわれている産業にもう一度思想をぶちこみ、掘り下げていくことが求められます。

住宅業界は古い産業の一つですが、当社は「自然があり、社会があり、住宅があり、人間が生かされている」という一体的な考えをとり入れることで、実際に、冷房を使わない緑のカーテンを導入できないかと思い至り、実行したりしています。これまで、ビニール系の呼吸しないマンションで育った子どもが、このような自然素材を採用した当社の「エコヴィレッジ」に住むと、1年ほどで体が丈夫になったり、気持ちが良くなったりしているのです。エコヴィレッジで採用した緑のカーテンは、日本全国で展開され、東日本被災地の仮設住宅にも半分近く設置されてきています。

深く掘り下げて考え、地域の人々と対話することで感性を取り戻し、実際に社会問題を解決できる商品を世に送り出していくことが重要だと思います。もはや従来型の経営は終焉です。倫理を基軸にした倫理経営への転換が重要であり、倫理経済から倫理資本主義の再構築が急務であります。マーケットは縮小気味ではありますが、倫理経営に転換されたあなたの企業にのみ無限のマーケットが創出されます。

【プロフィール】
鈴木 靜雄(すずき しずお)

千葉県出身。19歳から東京都板橋区の不動産会社でアルバイトを始め、22歳のときに独立。25歳で千葉建設株式会社を設立し、代表取締役に就任。1985年、社名を株式会社リブランと改める。板橋区にある中小企業の顔役として長年君臨し、住まいを通じて地域活性化に貢献。2002年、代表を辞して取締役相談役に就任。以後、現職。

    関連する事例記事

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2023年02月28日経営ハッカー編集部

      衆議院議員・小林史明氏×freee佐々木大輔CEO 企業のデジタル化実現のために国が描く未来とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年10月24日経営ハッカー編集部

      仕事が・ビジネスが、はかどる。最新鋭スキャナー「ScanSnap iX1600」の持てる強みとインパクト

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月30日経営ハッカー編集部

      ギークス佐久間大輔取締役、佐々木一成SDGsアンバサダーに聞く~フリーランスと共に築くESG経営とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月28日経営ハッカー編集部

      サイバー・バズ髙村彰典社長に聞く~コミュニケーションが変える世界、SNSの可能性とは?

    • 資本金・資本準備金・資本余剰金の違いとそれぞれの役割を徹底解説
      インタビュー・コラム2022年08月05日経営ハッカー編集部

      バックオフィスをどう評価する? 経理をやる気にする「目標設定」と「評価基準」の作り方

    関連記事一覧