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2019年05月17日(金)

中長期的に発展したい会社が“財務諸表にのらない価値”を高める方法とは?株式会社eumo代表取締役 新井和宏氏

経営ハッカー編集部
中長期的に発展したい会社が“財務諸表にのらない価値”を高める方法とは?株式会社eumo代表取締役 新井和宏氏

鎌倉投信の創業者の1人である新井和宏氏は、独特の投資スタイルで有名だ。大企業よりも中小企業に何度も足を運び、バランスシートに乗らない定性的な価値を見出し投資を実行する。ついに新井氏は、その価値を定量化するスキームを得て、鎌倉投信を飛び出し株式会社eumoを起業。良い企業と社員を生み出す社会をつくるチャレンジを始めた。

本稿では、新井氏の活動を参考に企業の人材育成を考えてみたい。

良い企業と悪い企業の見分け方とは?

-新井さんは、鎌倉投信時代に、定性評価を重視し、中長期的に伸びる良い企業とそうでない企業を判別していたと聞きます。その方法や、良い悪いの違いは何なのでしょうか?

私が取っていたスタイルとは、実際に投資候補先の会社に足を運んで会社の雰囲気や、人の出入り、社員に話を聞いたりすることで会社の数字に表れていない部分を見ていくことでした。

社員自身の労働観や会社に対して考えていること、会社への愛情といったことをヒアリングします。そして社員が仕事にやりがいを感じているか、社員の家族との関係は良いか、取引先とのリレーションも上手くいっているかなど、財務諸表だけで評価できないところを見ていきます。何回か訪問するうちに、その会社の将来が見えてくるようになります。

そういった中で、たくさんの会社を訪問して気づいたのは、良い会社とそうでない会社の違いは、社員が持つ『美意識』と『人間力』にあるということです。

美意識と言うのは、例えば、社員の通勤用の自動車が前向きに駐車しているときに、
後ろのバンパーのラインが横一線にきれいにそろっているかどうかということです。

何を以て美しい、尊いと判断するか?それは経営者の指示命令から生まれるのではありません。会社全体、社員一人一人が『何が美しいか』を理解し実践しているかどうかによります。経営者が指示命令していることではないので、自発的に考え行動に移しているのです。それによって働いている人も心地良いし、その会社と関係を持っている人たちも心地良くなる。そういう思いがある会社が良い会社だと思います。

また、普通はどこの会社の社員も給料を貰って当たり前、と考えていると思います。その点、『人間力』のある会社は違う。自分がどれだけ会社に貢献し、そして人間力を高めていくかを考えているのです。どの役職に就きたい、ではなく『あの先輩のようになりたい』という志を持っている。なぜなら、その先輩たちは人間的な魅力があり、社会のために役立とうと懸命に努力しているからなのです。

会社もそういった個々の人の繋がりで成り立っていて、実質的な会社の価値を決めているのです。人間力の高い会社は、さらに人間力を高めようとし、それによって社員が幸せになり、中長期的に見ると成長しています。

-そういう会社は素晴らしいと思いますが、実践するのは簡単ではなさそうです。

確かにこういう数字として表れない精神的なものを伝えるのは難しい。それが経営に繋がるの?という話になってしまう。そこで、これらを定量化できないかとずっと考えていました。

あるとき、この定性的な美意識と人間力を数値化し、見える化している団体があること知りました。それがユーダイモニア研究所です。2年ほど前、幸福学の前野隆司(慶應義塾大学大学院SDM研究所教授、現当社eumo最「幸」顧問)を介して水野貴之(一般社団法人ユーダイモニア研究所代表理事、現当社取締役)さんに会いました。

その流れで研究所に伺ったのがきっかけです。そこで彼等が考えていることと自分が考えていたことが同一であると感じたのです。そこでは今まで数値化できなかった見えない価値を、テクノロジーを用いて可視化する技術を開発していました。これは数字にしないと理解できない左脳が発達した人達に向けて使える!と(笑)。

そして、起業の動機の一つになっているのが、このeumoグラムを実際に適応して、我々自身が人財育成をしていこうということでもあります。

ちなみに、eumoはユーダイモニアeudaimonia(持続的幸福)から取ったのですが、ユーダイモニアとはヘドニアHedonia(感覚的幸福)と対になる言葉です。ヘドニアは五感を刺激する心地よさ、承認欲求などを表します。誰かに認められたい、成功したいという気持ちです。対してユーダイモニアは自己実現や生きがいを通じて得られる幸福境涯のことで、内的欲求、天命に従う生き方を実現していくことです。

-次に、今度は逆に、悪い会社の特徴を教えてください

私自身の反省でもありますが、外資系の金融機関で働いていたときは数字でしか物事を判断していませんでした。欧米型の資本主義では、バランスシートなどの財務諸表にのる数値を追いかけることが重視されています。そのため数字に表れないものを見ない。

そういった考えに毒された会社は数字だけを追究して高い業績を上げ、一般より高い給料を社員に払っていたとしても、人間性を排除し、他者を蹴落とすことしか考えないような仕事をしています。社員に対して毎日、満員電車での通勤を強い、指示命令に従わせ、人間性を押し殺して、疲弊させているといった特徴があります。それが日常になっている会社の生活では社員は幸せになれませんよね。人を幸せにしない会社は長続きしません。

人間力を高めるための実践の奨め

-人間力を高めるためにはどのような考え方が必要なのでしょうか?

悪い会社を無くし、良い会社を増やしていくためには社員の人間力を高めることが重要なのですが、それにはまず欧米型資本主義の「お金になる、ならない」の価値観を捨てる努力をすることです。そのためには、「共感資本社会」を体験することが必要です。商品が市場に溢れ、物質的には潤っている現代経済では、実は同価値の「等価交換」だけではなく、慈善・援助・補助といった「贈与」が大きな意味を持ちます。

同じ農作物で同じ大きさならば同じ価格が付くのが普通ですが、一方は無農薬で手間ひまをかけて作られていて、一方は農薬を使って作ったものと知ったらどうでしょうか。消費者は手間をかけて大切に育てられた方により高い金額を払いたくなると思います。それは、手間をかけた生産者を応援したい、高く払いたいという思いの表れです。買い手が良い商品を生み出す売り手のファンになり、喜んでその金額を支払う。あなたの提供するサービスには素晴らしい価値があるのだからもっと払いたい、と考える。安ければ売れる、売れるなら多く作る、という資本主義的な価値基準ではない考え方が「共感資本社会」です。

特に、大量生産も大量消費もない地域経済では、この「共感資本」が地域を再生する重要なファクターになると思います。そこで地域に出かけ、地域のものに価値を見出し、消費することで「共感資本社会」とは何かを理解していくのです。

-御社が考える人間力育成につながる取り組みとは何でしょうか?

長らく金融にかかわっていた人間として実感するのは、金融の仕組みが経済を作り、企業を作り、そこで働く人を作るということです。これをそのまま捉えるのではなく、今回は人を作るところ、人財育成からまず始めようと思います。人財育成を支える金融として発想の転換をすると、人の成長を促すために「人と人とがつながらないと使えないお金」、つまり「家からネットでは使えない通貨」を提供すること、つまりお金をきっかけに「社会関係資本」を作ることです。

近年注目されている仮想通貨は、テクノロジーで儲けることだけに利用しているもので、社会のためになっているようには見えない。仮想通貨はより多くの人が利用することで価値が上がる仕組みになっているので、とにかく広げようとするベクトルがありますが、それとは逆に、その地域だけで利用される通貨を流通させ、地域経済を活性化することを考えています。
我々のアプローチは金融を通して、実際に地域などのコミュニティにつながるためのプラットフォームを構築します。地域に行き、活動し、消費し、地域の方々に感謝されたり、信頼関係を深めることによってコミュニティとの関わりを通じた人間の成長を促す仕組みづくりを行うのです。共に社員の人間力を育成し、良い会社を作ろうではありませんか。

-ありがとうございました。

<プロフィール>

新井和宏……1968年生まれ。東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に多岐にわたる運用業務に従事。2007年~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけにそれまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍(個人投資家約19000人、純資産総額約360億円(2018年5月時点))。2018年9月13日株式会社eumoを設立。

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