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2019年05月30日(木)

リゾートで仕事!地を使った創造力とモチベーションを上げる新しい働き方「ワーケーション」

経営ハッカー編集部
リゾートで仕事!地を使った創造力とモチベーションを上げる新しい働き方「ワーケーション」

政府主導による「働き方改革」が進められる中、従業員のワークライフバランスの向上を目指したり、自宅やサテライトオフィスなどオフィス以外で働ける環境を整えたりする企業が増えてきました。その一方で、AI(人工知能)やRPA(事務業務などの効率化)といったIT技術の進化により、人には、イノベーションにつながる新しいアイデアなどを強く求めるようにも。
 
こうした中で、にわかに注目を集め始めているのが「ワーケーション」という新しい働き方です。「ワーケーション」とは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語。リゾート地などにいながら仕事ができる仕組みを企業が提供し、従業員のリフレッシュとアウトプットの質の向上を促すアメリカ発祥の取り組みです。
 
このワーケーションに着目し、日本でいち早くサービス化したのが株式会社東急シェアリングの金山明煥氏です。働き方改革を進めるうえで、ワーケーションにはどのような効果があり、どのようなメリットがあるのか?また、どのような企業に向いているのか?金山氏に聞きました。

「働き方改革」で注力すべきは“対話”と“創造力の向上”

―現在「働き方改革」が盛んに進められていますが、まずは東急シェアリングさんがこの改革について、どのような問題意識を持っているのか教えてください。

今行われている働き方改革は、基本的に“型”(枠組み)の改革です。「ちゃんと休みなさい」とか「何時間働いたら帰りなさい」とか、もう一歩踏み込んだところでは、在宅ワークやテレワークを推奨するといった取り組みで、これは単なる型でしかない。本来の“働き方を改革すること”とはその先の、働く目的や意味、アウトプットにも着目し、その改善に注力すべきだと私たちは考えています。
 
かつてデジタルが主流ではなかった時代、ホワイトカラーにとって一番の知の源泉は情報でした。具体的には従業員の報告や紙の資料などさまざまな情報のことです。これがオフィスという拠点に集まり皆で共有していました。ところが今はデジタル化が進み、ノートパソコンやスマートフォンなどのデバイスを活用することで、場所や時間にとらわれず、どこでも情報を共有できるようになりました。つまり、オフィスという拠点の利点が薄れてきたのです。
 
また一方で、AIの目覚ましい進化などもあり、アウトプットに対してはこれまで以上に質の高いものが求められるようになりました。このため、例えば、従業員が従来のオフィスに籠もり生み出す従来型のアウトプットだと、アイデアが枯渇し、すぐにコモディティ(一般)化してしまう可能性が高い。今の時代は、従来のオフィスとは環境の違う場所を活用し、複数人の対話によりアウトプットを生み出せるような仕組みが必要だと私たちは考えています。

―金山さんはワーケーション関連のワークショップなどで、「ファーストプレイス」「セカンドプレイス」「サードプレイス」という言葉をよく使われていますが、これも今おっしゃったことと関連してきますか?

大いに関連します。ファーストプレイスは家のことです。人間の生活が狩猟から農耕に移っていく中で「自宅」を所有するという観念が出てきました。その後、産業革命を経て、工場などの「職場」で人々が働くようになった。これがセカンドプレイスです。次に生産性を向上させるために人は余暇をとるようになりましたが、そのための「休息する場所」がサードプレイスですね。
 
従来、職場のストレスを減らすのがサードプレイスの役割だったわけですが、モバイルツールが発達した今の時代はサードプレイスも生産拠点の一部と考えられるようになりました。もっと言えば、サードプレイスの方がいいアイデアが生まれることもある。
 
そういう意味で、今は全ての場が混ざり合い、明確に区別できなくなった時代だと言えます。我々が提唱する「ワーケーション」とは、このサードプライスを新たな知の拠点として、これまで以上に重視していく動きと言えます。

―金山さんたちが、働き方改革や時代の流れの中でワーケーションという働き方に注目してきたことが少しわかってきました。そのワーケーションについて、あらためてどういうものか解説していただけますか?

ワーケーションとは10年ほど前からアメリカで出てきた概念で、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を合わせた造語です。仕事と遊び、仕事とバケーションがシームレスにつながっていくというイメージで、具体的には、リゾート地などにいながら仕事ができる環境を企業が提供し、従業員の休暇と創造性の発揮を同時に促すことを指します。
 
人間は、リゾート地という非日常に身を置くことで、脳や体がリフレッシュされると言われています。これがイノベーションにつながる発想やアイデアの生み出しやすさにつながり、仕事の質の向上が期待できる。またイノベーションには従業員同士の対話が重要ですが、いつもオフィスで顔を合わせている者同士でも、リゾート地だと自然とオープンマインドになる。結果、対話の質も大幅に向上する可能性があります。
 
さらにワーケーションは仕事と休暇の両立にも有効です。例えば、家族と一緒にリゾート地に行き、日中は仕事、夕方からは家族との時間を過ごしたり、平日は仕事、週末は家族を呼んで旅行を楽しんだり。仕事と休暇をシームレスにつなげることができます。ワーケーションは一人ひとりの理想のライフスタイルを実現できるひとつの選択肢でもあるわけです。

世界中に広がるワーケーションの潮流。日本の実情は?

―ワーケーションはアメリカで誕生したとのことですが、世界的な広がりはあるのでしょうか?

世界的に見てもワーケーションは広がりつつあると思います。そもそも海外(とくに欧米)はバケーションの時間が長い。これまではオン・オフをきっちりわける風潮が強かったので、休暇中は仕事をしない人が多かったようですが、最近はノートパソコンやスマートフォンなどが進化したこともあり、リゾート地でメールのやり取りをするなど業務との切り離しがあいまいになってきています。エグゼクティブクラスの人ほど、その傾向が強いように思います。
 
また日常的にリゾート地に身を置いて仕事をするというスタイルも一般化しつつある。例えば、ロンドンから約1時間の場所にある「SOHO FARMHOUSE」という会員制の宿泊施設では、宿泊をするだけでなく仕事をしている人をよく見かけるようになりました。環境を変えて仕事をすることの重要性を、日本人よりも理解している人が多いように感じますね。

―それに比べ日本はどういった状況にあるのでしょうか?

新しいアイデアをどんどん出さないといけないデジタルネイティブな会社さんでは、オフサイト・ミーティングなどと称して軽井沢で役員会議などを実施するなど、すでに似たような取り組みを進めているようです。ですから、ワーケーション、あるいはワーケーションに似た取り組みの導入事例としては、大企業や前々からあるレガシー・カンパニーよりも、ベンチャーなど新興企業の方が多いと思います。
 
大企業やレガシー・カンパニーで導入が難しいのは経費のことでしょう。ワーケーションは「休暇」と「仕事」の切り分けをあいまいにする取り組みでもあるので、経費をどう付けていくかが問題になるのです。それに比べ、アウトプットを重視するベンチャー企業などは、担当者の裁量などで実施できる傾向にあるようですね。
 
大企業やレガシー・カンパニーは、今何ができそうか探っている段階だと思います。やっと従来のオフィスとは違う都内のサテライトオフィスや、在宅でのテレワークができる仕組みが整ってきたという段階でしょうか。我々の提供するワーケーションはその先のステップだと思います。

―そうすると、現状では大企業よりもベンチャー企業の方が取り入れやすいと?

そうですね。変化に柔軟に対応できる企業の方が取り入れやすいのだと思います。あとは、企業の価値観の話になるのですが、従業員の仕事というものを「時間」の概念の中だけで考えている会社は難しいと思いますね。
 
例えば、リゾート地で働くとなると「(仕事の時間を使って)遊んでいるんじゃないか」と、そんな疑いを持たれてしまうような会社がまだあるんですね。今企業に求められているのは、労働を「時間」ではなく「アウトプット」で考えること。具体的には、従業員が質のいいアウトプットを出すための環境や仕組みを整えることだと思うのですが、この点を理解しているかどうかが、今後生き残る企業になれるかどうかの分岐点のひとつだと思います。

脳内でアイデアとアイデアがつながりやすくなる作用

―ワーケーションに興味を持つ企業も増えていると思います。実際に導入するとなった場合、例えば東急シェアリングさんではどのような環境を提供していただけるのでしょうか。

私たちは2018年からワーケーションのサービス提供をはじめましたが、元々は全国のリゾート施設をシェアして使ってもらう会員制シェアリングリゾート事業(東急バケーションズ)を展開していました。その際、提供していた施設を今ワーケーションとしても提供しています。東急バケーションズの各部屋は、一般的なリゾートホテルと違い、2LDKの間取りになっているなど広々とした作りになっています。
 
例えば、よくリゾート地にあるワンルームのホテル部屋だと、ベッドルームとダイニングルームが一緒になっているため、仕事にはあまり向いていません。その点、私たちが提供する部屋では、ベッドルームとダイニングが別々になっており、例えば、家族はベッドルームなどでリラックスしてもらい、自分は別の部屋で仕事をするといった使い方が可能です。
 
また、東急バケーションズの会員は東京圏のお客様がメインのため、今ワーケーション用に提供する施設も、軽井沢、熱海、箱根、伊豆高原など、都内から1時間ほどのエリアに施設が多く配置されています。さらに高齢化社会に対応するため、駅から歩いて数分で行ける場所を意識して配置してきました。つまり、仕事での活用に非常に向いたロケーションに施設が建っているというわけです。

―ワーケーション中に突然オフィスに戻らなければならなくなったときなどにも、施設が駅近にあり、一時間ほどで都内に戻れると安心ですね。御社の施設を実際にワーケーションで利用されているケースとしては、どのようなパターンが多いのでしょう?

各部屋のスペースの関係上、わりとスモールなチーム、5、6人ほどで何かやろうという企業さんに多く使ってもらっている印象が強いですね。ただ、今軽井沢の施設の近くにシェアスペースを用意する計画があるので、そういった施設を活用してもらうと20、30人で会議するなど、もう少し大ぶりな人数でも利用できるようになるかと思います。

―実際に利用した人の中から、例えば、都内のオフィスでは得られないような気づきや、新しい発想が生まれたなどの声が届いているといったことはありませんか?

3人寄れば文殊の知恵じゃないですが、集合知のような効果があったという話はたくさん聞いています。集合知は、これからホワイトカラーがイノベーションを目指すうえでとても重要な要素です。今までは情報を持っていれば、それだけで優位な立場に立てましたが、これからはその情報の価値を高め、いかに質のいいアウトプットにつなげていくかが問われます。一人の人間には限界がありますから、人と人が対話し、その中で情報の価値を高めていくことで、勝負できるアウトプットを作りだしていかなければなりません。そのための環境をワーケーションが提供しているというわけです。

アイデアが出しやすくなるかどうかの定量データは、これから実証実験などを繰り返して計測していくことになると思います。今私が想定しているのは「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という脳の回路の状態をうまく活用できるのではないかということ。私たちが休んでいる状態でも、脳では複数の領域で構成されるネットワークが働いているそうです。さらに脳がDMNの状態にあるときは、それまでつながっていなかった要素と要素がつながりやすくなると言われており、ワーケーションではこの作用が働きやすくなるのではないかと考えています。
 
ちなみに、リゾート地などに泊まり、夜にコミュニケーションできることはとても大事です。昼間に対話した相手と、夜においしいものを食べたり飲んだりしながら話し合う。そうすると関係性もぐっと深まります。もちろんSNSやネットでも関係性は作れますが、ワーケーションではそれとは違う関係性が築けます。胸襟を開いた、フェイストゥフェイスのコミュニケーションができる環境があることで、良いアイデアが生まれやすくなると我々も実感しています。

―「働き方改革」に関連したこととして、最近GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)などの先端企業のオフィスでは、広々としていて、遊べるようなスペースもたくさん用意され、会社に行くのが楽しくなるようなオフィスを作る傾向にあると聞きます。

会社自体をリゾート地のような場所にしてしまおうというのが、GAFAなどの考え方のベースにあると思います。楽園のように、大自然を社内に作ってしまおうと。そこで新しい発想やアイデアをどんどん生み出してもらおうと。これもある種のワーケーションだと私は思います。そういう環境を社内に作るのもひとつの手でしょう。ただし本物の自然には勝てないと思います。
 
また、人、物、金とリソースが限られているベンチャーやスタートアップ企業などの運営者にとっては、自社のオフィスをそのような状態に作る予算をなかなか捻出できないこともあるでしょう。それよりは私たちが提供しているような施設を利用して、ワーケーションを実施する方が、ハードルも大幅に下がると思います。

―ワーケーションを積極的に活用したほうが、時間的な面でも有効かも知れませんね。ワークライフバランスの改善やアウトプットの質の向上など、ワーケーション導入で想定されるメリットがよくわかりました。ありがとうございました。

【プロフィール】
金山 明煥(かなやま あきのり)

 
1984年に東急建設株式会社に入社。入社4年目に、海外留学プログラムを利用し、米マサチューセッツ工科大学へ留学。帰国後、東急電鉄を中核とする東急グループにおいて、さまざまな事業分野における事業開発や事業再生計画などを多数担当する。2011年、株式会社東急ビッグウィーク代表取締役社長に就任。2016年、同社を株式会社東急シェアリングに商号を変更。2019年4月より、東急電鉄株式会社ホスピタリティ事業部事業部長兼、株式会社東急シェアリング取締役 最高戦略責任者に就任し、現在に至る。

【会社概要】
株式会社東急シェアリング

事業所:東京都渋谷区渋谷1-16-14 渋谷地下鉄ビル3階 
設立:1999年7月
資本金:100百万円
主な事業:全国16ヶ所を展開する東急バケーションズの利用権販売とリゾートネットワークの運営、顧客ニーズやライフプランに応じたリゾートライフの提案、シェアリング事業関連
旅行業務 3-5567号

https://www.tokyu-vacations.com

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