成長を続ける会社が、なぜ即戦力の獲得よりも会社のカルチャーを重視した組織づくりに注力しているのか?
「ログ」という言葉はよく耳にするが、あるデータとそれが記録された時間的な情報を意味している。この言葉を社名に込めたログリーは、「ログを集めて、磨くことによって価値を生み出せる」という考えのもと、2006年に創業した会社だ。
創業当時はインターネットを利用する人々が、あまりにも多過ぎる情報に慣れておらず、自分が欲しい情報をどのように選び出せばよいのか分からないという時代。そんなとき、個人にとっての最適な情報を「ログ」を活用することによって抽出するプロダクトの開発に乗り出した。
それから13年を経たログリーは、広告業界にてプロダクトを展開し、ユーザー体験を損なわずに広告を配信できるシステムを実現。そして、2018年6月には東証マザーズに上場を果たす。
近年、「ビッグデータ」という言葉が認知されてきたが、膨大なログ、すなわちビッグデータから価値を生み出し続けてきた、ログリーと時代がマッチしてきている。そのような発展期にある会社が、どのような組織づくりを行い、成長してきたのかを伺った。
過去の採用活動と組織づくりを始めることになったターニングポイント
―専門的な分野のため、それ相応の人材の獲得が求められると考えられますが、どのような採用活動をしてきたのですか?
7年ほど前の採用を振り返ってみると、プロダクトの開発に必要な「即戦力」だけを求めていたことが思い出されます。
とにかくプロダクトを一刻も早くヒットさせることだけを考えていた頃ですから、スキルのあるエンジニアや得意分野を持った技術者ばかりを採用していたのですが、離職する人も多かったですね。
そのときに、仕事の能力やそれに対する待遇だけでは折り合えないということを痛感しました。人によって仕事に対するベクトルはまったく違うということを学びました。
また、当時は私自らがエンジニアとしてプロダクトの開発に集中しきっていたのですが、会社としてプロダクトを提供していくにあたり、私ができることは限られてしまいます。
会社を次のステップに進めるには、プロダクトをより多くの人に届けるための役割を担う人が必要になることに気が付きました。どんなに素晴らしいプロダクトができたとしても、それをドライブする人が欠かせませんし、人が集まれば組織づくりが必要となります。
―採用した社員を定着させるには、どのような施策を行ったのですか?
人にフォーカスした組織づくりを始めました。ポイントは、ベクトルの統一をはかることでした。
まずは、私を含め経営層が「ログリーのカルチャーとは何か?」を言語化して整理するところからスタートし、そこで導き出したのが、コミュニケーションを重視しているということです。
創業以来、フランクにコミュニケーションができる環境を作ることに努めてきましたので、当社には社長室もなく、私は一般社員と机を並べて仕事しています。これには経営層とのコミュニケーションにも垣根がないというプラスの面と、距離が近すぎるという、ややマイナスの面がありますが、会社のカルチャーを形成するうえでは、大きな土台になっていると考えています。
さらに、毎月ランダムに社員5~6名で1組のチームのようなものを作り交流する「シャッフル交流会」を実施しています。たとえば、飲みに行ってもいいし、ボーリングなどの遊びに行ってもいい。その予算は会社から全額支給します。この交流会によって、普段は接点のない部署の社員同士がお互いを知ることができるし、新入社員もすぐに打ち解けられます。
また、オフィスの環境も整備しました。フリースペースを設け、気軽にミーティングをしたり、一人で集中して作業をしたりすることもできるようにしました。
―採用の方針については変化がありましたか?
採用の基準を、会社のカルチャーとマッチするかどうかにしました。かつては、求めるスキルを持っている人なら1次面接で即採用、ということもありました。それを1~3次面接まで行うようにし、まずは会社のカルチャーに共感してくれるかどうかを見させていただくようにしました。
それによって、ここ2~3年は低い離職率で推移していますが、離職は必ずしも悪いことではないとも考えています。
ポジティブな辞め方なら、むしろ応援したいです。「ログリーにいました」と胸を張って語れるような会社にしたいですし、卒業していった人ともビジネスでつながっていければ最高ではないかと思います。
上場後の組織づくり
―2018年に東証マザーズに上場を果たされましたが、採用活動にはどのような影響ありましたか?
上場審査をパスしたという事実は会社の信用度を上げてくれましたので、たくさんの優秀な方が応募してくるなど、採用活動はとてもやりやすくなりました。これによって、外部からの会社の見え方が変わったということを実感しました。
また、社員の家族が会社に対して興味を持っていただいたり、高く評価していただいたりすることも大きなメリットです。
新聞やインターネットを見れば、自分の子供が勤めている会社の株価が分かりますので、採用したばかりの社員の親御さんでも安心していただけているという声も聞きます。もちろん、これは当社がステークホルダーに対しての責任を果たしていくことによって得られるメリットでもありますが。
−今後はどのように組織づくりを行い、会社を成長させていくつもりですか?
現在は、ミドル層の育成が最重要課題だと考えています。トップからのメッセージをまずはミドルへ、そこから各メンバーへきちんと伝わる組織を作るためにも、ミドル層の成長が求められています。その教育は外部の力も借りながら進めています。
また、コミュニケーションを重視した風通しのいい会社でありたいと思っています。一方で、営利団体である企業としては、利益確保を徹底して追求していきます。とにかく、メリハリが利いた会社にしていきたいですね。
本当の意味での「ワークライフバランス」とは、社員の一人ひとりが自分で仕事がコントロールできることだと考えています。しかし、若い人にはまだその力はありませんから、先輩が教えていかなくてはなりません。そういった意味でも、ミドル層の成長はとても重要なのです。
会社の成長過程では、古い考えやかたちにこだわりすぎず、システムを変えていく必要があります。可能な限り権限委譲をして、経営陣は次なる施策を練っていきたいと考えています。