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2019年06月10日(月)

子どもは全品無料のラーメン屋、そのカラクリとは?

経営ハッカー編集部
子どもは全品無料のラーメン屋、そのカラクリとは?

本業で得た収益を子ども食堂に投資する社会貢献のあり方、北海道仕込みのラーメン 麵屋のろし が子どもの笑顔を守る

東京都千代田区に店を構えるラーメン店、麺屋のろし。今、このラーメン屋が話題となっている。なんと、小学生以下の子どもはラーメンやチャーハン、食後のデザートまで全品無料で提供しているのだ。いったいどういった仕組みなのか。

無料の一杯を提供できる理由とは?

秋葉原店の店長、ナバセ・ジャイルスさん。「子どもたちには、たらふくお腹一杯になってほしい」とのこと。

秋葉原から総武線のガード沿いを浅草橋方面に歩くこと8分、和泉公園の一角にそのお店「麵屋のろし」はある。一見したところごく普通のラーメン屋だが、明確に違うのが、店外に大きく張り出された「子ども食堂」の文字だ。驚くなかれ。この麵屋のろし、小学校6年生までの子供ならばいつ何時来ても、無料でラーメンを提供するという驚きのサービスを行っているのだ。事実、店に入るとランドセルを脇に置いた子供達が楽しく談笑しながら、北海道ならではの濃厚な味噌ラーメンをすすっている。秋葉原近隣に住んでいる子たちには最高のたまり場だろう。

しかしここで疑問が生じる。子ども食堂という性質上、地域の貧困家庭をなくしたいという尊い想いに端を発した慈善活動なことは間違いないのだろうが、飲食店の仕組みとしてこれは常識から考えるとあり得ない経営判断だからだ。ラーメン屋のオペレーションで重要なのは、どれだけ回転率を高めていくか。ましてや子ども。食べるのも遅い。これでいったいどうやって商売が成り立つのか。

果たして、その答えは麵屋のろしのWEBサイトで見つけることができた。WEBサイトには、数々の企業名がスポンサーとして明記されている。実は、子供たちに無料で一杯を提供させるために、企業各社から月1万円からなるスポンサーを募集しているとのこと。

麵屋のろしのWEBサイトより協賛企業一覧(http://ocean.colors-group.jp/)

つまり企業が事業活動であげた収益の一部を協賛として麵屋のろしに提供させることで、お腹をすかせた子供たちの胃袋を満たす一杯の原資としている仕組みなのだ。なんて素敵なサイクルなのか。
 
この仕組みを考案したのは、代表の小島貴寿さん。ここに至る過程には数々の苦労があったという。

小島さんが辿った変遷

小島さんは、北海道函館にほど近い木古内町という町で生まれ育った。大学入学を機に上京。卒業後は不動産企業で半年働いた後、その当時の先輩たちに誘われ、投資用不動産の会社のスタートアップに関わった。しかし、リーマン・ショックの影響を受け、経営が立ちいかなくなる。ついには大口の取引先が倒産し、その煽りを受ける形で倒産に追い込まれてしまったのだという。
最終的に業務部長という地位にいた小島さんはお世話になっているオーナー様たちを保護するために株式会社COLORSという会社を立ち上げ、軌道にのせることに成功する。本稿ではCOLORSの話には触れないが、余談ながら、現在COLORSは年商100億を越える企業にまで成長し、投資用不動産業界のなかでも一定のポジションを得るに至っている。

麵屋のろしの物語はCOLORSが軌道に乗り始めた頃、小島さんが北海道に帰省をしたときから始まる。その時、小島さんの父親がちょうど還暦を前にしており節目を迎えていた。そんな中、どちらから言い出すわけでもなく、父親の退職後の生活について話す機会が生まれたという。

「私の父親は当時生命保険会社に勤めていたのですが、もともとは蕎麦屋の経営に関わっていました。体を壊してやむを得ず保険業に転職したのですが、やっぱり残りの人生、食で社会に貢献したいという想いを吐露されて」

寡黙な父親から本心を聞くのは初めてのことだった。なんとか力になりたい。親孝行をしたい。そう決意したという。
海外事業のなかで東南アジアを見て回るうちに、現地駐在員の「日本の食事が恋しくてたまらない」という声が頭に残り、ずっと気になってはいた。そこから海外でラーメン屋をやりたいと考えた小島さんは行動を開始する。地元の函館に戻り自分の好きな、思いを託せる味のラーメン屋に声をかけ始め、その中で、現在の「麺屋のろし」の母体となるラーメン店 狼煙の店長とはすぐに意気投合した。

「世界で勝負するラーメン屋」をつくりたい。それも特に東南アジアで、という話でした」

「実は、前後していくつかの北海道ラーメンのお店と交渉はしたんです。ラーメン店とのコラボという形を取ろうと思ったんですが、なかなか波長の合うお店を見つけられずにいた中で狼煙との出会いでした」

店主は、すぐに社員を修行として現場に送り出すことを約束してくれた。まだ店舗の場所も決まっていない中での決断だった。費用は全て小島さんの自腹。COLORSの社員に迷惑はかけられないという思いからだ。

子ども食堂 麺屋のろしオープン

麺屋のろしのオープンは2014年。場所は現在の秋葉原。思いのほかスタートの売り上げは好調だったが、飲食店によくある話で、一巡、二巡する中で既存客も離れていき、徐々に下降気味に。そんな中、テレビで子どもの貧困率についての特集を目にしたのだそうだ。

「日本の子どもの相対貧困率は16%もあることを初めて知りました。給食が食べられない子がそれほどいるのかと衝撃を受けたんです。それ以降子どもの悲しいニュースを見るたびに自分に何かできないかと想いを巡らせていました。飲食店を営んでいることもあって、子ども食堂は自然と選択肢に入ってきました」

子ども食堂とは、飲食店の定休日に主婦などが間借りをして子どもに数百円で夜ご飯を振る舞うなどの取り組みを指す。共働き世帯の子どもの孤食を防ぐなどの狙いがある。

「普通の子ども食堂は夜限定というところが多いんですよね。うちはせっかく飲食店なのだから、営業時間いっぱい、そして無料というところにはこだわりがありました。儲かっている企業に社会貢献として協賛金を拠出してもらえればいい、というスタンスでしたね」

子ども食堂としてのオープンは2017年8月。はじめから赤字事業であることに変わりはないため、協賛集めに奔走した。まずは不動産業の取引会社を当たった。出資額は一口1万円から。少額にしたのには理由がある。店舗のサイトに広告を掲載することで出資を受けたが、社会貢献の事業をビジネスありきにしたくないという理由があった。また、一見少額に見えるものの、1万円あれば子ども約25人分の食費を賄えるのだ。赴いた企業のほとんどは二つ返事で協賛を決めてくれた。

「取引先に話を切り出すと、思いのほか皆さん好意的に反応してくださり。中には、何か社会貢献をしたいとは思っていたんだけど、寄付するというのもどういった使われ方をするのか目に見えないから何か違うと思っていた、まさにこれだと喜んでくださった方もいました。企業ニーズに応えられているという確かな手ごたえをもつことができました。子ども食堂は子どもの喜ぶ顔がダイレクトに見られます。そのためにも、年齢や小学校名など、どんな子どもたちが来たかというデータは企業に毎月送るようにしています」

こうして麵屋のろし 子供食堂は生まれた。しかし、子どもが無料でご飯を食べられるということは、来店する子どもの数が増えるほど経費が増えるということ。特にテレビで特集されてからはその数が急増したという。事業と慈善活動の狭間で揺れ動いた時期もあったが、子ども食堂はあくまで子どもを笑顔にする事業。ビジネスありきにはしないという小島さんの想いがのぞく。如何にして現在の決断に至ったのか、インタビューした。

―見たところ、子ども食堂は社長の想いで動いている部分が垣間見えます。これは持続性があるのでしょうか?

始めてからも迷いはありました。子どもたちの笑顔が見れる分、売上は目に見えて落ちていきましたから。はたしてこのままでいいのか、随分と考えたんです。でも、テレビで取り上げてくださったときに、この子ども食堂は、慈善事業として振り切ろうと決心しました。反響が非常にあり、色々な方が応援するよとコンタクトを取っていただけるようになりました。また、子供の親御さんからも感謝の声を直接いただけるようになり、自分たちがやっていることの意義を改めて認識するに至ったんです。

―それほどまでにテレビの影響は大きかったのでしょうか?

ええ。テレビに出てからは子どもの数がそれこそ目に見えて増えて回転率も落ちたんですが、その反面テレビを見て出資したいと連絡をくださる方が非常に多く。昔一度だけお会いした人から連絡が来たときは嬉しかったですね。

―ここに至る変遷は波乱万丈ですが、一番苦労した点は?

実は5年前、COLORSとは別に韓国の化粧品を販売する新たな会社をつくったことがありました。COLORSの本業である不動産も一時苦しい状況の時でした。不動産事業以外の軸を作ろうと始めた別事業のはずがこちらもうまくいかなかったんです。

私が海外に良くいくものですから、社内の社員の士気も下がり、キャッシュフローがおいつかなくなりました。数日後に迫ったクライアントへの送金ができなくなってしまうという、あのときですかね。

最終的にお世話になっていたゼネコンから融資を受けることで急場を凌いだのですが、あのときは、死んで保険金で賄うことさえ頭をよぎるほど追い詰められたんです。それで最終的に、出資してくださった恩人とCOLORSとのろし以外の全事業をやめることを誓ったのですが、「やりきる覚悟がないなら経営者をやめてください」と社員から言われたことで、腹をくくることができたように思います。

おかげで現在は事業基盤が安定するようになり、今一度世の中のためになることに我が身を投じる余裕が生まれるようになりました。

インタビューに同席した、COLORSの執行役員、小島伸之さん。代表と同姓だが、血縁ではない。代表とは大学時代からの友人関係で、苦楽を共にしてきた。

―今後との麵屋のろしの青写真は?

まずは協賛企業を増やし、数字をそこだけで賄えるように転換させることが必要だと思っています。子どもたちが好み、かつ栄養バランスの良い食事を提供できる形態を整えたいですね。

最終的には協賛で保育園を併設したいと考えています。企業の協賛で子どもたちの保育費が賄われるようになったら良いですよね。


 

そもそも、はじめから貧困問題のみにフォーカスするつもりはなかった。「だから子どもは親の所得如何に関わらず全員無料にしている」と小島さんはいう。子どもの中に線引きを設けてしまうと、それがいじめの原因になるかもしれない。

「周囲との関係性の配慮が難しい点も子どもならではの事情もありますので、ここを変えるつもりはありません。だって子どもは社会全体で育てていくものでしょう」

小島さんはそう言い切った。不動産業のかたわら、子どもたち、そしてその親に憩いの場を提供し続ける麺屋のろし。子どもに優しい全席ソファ掛けのラーメン店は、今日も小さな笑顔であふれている。

 

<プロフィール>
小島貴寿

株式会社COLORSホールディングス 代表取締役 
 
<会社情報>
株式会社OCEAN

東京都千代田区神田和泉町2-8 須永ビル1階
03-5829-4822

株式会社COLORS
東京都千代田区鍛冶町2-6-2 上野ビルディング8階
03-6206-0345
https://www.colors-group.jp/
年商:10,039百万円(COLORSグループ全体)
社員数:60名(COLORSグループ全体)

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