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2019年06月07日(金)

「いきなり4000万」「選手x営業」「誘う環境作り」。スポーツ業界に革命を起こすヴォレアス北海道の攻めの運営

経営ハッカー編集部
「いきなり4000万」「選手x営業」「誘う環境作り」。スポーツ業界に革命を起こすヴォレアス北海道の攻めの運営

2018年より新Vリーグを立ち上げ、スポーツのビジネス化を推進する日本バレーボールリーグ機構。業界全体がスポーツで収益を上げる道を模索する中、攻めの姿勢で着実に儲けを生み出す仕組みを構築しているバレーボールチームがあります。
 
北海道旭川市をホームに活動するヴォレアス北海道は、2017年にリーグ参戦したばかりの比較的新しいチーム。母体企業の社員として選手を採用する他チームとは異なり、独立した“プロチーム”としての運営システムを確立させてきました。次々と話題性の高い新サービスを打ち出しているのは、発足当初からチームの陣頭指揮を取ってきた株式会社VOREAS代表の池田憲士郎氏。
 
初年度からスター選手や外国人監督を獲得、1部リーグ決勝戦のプレミアムシートより高いS席1万円でホーム試合の前売りチケットを販売するなどアグレッシブな運営を行い、メディアの注目を集める革命児に話を聞きました。

始まりは人手不足の建設業に若者を呼び戻す手段だった

—プロチーム発足の経緯をお聞かせください。

もともと僕も旭川市出身なのですが、大学卒業後は父が地元で経営する株式会社アイ・ディー​・エフという建設会社を継ぐため、まず東京の取引先メーカーで営業の修行をしました。ところが、3年ぶりに旭川に戻ってみると驚くほど町に元気がなくなっていたんです。当時から北海道は高齢化と人手不足に悩まされていました。特に建設業はその影響が大きく、父の会社も従業員のほとんどが50歳以上、募集しても若者は一人も来ない状況。そんな中、アイ・ディー​・エフが持っていたバレーボールのクラブチームを前面に押し出して募集してみたところ、翌年には10人の10〜20代社員の採用に成功しました。

—どのような募集をされたのですか?

その頃、仕事をしながらバレーボールができる環境は北海道にありませんでしたから、シンプルに「チームあります」と。入ってきたのはIターン、Uターンで旭川にやってきた10名。平均年齢は約10歳若返り、30人だった社員は今では60人程度まで増えています。そんなことをやっているうちに、自社だけが良ければそれでいい、という時代ではなくなってきていることを感じ始めました。旭川はすっかり疲弊していましたし、元気な町づくりと生まれ育った町への愛を持つきっかけがないと、地方都市はなくなってしまうのではないかという不安があったんです。

—そこで思い浮かんだのがプロスポーツチームの重要性ですね。

はい。考えてみれば旭川にはプロスポーツチームがまったくありませんでした。日本ハムファイターズもコンサドーレ札幌も、プロバスケットボールチームのレバンガ北海道も全て札幌。道内2位の人口を誇る都市にプロチームがない方が、そもそもおかしかったんです。スポーツには 「明日もがんばろう」といったモチベーションを人々に喚起する機能が備わっていると思っていました。そこでアイ・ディー​・エフのクラブチームを母体に、プロバレーボールチーム創設へ踏み切ったのが2015年の冬です。

初年度から4000万円投資、アンダードッグ精神で業界に風穴を開ける

—手探り状態の中、最初にどんなアクションを起こされたのですか?

選手と資金集めです。広島カープが何十年もかけて観客数を倍増できたのは、野球という日本国民に親しまれた土壌があってこそ。僕らにはそんな体力はないわけですから、最初からドーンと花火を打ち上げてついてきてもらうしか道はありませんでした。4000万円ほど投入してトップリーグで活躍していたスター選手を獲得し、外国人監督を引っ張ってきて、派手にやりました。

—当初は周囲からの反発も大きかったそうですが、そこで諦めなかったのはなぜですか?

やると決めていましたので、反対されたからといってやめる気はありませんでした。Jリーグ発足時、周囲に散々反対された川淵三郎さんが「だからやろうと思った」という有名な話がありますけど、僕もまったく同じ気持ち。ヴォレアス北海道では「チルドレン・オブ・ザ・レボリューション(革命の子どもたち)」をチームのスローガンに掲げて、最初から革命を起こす気概で動いています。お陰様で発足以来2シーズン連続3部リーグで優勝しまして、来季から2部リーグ昇格が決定していますし、新しいことにトライし続けたことでメディアへの露出も増えてきております。

—おっしゃる通りメディアからの注目も高いヴォレアス北海道ですが、具体的にはどういった取り組みをされているのでしょうか?

最近、一番注目を集めたのは試合会場での完全キャッシュレス化です。プロ野球やJリーグのいくつかのチームでは2019年3月から完全キャッシュレス化を導入していますが、実は日本で最初に取り入れたのは当社。 ヴォレアス北海道は1月から始めています。大企業と違って当社はフットワークの軽さが強みです。仮に失敗したところで、世の中に対するダメージも大企業ほど大きくありません。毎回が挑戦で、毎回が新しい試み、毎回がテスト。だから完成形は存在しません。興行一つ取ってみても、半分以上はいつも新しい試み。常に現場が新しい状態で、ルーティンはありません。

—選手に対して心がけていることはありますか?

選手には「一人でもたくさんのお客さんに来てもらうためにはどうしたらいいのか、貪欲にならなきゃいけない」と伝えています。バレーが上手いのは当たり前。その上でどれだけお客さんを呼べて、感動を伝えられるかを評価基準にしています。極端に言えば、試合に出ていなくても感動を伝えられる選手については評価するというスタンスです。

ファンを動かすための“誘う環境作り”、足を使った泥臭い営業がカギ

—観客動員数はいつ頃から増えていったのでしょう?

最初から動員数は1000人ほどです。バレーボールでこんなに動員できているチームは他にはあまり無いようです。

—やはりSNSの影響ですか?

SNSで僕らのことを知ったからといって、試合会場に来てくれるファンは本当に僅かだと思います。いくらネットが普及しても、やはり泥臭く足を使っていくのが一番です。

—どういった営業活動しているのか、具体的に教えてください。

興味深いのは、スポーツ観戦する人の大半が、最初は誰かに誘われて試合会場に来ると言われていることです。もともと興味のある人が友人や知人から「チケットがあるから一緒に行こう」「生で観戦した方が絶対面白いから」と誘われて、初めて会場に足を向けてくれるわけです。いかに“誘う環境”を作るか、そこでどうやって有料チケットを買ってもらうかに懸かっています。

それには泥臭く足を使って、汗をかかなければなりません。まずは、チームのビジョンを伝えチケットを買ってもらい、会場へ来てもらうことをひたすらやっていきました。来場者に感動体験をしてもらい、ファンになってもらって、「次はお友だちを誘って来てください」とお願いする、その繰り返しです。

—足を使って実際にどういった場所を周られたのですか?

発足当初はチーム名すら誰も知らなかったわけですから、地元の飲食店など約400店舗にポスターを貼ってもらうよう直接お願いしに行きました。旭川市にプロのバレーボールチームができたことやチームロゴの意味を店長さんや店員さんたちにきちんと説明し、お客様に聞かれたら答えてくださるように働きかけることを徹底して行ったんです。仕掛けはこのロゴ。チームカラーの赤を貴重にしたポスターに大きなロゴがドーンとあるとみんな気になるわけです。「かっこいいけどあれ何?」という具合に。

—確かにかっこいいです。

ポスターをきっかけに地域に会話を生み出していく、そんな地道な活動こそ、集客につながると考えています。実は、「応援しています」という人の約9割は試合会場に来ない、という統計が出ています。とはいえ1割は来てくれているわけですから、まず応援してくれる人の分母を増やすことに注力しました。ファンを作って、他の人を連れてリピートしてもらう。これはプロスポーツに限らず、全てのビジネスで共通することですよね。

プロスポーツ選手と営業の相性は抜群! 空気清浄機や電気を選手が売る

—黒字化は何年目を目指していますか?

株式化したのは2017年11月ですので、まだやっと初年度が終わったところ。3年目までは黒字化しないと思っています。プロスポーツチームの主な収入源はチケットセールス、広告収入、グッズ販売、そしてファンクラブですが、バレーボールはホームゲームが各シーズン6試合と少なく、興行収入はそこまで見込めません。テレビ放映もあまりないため広告収入にも頼れず、運営はスポーツ業界でもかなりハードな部類だと思います。

しかし、だからこそチャンスがあると思っています。弊社ではスポーツチームという「媒体」を活用した代理店の事業展開を積極的に行っていまして、選手をプロとして雇用し営業も兼務してもらっています。今は選手の顔も地元に浸透していて、本人が営業に行くと取引先の方もすごく喜んでくださる。アポなしでの営業においても、決定権を持った方が対応してくださる可能性が高いです。スポーツ選手と営業は相性がいいですよ。そこで得た経験が引退後の財産になり、その選手だけの人脈になると信じてます。

—目指すべき山の頂きにはどういったゴールが待っているのでしょうか?

チームとしては、最短で日本一を取ることです。2部リーグ昇格は既に決まっていますので、次のシーズンでも優勝して、1部でも優勝して、あと2年で日本一。目標は大きく最短でクリアする、誰もが無理だと思う事を達成する事に意味があるんです。

—そこに到達するには何が必要だと思われますか?

やはり資金です。代理店としての事業内容は常に10パターン以上を用意していて、どれか一つでも結果が出て応援してくださる方が増え、チームと関わりを持ってもらうことで試合に来てもらう、そういうスキームの構築を目指してします。小さい取り組みの積み重ねで運営の安定化を図ることが肝心です。

最近は、広告以外の分野で利益を作っていくことも活発に行っているのですが、現在はお得意様との提携で、選手たちが企業に空気清浄機を売りに行くことにも挑戦しています。また、電力小売りの自由化にともなって、選手が電気も売っています。お客様の支払う金額はこれまでと変わらず、差額分が応援としてチームに入ってくる“料金下げませんプラン”として。

背番号3番の田城貴之選手は、“営業マン”としても優秀な選手の一人

—それは面白いですね。

大企業がバックに付いているチームは、必ず最後に企業がポーンとお金を出すシステムになっていますよね。企業にガッツリ依存しているのが日本のスポーツの現状ですが、今はどこも10年先が読めない状況。企業側から切られてしまったら終わりです。広告費もリーグの上下や放映権の設定で変動してきます。当社はこうした不安定なソースに依存することなく、プロチームとして自立した健全なシステムを構築していくことを理念としています。

—そうした経営理念はどこで学ばれたのですか?

やって学び、やって学びの繰り返しです。だからこそ、常識に縛られずに動けるのだと思います。もともとレッドオーシャンが嫌いなんです。小さくても一番になれる分野をひたすら取っていくことを信条としていますので、いかにヒット数を増やすかという考えで動いています。

例えば、ネットでの電子トレカの購入を通して特定のチームの応戦ができる「whooop!」というサービスがあります。これも純粋なスポーツチームとして一番売上を出しているのはおそらくヴォレアス北海道です。まだ電子トレカの販売に消極的なチームが多い状況でしたので、当社は最初に一番を取りに行くため真剣に戦略を立てて、積極的に取り組みました。

日本一はあくまで手段、スポーツを地方創生の核に

—協賛企業はほとんど地元企業ですか?

地元が中心ですが、最近は近郊の自治体が積極的に声を掛けてくださいます。

—それは町おこしという文脈で?

現在、僕は純粋なスポーツ事業にはほとんど関わっておらず、北海道をどう世の中に出していくかという活動(観光、食、農業やプロダクトなど)を重点的に行っています。直近では、旭川の隣町にある比布町で廃校を譲り受け、ヴォレアスのクラブハウス機能を含んだ宿泊もできる多目的施設としてリノベーション中です。チーム専属の栄養士がプロデュースするカフェを開いたり、練習施設で子どもたちのスクールやママさんバレーの練習会を催したりと、 やり方によっていろいろなチャンスが広がります。そもそもチームの日本一はあくまで手段であって、スポーツを通して地方創生や次世代を担う子どもたちに関わりたいというのが僕の出発点ですから。

—最後にチーム名である「ヴォレアス」にはどんな意味があるのか教えてください。

ギリシャ神話に出てくる北風の神です。ロゴになっているのは絶滅してしまった北海道のエゾオオカミ。それが羽を持ち神となって北海道で革命を起こす、という意味が込められています。最初からしっかりとベクトルの向く先を作ってあり、ブレずにやっていけているのが当社の推進力。設立当初からの魂を受け継いでいるチームって意外と少ないんです。あったとしてもビジュアルに落とし込んでいるのはおそらくうちだけでしょう。これなら仮に僕が死んでも、チームの魂は永遠に受け継がれますからね(笑)。
 


【プロフィール】
池田憲士郎(いけだ けんしろう)

 
1986年、北海道旭川市生まれ。バレーボール選手として東海大四高校や北海学園大学で活躍し、大学卒業後、3年間の東京勤務を経て父の経営する建設会社、株式会社アイ・ディー​・エフに入社。同社のクラブチームを母体に2015年にヴォレアス北海道を発足、2017年に株式化し、VOREAS代表取締役社長に就任。2019年5月、チームのゼネラルマネージャーから退き経営に専念することを発表した。
 
 
株式会社VOREAS
 
所在地 北海道旭川市東鷹栖4線10号
設立 2017年11月1日
資本金 2000万円
代表取締役 池田 憲士郎
事業内容 プロバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」の運営、並びに付随する事業

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