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2019年06月13日(木)

従業員の対話とリフレクションで生産性アップ。現場主導で経験を学びに変える「Thomasサーベイ」

経営ハッカー編集部
従業員の対話とリフレクションで生産性アップ。現場主導で経験を学びに変える「Thomasサーベイ」

働き方改革関連法が本格施行され、企業は時間外労働の上限規制や、年次有給休暇の取得義務化の対応に追われています。ハード面の整備が進む一方で、問われているのが従業員のモチベーションにフォーカスしたソフト面。今、「従業員エンゲージメント」という新たなキーワードに注目が集まっています。

モニカ株式会社の共同創業者である周藤大輔氏(代表取締役 CEO 兼 COO)と中島久樹氏(代表取締役 CLO)は、対話を通じて人と人の経験学習を促す「リフレクションカード®」シリーズや、データサイエンスの裏付けを基に組織の優先課題を可視化する組織評価ツール「Thomasサーベイ」を開発、企業の従業員エンゲージメント向上を支援しています。経営と従業員のベストな関係性を生み出す秘訣について、お二人に話をうかがいました。

直接経験の振り返りがマスト。マネジメントと現場を結びつける「サーベイと対話」

代表取締役CLO 中島久樹さん

—まずリフレクションとは何か、なぜそれが企業にとって重要なのか教えてください。

中島:リフレクションは「内省・振り返り」を意味しています。経験を学びに変えて成長するための学習理論の重要な考え方です。近年は社会の複雑さが増していき、最初に決めた計画に従って経営を進めていくという、従来のスタイルが難しくなってきました。そのような複雑な状況の中で持続的に成果を出すためには、定期的な振り返りを行って、外部環境や従業員一人ひとりの状況によってマネジメントスタイルを変化させていくことが重要です。

周藤:人材育成の観点からも、リフレクションは非常に重要です。人の成長の70%は直接経験による学びで得られると言われています。企業の中で高いパフォーマンスを発揮している人はリフレクション、つまり直接経験を振り返って学びに変えることができる人。経験学習を積み重ねて次に生かしていくことのできる人です。

中島:「企業内で成長できるかどうかは、最初に出会う上司による影響が大きい」という研究結果も出ています。ここで言ういい上司の条件とは、何かあったときに部下に適切な問いかけをしてあげられる「質問上手な上司」です。 ただし、いい上司に当たるかどうかは運に左右されますから、対話に慣れてない人でも上手く問いを投げかけ、部下の経験を学びに変えてあげられるツールを作りたいと考えたのが、「リフレクションカード®」の開発背景です。

—そこからどのように「Thomasサーベイ」の開発に至ったのですか? 他のサーベイと比べ、新しい点を教えて下さい。

代表取締役CEO兼COO 周藤大輔さん

周藤:リフレクションカードはこれまで上場企業を含む50社以上で、新人からマネジメントまで様々な研修に使われており、個々人の経験学習を促進してきました。次のステップとして、組織レベルでの経験学習を促進することで、経営者や現場で働く従業員の抱える課題や悩みを解決し、それらを通じて生産性の向上を支援したい、という思いがあったため、そのために必要なものは何か?ということを考えていたんです。

中島:それを受けて開発したのが、組織的なリフレクションを支援するための「Thomasサーベイ」でした。サーベイ結果を分析して組織内の優先課題と対話のポイントを可視化。その結果を基に組織内で対話することで、組織レベルでのリフレクションを促すことができます。リフレクションのベクトルは、従業員エンゲージメントの向上。つまり、従業員が自発的に自分の力を発揮できる組織になるために、何から始めてどのように進めればいいのか?というような対話を生み出すことができるのが一番のポイントです。

従来の職務満足度調査は、上司との関係や報酬への納得感、福利厚生等を問ういわゆる「衛生要因」で測られていることが多かったのですが、それだけでは従業員が主体的に働いているかどうかまでは分からなかったんですね。主体性を問うには、モチベーションやエンパワーメント等を測る「動機づけ要因」が鍵。そして、従業員と組織の良好な関係性を表す「従業員エンゲージメント」に目を向けなければならなかったんです。

周藤:世の中にはたくさんのサーベイがありますが、「結果が現場にフィードバックされていない」「サーベイ結果をどう扱えばいいか分からない」という声が多く聞かれます。しかし、使い方が分からないままサーベイ結果を上層部で分析し、施策だけを現場に落とすようなことをしてしまっては、逆に従業員のモチベーションを下げてしまうことになりかねません。その部分をすくい上げることができるのが、「Thomasサーベイ」の画期的なところ。どの課題を優先的に行えば従業員エンゲージメントが上がるのかを見える化することができ、そこに必要な対話も「リフレクションカード®PRO」を使ってサポートすることができます。

—Thomasサーベイでは具体的にどのような分析結果が出てくるのですか?

中島:「Thomasサーベイ」の質問項目は動機づけ要因と衛生要因の2群で構成されており、全部で9指標74項目あります。例えば「人事評価制度や報酬への納得度」の項目なら、「私に対する人事評価は公平で納得できるものである」「私の給料は自分の働きに応じた納得できるものである」など、「エンパワーメントへの納得度」なら「私は、自社のビジョンに共感し、共に達成したい」「私たちのチームは関係性が良く、安心して自分らしく働くことができる」といった項目があります。これらの項目の答えを統計的に処理し、「エンパワーメント」や「風土・関係性」など9指標の得点を算出します。

周藤:そうすると、その組織の強みが把握できる一方で、従業員エンゲージメントを押し下げている要因、つまり課題も見える化されます。そして、そこで出てくる課題は複数あることがほとんどなわけです。通常のサーベイでは、単純にやりやすい課題から手を付けたり、声の大きい人の意見に流されてしまったり、といったことが起きがちなのですが、Thomasサーベイではそれらの課題の中でも、従業員エンゲージメントの向上に一番効果的な課題が何なのか、そしてそれをどのような切り出し方で対話していけば良いのか、までを分析結果として出力します。

Thomasサーベイ分析結果サンプル

—なるほど。そのサーベイ結果を現場レベルに落とし込んでいくツールが、「リフレクションカード®」を組織マネジメント向けに特化させた「リフレクションカード®PRO」ですね?

周藤:はい。実際のサービスでは、Thomasサーベイで見える化された優先課題に対し「リフレクションカード®PRO」を使った具体的な対話構成を提案します。4人1組のワークショップであれば、一人を主人公、残り3人をサポーターにして、順番に主人公を担当します。主人公が対話をスタートさせ、それに対してサポーターが問いを投げ、フィードバックを言い合うことで、気づきを言語化し、サーベイ結果を自分ごと化する、という流れです。「リフレクションカード®PRO」というツールを使うことで、対話に不慣れな組織でもこの一連の流れを簡単かつ効果的に実施できます。

中島:サーベイ結果について対話することは非常に重要です。というのは、現場の声は必ずしも数値化できるものばかりではないからです。「リフレクションカード®PRO」を使うことで、量的なデータの裏に隠れた質的データまで引き出せるようになります。サーベイ結果には答えた人が自分で認識できていることしか反映されませんが、「リフレクションカード®PRO」で的確な問いを投げてあげることで、認識できていなかった考えがあぶり出されてきます。サーベイの数値だけでは分からなかった課題が見えてくるんですね。

周藤:使い方としては、部署単位でワークショップを組んでもいいでしょうし、もし無理であれば1on1ミーティングで使ってもらってもいいでしょう。要は対話を通じて従業員エンゲージメントを上げることが目的ですから、やり方はいろいろあっていいんです。

人間は意味を食べる生き物。仕事への意味付けを個人が行う「キャリアオーナーシップ」が生産性を上げる

—これからの時代、「迷わない組織開発」を進めていくためには何が必要になると思われますか?

中島: 近年、「ティール組織」というキーワードが話題になっています。凄く簡単に言うと、組織は現状に対し常に進化し、アップデートしていかなければいけないという考え方です。ここで重要視されているのは、組織の存在目的。組織が何のために存在し、社会に対してどんな価値を提供していくのか、そのストーリー性が大切になってきます。「人間は意味を食べる生き物」と言われることがありますが、この組織で共に働くことを意味付けして従業員エンゲージメントを高めてあげることが、組織の自発的進化には必要なわけです。

周藤:2017年に米ギャラップ社が実施した「エンゲージメント・サーベイ」で、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%と139カ国中132位。ほぼ最下位でした。意味を喪失してしまっているがゆえに、仕事への熱意を失ってしまっている人がいかに多いかってことが見て取れますよね。

中島:今の若い世代は、仕事に意味を求めています。会社の存在目的や従業員の仕事の意味付けにきちんと予算を割いていくようにしていかなければ、新規採用することさえ、今後は難しくなってくるかもしれません。もちろん、従業員の方も自分たちが熱意を持って働くためにはどうしたらいいか、それを会社の目標とどう合わせていくかを真剣に考えなければいけません。

周藤:それこそが、本当の意味での働き方改革ですよね。残業時間を短くしていくことももちろん大事ですが、それだけで生産性は上がらない。従業員に熱意を持って働いてもらわなければ実現しません。

— マネジメント側と現場が納得し、お互いが成長のベクトルを合わせていくことが重要だと?

周藤: そうですね。2018年に経済産業省が「人生100年時代の社会人基礎力について」という資料をまとめていますが、その中で「働き方改革第2章」に進むべきだという話が出ています。第1章は残業時間などハードウェアに手を入れることに主眼が置かれていた、という前提の下、第2章として、生産性を高めるための従業員エンゲージメント向上に触れています。ここで要求されるのは、従業員が経験を振り返ってキャリアの棚卸しをすること。自分なりの働き方を見つけることを同資料では、「キャリアオーナーシップ」と呼んでいます。

中島:経験学習理論でも、具体的経験、内省的観察をした後は、抽象的概念化していくことが求められています。観察して「そういうことか!」と納得し、自分の中で法則を作る「持論化」に効果があるとされているんです。キャリアオーナーシップもその積み重ねであり、具体的経験をリフレクションし、自分のキャリアを自身で納得しながらつくりあげていくことが大切です。それを組織としてもマネジメントの1要素として支援し、組織と個人がお互いに成長し合う環境を作ることが、働き方改革第2章の本丸だと思います。

今は「従業員エンゲージメントの向上」が、企業をサステイナブルな成長へと導く時代

—「Thomasサーベイ」を利用した事例や利用者の声があれば教えてください。

中島:ある保育園での事例なのですが、その保育園では、Thomasサーベイの優先課題として、「給料への納得感が低いことが、エンゲージメントを押し下げている」という結果が出ました。それだけだとそうだよね、で終わってしまいそうなのですが、その結果を基にワークショップを行ったところ、「給料への納得感が低い」という背景には、特にポジションが上の保育士さんの中に「保育に関する業務は全て完璧にこなさなきければならない」という固定観念があることがわかったんです。極端な例を挙げると、「清掃を外部委託することさえも保育のプロとして失格だ」というような考え方です。

周藤:なぜ外部委託を避けるのか、無意識のうちにこだわっていた理由がサーベイ結果を基にした対話を通して可視化された実例です。実際には、清掃は必ずしも保育士のスキルが必要とされていない部分ですから、清掃業務を外注する保育園は増えているらしいんです。このように、何を捨てて何を続けていくか、組織的な決定を下すための対話の場作りにもThomasサーベイは有効です。この保育園ではまだサーベイを実施したばかり。約1年後にどのような改善結果が出るか、経過を注視しています。


中島:すでに組織改善の変化が見られた事例もあります。都内で複数店舗を展開している理髪店では、サーベイを通して上司の部下への指示が効率良く行われていなかったことが課題として見えてきました。一方、マネジメント側としてはそういった認識は全くなく、むしろ自分たちの指示は効率よく伝わっていると思っていたそうです。

周藤:同社では、全体のワークショップでお互いに思っていることを共有し、その上で上司同士で自分たちのマネジメントについて改めて振り返りの場を設けました。ちょうどその時期に部下と上司の1対1の面談も行っていたため、面談内容に上司の指示の出し方について尋ねる項目を追加し、意見交換を行ったとのことです。サーベイがなければそういった項目を面談に取り入れることはなかったとのことで、サーベイ結果を上手く活用いただいた好例かと思います。3カ月後に再度サーベイをしてみると、上司の指示に対する数値は有意に上昇しており、並行して従業員エンゲージメントも上昇していることが分かりました。経営者の方も「これはまさに経営の通信簿ですね」と喜んでくださいました。

—スタートアップやベンチャー企業が「Thomasサーベイ」で効果を得るためのヒントはありますか?

周藤:スタートアップやベンチャーはどうしても少数精鋭になりがちで、全員に100%に近いパフォーマンスを求める傾向にあります。高いパフォーマンスをキープするためにも、定期的に従業員エンゲージメントの状態を可視化することが足掛かりになります。特に、まだ規模の小さな会社は外部環境の変化に影響を受けやすいですから、「自分たちの経営は本当にこのままでいいのか?」ということを常に気にしてみることが大切だと思います。

中島:従業員が増えるタイミングや環境が変わった段階で使っていただくと、効果が出やすくなります。小規模な企業では、忙しい社長に変わって他のメンバーが新規採用を行い、採用後も社長と新規メンバーの仕事の哲学に関するようなコミュニケーションが取れないまま時間が過ぎていく、ということがよくあります。あるベンチャー企業では、新メンバーを採用してしばらく経った頃、「リフレクションカード®」を使って全員参加の対話の機会を設けたところ、新メンバーには社長から「そんなに熱い想いを持って入社してくれたんだね。君を雇って良かった」という声掛けがあり、お互いの理解が深まってみんなのモチベーションが上がったと喜んでいただきました。

—組織開発を進めていく上で、経営者はどういったことを心がけるべきでしょうか?

中島:さきほども申し上げましたが、従業員エンゲージメントを高めるには、会社の存在意義や従業員個々の仕事の意味を見出す作業を避けて通れないと思っています。 経営者の方々はそれを支援するために、きちんと予算をかけることを意識的にやっていって欲しいですね。

周藤:特に中小企業は従業員に任せる経営スタイルにしていかないと、今後の成長が難しくなってくると思います。対話することで企業のビジョンをきちんと共有して、その上で現場に任せていくのが理想です。それができる状態こそが、従業員エンゲージメントが高いということ。企業をサステイナブルな成長に導くことに繋がります。

【プロフィール】
周藤 大輔(しゅうとう だいすけ)

モニカ株式会社 代表取締役CEO兼COO
金融機関にて営業企画、事務企画、システム移行PMOエキスパート業務等に従事後、
コンサルティングファームにて国内大手金融機関の金融規制対応プロジェクト等に従事。
自己のキャリアを通じて数々のプロジェクトに関わってきた経験から、チームが機能するための必要条件としての心理的安全性の確保や、働き方改革に関心があり、2017年6月に中島らとともにモニカ株式会社を創業、現在に至る。社会保険労務士。


中島 久樹(なかしま ひさき)

モニカ株式会社 代表取締役CLO
リフレクションメソッドラボラトリー代表
リフレクションを中心とした組織開発のファシリテーター、組織開発ツールデザイナー、データサイエンティスト。2012年より、学生から社会人まで多様な人が集まる越境学習の場を構築。
実践で得た知識をもとに対話支援ツールリフレクションカード®やチームメンテナンスツールMonica、組織開発ツールThomasを開発する。2017年6月に周藤らとともにモニカ株式会社を創業し、現職。企業や大学にリフレクションを軸にした組織診断、組織活性プログラムを提供している。


モニカ株式会社

設立2017年6月23日
所在地 東京都武蔵野市中町2-1-9 I.G本社ビル サイフォン合同会社内
代表取締役 周藤大輔(CEO兼COO)・中島久樹(CLO)
事業内容 経営コンサルタント及び各種マーケティングリサーチ業務、人事・労務領域におけるサービスデザイン業務やツールの開発及び販売・運用ワークショップ・研修及びセミナーの企画立案及び運営、書籍及び教育出版物の企画・制作・出版並びに販売、コンピュータシステムに関するコンサルタント業務

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