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2019年06月21日(金)

この先10年どうなる?“高精度な近未来予測”を経営者が今すぐ行うべき理由

経営ハッカー編集部
この先10年どうなる?“高精度な近未来予測”を経営者が今すぐ行うべき理由

AI(人工知能)やIoT、自動運転技術など新しい技術の登場で、私たちの生活はより便利なものになろうとしています。一方で、新しい技術により、衰退が危惧される産業が次々と現れるなど、テクノロジーの進化は、私たちの想像を超えるスピードで産業界に影響を及ぼし始めています。

世の中が激しく変化する中で、企業が生き残るにはどうすればよいのでしょう。「精度の高い近未来の情報を集め、必死になって勉強することは経営者の責任だ」と熱弁を振るうのは、創立から半世紀以上にわたり、自動ドアを造り続けてきた日本自動ドア株式会社の代表取締役社長・吉原二郎氏です。

明治学院大学法学部非常勤講師としての顔も持ち、近未来予測と企業運営をテーマとした講義を受け持つ吉原氏。現在どのようなテクノロジーが生まれ、どういった変化が産業界に起こりつつあるのか、なぜ精度の高い近未来予測が必要なのか。具体的な事例を複数挙げてもらいながら、吉原氏に説明してもらいました。

トヨタ社長「終身雇用が難しい」発言の背景にあるもの

―まずは日本自動ドアさんの事業概要を教えてください。

当社は全国27箇所に拠点を持ち、自動ドアの製造から販売、施行、保守メンテナンスまでの業務をワンストップで提供しています。主な設置先はコンビニやドラッグストア、コーヒーチェーンなどさまざまですね。

実は自動ドアは、AI制御で自律的に動くロボットの中でも、私たちの生活圏に広く浸透しているシステムのひとつ。それを当社では、全国に18万台設置し、年間4万件の修理依頼に対応しています。また、私たちはこれら既存の事業だけではなく、AIや顔認証、ロボット工学などの技術を活用した新サービスの研究開発を日々推進しています。「日本自動ドア」と社名は付いていますが、実はロボット業界の中でも最先端のことを行っている会社だと自負しています。

―では、吉原さんが言う“精度の高い近未来予測”について教えていただけますか?

つい先月(2019年5月)、トヨタ自動車が日本企業として初めて売り上げが30兆円を超えたことを発表しました。これは素晴らしいことだと私たちも沸き上がったのですが、そのわずか一週間後に「終身雇用を守っていくのは難しい」という悲観的なコメントを豊田社長が出しました。

30兆円といえば、サウジアラビアの2019年度の国家予算ぐらいある金額です。そんな売り上げを誇る企業であれば、将来は安泰じゃないかと思いますよね。でも実は豊田社長はそうは思っていない。精度高く未来を予測しているため、今回のようなコメントが出てくるのだと思います。

その予測は何に基づいているのかというと、今徐々に起こりつつある電気自動車(EV)革命ですね。現在、ガソリン車の部品の点数は1台3万点以上だと言われていますが、電気自動車の場合は、その3分の1以下にまで減ると言われています。というのも、電気自動車は大雑把に言うと、バッテリーとモーターと制御基盤(コンピューター)があれば動くからです。

部品の数が3分の1に減ると、価格も3分の1、生産工程も3分の1になります。さらに、トヨタの社員の総数は36万人ですが、これが10万人ぐらいに減るかもしれない。自動車産業全体で539万人ほどの雇用を生んでいると言われていますが、これも360万人分ぐらいの雇用がなくなるかもしれない。こういったことを考えると、豊田社長も「終身雇用を守っていくのは難しい」というコメントにならざるを得ないわけですね。

これから10年で起こる革命的な変化

―今聞いたような革命的な変化は、今後さまざまな業界で起こると考えられているのでしょうか?

起こると思います。どの業界でどのような変化が起こるのか。今後10年で起こると考えられている代表的な事例をいくつか挙げましょう。

まず公共交通機関が破綻懸念先になると考えられます。現在、自動運転の技術が進化していて、ほぼ完全な自動運転状態とされる「自動運転レベル4」状態が5年以内に実現すると言われています。実際に中国では自動運転車が公道を走っていて、かなり実用段階に近づいています。こういった自動運転車が一般社会に普及すると、誰も公共交通機関を使わなくなります。だって、ボタンを押すだけで自家用車がどこでも連れて行ってくれるのですから、わざわざ混んでいる電車やバスに誰も乗りませんよね。

あと、高等教育に対する教員の給料が下がると言われています。皆さんもよくご存じのAppleの「Siri」やAmazonの「アレクサ」といったAIはどんどん学習が進んでいて、そのうち高等教育レベルの知識を提供するようになると考えられています。となると、わざわざ覚えたり、学校に行って学んだりする必要がなくなります。私は近い将来、今の学校教育の7割ほどが不要になるかもしれないと考えています。

バイオテクノロジー分野でも革命的な変化が起きています。去年の11月に中国でゲノム編集を施した子どもが生まれたと報道があり大騒ぎになりましたが、実はその一月前に、雄のマウス同士から子どもが生まれたという衝撃的な報道がありました。雄の精子は卵子(の要素)を内包しているらしいのですが、その卵子の部分と別の雄の精子を掛けあわせることで子どもができたというのです。これはマウスの話ですが、バイオテクノロジーは大変な速度で研究が進んでいますから、そう遠くない未来に、人間の同性カップルからも子どもが生まれる社会が実現するかもしれません。

また、バイオベンチャー企業「Bio VIVA」のCEO・エリザベス・パリッシュさんは、テロメアのゲノム編集を施すことで、寿命を20年延ばす遺伝子治療を開発。自分自身に施し、20年若返ったと言います。こういった年齢不詳の人が世の中にどんどん増えていくでしょうね。

―どれも衝撃的な未来の姿ですね。ここ数年、テクノロジーの進化が急激に加速している印象があります。これには何か理由があるのでしょうか?

今起こっているロボット分野のテクノロジーの劇的な進化の背景には、6つの要素技術の成熟があると思います。センサー(五感)、モーター(手足と関節)、AI(頭脳)、カメラ(目)、ソーラー(動力)、バッテリー(予備電源)の6つ。これらが同じタイミングでバランス良く精度が良くなってきたため、さまざまな分野のテクノロノジーが一気に花開いたのだと思います。それによる社会の大きな変化にともない、当然、ビジネスのあり方も変わってくるでしょう。

自動ドアの会社が「広告」や「ロボティクス」の会社に?

―日本自動ドアさんでも先端技術を活用したサービスを開発しているとおっしゃっていましたが、具体的にはどのような研究開発を行っているのでしょう?

こちらのイメージ図で説明しましょう。

まず私たちは、建物入り口にある自動ドアに、デジタルサイネージ(電子看板)が搭載され、普段は天気予報などが映し出されるようなサービスを考えています。そこに、イメージ図のような親子がやってくると、天気予報が受付担当の男性の画像に切り替わります。画像の男性は母親に向けて「個人認証をしますか?」と訊ねる。母親が了解すると、顔認証が行われ、母親が東京都豊島区に住むAさんだと認識されます。

続いてAさんが、「子どもが熱を出したので、診察に来た」などと要件を伝えると、自動ドアが開き、中には情報を引き継いだロボットがいて、母親と子どもを病院内へと案内していくと。このように、AIや顔認証、ロボット工学などのテクノロジーを活用し、建物の入り口からさまざまなサービスを提供するような技術を研究開発しています。

ちなみに私たちは様々なロボットベンチャー企業と提携して顔認証技術などを共同開発していて、今世の中にあるものよりもさらに精度が高く、きちんと言葉も認識できるものができあがると考えています。完成すると、ロボットが案内業務を担う他、商業施設で買い物のお手伝いをしたり、駐車場の案内をしたり、夜間は警備や掃除も担うなど、さまざまな活用の仕方ができると思います。

開発段階としては、いろいろなバグ修正をしているところで、うまくいけば来年中ぐらいにはリリースできる見込みです。顔認証技術が完成しサービスを提供できるようになると、私たちの事業のコアの部分も変わってくると思っていて、5年先、10年先には、もしかしたら広告業界やロボティクスに軸足を置く企業に変わっているかもしれませんね。

―まさに近未来を予測して、事業を変化させていこうとしているわけですね。

あともうひとつ、これは私たちが開発している技術ではないのですが、私たちの現在の業務に大きく関わるかもしれないサービスがあります。それが、昨年GoogleがリリースしたAIによるレストランの予約音声サービス「Google Duplex」です。

Google Duplexは、人間が希望の時間帯や人数などをGoogleアシスタント(AI)に伝えると、人間の代わりにAIがレストランなどに電話をして予約などをしてくれるサービスで、すでにアメリカの一部ではサービスがスタートしています。現在はまだAIだとスムーズに予約できないケースが一定数あるようですが、今後3年ほどでかなり完成度が高いものになることは間違いありません。

するとどうなるか? 私たちのスケジュールをAIが埋めてくれるような世界が実現すると思います。例えば、弊社の仕事には、自動ドアの修理依頼を受け、スケジュールが空いているスタッフとマッチングする業務があるのですが、この大部分をAIが担ってくれるようになるかもしれません。弊社のケースに限らず、例えばタクシーの予約対応など、さまざまな企業の受付業務が簡素化していくのではないでしょうか。

これからの時代に、どんな意識を持つべきか

―そうすると、気になるのが“近未来の働き方”です。バイオテクノロジーなどの進化もあり、これから人の寿命がどんどん伸びていく中で、私たちの働き方はどう変化し、どのような対処が必要になるとお考えですか?

リンダ・グラットンとアンドリュー・スコットという学者による『LIFE SHIFT -100年時代の人生戦略』という本があります。この本では、長寿命化により私たちは今後100年以上を生きる時代になると書かれており、20歳から60歳ぐらいまでの40年間が壮年期(働く現役時代)だったのが、これからは20歳から100歳ぐらいまでの80年間にまで増えると考えられています。

私もこの意見には概ね賛成で、今研究されているiPS細胞の実用化は間違いないと思いますし、その他の医療技術の発展もあり、人の寿命は120歳ぐらいまで増えると思います。

壮年期が20歳から60歳までのときは、ひとつの会社に勤め上げ、60歳からは定年後に年金暮らしをするといった流れが一般的だったでしょう。でも壮年期が20歳から100歳までとなると、例えば、20歳から40歳までは最初の会社に勤め、40際から60歳までは二つめの会社に移る。さらに60歳から80歳までは自分で起業し、80歳以降は後継者の育成に勤めるなど、キャリアが複雑になり、複数の波を乗り越えていかなければならなくなります。この波をどう乗り越えていくか、この波を克服する力が強く求められるようになると思います。

―最後に、これからの時代に対して、我々はどのような意識を持つべきか、ご意見をお聞かせください。

どんな業種、業態の企業であれ、テクノロジーから目を背けてはいけないと思います。目を背けるとあっという間に淘汰されてしまうかもしれません。私は毎日、新聞を15種類読んでいます。情報を集められるだけ大量に集めているわけです。もちろんその全てを精緻に読む必要はありません。でもざっと全体に目を通し、これはという情報を抜き出して、深く勉強していくことが大事だと思います。こうした情報を元に近未来を予測すると、かなり精度の高い予想ができるのではないでしょうか。そのための手間と時間を惜しんではいけないと思います。

もちろんテクノロジーの進化に付いていくのは辛い側面もあります。でも5年後、10年後の近未来に何が起こるかを考え対処していかないと、社員がかわいそうな目に遭ってしまう可能性が高い。ですから、精度の高い情報を集めて必死に勉強する。それが経営者の責任だと思います。

―企業の経営者が近未来予測をしっかりと行っていかないと、劇的に変わる社会の中では正確な舵取りができないことがよくわかりました。ありがとうございました。

 

【プロフィール】
吉原 二郎(よしはら じろう)

1971年、埼玉県日高市生まれ。明治学院大学法学部卒業。日本自動ドア株式会社代表取締役社長。在学中から同社の工場でアルバイトとして勤務。2012年同社代表取締役社長に就任した。明治学院大学法学部非常勤講師や論語指導士、防衛省東部方面総督部援護協力会副会長など多様な顔を持つ。

【会社概要】
日本自動ドア株式会社

本社所在地:〒165-0031 東京都中野区上鷺宮3-16-5
創業:昭和41年6月30日
設立:昭和45年8月14日
資本金:1億8万円
営業品目:自動ドア開閉装置(店舗・ビル)、特殊自動ドア装置(家庭・産業)、自動ドア用スイッチ、防犯警備機器・強化ガラスドア、ステンレスフロント・アルミフロント、国土交通大臣認定防火設備自動ドア開閉機構

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