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2019年06月27日(木)

大手企業からベンチャーへ。やりがい重視で仕事選びは大きく変わる

経営ハッカー編集部
大手企業からベンチャーへ。やりがい重視で仕事選びは大きく変わる

総務省の労働力調査によると、2018年の転職者数は329万人となり、8年連続で増えているといいます。しかし、転職したからといって必ずしも収入が増えるとは限らず、長期間勤務した会社から転職する際に経済的・精神的な不安がつきまとうことには、いぜんとして変わりありません。既婚者であればなおさら、子どもの将来や家計を考えると、新たな一歩を踏み出す勇気がなかなか持てないという人も多いようです。 
 
今回、お話を聞かせていただいた根岸大樹氏は、18年間働いた大手監査法人から、2019年1月にベンチャー企業「株式会社ビーボ」へ転職、現在は同社経営企画室 室長として、株式上場を目指して社内整備などその準備に追われています。順調なキャリアや経済的安定を捨てて、ベンチャー企業に転職を決意した理由は何だったのか、その経緯や現状を詳しく伺います。

将来の選択肢を広げるための出向が、転職への道を引き寄せてくれた

—まずビーボの事業内容を簡単にお聞かせください。

弊社は〝なりたい〟に本気という理念を掲げており、人々の「こうなりたい」という思いを実現するために事業活動をしています。その中でも、現在はマタニティ領域における事業に注力しており、妊活中から妊娠や出産を経て子育てをする人に寄り添った事業を展開しています。具体的には、美容健康食品を扱うD2C事業をはじめ、子育て情報を発信するwebメディアの運営、産後女性に特化した転職サービスを行っており、近々子育て関連のアプリもリリース予定です。

—監査法人からビーボに転職された経緯はどのようなものでしたか?

監査法人に在籍している間に2度外部へ出向する機会があったのですが、2度目の出向先の経理部メンバーとはその後も交流を持っていました。そのメンバーの中に、転職してビーボで経理を担当している人がいまして、「当社で株式上場を目指したいという話が出ている。一度、代表の武川と会ってくれないか」と相談されたのがきっかけでした。

そこで、会いに行った際に武川より「一緒に働きたい」という旨を伝えられました。正直、独身であれば、その場で「お引き受けします」と即答していたと思います。監査法人勤務の頃にも上場準備中のお客様を受け持ったことはありましたが、私は会計監査が担当でしたから、以前から上場準備のプロセス全体に携わってみたいという気持ちを持っていました。もともと、いろいろな現場を見て将来の選択肢を広げておきたいという思いで、出向を希望していたところもありましたし。60歳、70歳を過ぎても働き続けるためにも、外部から発注を受けて作業する監査法人の仕事だけでなく、企業内部からの景色も見てみたかったんです。
 
しかし、実際には既に結婚していて、専業主婦の妻と小学生の子ども二人の所帯持ち。すぐに返答することはできませんでした。それでも最終的には自分のやりたい気持ちが強かったので、妻と話し合うことを決めたのです。

—奥様にはどのくらいの期間で納得してもらうことができたのでしょうか?

時系列で振り返れば、2018年の7月に最初の相談を受けて、その後すぐに代表の武川と会い、条件面の詳細を知らせる連絡を受けたのが1カ月後の8月下旬。そこで初めて引き抜きの話があることを、妻に打ち明けました。説得にはまず、会社の業務について話しました。これは自分自身にとっても重要な部分でしたから。その上で、給与は多少下がるけれど、「自分の将来のためにも挑戦してみたいんだ」と率直な気持ちを伝えました。
 
ちょうどその前年から監査法人のパートナー昇格試験を受けていたところでしたから、最初は妻も驚いていました。でも、思いの外すぐに納得してもらえましたよ。記憶が定かではないですが、その日のうちに私が転職することに、「やりたいんでしょ」と承諾してくれたと思います。

—今回の転職に関して、前職である監査法人の方々から反応はありましたか?

辞める素振りを一切見せていませんでしたので、かなり驚かれました。ありがたいことに「11月のパートナー昇進試験を受けてからでも遅くはない」と引き止めてくださる方もいらっしゃいました。しかし、覚悟を決めてからは転職後の環境にワクワクしていましたし、前職の上司にはとにかく「すみません。でも挑戦してみたいんです」と伝えるしかありませんでした。中には「上場準備会社といってもうまくいくのは一握り」と心配してくださる上司の方もいらっしゃいましたが、最終的には応援してくださる方が大多数でした。

社員が安心して仕事に打ち込める環境整備がベンチャーCFOの任務

—ビーボへの入社は2019年1月1日ということですが、実際に働き始めていかがですか?

社風については、想像していた通りでした。特にインターンで鍛え抜かれた新卒1年目の社員たちの熱量は、感動に値するものがあります。監査法人の新入社員も、もちろん厳しい試験に受かって入ってきているのですが、専門職集団であることもあってか、最初の数年は周囲に教えてもらいながら学んでいく期間と捉えられています。かたやビーボは、新卒にもどんどん権限を渡して、最初から責任ある仕事を任せています。22、23歳の若い社員が全社員の前で堂々とプレゼンしている姿を見て、入社当初はかなりのカルチャーショックを受けましたよ。上場準備会社とはこんなにすごい場所なのだ、と。
 
逆に、福利厚生面については、まだまだ改善していかないといけないといった状態です。ここは大手企業と大きく違うところです。ベンチャー企業に大手と同様の福利厚生がある必要はないと思うのですが、管理が整っていないがゆえに、何か起こったときにみんなが目指していた事業が立ち消えになってしまうことほど悔しいことはありません。才能ある社員たちが安心して働けるよう、そうしたことも含めて社内整備をきちんとしなければと強く感じました。

—具体的には根岸さんはビーボでどういったポジションになるのでしょうか?

当社の社員数は2019年6月時点で本社勤務が100名程度、台湾支社に3名、フィリピン支社に約20名となります。ここ半年で私も含め組織を強くするための30〜40代のキャリア転職組が増え、平均年齢を押し上げているものの、平均年齢はまだまだ30歳前後です。私はその中で経営企画室 室長として計7名のメンバーと共に全社の予算、経理財務、労務、法務、情報システムなどを統括しています。

—根岸さんなりのCFO論を聞かせてください。

実際にオファーを受ける前は、CFOというのは銀行からの借り入れも含め、数字を使った経営管理に従事するポジションというイメージでした。ところが、人数の少ないベンチャー企業のCFOは、数字面だけでなく組織の管理全般を任されることになります。小さな組織では組織の土台を強くし、社員全員が安心して好きな仕事に打ち込める環境作りをするのがバックオフィスであり、それを統括するのがCFOの役目なのだ、と。

—社内整備をする際、他の社員との意見の衝突はありますか?

その点については、私も心配していたところでした。組織体制を整えるためには通常業務に追加して、新たな作業をお願いすることになります。中には、「それでなくても忙しいのに何でこんなことまで」と抵抗を持つ社員もいるだろうと覚悟していました。ところが、実際には社員みんなが協力的でかなり助かっています。これには「IPOを目指すのは組織を強くするための手段。そのために組織体制を整える努力をしていかなければいけない」と、事前に代表から全社員に何度も伝えていたことが背景にあったと思っています。

当社の社員は他人の意見に素直に耳を傾けられる人が多いなと感じています。私が何かお願いすると、「じゃあ、こうしていきましょう」「来週までにやっておきます」と前向きに返してくれる。色々と情報を吸収しようとする姿を見ているとどんどん教えてあげたくなりますよね。

試行錯誤の連続、だからこそやりがいがある

—この半年間でつらかった瞬間、楽しいと思えた瞬間はどういった局面でしたでしょうか?

正直な話、当初は監査法人で培った経験や知識で、ある程度の部分やっていけると考えていました。しかし、蓋を空けてみると意外にも初めての作業が多く、新しい学びが多いことに驚かされています。初めての作業も多いため、日々新しいことを吸収しているところです。会計処理については専門ですが、予算、法務、労務、情報システムといった業務は、監査法人にいた頃には携わったことがありませんでした。ましてや予算など作ったこともありませんでしたから、過去に得た人脈なども使って、周囲の助けを得ながら一から調べて進めています。苦労した瞬間でもあり、楽しかった瞬間でもあります。自分が得てきたものを100%出すだけの職場は60歳を超えてからでも遅くありません。まだまだ成長していきたいと思っていたところで、新しい業務に携われているのはありがたいことです。

それからこれは、楽しいというより嬉しかったことなのですが、先程お話した私をビーボへ誘ってくれた経理担当のメンバーが、社内表彰会にてMVPを受賞した時は感動しました。これまでは彼女一人で経理部門を切り盛りしていたために決算を閉めるまで1カ月かかっていたのですが、現在の体制に変わり、当初目標の5営業日で閉めることができるようになりました。その成果が評価されての表彰に、彼女が涙ながらにコメントしているのを見て、私もウルっときてしまいました。

—IPO準備が進み、N-2期、N-1期に入るとさらに激務になっていきます。

当社は株式上場を目指しています。少なくとも上場までは、細かいことを気にせずに思いっきり仕事に打ち込みたいと考え、わがままは承知で平日は本社の近くに家を借りて単身赴任のような暮らしをしています。往復の通勤時間を考えると、自宅に帰ってもお風呂に入って寝るだけになってしまいます。それならば、と今は思い切って平日のみ一人暮らし。金曜の夜に自宅に帰って、日曜の夜に本社近くの賃貸マンションに戻るという生活を上場までは続ける予定です。

—その暮らし方について奥様はなんと?

これについては、唯一、監査法人の退職金の範囲内で収めて欲しいと妻から条件を出されました。それにやはり、平日ずっと妻一人で子どもの世話をするのは大変ですから、土日に自宅に帰ったら妻の負担が減るように、できるだけ子どもの習い事の送り迎えや長男の勉強を見るなどしています。自分自身の時間は子どもが習い事に出かけている最中だけ。基本的には土日・祝日は家族のために使って、平日は思いきり働くライフスタイルです。

—これからIPO準備段階のベンチャーへ転職を考えている方へ、メッセージがあればお願いします。

選択肢を広げるための事前準備をやった結果、私の場合は目指す職業の中にCFOが入ってきました。みなさんも将来に向けて選択肢を広げるための準備を、今から積極的にやっておくといいかもしれません。上場段階のベンチャー企業といっても、全てが条件のいい所ばかりではないと思います。そんな時の判断に役立つのが、選択肢をいくつ持っているかです。やりたいことを見つけたら、ぜひそれに向かって行動してみてください。行動した結果で生まれてくるものがあるはずです。少なくとも私自身は、行動を起こして正解だったと思っています。

—ありがとうございました。

 

【プロフィール】
根岸大樹(ねぎし ひろき)

2019年中途入社。経営企画室 室長。EY新日本有限責任監査法人にて18年間会計監査を実施し、大手建設会社、食品会社、製造業や上場準備会社などを担当。監査法人在職中に株式会社産業再生機構及び東証1部上場会社への出向を経験。出向先の会社で関わりのあったビーボ社員の紹介により、ビーボへ入社。現在は、経営企画、経営管理及び経理財務に関する業務に従事し、予算、決算、労務・法務・情報システムなどを含めた組織体制の整備を行っている。
 
【会社概要】
株式会社ビーボ/Bbo CO.,LTD.

 
所在地 東京都港区北青山3-3-5 東京建物青山ビル5階(本社)
設立  2010年に株式会社ウェブタンクジャパン設立、2014年に株式会社ビーボに社名変更
資本金 2000万円
代表取締役社長 武川克己(たけがわ かつき)
事業内容 D2C事業、メディア・アプリ事業、キャリア事業、コンサルティング事業、医療サービス事業

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