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2019年07月02日(火)

SDGsに取り組む中小企業を3000社に!日本青年会議所のその狙いとは

経営ハッカー編集部
SDGsに取り組む中小企業を3000社に!日本青年会議所のその狙いとは

コンプライアンスが重視されるようになってからというもの、大企業を中心にSDGsに取り組む企業が増えている。SDGs経営に取り組む企業は機関投資家からの評価も高い。そのため、SDGsへの取り組みは上場企業にとって必須条件となりつつあるといえるだろう。

上場企業のみならず中小企業までこの取り組みを広めようとしているのが、日本青年会議所だ。日本青年会議所ではSDGsに関し、どのような取り組みを行っているのか。日本青年会議所の2019年度 第68代会頭 鎌田長明氏にお話を伺った。

国連と密接な関係がある日本青年会議所だからこそ、SDGsに取り組む

―日本青年会議所ではSDGsを推進されているそうですが、そもそもSDGsって何ですか?

SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことで、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で提唱されたものです。この中では、貧困や飢餓の撲滅、ジェンダー平等、気候変動への対応など、2030年までに達成すべき17の目標(ゴール)とそれに付随する169のターゲットが掲げられています。

我々日本青年会議所(以下「日本JC」)では、2016年以来このSDGsに取り組んできたのですが、地域の青年会議所により取り組み方がバラバラでした。そこで、今年2019年1月にすべての青年会議所の理事長が集まった日本JCの総会で、改めてSDGs推進の宣言をすることで、組織内の意思統一を行いました。

―でもSDGsは国連で採択された目標ですよね。国連は我々にとってとても遠い存在に見えるのですが、JCとはどのような関わりがあるのですか?

もともと青年会議所って国連とかかわりが深いんですよ。今の国連本部がある土地は、もともとアメリカJCの理事だったロックフェラーが寄付したもので、そこから国連と国際青年会議所との関係が始まったんです。以来、国連とJCは密接に連携して運動を進めていて、SDGsについても日本全国にある694の青年会議所すべてで取り組もうとしています。JCのロゴに国連のマークが入っているのも、そういう理由からなんですよ。今、JCは日本で最もSDGsを推進している団体だと思いますね。

―そう言えるのはなぜですか?

今SDGsを推進しているのは、一部の大企業とSDGs未来都市を推進している自治体くらいしかなく、組織として全国的にSDGsに取り組んでいるところはありません。一方、JCでは694の青年会議所でSDGsに取り組んでいますし、そこに何千人何万人という規模のリソースも割いています。

私がJCのメンバーに話しているのは、自分が17のゴールのうちどのゴールを目指すかを考えてほしいということです。次に、それに向けてやることを決めていく。前述の通り、SDGsには169もターゲットあるので、どのターゲットを選んでいただいても良いと思います。

―JCが目指すSDGsのゴールとは?

JC全体として、全国各地でSDGsの企業導入を推進できる人材を育成したいと考えています。たとえば、どこかの中小企業が「SDGsに取り組みたい」と言っても、おそらく具体的に何をどうすればよいかわからないでしょう。その相談に乗れる人材や、セミナーを開催できる人材を47都道府県すべてに確保すべく外務省とタイアップし、50人のSDGsアンバサダーを生み出しました。今年度中にSDGs推進企業を最低3000社作ることを目標にしていて、そのためにKPIを設定して実際に取り組みを進めています。

親子3代でJC会員。子どもの頃からJCは身近な存在

―会頭自身、JCに入られたのはいつ頃なんですか?

32歳の時ですね。私自身は会員歴があまり長くありませんが、祖父も父もJCの会員だったので、物心ついたときからJCは僕にとって身近な存在でした。子どもの頃、JCの理事会に連れて行かれて、大人が会議をしている傍で他の会員の子どもたちと遊んでいた記憶があります。今はあまり子どもの姿は見ないのですが、会員の年齢層的にはちょうど子育て世代にあたるので、子どもを連れてきてもらっても構わないと個人的には思うんですけどね。

―会頭のご実家は代々続く老舗企業ですが、会頭ご自身最初から家業を継ごうと考えていたのですか? 

私はもともと実家を継ぐ気はなくて、大学進学を機に東京に出てきて、24歳のときに東京で起業したのですが、32歳の時に家業を継ぐことになりました。今では自分の起業した会社と承継した会社の両方で社長業をしていますが、特に問題なく経営できています。

今、全国で後継者不足が深刻で、「今後10年以内に大廃業時代が来るかもしれない」という話になっています。しかし、私が思うに、経営者が60代70代で、朝から晩まで働いても赤字経営から脱することのできない会社まで存続させるべきかを考えた方が良いと思うんですよ。そのような会社まで承継させようとするから後継者不足の問題が生じるんです。事業承継を急激に進めたいならソリューションはただ1つ。65歳以上の経営者の会社に、20%ずつ法人税をアップすること。これだけで問題は解決すると思います。

貴重な技術を保有する企業は大手の傘下で生き残る選択肢もある

―でも赤字経営の企業の中には、日本の伝統産業で連綿と残ってきた技術を持っている企業もありますよね。そこもつぶして構わないと?

私の考えでは、そういった貴重な技術を保有したまま赤字経営を続けるのは大きな社会的損失だと思いますね。貴重な技術を持っているということは、それだけ企業価値があるということなので、早々にどこか大きな会社に事業譲渡したほうがいい。

―それはなぜですか?

たとえば、奈良時代に創業した、日本最古の金剛組という建設会社があります。この会社は一時期経営が危機的な状況にあったのですが、高松建設の会長が「金剛組をつぶしてしまうのは日本の恥だ。だから我々が金剛組を応援するのだ」と言って、金剛組を高松建設グループの傘下に入れたんです。高松建設がそういう決断を下したのは、金剛組の名前や技術を残すのが社会的に有意義だから。企業規模の大きな会社であれば、その知名度や技術を活かしてさらに利益をあげられる。それだけ企業価値があるのですから、将来的に高松建設がなくなることがあっても、金剛組は残ると思いますよ。

―金剛組ほどではないにしろ、日本では創業100年を超える長寿企業が世界的に見ても多いのですよね。その理由は何だとお考えですか?

日本の企業が長く続いている理由は、経営者じゃなくて社員にあると思います。うちの会社も、僕が高校生くらいの時に一度倒産したんですよ。その後、僕が東京で起業して会社経営をしている間に、実家の会社が復活してきたんです。復活したと思ったら、今度は社員がぞろぞろ東京までやってきて、「帰ってきてほしい」と懇願されました。これが日本企業が続く理由です。

外国の会社がなぜ存続しにくいのかというと、技術者などの人材が育ったらすぐに辞めてしまうからです。彼らには会社に対する想いが全くないので、辞めることに未練がない。だから経営者がいくら頑張ってもつぶれる。日本はそうじゃないですよね。「会社を守りたい」と思っている人が社内に一定数いるから、今日まで続いている企業が多いのだと思います。「中長期的に持続可能な経営を行っている」という点では、長寿企業とSDGsは相通じるところがありますよね。

JCに参画することで得られる3つのメリット

―JCに参画するメリットとは、いったい何でしょう?

JCに参画するメリットは3つあります。ひとつは、コミュニケーションスキルやマネジメントスキルなど、さまざまな能力が身につく。普段会社を経営している時は、お金で人を動かすのですが、JCは一種のボランティア団体なので、お金でなくボランティアの人たちを動かすことになるんです。お金ではなく、人を動かす経験って会社ではなかなかできないですよね。そうすると、お金以外のモチベーションで動く人が出てくるんですが、お金以外のモチベーションで動く人ぐらい良いパフォーマンスをする人っていないと思います。

2つめは、縦・横のつながり。JCの組織は日本にも世界にありますし、さまざまな業種のメンバーが集まっているので、異業種間でのつながりも生まれます。

―能力とつながりと、あともうひとつは何でしょう?

3つめは、メンバー間でコラボレーションができることです。何か新しいビジネスを始めたいとき、自分一人では何もできないですよね。だからコラボレーションをするんです。なぜこういうことをするかというと、JCは何かを変える運動をずっとしているから。実はこれって特に2代目3代目には一番重要です。2代目3代目になると、時代に合わせて組織を柔軟に変えていかないと生き残っていけないんですよ。ただ、「これはこっちだ」って言っても、みんなすぐにはやってくれるわけではないですよね。それを、わかってもらわないといけない。

JCが社会に対してしていることは、「みんなの心を変えよう」という運動なんです。みんなにどうにかしてわかってもらう。それが社会でできるようになってから会社に戻って実践すれば、社員の感覚が変わります。

SDGsもそう。「SDGsに取り組むぞ!」と会社の中で言っても、みんな最初はポカンとした顔をするんです。うちの会社も1年目はそうでした。ところが2年目になると、「なるほど、こうつながっているんだね」ということがわかってくる社員がちらほら出てきて、3年目くらいには、自分で「こうやろう」みたいなアイデアが社内でたくさん出てくるわけです。こうして人の心を変えていくのだということを学べるのがJCなんです。

JCで語り継がれる「創始の精神」とは

―かつてはJCメンバー間でのビジネスは推奨されなかったはずですが、会頭の宣言の中で「メンバー間でビジネスをしてもいい」という話をされていたのはなぜですか?

それは、もともとJCには「創始の精神」があるからなんですよ。

―「創始の精神」とは?

「創始の精神」とは、JCの創立趣意書に記載されていた「新日本の再建は我々青年の仕事である」に由来する考え方です。JCはもともと国内経済の充実と国際経済との連携を掲げてできた組織なんです。やがて、高度経済成長期を迎え、バブルの時期が終わった後にはもう経済の話はしなくていいのではないかという風潮が漂い始めました。しかし、2011年に日本はGDPが中国に抜かれて、今2倍もの差があります。アメリカともその差が2倍だったのが4倍まで広がっていて、日本は世界経済で立ち遅れつつあるんです。だからJCの中で、「もう一度経済を立て直そう」という機運が高まってきた。だから、会員同士でコラボレーションして新しいビジネスを生み出そうとしているわけです。会員同士で減少していくパイの奪い合いをしてもしょうがないですから。

―だからむしろ、メンバー同士で新しいビジネスを生み出すことでシナジー効果を生むことにもつながると。JCでは具体的にコラボレーションをする機会はあるのでしょうか。

青年会議所は、以前から政治経済に関する会議を毎年夏に行っています。我々の言いたいことを全国のメンバーに伝えたり、我々のしてきたことを発表したりする意味を込めて毎年続けてきたものです。

この会議は今年で25回目になりますが、今年は発表会形式ではなく、「ワールドSDGsサミット」と称してSDGsの進捗に寄与するようなアクションを起こそうと目論んでいます。青年会議所に協力していただける世界の組織および国内の企業様やJCのメンバーが一堂に集う場になりますので、そこで相互にパートナーシップを構築していただき、協業のきっかけを作っていただこうと。また、全国から来てくれるJCのメンバーにも、ここで得たものを持ち帰っていただくことで、各地域の青年会議所に何かいい影響が与えられるといいなと思っています。

―今現在、SDGsに取り組む目標企業数をどこまで達成している?

今(2019年6月現在)で千数百社ですね。おそらく8月くらいまでには3000社は達成できるのではないかと思っています。すでに取り組みは始めているけれど、まだSDGsに取り組んでいるとはっきり言えない企業もまだたくさんありますから。JCのメンバーは3万社もいるのでたいした目標ではないのですが。

―実際に3000社達成したあかつきには、JCメンバーには何を伝えたいですか?

SDGsには17個、正確には16個目標がありますが、その16個の中で自分の会社で何をやりたいかを見つけてほしいと思っています。今まで、企業のゴールと言えば利益を上げて株主に配当という形で還元することしかありませんでした。しかし、今後はSDGsの軸で、目標を見つけて達成する企業を増やしていきたいんです。SDGsの中であれば、貧困をなくすことを目標としてもいいし、環境負荷の低減を目標にしてもいい。世界平和の実現は一企業だけでは難しいかもしれませんが、メンバーには何かひとつでもふたつでも目標を設定して、その実現に少しでも近づけるよう、努力してもらいたいですね。それがJCの狙いですから。

―ありがとうございました。

 

【プロフィール】
鎌田長明(かまだ たけあき)

1980年 香川県高松市生まれ。2003年 東京大学経済学部卒業。
2004年大学発ベンチャーとして株式会社情報基盤開発を創業し、代表取締役社長を務める傍ら、家業である鎌長製衡株式会社を継ぎ、代表取締役社長として経営を担っている。2012年より公益社団法人高松青年会議所に所属し、2019年に日本青年会議所第68代会頭に就任。

日本青年会議所
1951年設立。全国694の青年会議所を持ち、20歳から40歳までのメンバーが、「修練」「奉仕」「友情」の三つの信条のもと、より良い社会づくりをめざし、ボランティアや行政改革等の社会的課題に積極的に取り組む。また、国際青年会議所(JCI)の一員として、各国の青年会議所と連携し、世界を舞台にさまざまな活動を展開している。

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