『濱松誠×山中哲男 大きな夢や目標はなくて良い!どこも目指さない働き方と生き方』トークライブレポート
政府主導で格的に始動した「働き方改革」にともない、今「働き方」のみならず「生き方」も再定義されつつある時代。これからの働き方や生き方はどのように変化するのかをメインテーマに、2019年5月に『濱松誠×山中哲男 夢や目標はなくて良い!どこも目指さない働き方と生き方』が開催されました。
主宰は、さまざまな企業の新事業開発支援やプロジェクト開発支援を行う株式会社トイトマ・代表取締役会長の山中哲男氏。日経ビジネス「次代をつくる100人」に選出され、Business Insider Japanの「BEYOND MILLENNIALS 固定観念を打ち破り世界を変える『Game Changer 2019』アワード」をONE JAPANとして受賞した濱松誠氏をゲストに迎えて展開された、白熱トークライブの模様をレポートします。
今は「働く」と「生きる」が混ざり合う時代
山中:濱松君とは価値観がすごく合うので、最近の僕がよく考えているテーマを彼とディスカッションしたいと思っています。今日は、普段僕らがカフェで話しているような感じで進めますね。
濱松:雑談ベースでいいということですね。テーマが絞られると台本を用意されたような会話になりがちですもんね。
山中:こういうラフな雰囲気で知識や考えをシェアするのが好きなんです。では簡単に自己紹介をお願いします。
濱松:濱松誠です。23歳のときにパナソニックに入社し、海外営業や事業企画、人事の採用戦略や人材・組織開発をしていました。今でこそトヨタの豊田章男社長が「終身雇用が限界」と言いましたが、僕は当時から日本の制度にある種の違和感を感じていて。「じゃあ自分たちでできることは何か」と思い立ち、29歳のときに『One Panasonic』という社内コミュニティを作り、共感する人を増やして、会社や個人の活性化を図る活動をしてきました。
活動をしていると、他社でも共通する考えを持った人が多いことが分かってきて。じゃあ大企業に横串を刺して一緒に解決していこうということで、2016年9月に『ONE JAPAN』を立ち上げました。2枚目の名刺で活動する中で、面白い人や理解を示してくれる仲間に出会えたのはいい体験でしたね。
山中:ちなみに僕は、濱松君のことをマコちゃんと呼びます。
濱松:お互いの呼び方は“マコちゃん”“テッちゃん”で大丈夫なんだよね?僕らの雑談という設定だし。
山中:全く問題ないよ。今日はマコちゃんと話したいことがあるんですよ。ここ1、2年で、働き方改革や生き方について問われているでしょう?
濱松:そうだね。2018年1月に厚労省がモデル就業規則を変えるっていうのがあって。それももう1年半近く前になるけど、それ以前から大企業の働き方に疑問を持つ人は増えていた印象です。
山中:僕は、今の働き方改革は「働き方環境改革」だと思っていて。要するに極力早く帰宅できるような環境整備が多いというか。もちろん組織としての環境改革は重要だけど、僕自身は、今「働く」と「生きる」が混ざっている時代だという感覚があるんです。これまでは仕事とプライベートの区別があったのが、そもそもその区別がなくなっている気がしています。僕らの世代ってそうじゃない?
濱松:確かにそうで、ワークライフバランスという言葉でさえもある種の嫌悪感というか「それはちょっと違うんじゃないの?」という感覚はある。
ただ、乱暴な言い方をすれば、いわゆるしがみつきとか、終身雇用を信じて幻想を持っている人たち、朝8時から夜11時まで働いて、まだ足りないと言われてきた人たちが「まずは労働時間や環境から変えよう」と言うのも理解できるんです。
でもやっぱり40代以上の人たちと、30代くらいの人たちの考えには違いがありますね。ワークアズライフと言われるように、ワークとライフの表現の仕方が、ちょっとずつ違うっていうのがあるかな。
山中:若干の年代差ってあるよね。その中で、働くことの定義が変わってきている気がしています。「働く」と「生きる」の区別がない人もいれば、そうでない人もいる。時代の変革期で混在している。どちらがいいというのではなく、それは選択の自由で。その選択の自由の中で、最近はどちらかというと若い世代に「働く」と「生きる」が混ざっている人が多いと感じています。
白か黒にハッキリ分けるというより、そのときのモチベーションによって働き方や生き方を変えちゃうのもありだと。働かないという選択肢だってあるかもしれない。時代の変化として、そういうことない?
濱松:考えなければいけないのは、何が僕たちの行動の規範や社会の空気感を作っているのか。どんな要因がバイアスや先入観、固定観念を生んでいるのかということ。白か黒かだけではなく、当たり前のようにグレーがあってもいい。凝り固まった価値観の中で決めずに、テッちゃんのように柔軟な視野、視座で物事を見られるかが大事だと思います。
結局は試行錯誤して学びを得ていくしかないんだけど、でもそれには一人だと難しいことがあるから、同じ視線を持っている仲間を集めて、付き合うことが重要ですね。
大きなビジョンの達成より、身近な課題解決
山中:人の可能性を増幅させるときって、人やコミュニティとの接点を作る以外ないと思っていて。最近はパーソナルビジョンや夢を持てとか、「すごいビジョンを持った人がすごい人」っていう風潮がありますよね。それは悪いことじゃなくて、持てる人は本気でチャレンジしてほしいのですが、実は僕、あまりそういうの持ってない。
濱松:なんかすごいビジョンがありそうだけど(笑)。
山中:本当にないの(笑)。僕らの世代でいろいろな活動している人も、あえて最終的なビジョンを持っていない人は多いです。最終的には結果論だから、実現可能なところから事業や活動を広げている人が結構多いわけ。成功している人は、意外と最終的なゴールを決めていない人がいて。できることをやっていく中での経験や出会いを通じて、新たな目的をどんどん作っていくイメージ。だから、方向転換しやすいし、続けやすい。
かといって熱量がないわけじゃないよ。短期的で小さな目標に対しての熱量はみんな持っているけど、「生涯かけてこれをやる」みたいな人は僕の周りにはあまりいない。そういうの持たなくてもできるっていう事実をシェアしていったら面白いのかなって。
濱松:みんな「大きなビジョンを持たないといけない」と思って、自分探しの旅とかするからね。
山中:そうそう。探すことは悪くないんですよ。探すことで見つかる人もいるからね。でも、見つからないから自分を責める必要はないってことです。自分探しっていうのはビジョンをみつけるためではなく、経験を積むためなんですよ。経験を血肉にできない人はビジョンを持てないんじゃないかな。経験が足りなくて、知識と情報だけを頼りにしている人も多いです。
さっきマコちゃんが、いろいろな人と出会ったって言ったけど、リアルに何かやっている人って面白くない?知識が豊富で語れる人は、それはそれで面白いけど、コミュニティに連れて行って紹介したくなる人って、リアリティのある話を持っているんですよ。
濱松:わかる!
山中:これすごく大事で、リアリティのある話ができる人はコミュニティに呼ばれやすくて、巻き込まれやすい。なぜか自分が「行きたい」って言わなくても勝手に巻き込まれちゃうんです。
濱松:試行錯誤してきた生き様みたいな、節々にそういう雰囲気というかオーラがでているんだろうね。
山中:まさに。視野とか視座を高めようって話があったけど、それは自分の可能性に気付くということ。選択肢がない人は、ポテンシャルや才能を持っていたとしても、活かしきれない。持っているものを使えないのは、人生もったいないと僕は思うのね。
一方で、大きな目標を掲げて戦略を練り、生涯かけて何かを成し遂げる人も一定数いて、やっぱりそれはすごいよ。ちょっと僕とは種類が違うんだけど、世の中を動かすようなビジョンを掲げてプランを練っていくと。
でも今は時代の変化が早く、世の中のニーズや課題があまりにも多くて、目標を探しているうちにタイミングを逃すことがある。そう考えると、もうちょっと身近なところから行動を起こすのも、一つの手段だと思っています。「エフェクチュエーション理論」というシリアルアントレプレナーの思考プロセスや行動パターンを追いかけた理論があるんですけど、その理論でも同じようなことが語られています。
今活躍している事業家って、複数の活動を同時進行しているじゃない?いろいろな領域に関わっている人が、どんどん増えてきている。
自分が持っているもので何か新しいものをつくる
山中:じゃあどうやって活動を広げているのかというと、一つは今自分が「持っているもの」を使うことが重要で。
濱松:すごく重要だね。
山中:そうでしょ?持っているものって、意外とみんなキャリアからしか出さない人が多くない?例えば、エンジニアを10年やっていた人がいて、イベント開催準備などでみんなが集まったときに「サイト制作は任せてください」とか。これはキャリアに紐づくもの。
濱松:まあ、よくある。
山中:でも人と意気投合して、いっきにステージを引き上げてもらうことってあるでしょ?僕の経験だと、そういう出会いは、僕のキャリアを使って引き寄せたものではない。「持っているもの」とは、スキルだけでなく、例えば知り合いなど「個の関係性」なんですよね。視点や視座の違う人との関係性を活用するっていうことです。
先ほどの例で言えば、集客のサイト制作もいいんだけれど、それ以外にも登壇者のアテンドをしたり受付をしたり、できることってたくさんあるんですよ。
個人個人持っているものが本当はあるのに、社会人として経験を積むほど、そこに蓋をしているような気がしているんです。キャリアも当然使うけど、でも知人も使うし自分の体も使っちゃう。できることは何でもする。これが「持っているもの」だと思うのね。
濱松:全くそうだよね。そこはビジョンと呼べるほどのものではなく、単なる自分の想いで動いている。「これって楽しいやん、で手伝ってくれへん?」ほんとこんな感じ。
山中:マコちゃんも、同じ共感値の人を集めていったの?これは大事なことで、意外と言語化されていないと思うんだけど、自分が持っているものって、意外とキャリアだけじゃないということを知っておかないといけない。「私はイベントの司会ができます。でも普段は全然違う仕事しています」っていうのも全然ありで。まず選択肢の視野を広げることが「持っているもの」を増幅させていく人の絶対条件だという気がしているのね。
だからよく僕は何か始めるときに「これ面白そうじゃない?」っていうところからスタートするんだけど、全部イメージが固まってからでないと始められない人もいる。
濱松:あるある。「こんなこと言ったら失礼じゃないかな?」とか考え込んじゃって。
山中:マコちゃんは最初のステップってどんなだった?
濱松:まずは、深く考えずに、イエスアンドで応えてくれて、周囲に影響力のありそうな人から声をかけていったかな。いきなりノーという人に言うと、若い僕は影響力も権力もないから潰されちゃうんじゃないかと思って。ある領域の人に話したら「それ面白いね」となるのに、A部長に言うと「やめとけ」みたいなことになるから。
そういう意味では、本当の最初のステップは、あえて説得から入らず、同期や後輩で僕のことを知っていて、しかも僕と話したそうな人たちから仲間にしていったというのはあるね。
山中:なるほど。一人目、二人目に声をかけて仲間にするのが結構重要ってことね。
濱松:うん。「そんなことやってどうするの?」とか「そんなのいらないよ」と否定することは簡単だけど、そうじゃなくて、イエスアンドで「そうですよね、面白そうだからやりましょう!」って最初からテンポよく進んでいけるリズムは大事にしたかった。こちらが相手に求める以上は、自分もそういうテンポ感でありたいよね。
どこまでリスクを許容する覚悟があるか
山中:イエスアンドで失敗したことないの?たまに変な方向に進んじゃうことない?
濱松:気づきはあるよね。「ノリが良い人」と「ノーと言う人」は違いがありすぎるから、ノリが良い方にばかり合わせていると、ノーと言う人への抗体がなくなっていって、いざノーと言う人に話したときに「なんでわからないんだ!」みたいになったり。そこは要注意。
でも社会では、どうしても二項対立的なものは存在するから。口説きたい人って、ノリが良い人だけじゃないから、モードを切り替える意識はしないといけないなって思った。やっぱり企業にいるとどうしても、気持ちよく共感できるだけじゃ動かない部分があるよね。
山中:あるよね。僕も偉い人達との会議を主催して、席順でめちゃめちゃ怒られるみたいなことはいっぱいあった。とは言え、やってみながら気づくこともあって。失敗が怖いという人もいるけれど、一回やってみたら大体分かるんです。「なんでこんなことで怒られるんだ」とムカムカすることもあるけれど、あとで笑い話になる。
濱松:むしろそっちの方が、後で話をよく聞いてもらえたり、深く共感してもらえたりする。
山中:リアリティのある話を持っている人は巻き込まれやすいと言ったけど、それはいい話だけじゃないってことなんですよね。マコちゃんも、今までトライアンドエラーを繰り返す中で、嗅覚が鋭くなったと。自己実現力が高まっているわけですよね。
濱松:やっぱり実際にやってみないと、良かったのか悪かったのか分からない。僕らからしてみたら、やらないことの方がリスクだし。おそらく僕もテッちゃんも、経験をしてきただけ。動いてきただけ。エンターキーを押しただけ。
山中:初めからできないって決めるよりも、とりあえず“やることが前提”でトライしていくことだよね。例えば、大企業経営者が集まる経済カンファレンスが毎年あって、それの事務局長をしたことがありました。その当時、トヨタ自動車が5年間売買できない新型株を発行して、調達した資金をAIなどの研究開発に投入するということをやったんです。そうしたら、経済カンファレンス委員の経営者さん達は「トヨタの方にその話をしてもらったらいい」って言う。そして「山中君、トヨタ自動車の役員をお呼びしなさい」と。僕は30歳そこそこで、トヨタ自動車の役員なんて知らないんです。
そこで僕は最初に、トヨタ自動車のホームページをみて、代表の電話番号に電話したんですよ。で、豊田章男さんいらっしゃいますかって。そうしたらなんと……!取り次いでくれないわけですよ(笑)。
濱松:びっくりしたー(笑)。取り次いでくれたかと思った(笑)
山中:一回そこで「無理やな」と諦めました。でもふと思い立って大企業の社長さんたちに「皆さんはどうやったら電話に出てくれますか?」と聞いたんです。そこで一つ面白かったのが「自分の上司の代役で何か頼まれているなら出る」って言われたことなんですよ。
そこで何をしたかと言うと、「豊田章男さんの代役で今回の株式を発行した担当役員の方におつなぎいただけませんか?」って言ったんです。そしたら本当に取り次いでくれたんですよ。
濱松:普通は、課長クラスとか社員で担当しておくようにって言われるよね。「お前、わけわからん電話をつなぐな」ってなるけど。
山中:たぶん、一般的にそう。でも、あーだ、こーだ話をしているうちに、本当にIR担当の常務が電話に出てくれたんです。最初は「いやいやちょっと」って言われたけど、「ここで電話切ったらあかんな」と思って。「僕困っているんですよ」ってずっと話をしてたら、ちょっとずつ話の流れで「会って話しますか」となって。
濱松:そんなことってある?(笑)
山中:そこは僕の粘り勝ちじゃない(笑)。でも事実「明日東京に行くから、朝8時半から30分くらいだったら朝食をとりながら話を聞く」と言ってくれて。その30分で口説いたと。それで登壇していただいたんですね。
「どうせできない」というネガティブな考えだと、たぶん行動しないことがほとんどだと思う。でも電話やメールするだけだったら、そんなに大きなリスクにはならないですよね。今の自分が可能なことの範囲内のリスクを理解して、それを許容できるかどうかも重要だと思うんです。
常に自分のやりたいことを一発でやるっていうよりも、やり方をちょっと変えるだけでアクションに繋がる。100%思い描いているものじゃないけど、80%できて成果があれば自信が生まれるから。今の自分ができる範囲はどこまでかを知って、自分の持っているものを通じてやり方を変化させていくっていうのは大事だと思っていて。
濱松:柔軟性みたいなところね。例えばパナソニックの中で活動を広げ、社会に広めていくためにも人数は絶対必要なんだと考えたときに、陥りがちなのは「自分だけで頑張ってみよう」となってしまうこと。Facebookなど自分の持っているものだけを使おうとするんだけど、それって幹事を増やして、共感する仲間を10人にすればもっと楽に人を増やしていけるじゃない?
あとは、人間は何かと“全部盛り”をしたくなるんだけど、そこはプライオリティをつけて「ここの部分はあきらめる」っていうか。次の課題に持ち越すとか、そこは柔軟に考えたらいい、というのはある。
経験した後の学びが一番吸収率がいい
山中:最初はやっぱり、スキルも知人も、アイディアまで全部介しても、それでもできないことがあって。そういうときは、ゴール設定を少し下げてでも、やることが大事。
行動する前に立てた目標って理想なんですよね、理想と“今できるベスト”とは若干違うと思っていて、ベストができたらそれをまた次に繋げていけばいいわけで。まずは、今できないこともシェアしていく。自分たちの持っているものと持っていないものをきちんと理解しておくと、次に生かしやすいです。
濱松:まさに今この場があるのもそうだし。プランは一旦置いておき、とりあえず「Do」でやっていこうよと。
山中:みんなが意見を出し合ってやっていくと、意外とキャリアやスキルがなくても、アクションに対するハードルが下がる。そういうのあるよね。
濱松:初速というかフットワークというか、ステップの軽さみたいなことだよね。素直さや柔軟性を持って「じゃあやってみようかな」と思えるか。そこはある種の「心の許容性」が大事だなと思います。
僕は「誰でも自分らしくあれば頑張れますよ」ということを言いたいわけじゃなく、やっぱりできる限り頑張るっていうのは、僕は大事だと思っていて。それが経験を生み、経験こそ学びに繋がるということ。
山中:経験してから学びましょうってことね。
濱松:そうそう。経験と学びの往復はしないといけない。みんな分かっていることなんだけど。
山中:ほんと大事やね。僕は経験した後の学びが一番吸収率がいいなと思います。例えばこれから起業するとなったら、マーケティングから経営戦略から、財務から人事から、やらなければいけない範囲がものすごく幅広いでしょ。それを全部本で学ぶというよりも、どちらかと言うと、やりながら学ぶ方が吸収率はいいから。そのとき何ができなかったのか実感でき、次はできるようになる。その積み重ねが、自分をすごく成長させると思うのね。
もう一つ大事だと思うのが、今の時代、成果や報酬はお金だけじゃなくなってきている。それを分かって行動するのは大事だと思うんです。こういった会でも、登壇者としてフィーがもらえるところもあれば、友達として行くときもある。僕はどちらでもいいと本気で思っていて。
どちらにしても得る物が大きいからなんですよ。今日、こういう機会がなければ普段会えない人がいるかもしれない。この出会いってお金で買えないんですよね。人生を変えるほどの出会いは実際あって、気づきをもらえることもあれば、その人の持っているコミュニティに招待されて、違った環境で仕事の機会をもらえるかもしれない。
持っている知識や気づいたことをシェアするのは、相手に貢献することですよね?「あの人の言うこと面白かったな」って覚えているじゃないですか。その関係性が、また次に繋がる。これが信頼関係になっていくと思うから。
想定外を味方にする
山中:あと僕がもう一つ大事にしていることは、「想定外を味方にする」ということ。新しいことをするときってさ、大体トラブル起きない?
濱松:起きる起きる。
山中:事業でもイベントでも、起きるでしょ?トラブルというか、思っていたのと違うことが起きたときって、すごいチャンスだと思っていて。みんな結構ネガティブにとらえるんですよ。プランをしっかり立てすぎると「あれ?なんか違う!どうしよう」みたいな。
これって本当にどんなときもあって、その想定外をどういうふうに受け取るのかが大事。マコちゃんもそうかもしれないけど、意外と思い通りにいかないことが前提だってことない?
想定外のことが起きたときって、みんなで知恵を振り絞ってやった方が、そのプランを立てた人も「こんなやり方があるのか」という気づきがすごくある。
濱松:そういう意味では去年の2018年9月末、『ONE JAPAN』の活動で年に一回のカンファレンスを行ったんですけど、まさに台風で。何時に切り上げるのか、開催するかしないか。ゲストや参加者はどうするか、お金の話はどうするか、そもそも年に一回なのにまた来年にするのか、日をずらすのか。あらゆる意思決定を迫られました。結果的に5、6人のコアメンバーで考えて、台風で来られない遠方の人には返金をし、会自体もネットワーキングセッションは諦めて途中で切り上げるという決断をして最後のアナウンスまで行って。無事に終わるっていうのが一番のゴールだったから。そんなことがありました。
想定外は試練なんだけど、自分やチームが試されているんだろうなと。これはレベルアップやスキルアップの機会を与えられているんだなと思って、想定外を楽しむっていうか、味わうようにしようとは、いつも考えているね。
山中:なるほどね。
濱松:僕とテッちゃんの二人だけだったら、「楽しんで味わえばいいじゃん」「そうやね。じゃあこうしよ。OK」で終わるからいいんだけど(笑)。さらに人数が増えてくると、また意思決定も複雑化する。でも、それも含めた上で全て味わうっていう。自分が覚悟を決めた上で、その意思決定すら想定外になるってことを味わうっていうのが、『One Panasonic』を7年、『ONE JAPAN』を3年やってきた中で思うことだね。
山中:想定外は必然でもあるわけでしょ?それは自分が思っていたことが違うだけであって、起こったことは必然だから。理想と現実のギャップが表面化しただけで、それは悪いことじゃないんだよね。
スッとうまくいくときもあれば、ちょっと一回休めよっていうときとか、もう一回考え直した方がいいんじゃないかっていうときって、大きな想定外なことほど、振り返ると学びが大きかったりするから。
起こることって連続性があると思っていて、想定外が起こることも、別に悪いことばかりじゃない。そのとき真摯に向き合っていれば、結果悪いことって何もないなって思う。
濱松:まさにその通りで、真摯に向き合うというか、真面目とか素直っていうか。全てが楽観できるか分からないけど、そういう姿勢でいると周囲との信頼が生まれる。見栄を張ったり、自分を認めたくないと虚勢を張ったりするとダメだね。
山中:想定外が起きたときの、みんなの不満や苦情って結構大事な気がしていて。実は次の行動に肉付けをされて、想定外の対処方法がレベルアップするとか、あるでしょ?
濱松:あるある。結局今日の話って、試行錯誤を重ねてやっていったら、それが自分の血となり肉となり、どんどん筋肉というか対処法が増えてきて、アップデートされつつ適応・対応し続けられるっていうことなんだけど。
人やコミュニティに接点を持ちながら貢献していく
山中:そうそう。最初に言ったように、大きな目標がなくても、持っているものをシェアしあう中で、人は成長していくような気がしているんですよね。結局、進化するとかアップデートするとか、自分自身のことですよね。経験を得るのも自分自身のことだからさ。自分自身をどんどんアップデートしていく、進化していくっていうことを続けていくと。
その中で、人と人との接点や出会いがあったときは、持っているものを全て全力でオープンにしたらいいと思うし。できないものはできないって言いながらも、じゃあできるためには「その時点でのベストはどこなんだろう」というのを探してやってみる。そうやってまた繋がっていく。
濱松:テッちゃんを介して知り合った人から学ぶことは多いし、だからそういうのがあるんだろうなって思う。
山中:波長が合う合わないとか、タイミングとかはあると思うんです。でもこの人は面白いんじゃないかなって思えば、やっぱり僕は全部出します。とりあえず出していく方が、お互いのために絶対良い結果となっていくから。僕らはそれなりに社会的にダイナミックなことをしているのかもしれないけど、かといって最初からそうだったかっていうと全然違うじゃないですか。今できることからのスタートで全然よくて。
今日ここに来ているだけで出会いが絶対あるはずで、それぐらい出会いってどこであるか分からないし、もし出会わなければ「今じゃない」ということ。人の考え方は変わっていくし、進化していくし、意識もアップデートされていくから、そのとき波長が合わなくても、「今じゃないな」って思うようにしています。3年前に会った人と久しぶりに会って、前は話が盛り上がらなかったのに、今日はめっちゃ盛り上がってこと、あるやろ?
濱松:あるよね。
山中:接点を作らない限りは、全然出会っていけないから、誘いがあったとしたらとりあえず行ってみるとか。もしそこまでの繋がりがなかったら、逆に友達に繋がりを作ってみるとか、人にギブアンドギブしている間にいつの間にか自分も誘われるとか。
出会いの中で自分の持っているものを出し合いながらまた新たな目標に挑戦しているうちに、「あれ、できること増えちゃった」みたいなことがある。そうやって自分が進化していくような働き方や生き方ができてくるというのは、僕は結構ありだなと思っていて。
濱松:ビジョンとかミッションを否定するわけじゃないんだけど、大きな目標を掲げて実行できるのであれば、それは頑張ればいい。ただ、それができない人はどうするんですかと。目の前に困っているAさんを助けるとか、「僕は今これがやりたいからこれをこうするんだ」っていうふうに変えないと。やっぱりテンポよく行動していくっていうのが必要だろうなあって。
山中:選択肢が見えなかったら、もっと身近なところの目標に向かった方が絶対面白いし、自分も必要とされるよね。選択肢って、たくさんあるように見えて、あんまり多くないと僕は思っているの。今の時代って情報はあふれているけど、自分が選択可能な情報ってあまりないよね?
海外旅行に例えれば、きれいな海のあるリゾート地の情報をネットから得ましたと。奥さんと「行きたいね」と話したけど、そこに行くのに1週間必要で「どうやって休む?やっぱ無理」みたいな。情報へのアクセスはすごく簡単なのだけど、自分で選べる選択肢って実は結構少ない。だから自分が今、何ができるかを知っておくのも大事かなと思うんです。
さらに、いざ自分が取れる選択肢って、今までの経験に紐づいていて、しかも思い込みに紐づいている。何かうまくいかないなと思ったときは、意外と人から選択肢をもらった方が、自分が成長して次のステージにいけるということがあるなと思います。
濱松:いろいろな人と接点を持ってしゃべっていると、「えっそんなやり方あるの」とか、「こうやったらいいじゃん」っていうのが、3つ目の選択肢ということもあり得るわけで。
山中:自分で一回考えるのは大事だけども、考えて出ないものとか、やってみて難しいものは、積極的に知人を巻き込むとか、こういう場に来て、出会いを求めて聞いてみるとか、外の人に聞くっていうことをやらないと。
起こったことに対して、「いや俺はそれ関係ない」とか、「私は違う」って思いだすと、受け入れる許容がすごく狭くなっちゃうから、何一つ成長しないし。成長しないってことは選択肢が少なくなるので、行動もしにくくなると。
濱松:悪い循環の方に引き込まれていっちゃうんですね。
山中:負えないリスクは負わなくていいんだけど、できる範囲でできるだけやっていく。どう繋がっていくかは見えないんです。見えないから、この人面白いなとか、共感できるなとか、感性合うなって人には僕、深く考えずに飛び込んでいく。その想定外さえも楽しんじゃうし。
いかに持っているものをシェアして貢献していくか、それがきっと自分に返ってきて成長していって、どこかで仕事に繋がり、どこかでお金になるかもしれないし、どこかで自分の好き勝手なものになっているかもしれないし。そういう生き方が、何か今の時代に適しているのかなって思うんだよね。
まずは「フラグを立てる」ことから始めてみる
濱松:まさにその通りで、今日の話ってやっぱり「どんどん動いていきましょう、失敗してもいいじゃないですか」みたいなことになるんだけど。でもあえて問題提起すると、「じゃあどんなことからやればいいんですか?」という人もいると思う。「テッちゃんの話を聞けてよかったです、ありがとうございました、名刺交換してください…」それだけ?ってなるじゃないですか。ここに来たことだけでも行動だと思うんだけど、次のことがあるからね。
山中:次のことね。ファーストステップが大事かもしれないね。
濱松:結局、テッちゃんと同じことを僕は言っているんだけど、補助輪がない自転車に最初から乗れた人はいなくて、転んで泣いて、誰かの手伝いがあって乗れたはずで。要は失敗を恐れていなかったと思うんです。でも大人になると「失敗して怪我したところをみられるのはイヤだ」とか、「俺は失敗しないはずなのにプライドが許さない」とか、大人になったからこその自意識過剰なところが邪魔するわけだから、失敗を恐れなくするには失敗をするしかないっていう話じゃないですか。だからどんな失敗をする?ってなったら、さっきのリスクの話になるんだけど、いきなり大怪我しないようにしましょうという話だから。
これってなんか分かった気になるんだけど、本当は自分で考え、メモに書き、共有をして、ということを自分自身がやらないと。まずは行動をすることが一番のハードル。次にまたその行動を継続することが大切で、これは『ONE JAPAN』としての課題でもあるし、コミュニティとしてやっていきたいことでもある。
山中:そうだね、そういう一歩目を経験するっていうのが大事かもしれないね。なるほどなって思っても、使わないと知識と一緒だから、やっぱり血肉になっていかないかもしれないわけでしょ。
濱松:で、そこで株式会社GOという広告代理店の三浦さんが言っていたのは、やっぱり一歩目は発信だと。確かに、今日の感想でもいいから行動宣言をFacebook、Twitter、Instagramなどに発信して、有言実行かどうかみんなの目で検証されるというやり方はいいなと思っていて。なぜかというと、やっぱり「発信=フラグ(旗)を立てる」ということだからなんですね。旗を立てたときには、敵や批判者が絶対に現れるんですよ。「お前何してんの、きれい事だけ言っているけど」と。
僕たちがやらないといけないのは、批判への対応は大事だけど、それはあるものだと認識して、仲間が集まってくるメリットの方を考えて行動すること。そしてパイオニアなり挑戦者なりチャレンジャーになっていかないといけない。
その旗が小さいか大きいか、正しいか正しくないを今日は議論しているわけじゃなくて、旗を立てたときに共感者や賛同者もいるっていうこと。その世界を経験し、想像し、想定したら、失敗や恐れも少しは緩和する。共感してくれる人を信じてやったらいいんじゃないかなと思います。
山中:大事だよね。「行動してみましょう」で終わるのも大事だけど、一歩目の行動を今日やるみたいな。今日生きることを探すって大事だから。人によってはSNSでもいいと思うし、実際に友達が集まっているグループに参加して「こんなことをやろうと思う」と宣言してもいいよね。
濱松:うん。そうしたときに、共感してくれる人とそうでない人がいるよと、あと無関心層も。この3つがいるけど恐れることはないからって、これだけは今日言いたい。
山中:基本的に僕らの考えとしては、人との出会いとか、共感してくれた人と何かが生まれたりとか、一緒に目標をたてたりとか、逆にその人の目標を応援することによっていろいろなものを得ていく。
そして自分を活用するってことはこういうことなんだっていう、さっき言ったキャリアだけじゃなくて、知人も使っちゃうみたいな。その知人が困ったら自分も助けないといけない、そこからまた相互作用で信頼関係が生まれてきたりとか。
濱松:あとは「ありがとう」と「ごめんなさい」さえ言えれば、大体大丈夫です(笑)。でも本当に、それだけできれば何の心配もないよね。
山中:僕も「しまったなあ」と思うときは、ありがとうを言うのを忘れたとか。何かやってしまったことにとらわれすぎて、「ごめんなさい」を言うのを忘れて問題が大きくなったとか。反対に、ちゃんとしておくと大体は丸くおさまる。シンプルなんですけど、最初の絶対条件はこれくらいだよね。
そういった中で、これからの人との関わり合い方や、自分はどういうことをやっていきたいのかを発信していくと、学びとなる反応はたくさんあるはず。ぜひ皆さんも、今日一つの気づきを発信することから始めてみてはいかがでしょうか。ありがとうございました。
【プロフィール】
濱松 誠(はままつ まこと)
ONE JAPAN共同発起人・共同代表。1982年生まれ、京都府出身。パナソニック株式会社で海外マーケティング、本社人事に従事した後、パナソニック初となる資本関係の無いベンチャー出向を経て、家電部門にて新規事業を担当。
本業の傍ら、2012年、若手主体の社内の有志団体「One Panasonic」の発起人となり、組織の活性化や社外との交流に取り組む。2016年には、日本の大企業でオープンイノベーションや企業変革を目指す若手・中堅のコミュニティ「ONE JAPAN」を設立。
2018年には、ONE JAPANとして、Business Insider Japanの「BEYOND MILLENNIALS 固定観念を打ち破り世界を変える『Game Changer 2019』アワード」を受賞し、2019年には内閣府主催「第1回日本オープンイノベーション大賞」を受賞。ONE JAPAN著書「仕事はもっと楽しくできる 大企業若手50社1200人 会社変革ドキュメンタリー」を上梓。https://www.amazon.co.jp/dp/4833451344
2018年12月末にパナソニックを退職し、2019年6月から1年間、認定NPO法人「マギーズ東京」共同代表の鈴木美穂さんと夫婦で世界一周中。
山中 哲男(やまなか てつお)
株式会社トイトマ代表取締役会長。1982年兵庫生まれ。高校卒業後、大手電機メーカーに入社。約1年後に独立し、飲食店を開業する。2007年、米国ハワイ州に、日本企業の海外進出やM&A仲介、事業開発支援などを行うコンサルティング会社を設立しCEOに就任。日本企業の海外進出支援、M&A仲介、事業開発支援を行う。2008年、日本で株式会社インプレス(現:トイトマ)を設立し、代表取締役に就任。既存事業の事業戦略策定や実行アドバイス、新規事業開発支援やプロジェクト開発支援を中心に活動中。国土交通省が行う公的不動産活性化プロジェクトを率いるなど行政プロジェクトも手がける。
官×官、官×民の組織をこえた活動を推進する官民連携推進Lab主宰。2015ワールド・アライアンス・フォーラム事務局長。国際U3A(AIUTA)及びアジア・太平洋地区合同会議2016実行委員。