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2019年07月05日(金)

“商いの本質”見つけたり!100年続く長寿企業になるための“秘伝のタレ”とは?

経営ハッカー編集部
“商いの本質”見つけたり!100年続く長寿企業になるための“秘伝のタレ”とは?

変化の激しい今の時代、起業しても会社を長く存続させることは至難の業…。しかし、果たして本当にそうなのでしょうか?世界的に持続可能な開発目標(SDGs)への関心が高まっている昨今、100年以上継続する日本の長寿企業が世界の視線を集めています。

そうした長寿企業のデータを収集し研究している団体が、「100年経営を科学する」をコンセプトに2015年に設立された一般社団法人100年経営研究機構です。時代を越えて続く企業と、淘汰され消えていく企業の違いは何か?100年を超えても繁栄し続けるために企業がすべきことや心構えとは?100年経営研究機構の専務理事 事務局長を務める藤村雄志氏(株式会社VALCREATION 代表取締役)にお話しを伺いました。

長寿企業はあくまでも「結果」である

―まず100年経営研究機構の概要について教えてください。

100年経営研究機構は、その名のとおり100年経営を科学することで、どのようにすれば企業やファミリービジネスの家系が長く続くのかということを未来志向で導き出し、日本だけでなく世界に向けて発信していくことを目的に設立された団体です。もともとは、日本における長寿企業やファミリービジネス研究の第一人者である後藤俊夫氏が、20年以上前に100年以上続く企業の研究を開始し、その生態系を国際規模でデータベース化していたことに端を発しています。おそらく世界で一番100年以上続く企業のデータを持っているのは100年経営研究機構でしょう。

―それはどのようなデータなのですか?

特筆すべき点は、設立はいつで、従業員数が何人で、というような定量的なデータは勿論のこと、家訓や家憲(家の憲法)といった、極めて定性的でソフトな情報が含まれていることです。このような情報はファミリーガバナンスという文脈では非常に重要で、「名家」といわれる家系それぞれに事細かな家憲が定義されていることも多く、その中にも長く続いている家と続いていない家があります。このようにソフトな情報がデータ化されているところに大きなポテンシャルを感じています。私たちは、これらの情報を単なるデータベースではなく「データアーカイブ」として再定義しようとしています。

データアーカイブ事業に完成形はありません。なぜなら、100周年を迎える企業は毎年2,000社〜3,000社あり、一方で深刻な事業承継問題があります。長寿企業といえども後継者不足による廃業は後を絶ちません。そのためデータのアップデートは常に続けていかなければならず、データアーカイブを充足する枠組み作りも100年経営研究機構の大切な活動のひとつです。

―そこから100年続く経営のやり方を見つけていくのですね。

はい、しかしこのような取り組みは、100年経営を目指すことだけを目的にしているわけではありません。むしろ経済全体の生産性を上げるためにも一定の新陳代謝は必要だという考え方もあります。念頭に置いていただきたいのは、長寿企業はあくまでも「結果」である、ということ。私たちは、そこから企業のあり方や経営の本質を抽出し、次世代に伝えていくことに主眼を置いています。現在の政策的に表現をすれば、持続可能な経営の強靭化につながるポイントを抽出しレジリエンスな経営に寄与する情報として発信していくということになります。

実際に100年以上続く老舗企業当主にお話しを聞く機会も多いのですが、長く続けること自体を目的として経営している方はほとんどいらっしゃいません。目の前のことをしっかりやり続けた結果、今に至っているという長寿企業がほとんどです。

長寿企業の研究が世界的なトレンド傾向に

―日本には老舗企業が多い印象がありますが、世界的に見るとどういった位置づけなのでしょう?

日本は全世界の100年超企業のうち約40%が存在するという、まさに“長寿企業大国”です。私たちの調べによると、日本で100年以上継続している企業数は、2014年現在で25,321社。今は33,000社〜35,000社くらいはあるだろうと推測しています。ちなみに200年以上の企業は約4,000社、1,000年以上の企業は21社です。世界で一番古い企業トップ10のうち、実に9社が日本の企業なんですよ。

2018年9月に開催した第3回年次発表会の集合写真

こうした事実は海外からも注目を集めており、最近は中国企業から「日本の長寿企業を視察したい」というオファーを受けることが増えています。また、韓国の済州島(チェジュ島)で開催される東アジアから世界の平和と秩序を考える「済州フォーラム」や韓国の中小企業学会で「100年経営」について発表させていただくなど、日本よりも海外の方が長寿企業への関心が高まっている印象があります。

―長寿企業の研究は世界的なトレンドになっているのですか?

そのように感じます。その背景には、地球全体で持続性のある社会を作っていこうというSDGsの大きなうねりがあります。世界は持続可能性のある経済システムや資本主義を求めており、日本企業が古来から続けてきた経営のあり方にそのヒントが隠されているのではと注目を浴びています。長く続いた会社が無自覚に続けてきた取り組みは、今でいうSDGsやCSRを先駆けて実践していたものだったと。つまり100年経営とSDGsは非常に相性がよく、私たちとしてもできうる限りSDGsのプロモートとなる活動を進めていきたいと考えています。

長寿企業に共通する「6つのポイント」とは?

―では、100年経営企業になるためには、何をすればいいのでしょうか?

よく「100年経営の極意を教えてほしい」と聞かれますが、結論から言えば100年企業になるための方法は「有るようで無く、無いようで有る」というのが正解であろうと考えています。というのも、100年経営は単なるメソッドではなく「道(タオ)」といった哲学に近いもので、私は「100年経営道」だと思っています。そのような前提で考えずに100年経営をスキルや知識と同列に扱って経営に生かそうとすると、いずれ居心地が悪くなってしまうのではと感じています。

「こうすれば100年以上続く企業や家になれる」という“秘伝のタレ”ではありませんが、長寿企業とそうでない企業の差異を探す作業を後藤先生が長年続けてこられた中で、長寿企業に共通する「6つのポイント」は確かに存在しています。

―それをぜひ教えてください。

「長期的視点」「身の丈経営」「優位性駆使」「長期的関係」「安全性」「承継の決意」の6つです。

まず「長期的視点」ですが、一般的な時間軸と違い「短期10年、中期30年、長期100年」という比較的長いスパンで考えているという共通項があります。100年以上続いている企業の社長の平均在任期間は約30年。要するに4代目で100周年を迎えることが多いのです。3代目までは勢いでいけたとしても、4代目まではある程度仕組みがないと続かない。長く続いている会社は、結果的に長期的な視点に立ち、持続的な成長を重視した経営理念を家訓や家憲で定義づけているのです。

「身の丈経営」という点では、他人の資本にあまり頼らない傾向がありますね。また現代では当たり前かもしれませんが、江戸時代や明治大正時代から経営していた方々が、結果的に今で言うドミナント戦略やコアコンピタンス経営を採用していたのも特徴です。さらに、100年以上続いている企業の実に約80%は創業から業態業種を変えて今に至っています。和菓子の名店である虎屋さんの家訓は「伝統と革新」。これは伝統と革新は同列という意味ではなく、無我夢中に革新をし続けた結果が伝統になるという考え方だそうです。老舗企業はそれぐらい新規事業に対する意識も高いのです。それが「優位性駆使」にもつながります。

そして、利害関係者との「長期的関係」を大事にしていること。コストカットのために安易に得意先を切り替えるということはせず、長期的な付き合いが継続されていく。これは逆に言うと、新たに老舗企業の取引先に入るには参入障壁が高いということです。長寿企業からすれば、今まで培ってきた「阿吽の呼吸」や与信リスクを考えた場合、長期的関係にある得意先と付き合う方がコストパフォーマンスが良いのです。従業員や地域社会との関係も当然そうですね。

「安全性」という観点では、地震や天変地異、戦争などが起きた結果、それでも残っていた企業はやはり通常の金融政策以外にも、不測の事態が起きたときにどうするか、きちんと備えていたところが多かったということです。
最後に「承継の決意」はマストな条件です。例えば長寿企業の社史からは「絶体絶命の状況でも会社を続けなければならないという強い意志が事態を好転させた」というようなことが読み取れるケースが多いんですよ。

長寿企業のエッセンスをどう活かすかが100年経営の真髄

―あくまで“結果的に”そういった共通点があったとは、とても奥深いお話しです。

その奥深さが100年経営道たる所以です。さらに言えば、この6つのポイントから「会社というのは社会の公器なのだ」という考え方も読み取ることができます。これは松下幸之助さんが言われたことにも紐づきます。これらのポイントは経営者の観点ですが、実は100年経営を掘り下げていくと、一子相伝のように継承される「帝王学」もリアルに見えてくるのが面白いんですよ。

例えば、「社長は仕事をしてはダメだ。周りにさせなさい」とよく言われます。これは「社長以外でもできる仕事は、周りの人がやることで全体の生産性が上がる」といった成功哲学的な理由ではなく、帝王学的には「周りの人に仕事をやってもらうと、ありがとうと言えるチャンスが増える」という解釈をするそうです。全部自分でやったほうが早いかもしれないけれど、自分以外の人にやってもらわないと「ありがとう」と言えない。だから周りの人にたくさん仕事をさせたほうがいい、というようなことが教えられているという話を伺ってことがあります。

長寿企業も代々事業承継する際、取引先に挨拶に行くわけでありますが「あなたの会社には祖父の代から良くしてもらっていますから、これからもお願いします」というようなことを当たり前に言われるわけです。帝王学をしっかりと叩き込まれている次世代経営者は、これを聞いてハッとするらしいんですよ。その理由は「これからの自分の振る舞いが、子や孫の代に影響を与えるんだ」という繋がりが瞬時に見えるからだそうです。子や孫の代を守るためには「祖父の代からお世話になっている」人をどれだけ自分で作っていけるかという枠組みや考え方が大切だと教えられているんですね。

―日本にもそういった帝王学のようなものがあるのですね。

近江商人の「三方良し」の精神は有名ですが、そこにも成功哲学ではない帝王学的な部分があります。近江商人というのは近江で商売をしている人ではなく、近江から他の地域に出て商売を成し、結果的にそこに店を構えて商売が続いている人たちです。江戸時代においての近江商人は今でいう外資系企業でした。江戸時代は各藩が独自のルールでマネジメントされている、いわゆる合衆国。藩をまたがって商売するということはグローバルビジネスだったんです。

そのような背景もあって、当時の当主の遺言や家訓には「常に他国者意識を持ち続けて、陰ながら良い行いをしましょう」ということが教えられています。今でいうCSR経営やCSV経営ですね。そういう「陰徳善事」の精神を突き詰めていくと、結果的に三方良しという「自分は一番最後に良ければいい」という商売のベースにたどり着く。それが近江商人の一つの考え方です。まさに孫の代やその先を見据えてやっていることが、結局は“急がば回れ”で目の前の業績を上げることに繋がるのかなと思います。

このような帝王学的な考え方に触れられることは100年経営を学ぶ大きなメリットです。さらに長寿企業のエッセンスをどう自分に活かすかということこそ、100年経営の真髄の部分だと思っています。

これからの時代は「商人道」がキーワードに

―100年経営は日本古来の商売の教えに通ずる部分が大きいと?

そうです。この「商人道」がしっかり腹落ちしていくと、一気に社会が変わっていくのではないかと思います。その「商人道」の考え方のひとつに、石田梅岩(梅巌)を始祖とする「石門心学」があります。

2019年4月に開催した「石田梅岩」について学ぶ研究会の様子

石田梅岩は江戸時代前中期、元禄から享保期を生きた人で、当時の世相は今とよく似ていました。5代目将軍、徳川綱吉の時代は元禄バブル。商人に莫大な富をもたらす一方で、武士や庶民はインフレに苦しみました。やがて元禄バブルは崩壊し、立て直しのために享保の改革が行われると、物価は下落してデフレ経済が進行。商家の倒産が相次ぎ、商人を軽んじる風潮が蔓延する中、本来あるべき商人の道を説き、経済思想家としての活動を行っていたのが石田梅岩です。石門心学は二宮尊徳の報徳思想にも多大なる影響を与えました。その後も渋沢栄一さんや松下幸之助さん、稲盛和夫さんといった方々が、石田梅岩から発展した経営哲学を大切にしていらっしゃいます。

―江戸時代の経営哲学が、今現在でも脈々と受け継がれているのには驚きました。

これからの時代はもっと「商人道」がキーワードになってくるのではないでしょうか。資本主義のあり方が変化を迫られる今、末端の経営者から意識を変えないと大きな変革はできません。勝者と敗者が生まれるのがビジネスの常ですが、商人道の観点から見れば「勝つ」には相手を打ち負かすことだけでなく、目的を達成する「克つ」もある。ビジネスリーダーである経営者が、その“目的を達成する勝ち方”をそれぞれのビジネスに置き換えていける流れができると面白いと思います。石田梅岩はもっとメジャーになるべきだと心底思っています。

―今後の展望をお聞かせください。

100年以上続いた企業のデータアーカイブには、何代も世代を超えて、なんとか次の代に続けよう、次の代はもっとうまくやっていこうと思った方々のストーリーが散りばめられています。そこから何を見つけるのか、何を学ぶのかを体系化して、日本人的な経営哲学をより深く学べる場を作っていきたい考えです。また今の大事業承継時代を大廃業時代にしないように知見や仕組みを提案していったりと、100年経営研究機構に求められる役割は大きいと思います。ここは案外ビジネスチャンスにもなると思うんです。私たちの大義に共感していただいた方が、ビジネスとしてどんどん参画してより広がりのある活動になっていくといいですね。

―ありがとうございました。

 

【プロフィール】
藤村雄志(ふじむら ゆうじ)

1978年山口県生まれ。同志社大学商学部卒業後、株式会社ベンチャー・リンク入社。2004年起業後は、多くのベンチャー企業に経営参画し、経営企画、営業支援に注力。2011年、株式会社VALCREATION設立、代表取締役就任。2015年、一般社団法人100年経営研究機構設立、事務局長に就任。教育機会の創造を通じ次世代リーダーの育成に情熱を注いでいる。


【団体概要】
一般社団法人100年経営研究機構

設立:2015年9月9日
所在地:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-19-17 ペリエ神宮前5F
代表理事:後藤俊夫(日本経済大学大学院 特任教授)
副代表理事:大髙英昭(株式会社パソナグループ 副会長)
専務理事 兼 事務局長:藤村雄志(株式会社VALCREATION 代表取締役)
理事:高梨一郎(NPO法人ファミリービジネスネットワークジャパン 代表理事)、石原明(日本経営教育研究所 代表)
監事:小西孝幸(ワイズ・パートナーズ税理士法人 代表社員)
最高顧問:野田一夫(一般財団法人日本総合研究所 名誉会長)、新将命(株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長)

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