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2019年07月08日(月)

1億総活躍社会を実現する働き方“週4正社員?制度”のススメ

経営ハッカー編集部
1億総活躍社会を実現する働き方“週4正社員?制度”のススメ

政府が主導する働き方改革の名のもと、中小企業経営者に対しても、同一労働同一賃金など、さまざまな改革や変革が求められている。
一般的に考えたとき、働く人の立場から見ると短時間で早く帰宅できるというのは喜ばしいことだが、報酬の目減りが気になる。一方、雇用者である企業側から見ると働き方を変えることによって労働時間が減少し、生産性の減少が気になるところだ。

これらを解決する手段としては2つのアプローチがあるといわれる。一つは、「一億総活躍」。いままで働いてこなかった、もしくはパートタイマーなどとして働いていた人たちに、存分に力を発揮してもらうというもの。もう一つは、人材確保のために、柔軟な働き方や有給休暇取得を企業が推進していくことだという。

日本の企業風土の中で、この働き方改革で初めての対応に戸惑う経営者も多いという。多くの企業との関わり合いの中で、「週4正社員®制度」を提唱しているドリームサポート社会保険労務士法人の安中 繁氏に、経営者は何を意識し、どのように経営にあたっていけばいいかを聞いた。

■働き方改革でも労働力を確保するには?

―週4正社員制度とは何なのかの説明に入る前に、求められる背景を教えてください。

2つの背景があると思います。まずは、国民の「一億総活躍」です。いままで働いてこなかった、もしくはパートタイマーなどでしか働けなかった女性や高年齢者、病気や障がいを持った人、外国人、そういった人たちの力を存分に発揮していただき、みんなが活躍することで支えていかないと労働力が足りないということになります。しかし、少子高齢化が急激に進み、みんなで働いていこうという中で、圧倒的に女性や高齢者には、足かせもあります。つまり、家庭を守る責任や、自分の体と相談しながらといった制約があるわけです。そこで、短時間の時間限定はあるが、非正規ではない正社員として一定の役目を担いながら働けるようにする「ワークルール」が求められることになります。

一方、改正労働基準法では、正社員の長時間労働に上限規制がかかっています。さらに、有給休暇を取得しなければならないという至上命令も加わります。企業では、より良い人材を採用して、長く留めおくためには、柔軟な働き方を考え、休みやすく働きやすい環境をアピールしていかないと、労働力の確保ができません。

この2つの理由で、例えばマイクロソフト社では約2,300人の社員を、8月の1か月間週休3日にするという取り組みを行っています。つまり、週4正社員にするということです。すべての金曜日を特別有給休暇にすることで対応し、金土日を休みにします。こういったことをなぜ企業が取り入れるのかというと、企業の魅力を見せていかないと、優れた人材が確保できないためで、労務倒産に陥ってしまう危険性を回避するためと考えられます。

■週4正社員のススメ

そこで2011年ころから「週4正社員制度」の推進に取り組んでいます。仕組みを考え出したのは、二人しかいなかった社員の一人が病気のために退社した後、人員補充のための善後策としてでした。
過重労働にならないよう、二人の採用を考えましたが、金銭的に不可能だったため、考えついた苦肉の策が、週4で正社員だったのです。しかも月給制で、個人事務所から株式会社に変更してからは社会保険にも加入しています。

―週4正社員制度での採用効果はどのようなものでしょうか?

10人ほどに応募していただき、採用した二人はともに社会保険労務士の資格を持っていました。一人は7年くらいのブランクがある家庭を持った女性で、子どもを保育園に預けたくて就職先を探していました。パートタイマーのフルタイムに甘んじるしかないと考えていたようですが、正社員の募集があると聞きつけ、しかも4時間の勤務時間なら勤められると思い応募したそうです。採用が決まった二人は、すごく喜んでいました。保育園のママ友から「なぜ正社員で就職できたの?」などと聞かれたという話も聞いています。

―週4は当時一般的ではなかったと思いますが、雇用された社員の満足度は?

喜んでくれたことは確かです。しかも正社員として責任があるからがんばれるというフィードバックもありました。働く側の人が、4時間の短時間とはいえパートタイマーではない正社員として、責任を担っていくんだという明確な意識を持っていることも感じることができました。

その後、この制度を推進していく中で、有能な人材が転職で入社するようになっています。理由は、例え報酬額が低くなったとしても、自分をもっと大事にしたいという価値観のようです。働く時間を短くして、自由になった時間を活用してやりたいこと、例えばボランティア活動を毎週やってるというメンバーもいますし、学ぶ時間として生かしたり、家庭での役割を担いたいという人もいます。

特に女性は、家庭の問題などで優秀な人が埋もれてしまいがちです。週4正社員は、そういった人たちを職場に呼び寄せやすい制度で、ひとつのセーフティネットと考えられるのではないでしょうか。

■週4正社員制度は、人事制度を作ること

従来の正社員の雇用区分に対して、パートタイマーやアルバイトからいきなり正社員はハードルが高すぎます。逆に正社員が育児休暇などから復帰して、フルタイムでは働けないときに、いきなりパートタイマーやアルバイトとして働かせるのはモチベーションを下げてしまいかねません。そこで、その間に入る「限定正社員」という枠組みの一つとして、「時間に制約を持たせた社員」という雇用区分を作ったらどうかというのが、週4正社員です。エリア限定はすでに普及しており、職種限定も普及していますので、時間限定の正社員を総称して「週4正社員」としています。

週4正社員は、週に3日休むことに固執しているわけではありません。従来の正社員と非正規従業員との間に生まれた新しい制度で、重要なのは時間に制約を持たせたことです。
この制度で最近ニーズが高いのは、育休で復帰してくる社員の受け皿や、家族介護のための時短勤務への対応があります。正社員のライフステージが変わった時にも働き続けることができるような仕組みを作っておきたいという、企業の要求も高まってきています。

■トップの意識を大転換させなければダメ

―同一労働同一賃金など、端境期にさしかかっている中で企業経営者は労務環境に対する意識をどう変えていく必要がありますか?

昭和の時代のやり方や、成功体験を引きずっているトップは、即刻その考えを大転換しなければダメです。
経営者は、従業員にとってオフタイムにこそ学びがあるということを知るべきです。逆に、従業員たちは、オフタイムの時間の使い方次第で、人事評価や将来に差が出て来ることも知らなければなりません。
そこで、全体的にマネジメントできる時間が短くなるのであれば、自由になった時間をどのように過ごすのかということに意識を向けさせるような教育が絶対に必要になってきます。

社員研修の講師を務めさせていただくときにも、「自分の貢献度合いや、会社や社会に対する影響力を高めていかない限り、自分の幸せも手に入らない」ということを伝え、意識の転換を奨めるようにしています。働かせる側が変わっても、働く側の意識が変わらなければ、本当の意味での働き方改革が達成できないからです。

―作業の効率化が労働時間短縮につながりますか?

労働時間を減らすには、作業時間の見直しが近道です。機械化したり、重複している作業を省くことが大事で、すべての時間を削っていこうとすると、労働時間の短縮が労働者を苦しめることになりかねません。場合によっては、職場が殺伐としたものになってしまいます。全体をひとくくりに考えないで、作業にフォーカスして省力化や時間配分を考えて負担を軽減させるのが一番です。働きがいや充実感を失うことなく、むしろ増やしていく方向での考え方にすれば、企業の魅力も高まります。しかも、働き方改革の名のもとで、労働時間短縮のプレッシャーで苦しむこともありません。

経済産業省も設備投資を推進しており、経済の振興を図ろうとしています。一方、厚生労働省や首相官邸は、企業の景気を良くすることによって、非正規労働者に対する賃金の分配を増やしていき、成長と分配の好循環で、高度経済成長に結びつけたいとしています。
経済成長していかないと年金制度も破綻してしまいますし、いろいろと不都合なことも出てきます。特に中小企業は、業績を伸ばすためにも魅力づくりを急がなければなりません。

■成功事例をご紹介

◆日本自動ドアの場合

選択受注という仕組みを導入して転換に成功しています。自動ドアの注文が入り、夜間の工事をしてほしいとか土日に工事をしてほしいというオーダーが以前はありました。全国の営業マンたちは、新規受注を獲得するのが仕事ですから、多少無理をしてでもお客さまの要望に沿おうとします。しかし、顧客の要望をそのまま工場や施工部門に引き継ぐと、労働者は疲弊してしまいます。
そこで、三代目社長は選択受注という仕組みを取り入れて、時間外の仕事は受注しないことにしました。そこには驚くほどの軋轢が生じ、注文を取った営業マンからの反発もものすごかったといいます。実は、この仕組みを取り入れるとき、評価の仕組みも同時に導入し変えているのです。
そこでは、驚くことに営業利益を下げるという事業計画を作り、持続可能な事業体を目指して、それで無理な仕事は受注しないという経営判断を下しています。
社内での逆風の中、社員を大切にするというコンセプトを明確に打ち出し、経営者は孤独と闘いながら、社員と企業の継続を考えての大英断を下したということです。

◆パートタイマー社員を販売員として雇用しているA社の場合

全国の百貨店で女性パートタイマー社員を販売員として雇用しているA社の場合、各販売員の力量によって店舗の売り上げが大きく左右されるそうで、たくさん販売する人は、会社にとって宝なわけです。ところがそのパートタイマーの女性社員は、能力に関係なく辞めてしまうことがあるといいます。なぜやめるかというと、古い価値観に囚われた夫の存在があり、家に縛り付けようとするらしいのです。そこで会社は、一定レベル以上のパートタイマーに対して、「ST(ショートタイム)正社員制度」を作り、正社員として採用するという辞令を発行して、自宅に持ち帰らせました。通常の正社員の半分以上の時間を所定労働時間として働く契約ができる人なら、ST社員の登用にエントリーすることができるという仕組みで、パートタイマーを社員に転換して売上維持を達成しています。

■これから経営者がすべきこと、まずは意識改革

―同一労働同一賃金は労使の同意が必要でしょうか?

国が決めるわけではないので、会社の中で同一職種なのか同一能力なのか、同一役割なのか、独自に決めていくことになります。
日本版同一労働同一賃金は、いわゆる職務給で給料を固定するわけではないのが重要なポイントです。つまり、原則として労使自治で決めることになります。これは組合があるかないかではなく、労使の協議によって決まってくるものです。
同一労働同一賃金の指針では、労働条件が不合理であってはならないとしているだけで、経営者の腕の見せ所がそこには求められていることになります。不合理がないことを明らかにできないと、従業員との信頼関係も築けません。

―働き方改革が叫ばれる中、経営者は何を意識していくべきでしょうか?

時間の意識を持つことが最優先です。いくらでも働けるという人たちはもういません。家族を含め、誰かの犠牲の上に成り立つ労働環境は、即刻改善すべきです。
その上で、どこに向かってるのか、目線の先を見据えながらの経営が望まれます。経営者としては、自分の考えをしっかり持つことが肝要で、自分の主観を明確に表明し、それに共感してくれる人が集まってくれる環境を作り上げていく努力が求められています。

■Lポジションマップが、意識改革のお手伝い

働く人たちの雇用やポジションを説明するときに有効な「Lポジションマップ」を紹介します。
Lポジションマップと呼んでいるのは、縦軸に「仕事のレベル」、横軸に「組織力」「マネジメントスキル」の格付けを配置したL型の表に由来します。そのマトリクスでタテとヨコが交差したポジションが、その人の現在の「Lポジション」ということになります。

そのポジションには、基本給も明記されており、仕事力や組織力、マネジメント力がどの程度のスキルで、それに見合った基本給はどの程度がわかります。また、現在の評価や報酬が適正なのかも、一目瞭然で把握し、判断できる、いわゆる仕事マップになっています。
横軸では、「非正規社員」「一般職正社員」「管理職正社員」「経営層」を表すこともでき、会社の人事の行き来を決める材料としても活用できます。

Lポジションマップ例

ワンシートで自身の置かれているポジションを把握し理解できますので、自分なりの目標設定やキャリアビジョンを描くこともできます。しかも、長期のビジョンでも直近のビジョンについても何を向上させていけばいいのか、ビジュアル的に理解しやすく、上司の面談の際のツールとしても役立ちます。

従業員から見れば目標設定がしやすくなり、上司から見れば評価がしやすくなるため、主観的な評価ではなく、客観的な評価が可能になります。
同一労働同一賃金の時代が到来し、非正規社員に対して、正社員との処遇差を説明するときにも、このツールが役立つでしょう。
お仕着せのツールではなく、その会社の経営者やキーマンが集まってミーティングを重ね、カスタマイズしてその会社独自の評価制度を作り上げることも必要です。
したがって、何を評価軸にするのかも、会社の独自性を生かして決めていくことになりますが、あくまでも重要なのは利用する経営者の意識が正しく反映されていることであり、従業員との信頼関係が根本にあるという大前提です。

 

安中 繁さん
ドリームサポート社会保険労務士法人
代表社員/特定社会保険労務士
経歴
◇ 山形県出身 立教大学社会学部卒、一般企業・会計事務所勤務
◇ 2007年 オフィスサンエス安中社会保険労務士事務所設立
◇ 2011年 特定社会保険労務士付記
専門
労使トラブルの未然防止のための社内施策構築支援
週4正社員制度の導入支援

ドリームサポート社会保険労務士法人
ヘッドオフィス 
 東京都千代田区神田神保町3-10 ハイセンスタワー10F (〒101-0051)
 Tel.(03)5357-1997 Fax.(03)5357-1998
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